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壊れた街並みを抜けて




瓦礫があちこちに転がっていて、道路が横転した車でふさがれて、アスファルトも色々な場所で剥がれていて。

これはどうやって移動すればいいのか、悩みながら走っていると、駅前に小さな自転車屋さんがあって、そこの前におじさんが立っていた。

「あの」

声を掛けると振り返って眉を顰める。


「おう、どうした坊主。今は出かけない方が良いぞ?」

「行かなければならない場所がありまして、自転車売ってくれませんか?」

「はあ?そりゃあいいが、坊主一人で何処に行くんだい?」

「池袋です。協会から依頼が入りましたので」

僕の顔をまじまじと見られた。


「お前さん探索者かい」

「はい。電車も止まっているようなので、自転車なら行けるかと思いまして。無理ですか?」

「ああ、いや、これなら走れると思うが」

壁に掛かっていた自転車を降ろして地面に置いてくれた。


「シティサイクルだが、パンクはしないし良いと思うけどな、ちょっと高いぞ?」

「探索者のカードが使えれば、払えますけど」

「ああ、使えるよ。さすがにこの場所で、探索者カードが使えない店はないからなあ」

「じゃあ、それで」

一つ頷いてから、おじさんがチェーンを入れ込んでくれる。てきぱきと手早く組み立ててくれる姿に、少し見惚れる。職人さんだなあ。


十分もしないうちに出来上がった自転車は、少しこじんまりとした自転車だったが、おじさん曰く、パンクしないタイヤは重いからこれぐらいが良いという事だった。

僕はカードを通して支払いをすると、そこから自転車で池袋を目指した。


津島さんたちが潜っているのは池袋第十二ダンジョン。

一回試しで入っているから、場所は分かっているけれど、少し遠いかな。


横浜ダンジョンの勢力外に出ると、地面も戻って来た。しかし街の中の様子は酷い物で。色々な場所でうずくまっている人もいる。

モンスターが外に出てしまった影響は恐ろしい物で、通りすがりの街路ビジョンは家の中から出るなと再三放送している。

お互いを支えながら歩いている人も、何人もいた。

それはそうだ。モンスターがいるかも知れない街中で一人にはなりたくないだろう。


僕が走っていく先に、目標が見えてくる。

その手前で、自転車を止められた。迷彩服を着た人たちが池袋ダンジョンを囲むように柵を作っていた。

「ここから先は入れないから、帰りなさい」

「クラン〈漆黒の魔王〉の九条と言います。協会に依頼されて池袋ダンジョンに入りたいのですが」

「はあ?お前みたいな子供が、何を言っているんだ?」

「急いでいます。通して貰えませんか?」

自衛官が顔を見合わせる。


「確認を取ってもいいか?」

「はい。お願いします」

そう言うといくらか慌てて、通信機が置いてある場所に走っていった。あの場所でないと通信してはいけないのかも知れない。

何かを話していた自衛官が急いで帰ってくる。

それから柵を開けてくれた。


「確認が出来た、入ってくれ。頼むぞ」

「はい」

柵を抜けて中に入り、自転車に跨る。

「おい、本当にあの坊主が?」

「子供で九条君という名前だそうだ。間違いないだろう」

「そうか、助けに行けるほど強いのか」

もっと離れて話して欲しいけど、彼らは柵を守っているから仕方ない。


自転車でダンジョンに向かう。

ここも壊れた車や建物が倒壊している光景が多くて。

ダンジョンゲート前まで行くと、誰かと穂香さんが立っていた。僕を見つけると走ってくる。


「有架くん!横浜は」

「うん、大丈夫だと思うよ」

僕らの横で立っていた人が、小さなパソコンを開いた。

「こちらで確認をお願いします」

「確認?」

肯かれて見れば、画面には五十嵐さんが映っていた。

『久しぶりだね九条君。横浜は何とかなったようだね』

「ええ、まあ。こっちも来いとか、酷い話ですが」

『ああ、そうだな。でも、踏破できたのは横浜だけだから、そこもお願いしたいんだよ』

「津島さんが大変だって言うから来ただけですから」

そこで五十嵐さんが驚いた顔をする。


『津島君とも知り合いか。顔が広いな九条君は』

「成り行きです」

『君のクランに頼んだから、依頼は受領されたでいいかな?』

「内容は?」

『クラン〈天原に征く〉の救出と、池袋ダンジョンの踏破をお願いしたい』

僕は首を振る。

「救出だけかと思っていましたけど」

『できれば踏破もして欲しい。まだ近衛君が出て来ていないし』

穂香さんと顔を見合わせる。


「それは、ダンジョンパニックが収まったのは横浜だけだという事ですか?」

『そうだ。そこも、第二ダンジョンもまだ収まっていないと判断している』

近衛さんは第二に行っているのか。


「拒否権は?」

『有って無いようなものだ。今動けて踏破できる確信があるのは、残念ながら君しかいない』

「そうですか」

まあ、ランカー二位と一位がいないなら、そうなるのか。突破した事は事実だし。


「…まあ、行きますよ。そのために来たので」

『支度が済み次第、入って欲しい。頼んだぞ、九条君』

「出来る限りやりますけど、期待外れでも怒らないでくださいね」

『分かっている』

画面の五十嵐さんが消えると、パソコンを持っていた人が小さく頭を下げてきた。

「池袋の住人も、かなり死傷者が出ています。よろしくお願いします」

「さっきも言ったけど、出来る事はします」

「はい、ありがとうございます」

彼はそう言ってから、ゲートの脇に佇んだ。


僕は穂香さんを見上げる。

「付き合って下さいね、穂香さん」

「…うん。一緒に行くわ。でも体力は大丈夫なの?」

「まあ、なんとか」

穂香さんが目を細める。

「本当は寝て欲しいぐらいだけど、時間が無さそうだものね」

「そうですね。いざとなったら二徹します」

「十六歳の体力って侮れないわね」

感心したように言われて、少し困る。徹夜をしていたのは幼児の頃なので。


「有架。静に連絡しなさい」

ゲートに向かおうとした時に、邪神ちゃんが言ってきた。

「あ、うん、そうだね。穂香さん、ちょっと待っててくれるかな」

僕はカバンからスマホを出して、家に電話をする。自分の家に電話をかけるなんて初めてかも知れない。


「もしもし、静?」

『はい、どうされましたか?』

ああ、静の声は和むなあ。

「多分、明日まで帰れないから、戸締りしておいてね」

『お身体は大丈夫ですか?』

「うん、平気。帰ったらたくさん寝るから大丈夫」

電話の向こうで静がくすくすと笑う。

『分かりました。私は大丈夫ですから、心置きなく行ってらしてください』

「うん、ありがとう」

電話を切ると穂香さんが何やら聞いて来た。


「家の人?」

「そう。同居人かな」

「そうなんだ」

少し向こうを向いたので、同じ方向を見るが何もない。

「…うん、それは後にしよう」

「どうしたの、穂香さん。そろそろ入るよ?」

「ええ。行きましょう、有架くん」

二人で外ゲートをくぐる。中は殆んど壊れていたが、怪我人は運ばれたあとなのか、その場所に人はいなかった。多数の血痕は残っているが仕方ない。


「酷いわね、ゲートの中まで壊れているなんて」

「外も変わらないよ。穂香さん、ここに入った事はある?」

「いいえ、ないわ。だから頼りにしているわね、有架くん」

「分かった。後ろからついて来て」

そう言って二人で内部ゲートをくぐった。



相変わらず高級そうな床と壁の石は、磨かれたように靴音が大きく響く。

「こんな中側なのね」

「そう、傍から離れないで」

周りを珍しそうに眺めている穂香さんに注意するが、気持ちは分かる。初めて潜るダンジョンはどんな時でもワクワクする物だ。


僕は指を鳴らしながら奥に進む。

横浜の時と同じように、津島さん達が通った後だというのに、モンスターの数が多い。何処から湧き出しているのかと言えば、最下層のボスからだろうが。

「ここの情報が少ないのだけど、穂香さんは何か聞いて来た?」

「ええ。に、リエ・ゼロさんから聞いてきたわ。第十二ダンジョンは踏破されているダンジョンで、出没するのは神聖系のモンスターらしいわ。最下層は三十階層だと聞いているわね」

「三十か。かなり急がないとかな」

「出来るだけでいいと思うの。有架くんは働き過ぎだわ」

穂香さんがそう言って、少し笑う。

「過重労働は嫌なのでしょう?」

僕も笑い返す。

「今回は僕しか動けないから仕方ないかな。その代り報酬を沢山貰うつもりだけど」

「真面目ねえ」

そう言って苦笑する穂香さんは、手の甲の上に浮かんでいるマップを見る。


「以前のマップと形は変わっていない様ね」

「それなら有り難いかな。変化が多いから変化のない部分は助かる」

「そうね。階段を探しながらこの数を相手取るのは、有架くんでも大変でしょうし」

通路には消えていくモンスターが魔石をボロボロと零し、それを僕の腕輪がすっと吸い込んでいく。


「その先が階段のはずよ、有架くん」

穂香さんの声に肯く。確かに二階層への階段が見えた。




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