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天才が多すぎる




僕が呆然と見ていると、エリカがくすくすと笑った。

「魔王さまは、覚えているか知らないけど、私達は元々魔法の研究をしていたし、現代に昔の魔法を復活させるのはそんなに苦でもないの」

「成田さんの錬金に落とし込む方が大変だったかも」

「要石でやる方が早かった気もするけれど」

双子が話す傍で、宗典が溜め息を吐く。


「なるべく、こっちの形に添うように作るなら錬金の方が良いでしょ?ダンジョン産でもない魔導具で、転移が出来るとか知れたら大変だよ」

「まあねえ」

宗典の言葉にエリカが苦笑する。


本当に天才が集っているのに、僕のクランでいいのだろうか?

悩んでいる僕の顔を見て、宗典が微笑む。

「君がいると分かったから俺達は動こうとしているだけで、君がいなかったら、この世界で埋もれて惰性で生きて終わるだけだったんだよ。…そんな顔しないでほしいな」

優しい声でそう言われて僕は肯くけど、まだこれには慣れない。

僕が彼らの中心な事に、僕が慣れない。


「じゃあ、行く先は何処でも良い訳ね?」

「そう、何処に行くのでもいいよ。途中で観光がしたかったら行く時は普通に行って、帰ってくる時だけ陣を使えば良い」

エリカと宗典の話を聞きながら、僕はソファに戻る。全員が戻ってきてからもう一度聞いた。


「誰も行っていないダンジョンは有るかな?」

「東京駅は除外するね?それ以外だと」

そう言いながら、ローズが小さな機械をテーブルの真ん中に置いた。スイッチを入れるとホログラムが浮き上がり日本地図を映し出す。

いや、この技術よ。


「これも魔導具ですか?」

「そうよ。まあ私の他に作っている人は知らないけど」

聞いた穂香にローズが答えて、頷きながら僕を見た穂香に僕も頷く。

だから、みんな天才だなって。


「日本に限って言えば、誰も行っていないダンジョンは厳密にはないと思うの。だけど、誰も攻略が出来ていないダンジョンは複数あるわ。それを考慮すると、候補は三つ。北海道の第六。東北の第四十四。四国の第一。この三つね」

ローズがホロを触って画像が拡大される。


「それぞれの以前の攻略階数を教えて欲しい」

「ええと、第六が踏破済みで四十階層。第四十四が踏破済みで三十五階層。第一が未踏破で、三十階まででストップしているわ」

「第一が未踏破なのか?」

かなり不思議に思って聞くと、エリカが少し苦い顔で答えてくれた。


「モンスターパニックの最初の犠牲はそこだった。誰も知らない洞窟が出来て、そこから見知らぬ生命体が出て来て。多くの人が犠牲になり、多くの人が土地を離れて。次に出来たのが第二。東京の八王子だったからそちらの対処が優先された。それからどんどんダンジョンが現れて、第一の周辺の復興は大分遅れたのよ」

「探索者協会の支部が出来たのも随分後で。今なら復興も進んでいるから、住んでいる人もいくらか増えていると思うけど、やはり、探索者協会の力が及ぶ範囲で生活をしていると思うわ。それ以外の人は近くには殆んど住んでいないと思う」

「四国に、他のダンジョンは?」

「ないわ。だからダンジョンがある場所には住人は少ない。だから探索者もあまり行かない。踏破も難しい。ダンジョンの影響があまり無い場所には住んでいる人もいるけれど、いざとなったら逃げにくい島だから、離れた人も大勢いる、そんな話よ」


昔の出来事だと、今では笑えない事になっていて。

僕は少し下を向いて考える。何処に行くべきか。

新しく入れて貰ったお茶を飲みながら考えている僕を、皆が待っている、そんな状況で僕のスマホと穂香のスマホがほぼ同時に鳴った。


「うん?」

「え、なに?」

同じ動きでスマホを確かめる。穂香が画面を見せてくるから見ると、僕と同じく協会からの電話だった。

穂香が出る。

「はい、小鳥遊ですが」

『ああ、良かった。探索者協会の益子と言います。あの、今はどちらかでダンジョンに入っていますか?』

「いえ、クランの人と会っています」

『そうですか。どちらかに入られるならぜひ、うちの第八に来てほしいのですが』

「クランの人達と相談しますので」

『そうですか。本当に来てもらえると嬉しいです。では』

急いでいるかのように、唐突に切れた。

僕の電話はもう切れてしまったが、同じような電話だろうか。


自分のスマホの画面を眺めている僕に、宗典が話しかけてくる。

「探索者協会が探索を促してくるとか。結構焦っているのかねえ」

「どうかな。でも、焦っていたような気はするけど」

僕が答えると穂香も頷く。

「なんだか、困った気配はしていたけど、第八ならランカーが行っていると思うのよね。私達が行かなければならない場所でもないと思うけど」

「…そうだよね」


「どちらかというと、沢山の探索者に来てほしいという感じだったね」

ローズが言って、その意見は納得できる物だった。

「それは、自分の扱うダンジョンだけは残して欲しいと、いう感じだろうか?」

「ううん、どうかしら」

穂香が首を傾げる。

「いままで、協会から催促が来た事がないから、どう捉えていいか分からないのよね。鬼気迫る感じではないから、ただの勧誘だと思うけど」


僕も穂香も、最近探索者になったので、以前の事は分からない。実績はそれなりに積んでいるが、ランカーという訳でもない。

それに個別に声掛け、か。

そこまで切迫しているのか、それとも単なる人集めか。


悩んでいる僕を見て、双子が話しかけてくる。

「魔王さま、もう少し待っていて。今情報を集めているから」

「少し待ってくれれば、調べ終わると思う」

首を傾げてみると、頷かれた。意味がちょっと分からない。



パタパタと何かの羽ばたきが聞こえた。

思わず上を見ると、建物を透過して沢山の光る鳥が降下してきた。両手を広げたエリカがその鳥を自分の身体に透過させて降ろした。

エリカの目がキラキラと本当に光っている。数十羽はローズに降りた。二人は黙って目を光らせたまま、動かずにいる。


美少女の双子が強い魔法を使えるとか。

美青年が錬金術師とか。美少女の助手がいるだとか。

いや、本当に僕のクランでいいのかな。宗典のクランで良いんじゃないのかな?穂香も美人だから、凡庸なのは僕だけなのに。

いや、天才の外見が美麗だからって、羨んでも仕方ないのだけれど。


少し目を閉じて、まとまりのない事を考える。


誰にも顧みられなかった十六年が、たった半月に満たない時間で押し返せる訳もなく。僕はやっぱり上を向けず、足元を見るばかり。

「有架、今日は帰ろう?」

邪神ちゃんが話しかけてきた。

目を開けてみると、胸ポケットから出て、僕の頬を撫でる。

「今日は体調が悪いから、余計にそうなるんダと思うよ」

「…そうかな」

気持ちが落ち込みだすと、加速して嫌な気持ちになる。

僕はそれがいつか、他人を傷つけてしまうのではないかと怖くて。その力を発散出来るように探索者を選んだのだけど。


決まり事を作ったり、誰かに指図したりする器ではないと、今は思ってしまって。

「ごめん。今日は帰るよ」

僕が立ち上がると、宗典が頷いた。

「うん、帰った方が良いかな、顔色が悪いし」

穂香も隣で頷く。

「そうだね、有架くんは帰った方が良いよ」

「穂香はどうする?」

宗典が小さく笑って、穂香に話しかける。

「穂香ちゃんはもう少しいてくれるかな?魔導具の細かい仕様も伝えたいし」

「え、はい。分かりました。じゃあ気を付けてね?」

「うん、それじゃ」



一人で外に出た。

まだ日暮前の柔らかい午後の日差しが、真っ暗な路地を出た横町に満ちている。

上野の横丁は、東京駅のモンスターパニックでほとんどが撤退してしまい、再開発もしないまま、廃墟の立ち並ぶ場所で。

自分達で手直しした人が幾つか店を開いているぐらいの、寂しい場所だ。


「有架、家に帰っテ寝よう」

「うん、そうしようか」

駅に行って、電車に乗る。

午後の時間は電車も空いていて、僕はぼんやりと窓の外を見ている。


何でこんなに疲れているんだろう。



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