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新しいクラン



伊達さんは薄暗くなった外の景色を見ながら、ぽつぽつと話しだした。

「天は助からなかった。もう一人の男は懲罰室に入れてある」

「そうですか」

「…俺は天に恨まれていたんだな。気付かなかったけど」

僕は水筒を出して、まだ冷たいコーヒーを飲む。


僕に意見は出来ない。今までの時間を共に過ごしてきた伊達さんの心の重さを測ることは出来ない。


「天の事は昔から知っていた。俺は探索者になって、天は研究者を選んだ。でも、天の学費が足りなくてバイト感覚で試験を受けたら、天にも探索者の資質があって、一緒にクランを組んで。その時はまだ子供だった芽久に頼んで、クランに名前貸しして貰って天と二人でダンジョンに潜っていたんだ」

伊達さんが小さく息を吐く。僕は持っていた水筒を伊達さんに差し出す。少し見ていた伊達さんが水筒を手に取って、こくりとコーヒーを飲んだ。


「少し天が変わったのは、大学院に入った頃かな。ダンジョンにあまりついて来なくなったし、俺よりも芽久の探索について行くようになった。…何を考えていたんだろうなあ」

欲望だろうなとは口にしてはいけない事だった。

第三者の目の方が、当事者よりも厳しい目になるのは仕方がない。


「俺のクランは一時休止になる。管理がいなくてはクランの継続が出来ない」

「そうですか」

「でも、探索はして貰って良い。クランとしての活動が出来ないだけで、名前はそのまましばらく置いておくから」

その言い方に首を傾げる。

「やめるんですか?」

「…どうしようか、考えている」

「そうですか」

良いクランだと体感する暇もなく、無くなってしまうのは悲しかったが仕方が無い。あの情景ではダメージがない方がおかしい。


水筒を受け取って、僕は伊達さんと別れた。

協会の中に入ると協会の職員さんがいて手招きされる。ほとんどの話はもう終わっていて、僕の話は一時間ほどで終わった。

職員さんも悲しそうな顔をしていたし、僕も多弁にはなれなかった。


電車に乗りながら、何処かで他人ごとな自分に呆れる。当事者としてあの場所にいて、攻撃をしたのは僕で、轟の命を奪ったのは僕だろうに。


でも、どうやっても犯罪者に同情など出来ないし、戦いに負けたら死が訪れるのは分かって探索者をやっているはずなのに。

僕の大切な人が同じようになったら悲しくなるだろうか?


駅に降りて、想像できないなって思った。

静は妖怪なので、ちょっとでは消えないし。邪神ちゃんは大丈夫だし。今のところ胸が苦しくなるかもと思える相手は、無事だなと結論が付いた。


「ただいま」

「お帰りなさいませ、有架さま。お疲れさまでし、た」

玄関で出迎えてくれた静が、目線を下げて言葉を止めた。僕の足元に何かがあるのだろうか?自分で足を見て、思い出した。

一回喰われた場所に、面倒だからって包帯を巻いていたんだった。


「静がくれた包帯が役に立ったよ、有難う」

「はい、お怪我は」

「怪我?もう全部治ってるよ?ズボンがひらひらして邪魔だから巻いていただけ」

「そうですか。それなら、ようございました」

静の表情的に、あまり良くはなさそうだけど。


美味しい夜ご飯を食べながら、僕はクランの事を考える。

伊達さんのクランが復帰するとは思えないから、抜けてもいいのだけれど、そうするとまた面倒な輩に絡まれる気がして。

どうにかソロで活動は出来ないものかな。

あるいは。


これは誰に相談したらいいんだろう?

探索者の事に詳しい人。情報屋なら知ってるかな。

食後のお茶を飲みながら、僕は二条さんにメールを送ってみた。

《もしも、自分でクランを起ち上げるとしたら、どんなメリットとデメリットがありますか?》

これ以外にないかなって思って、送ってみたのだけれど。


《良い話だね。九条くんがクランを起ち上げても、現状デメリットはないと思う。問題があるとすれば、九条くんの行動について来られる管理を、誰にするかだと思う。ある程度自衛が出来て魔導具が扱えて、九条くんを裏切ら無さそうな人がいれば、話を進めてもいいと思う》


いない気がするぞ?現状信用出来て魔導具が使えて自衛も出来る。

…いや?一人いるかな?


僕はさんざん悩んだ後に、確認の電話を入れてみた。


「もしもし?」

『はい、九条君?何だか久しぶりね。元気だった?』

「おかげさまで」

色々有りましたが。

「あのですね、小鳥遊さんにお願いがあるんですけど」

『え?私にお願い?』

電話の向こうの声が跳ねる。


「はい。あの、今現在、小鳥遊さんってクランに入っていますか?」

『私?いいえ、入っていないわ。こんな事になってしまったから、何処かに入らなければいけないとは思っているのだけど』

「…あの、僕がクランを起ち上げたら、入ってくれますか?小鳥遊さんに管理をお願いしたいんです」

『え、私が管理?』

そう言って、小鳥遊さんは黙った。

嫌だったかな。探索者の中でも、前衛でもない後衛でもない、管理という仕事はちょっと不思議な立ち位置だし。


『そんな重要な立場なんて、私にできるかしら』

「小鳥遊さんなら信用できるなって、勝手に思ったのですけど、嫌でしたか?」

『ううん、そうじゃなくて。管理になったら常に九条君と一緒になるでしょう?私でいいのかな?』

ずっと一緒にダンジョンに行く。小鳥遊さんは嫌じゃないのかな。


「小鳥遊さんは僕とずっと一緒は嫌ですか?」

『ううん!嫌じゃないわ!むしろ大歓迎よ!』

大歓迎とは。


「じゃあ、お願いします。収納の魔導具とかを検討したいので、明日会えますか?」

『ええ。明日会いましょう』

「はい、じゃあ明日、午前十時に上野駅で落ち合いましょう」

『明日の午前十時、上野駅ね。分かったわ』

「これからよろしくお願いします」

『…うん!よろしくね、九条君』


小鳥遊さんとの電話を切ってから、二条さんと成田さんに、明日の十時過ぎに錬金研究所へ行く事をメールで送る。二条さんからは速攻返事が帰ってきて、成田さんからは返事がない。…見てくれたと思っておこう。

二条さんからは、またメールが来る。

《クランの結成には実績は問われないけれど、お金が掛かるので明日また詳しく話します》


有難うございますと返事のメールを打って、邪神ちゃんを見る。

今日は大人しいから、少し不安になる。

「機嫌悪い?」

頭を撫でると、こちらを見たので機嫌は悪くなさそう。

何か考えていることがあるのだろうか?話が出来る方が良いけれど、僕の陰陽はまだ母の領域には達していない。

いつか人形を作りかえたいな。



気が付いたら朝だった。

お風呂に入って、ベッドに入った所までは覚えているのだけど。

欠伸をしながら身体を起すと、ちょうどアラームが鳴りだした。それを止めて邪神ちゃんを見る。こっちを見ていたので少し驚いた。


なんで注目しているのだろう?

「おはよう?」

少し揺れて、枕を背に座りなおした。

頭を撫でてから着替える。今日は長い話し合いになるかもしれないから、少し緩めのシャツを着た。いや、何時もきつきつの服装でもないのだが。


「おはよう、静」

「おはようございます、有架さま。ゆっくり眠れましたか?」

「うん、爆睡だった」

そう言うと、静がコロコロと笑った。美人が笑うと今日は良い日になる気がする。


リモコンを撫でてからテレビを付ける。

画面のキャスターの顔色が優れない。話している内容は進化したダンジョンで多数の死者が出ている事。少し探索者協会を批判している。

元々怪我人や死者が出る職業だったけれど、最初期以外は大量の死者は出ていなかったと伝えている。

今回の変化は本当に進化と言っていいのか、問いかけていた。


僕は聞くともなしに聞いている。

アイテムや魔導具を発掘するだけだったら、探索者という仕事にはならない。そこにはダンジョンに生息しているモンスターを間引きする役割がある訳で。元はそちらの方が本業だったはずだからテレビの批判は的外れだと思っていた。


自分だって便利を享受しているのになあ。

お茶を飲みながら、まだ話しているキャスターの画面を消した。最近はランキングをやってくれなくてつまらない。もう何十年もやっていたのに、なくしちゃうなんて。


出掛けるために玄関で靴を履いていると、珍しく静が聞いて来た。

「今日はダンジョンに行かれますか?」

「多分、今日は行かないよ」

「そうですか」

ほっとした顔をされて、少し困った気分になる。

でも今日はそれを言わない事にした。

「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

笑顔の静に見送ってもらいたかったから。



電車に乗って上野駅に着くと、大きなパンダのオブジェの前で、小鳥遊さんが待っていた。その周りには何人かの男性がいたが、声は掛けていない様だった。

小鳥遊さん、美人だもんね。


長い栗色の髪は、腰まであって、ぱっちりとした甘い茶色の瞳は白い肌にとても似合っている。僕より少し大きい身長に合った女性的なラインは、まあ、あまり言ってはいけないけど魅力的な感じだし。

「あ、九条君」

それに、声もいい。


僕に手を振る小鳥遊さんを周りが見ている。それから僕を見て大体が、はあ?みたいな顔をするのは止めて欲しい。

「お待たせしましたか?」

「ううん。少し前に来たから待っていないわ」

その割には、周りにいる男性の数が多い気がするけど。


「何処に行くの?」

小鳥遊さんが僕の手を握る。周りから低い唸り声が聞こえたが、気にしない事にした。そこを気にしたら、小鳥遊さんも気にしてしまうかもしれないし。


「こっちです」

握った手を引いて、廃墟の多い横町を目指す。

不思議そうな顔で、でも何も言わずに小鳥遊さんは付いて来てくれる。そして少し離れて何故か男たちが付いて来ていた。

どうしようか悩みながら、それでも真っ暗な路地に入ると、その男達はまるで路地がないかのように、路地の入り口付近で言いあいをし始めた。


「おい、消えたぞ?」

「うそだろ?今までいたのに」

この路地の真っ暗な事は、そういう意味だったのかな?何せこの先にあるのは錬金術師の館だし。


「九条君?」

「いますよ。大丈夫ですから」

「うん。真っ暗でもいてくれるなら、いいわ」

少し強く握られた手が、信用してくれている事を伝えてくる。


小さな明かりの灯る扉の前で、小鳥遊さんが小さく呟いた。

「ここって、まさか」

僕が扉を開けると、中には四人が揃って待っていた。



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