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新たなる邂逅




「僕は小鳥遊さんを助けに来たので、彼女を返すのは普通ですが」

「そうかい。俺達は小鳥遊が欲しかったんだがなあ」

「なぜ?」

青木が笑って見せる。


「大魔女の家系が探索者だぞ?いくらでも使えるじゃないか」

「利用しようという事ですよね?」

あの、どこかお嬢様な小鳥遊さんを。


「使わない手はないだろう?」

「春、もういいでしょ。こいつを倒して早く降りないと遅れちゃうよ」

僕は福田を見る。遅れる?待ち合わせでもしているのか。

小鳥遊さんを連れて下に降りる予定だったと、考えるのが妥当か?


「そういう訳だ、九条と言ったか?ランカー二人相手で運が悪かったな」

君達の運がね?

本気の僕に敵対する気なのだから。


パチンと指を鳴らす。二人の足が綺麗に膝下から消えた。

「はあ!?」

「え、痛い!」

魔法は僕の気持ち一つでいくらでも対象者を変えられる。人間でも敵に容赦をする気はないよ?


ガクッと床に座り込む二人を、僕は立ったまま眺めている。

「お前、何を」

「何処で待ち合わせですか?小鳥遊さんを渡すはずだった相手の名前は?」

僕の問いに、二人が目を丸くする。しかしそれよりも痛みの方が上回るようだ。僕の疑問には答えず何とか体制を変えようとしているが、もう、動かすものがない。


口を噛みしめた福田が、脂汗を描きながら僕を睨んでいるが、もちろん、福田が動かす杖の動きも視界に入っている。

「魔法を使うなら腕も消します。それ以上出血すると死にますけど」

無理矢理座り込まされた足元は二人の血で真っ赤になっている。足には太い血管があるから出血量は多い。二人とも顔色が青くなってきているが、治療してやる気はない。


「〈サイレント〉」

馬鹿なのかな、この人は。

パチンと指を鳴らして、福田の腕を消す。杖がからんと床に落ちた。


ケホンと咳をして、音が戻っている事を確認する。一瞬は魔法も掛かったけど、魔法を使っている本人が魔力を維持できなくなれば魔法は消える。

僕のような使い方でない限り。


「どうして」

「それ以上は止めた方が良いですよ?質問には答えて貰えますか?」

「教えたら助けてくれるのか?」

青木が震える手でまだ剣を握りながら、僕に聞いてくる。


右手と両足が無くなった福田は瀕死だ。それを見て青木は聞いてきたのだろう。

「…素直に教えてくれるなら」

僕の言葉に、青木が剣を置く。


「最下層で人が待っている。俺達の雇い主だ」

「雇い主。依頼人ですか?」

僕が首を傾げると、青木は緩く首を振る。

「探索者協会じゃない。パニッシュメントの人だ」

「…春、だめ」

青木の言葉を福田が止めようとする。


パニッシュメント。それは協会とダンジョンを争っている組織じゃなかったか?

「そこに小鳥遊を連れて行くはずだった。それ以上は俺も知らない」

「そうですか」

自身の言葉が直接死に直結している今は、嘘も言わないだろう。

僕は奥に見える下りの階段を見る。


「なあ、助けてくれ。せめて福田は」

青木が懇願してくる。今なら送れば協会が治療するだろう。けれど生かして外に出して大丈夫だろうか?協会内で悪さをしない保証はない訳で。


その時、鋭い光が目の前で輝いた。


思わず後ろに飛び下がる。

ジュワっという音がして、肉が焦げる臭いがした。

「あああああ!!」

「ぎゃあああ!」


光で奪われた視界はすぐに戻ったが、そこには酷い形になった二人が転がっていた。まだ息はしているが、もう駄目だろう。

「どうし、て」

小さく呟いてから福田の息が絶える。

青木は何かを言おうとしたのか、口が動いたが、それは言葉にならなかった。

僕は焼けただれて横たわる二人を見る。


今のは光の魔法だ。僕とは対極にある魔法を誰かが遠隔で使ったのか。それとも二人にあらかじめ仕込まれていたのか。


二人の遺骸を送るべきか悩む。

追加の魔法かモンスターが現れても困るので、その場で立って待ってみる。何か動くかと思ったが追撃はなかった。

しかしまだ、この遺骸に仕込まれている疑いは晴れない。


協会に送るのは止めておこう。


僕はそこに放置して、階層を下りる事にした。

回収するにしても、あとにしよう。


十四階層に降りる。そこにもモンスターがいた。大きな固そうなトカゲだ。多分三メートルぐらいはある。ぎろりと僕を睨む。進化していないドラゴンのような強そうなモンスターだ。

いったい初心者用ダンジョンとは。


指を鳴らしてトカゲを崩す。成す術もなく黒い欠片になったトカゲが魔石を落として消える。これは握り拳ぐらいはあるなあ。

この大きさの魔石は初心者が潜るダンジョンで取れる大きさなのだろうか?僕のイメージではもっと小さいと思っていたのだけれど。


土の上を跋扈している大トカゲたちを魔法で消しながら、下の階層に急ぐ。



十五階層は景色が変わった。

草の背は低くなり、床部分も土から砂混じりの物になる。

空気も幾分乾燥してきた。

サバンナのような場所だ。ここなら確かにキメラがいてもおかしくはない。なぜなら僕が見たキメラはライオンとサソリが混じった、マンティコアの様だったからだ。


歩くとじゃりじゃりと足音がしてしまう。

そしてやっとキメラを見つけた。それはやはり大きなライオンの身体をしていて、僕を見ると嬉しそうに近寄って来た。


【遊ぼうよ?】

見知らぬ人の声で話しかけてくる。もともと知能が高いのか。

それとも誰かの脳が喰われて定着したのか。


パチンと指を鳴らしてキメラを消す。驚いた顔をして消えるのは少し嫌だった。まだ戻せるのかも知れないと変な考えをしてしまうからだ。

何処で生きるんだ?あの身体から脳を取りだしたとして。


僕はさらに下を目指す。

十六階層、十七階層。モンスターの大きさが変わるが、基本的にはキメラと猿しか出て来ない。他にもサバンナの生物はいるだろうに、猛獣系は出現しなかった。


十八階層、十九階層。僕がイラつくほどにはモンスターの数が多い。少し歩くだけで数匹出て来る。ここまでくると大きさも五メートルぐらいの長さになっているから、狙いやすかったけれど数には辟易する。


奥にあった階段を降りる。

第二十階層。此処がこの第七ダンジョンの最下層だ。


もともとオープンな自然の写し絵のようなダンジョンだったが、この最下層は本当に地平線が見えるほど広く見えた。

天井もどこかにいってしまったかのように青空が広がっている。


その中央に見慣れないモンスターがじっと佇んでいた。

石でできた巨大なゴーレム。

それが静かにフロアの中央で立ったまま動きもしない。僕が歩いて近づいても反応もしない。けれど機能が停止している訳はなくて。

ここのボスに見えるのだけど。


「やあ、君は私の依頼を受けた子じゃないよね?」

不意に明るい声で、ゴーレムの上から声を掛けられた。ゴーレムの頭を見上げると民族衣装を着た大きなヤギの骨を頭にかぶった男が、座って僕を見降ろしていた。


さっきまでは居なかったはずだが。

「あなたの依頼は受けていないと思います」

「そうだよねえ、じゃあ今回は失敗かあ」

僕の返事に気を悪くした気配もなく、本当にただ残念だという様に彼が言うから、僕は判断をしかねている。


「君は何しに此処に来たんだい?」

「…ダンジョンアタックの為です。あとは人がいないか探索していました」

「ああ、真面目な探索者なんだねえ」

そう言って見えている口元が柔らかく微笑む。白地に赤と緑の刺繍が施された衣装が、ユウラリと風になびく。


「君は今の状況が正しいと思うかい?」

「え?」

急な質問に首を傾げると、口元が苦笑に変わる。


「こんなダンジョンがあって、これにじりじりと浸食されている世界は、正しい世界だと思うかい?」

「…変質した世界だと言われているのは知っていますけど」

「そうなんだよ。この世界は変わってしまった。だからね、私は元に戻したいんだ。ダンジョンをこの世界から排除したいんだよ」

「そうですか」


残念ながら、その言葉は僕の気持ちを動かさない。

見知らぬ他人が何を言っていたところで、考慮するに値しない。勝手に思っていればいい。


男は小さく笑った。

「まだ君には、分からないかな」

男がゴーレムの上に立つ。それからゆっくりと空中に浮かんだ。どんどん上に昇っていく。

「いつかみんなが分かってくれると良いんだけどね。この世界が終わる前に」


その言葉を最後に男の姿は空に消えた。此処は本当の空ではないのに、気配が完全に消えてしまった。

そして男がいなくなった途端に、動かなかったゴーレムが動き出す。


あいつが止めていたのか。

僕は動き出したゴーレムに魔法を打ち込む。黒い風がゴーレムを包むが、表面を削って掻き消えた。


魔法障壁を纏っているのか。手を振り下ろしてくるゴーレムを避けながら、また魔法を放つ。全く効かない訳ではないので、倒せるまで何回でも魔法を放てばいいだけだ。

追い掛けられて逃げながら、何十回打っただろう。

やっとゴーレムの動きが止まって、膝を着いた。もう一回魔法を打つと黒い風がゴーレムを綺麗に消し切った。


立ち止まって、空中に浮いたまま落ちない光球を見つめる。

触ると光が消えて、辺りが静かになった。

ダンジョンアタックが完了したのだろう。数日はダンジョンが動きを止めて回復して再び始動するだろう。

これを壊せば、ダンジョンが消えると言うが、消した探索者はいない。

利益があるからだ。


そんな事はどうでもいいから、少し休みたい。

魔法が使えても、僕の体力は人並み以下で。走り回ったのがもう限界で。

その場に座り込んで、そのまま目をつぶった。




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