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苦手な方はご注意ください。

おっさんのごった煮短編集

股間直撃3秒前でセーブしてしまった件

思いついたんで、さらっと書いてみました。



 「死ぬなっー!!  死ぬなアドっー!! 」


 「すまんっ、ラルっ、また、セーブポイントで会おう」


 魔王四天王の1人、灼熱のナッツクラッシュの一撃により、致命傷を受けた勇者である俺に、パーティーの軽業師ラルモンドが悲鳴に近い叫びをあげた。

 死を悟った俺の言葉に絶望するラルに、またセーブポイントからやり直しだなと思うと同時に、完全に絶望で顔が死んだ奴に、自業自得だと思う反面、同情してしまうのは、やっぱり俺が男だからか。



 ~~~




 「ぬぅわぁぁぁーぅぅあー」


 セーブポイントに巻き戻った瞬間、ゴーンという音の後で背後からラルの絶叫が響く、ここは四天王ナッツクラッシュの居城のある森の手前のセーブポイントだ。


 「なんで毎回、こんな目に」


 完全に顔面崩壊して、目も鼻も口からも穴という穴から液を垂れ流して、普段ならばお調子者だけれども、愛嬌も色もある女受けする色男が台無しに股間を押さえて悶えている。

 パーティーの女性陣、魔法使いのルナシャと僧侶のエミナから軽蔑の視線を向けられているが、ルナシャは心底呆れたといった感じで、突き放すように吐き捨てて、容赦ない。


 「自業自得でしょうが、アドが注意してくれてんのに、ふざけて手摺で軽業披露なんてするから」


 そう、この惨事はこいつの自業自得だ。



 ~~~



 セーブ前に遡ると、俺たちは最後の四天王戦を前に、ダンジョンと化した森の手前でセーブポイントへとセーブをしていた。


 魔王が現れ、各地に勢力が魔の手を伸ばすと、俺のような勇者が生まれると共に、神の導きにより、各地にこの「セーブポイント」が出来る。

 円柱形の緑柱石で大きさは幼い子供の背丈程度には大きい。


 この「セーブポイント」は勇者にのみ使用可能で、セーブすれば、死んだり詰んだと判断したさいに「巻き戻し」ができる。


 ただ、ひとつのセーブポイントにつき、一回しかセーブできず、また一度新しいセーブポイントでセーブすると、その前のポイントでのセーブは上書きされて消えてしまう。


 で、俺たちが最後にしたセーブポイントでラルはやらかした。


 軽業師であるラルは、セーブポイントの回りを囲むようにして設置されている手摺のようなもの、実際には魔の者や悪意あるものに破壊されないための侵入禁止の結界を維持するものらしいが、その上で不敬にも軽業をして遊んでいた。


 当然俺は注意したんだが、ラルは聞く耳持たずにふざけていて、呆れた俺たちは、そのままセーブしようとしたんだが。

 セーブが完了したピロンという音のほぼ直後にゴーンという音が響いたわけだ。



 ~~~



 結論を言えば、俺がセーブをしようと石に触れようとした瞬間、ラルはほんっとーに珍しく足を滑らしたらしい、金属製のように思えるスベスベした手摺の上で跳び技などを繰り返し、両足を手摺の上で滑らした結果、手摺の上で開脚して、空中でセーブされてしまった訳だ。


 その結果、巻き戻しの度にセーブされた空中待機状態から、手摺に向けての股間ダイブという訳だ。

 女性陣二人は「天罰ね」と冷たいが、俺はすこし同情してしまう。



 ~~~


 やっと復活したラルから恨みがましい視線を送られる。


 「アドー、何回目だよー。もうちょっとだったじゃん。あいつ、もう少しで倒せたじゃん」


 「すまんな、かなり追い詰められたと思って油断したよ」


 確かに、あと一歩といった感じまでは追い詰めていたので、俺は素直に謝るが。


 「変な踊り踊るだけで、ろくに戦闘してないあんたが言うこと」


 ルナシャはそう言って、立ち上ったものの、まだ股間を押さえて内股なラルの太ももを杖で叩いた。


 「痛った、何すんだ、この暴力女」


 「うっさいナルシスト無能」


 いつもの夫婦漫才だが、仲裁するのは俺なんで勘弁して欲しい。


 まぁ、そんなやり取りもありつつ、また森のダンジョンへと、罠の回避もお手のものだ。なんせ、引っ掛かる度に巻き戻しからのゴーンでラルに恨まれる。

 軽業師であるラルは敵のデバフと味方のバフ、そのほかに、盗賊のように相手のアイテムを盗むことも出来るが、ダンジョンマッピングも仕事のひとつだ。

 ただ、普段は不真面目で適当な仕事ぶりのラルが鬼気迫る表情で罠解析をしてるのは、悪いが笑ってしまう。


 ただ、上手くいかないことはよくある。


 「キャッ」


 短い悲鳴を上げて、僧侶のエミナが転ぶ。

 何に躓いたかはわからないが、躓いた先はさっきラルが必死にマーキングした罠のトリガーとなる平たい石だった。


 「なんでだよーっ!! 」


 ラルの絶叫とともに、俺たちの頭上に即死の強酸毒が降り注いだ。



 ~~~



 ゴーン。


 「ぬぐゎぁわぁー」


 また、無防備な股間に直撃を受けて、ラルは顔面を崩壊させている。


 勿論のこと、ラルも毎回の股間破壊に対策しようとはしているらしい。


 しかし、手摺と股間の距離は無情にも近く、その上に空中待機状態なのだ。

 わかっていても、いかに高い身体能力があろうとも、回避不可能なのだ。


 せめて、手をクッションに考えたそうだが、足を滑らした瞬間は、手が万歳状態で、掲げてしまっている手を忙しく下に持ってこようとしても、間に合わずにゴーンらしい。


 「気付いたんだ、下手に手を下に持ってこうとするより、手を上げたまま、股間に意識を集中する方が、まだ堪えられる」


 とはラル談だ。そのせいで、セーブ直前まで注意していたルナシャは巻き戻しの度に、旦那が万歳したまま覚悟を決めた表情で股間を爆撃される様を毎回見るはめになっている……らしい。俺は石の方を向いてるから、そこは見えないのよね。


 「何だかんだお調子者のあいつに、結局惚れちまったのはアタシだけどさ、流石に百年の恋も冷めるよ」


 とはルナシャ談だ。何だかんだお似合いで、仲のいい二人なので、こんなことで旅が終了後に離婚とか止めて欲しい。

 離婚理由が股間ゴーンとか、同じ男として何も言えなくなる。



 ~~~



 再度のアタックでまたたどり着いたナッツクラッシュのもと。


 俺たちは死力を尽くしていた。


 という訳でもなく、セーブポイントに巻き戻しされるさい、積んだ経験や記憶は巻き戻されずに蓄積させるために、かなり戦いは楽になってきていた。

 とは言え、最初は絶望的な程に強かったナッツクラッシュを打倒できると思えるまでに成長できたのは、ラルの執念のおかげでもある。


 「あいつの、玉を潰して、俺の苦しみをわからせてやる」


 とはラル談だ。完全に逆恨みだが、その憎悪が原動力となり、スペックの高さをおちゃらけで相殺するこの男が、本気で攻略に乗り出してくれたことで、ナッツクラッシュ攻略は進んだといえる。


 崩れゆくナッツクラッシュを前に、感涙の涙を流すラルを見ながら、魔王城の前でも足を滑らさんかなと思ってるとは、絶対に言えん。




~~~



 何だかんだと魔王を倒したあとに、実のところお前が一番魔王だったとラルに言われたが、まぁ、確かにと笑った。

 

 因みに、ルナシャとは円満だそうだ。


 子供が出来たときいて、本当に安心したのは墓場まで持ってこうか、いや、酒場の笑い話で終わるネタだな。







感想お待ちしてますщ(´Д`щ)カモ-ン

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― 新着の感想 ―
[良い点] セーブポイントからやり直す度に毎回こんな目に遭ってしまうラルさんの痛みと恐怖とを考えますと、思わずヒュンッとなってしまいますね。 とはいえ全滅してやり直しても経験値やレベル等は持ち越せる事…
[良い点] 思わず笑ってしまいつつも、惨いと思ってしまうのは同じ男だからでしょうか(笑) 機能を喪わずにお子さんが出来て良かったですね。 [気になる点] 何度も股間を強打していても、ロードするたびに…
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