4-4 彼を知り己を知れば百戦殆からず・彼
現目標:オルサバーグ防衛要綱を考案
「これで自軍については終わりか?……んじゃあ次は敵軍の情報についてだな」
オウキは周囲から反論が無いことを確認すると、ゆっくり椅子に腰を落ち着かせると言い放つ。
「敵軍の基本的な情報については俺よりもエデルとイルマ、それにカトリンさんの方が詳しいだろ。知っている情報を話してくれ」
本来エデルとイルマはオウキの近侍、いうなれば補佐官件護衛であるため、オルサバーグの権力者が集う会議の発言権はない。
だがそんな仕来りや慣習は、人というフィルターを通しての情報が得られないため、情報の本質を知りたい今では有害そのものだ。
事前に聞かされていなかったカトリンは目を見開いていたが、先に言われていたエデルとイルマは用意していた言葉を丁寧に置くように説明を始める。
「はい。それではまず私からの説明ですが、これはあくまで私が所属していた国軍の説明だと思って聞いてください。貴族様が率いている領主軍とは制度が恐らく違いますので」
そこからオウキとイルマは時折交代しながら説明を続けていった。
「王国軍を説明する時、1番始めに説明すべきは6つの軍団があること。この6つの軍団は全てがそれぞれの役目を持っていて、その任に就いています」
その6つの軍団とは方面軍のようなもので、それぞれ守るべき守備範囲を持っている。
第1軍、王都に駐在する遊撃主力軍。指揮官は国王で、国王直轄の精鋭だと言えるだろう。
第2軍、ジリト王国東に駐在する対亜人種用軍。指揮官は第1王子で、これまで戦ってきた王国軍でもある。
第3軍、王と都を守る王都守備隊。指揮官は第5王子で、腕利きの猛者が集められているのだとか。
第4軍、ジリト王国西に展開する対蛮族用軍。指揮官は第3王子で、情報はほぼ無い。
第5軍、ジリト王国南に展開する軍。南で唯一隣接している国との交渉が主任務らしく、貴族たちの集いだとか。指揮官は第2王子だと言う。
第6軍、主に国内の治安を維持する軍。実質的に警察のような立ち位置で、貴族たちの動向を目を光らせている。この軍だけ利権の温床になっているようで、指揮官は高位貴族で回しているらしい。
これは全てテツヤの授業でも解説されており、実質的に確認であったため簡単に話は次へと進んでいく。
「それで、特に俺たちが気にすべきは第2軍だと。これに違いはないのか?」
「はい、そのはずです。そうですよね、カトリンさん?」
オウキからの質問を受け取ったイルマは、確認するようにカトリンへ聞く。
「は、はい。何度も第2軍との共同軍事行動と書類に記載されていたので、間違いないかと」
元高位貴族、さらに言えばこの軍事行動にも参陣している貴族家の財務管理していたたため、大規模な軍事作戦を行うならばまずカトリンの目に留まるだろう。
「それならば確かに敵軍の中核は第2軍となるでしょうが、主な任務は森から出てくる亜人種、いえここでは敢えて魔族と呼ばせていただきますが、魔族の討伐です。全兵力を捻出してくることはないと思われます」
考えてみれば当然の話である。元々防衛の色合いが強い軍団が、全兵力で進軍してくるとは到底考えられない。
もし出撃した軍隊全てやられてしまったら、取って返す刀でそのまま蹂躙されるのだから、防衛に必要最小限の兵力は必ず残しているはずだ。
侵攻してくる敵軍を全て撃破しても後ろに防衛部隊が残っていると悲観的に考えるか、それとも侵攻してくる敵軍の兵力が少しでも減ったと楽観的に考えるか、それは出席者の性格で変わる。
「ですが、国軍の他にも貴族軍も複数連れているでしょうから、必ずしも敵が第2軍とは限りません」
「なるほどね。そうなると貴族どもの兵力も考慮に入れないといけないわけか」
第2軍相手ですら厳しい戦いになるだろう予測している3人の報告者は、更なる軍の追加に苦しそうな顔を浮かべるしかない。
そんな中、眉一つ動かすことなくオウキが次の質問へと移る。
「それで、貴族どもが連れてくる兵力はどれくらいだ?」
「は、はい!ええと貴族と一口に言っても大小さまざまな貴族が集います。ただその貴族たちにも纏め役がおり、それが私たち、ではなくナール家ともう1つ、ドルヒ家の2つ。ナール家は総勢1万5千程、ドルヒ家は分かりませんが、かなり多いかと思われます」
「ドルヒ家と言えばあの王家の短刀と言われた?」
カトリンの回答に質問を投げかけたのは、先ほどまではずっと聞き役に回っていたテツヤであった。
「えぇそのドルヒ家で間違いありません」
「ドルヒ家は確か少数精鋭で領軍が構成されていたはず。常備軍に力を入れていたナール家に数で勝るとは到底思えません」
「確かに常備軍の数では圧倒的にナール家が上回っていましたが、以前の敗戦で鞍替えした貴族が多く……」
「なるほど……それで名門のドルヒ家に靡いたものが多い、と」
はいと短く答えるカトリンを見て、テツヤは納得したように重厚感のある鉄頭で頷くのであった。
高位貴族は配下として多数の貴族を抱えており、高位貴族が形成する軍隊はその多数の貴族たちの寄せ集めだ。
高位貴族ならば発言権や権力もあり目立っているが、多数の貴族たちは家を守るために東奔西走は当然であり、そのためならば主として従っていた高位貴族を鞍替えすることだってある。
今の価値観からすればかなりの不義理であるが、封建制度の中で生きている者ならば当然の価値観であろう。
「とにかく貴族どもはナール家とドルヒ家に注意と。装備や練度は?」
「ナール家については以前の開拓大隊からそう大差ないので、恐らく皆さまの方がご存じかと」
「となると、ただの鉄装備ってところか」
「そうなります。ただ古参の兵士たちや熟練の指揮官様が少なく、装備も士気も急ごしらえなので弱体化しているでしょう」
「それなら敵にはならんってところか。問題はドルヒ家か」
そう言いながらオウキは天井を仰いだ後、思い出したようにカトリンを見た。
「どんな些細な情報でも構わない。知っている情報は?」
「知っている情報、ですか。他家について全く知りませんが、有名な話は暗殺でしょうか?」
「暗殺?」
オウキは眉を顰めつつも、その話を詳しく説明するよう促す。
「はい。暗殺と言っても小さな部隊で指示を出している人を襲っているようで、規模の大きい軍隊は元々持っていなかったはずです」
古今東西、戦争を勝利へ導くためには様々な手段が用いられており、その中には敵指導者を先に打ち倒して戦意を削ぐやり方もある。
だから暗殺を得意とした貴族がいてもおかしくない、そう納得しかけたオウキはとある違和感に気付いた。
「待て。敵指導者を狙うのが暗殺。この認識に違いはないな?」
「え?はい」
「よろしい。で、その暗殺を行う精鋭部隊みたいな奴らがいると。これも正しいんだな?」
「そうなりますね。精鋭かどうかまでは分かりませんが、数人で出陣するという噂を聞いたことがあります」
暗殺を成功させるためには、絶対と言っていいほど相手を警戒させてはいけない。
だから基本的には単身で暗殺を実行するか、それとも実行部隊と支援部隊で一気に制圧する形で暗殺するかのどちらかとなる。
前者はとある大国の大統領、後者は過激派テロ組織のトップの事例が有名でそれを思い起こしてみれば分かりやすいだろう。
だからこそ、たった数人で暗殺するというのが本来ならばあり得ない。
しかも肌の色や特徴が全く異なる亜人種と人間種では、指導者に近づくことすら困難になるだろう。
そのため考えられる理由は2つ。
1つは超遠距離からでも殺傷できる武器で狙撃したという説。
これならばどのような見た目であろうが高所があれば暗殺の準備は整う。
後はその武器を十全に扱える者と、それの付き添いが数人いれば立派な暗殺部隊になるだろう。
以前の戦いで見れなかったのも、ドルヒ家秘蔵の武器でありナール家へ貸し付けなかった可能性もある。
だがそんな1つ目の説よりも可能性が高く、現実的な説がある。それは……
「プレイヤーの可能性もあるってことか……」
オウキはそう重々しく呟くと、それまでおふざけ半分だった彼の私兵の顔付きが一気に変わった。
「オウキ様。プレイヤーの可能性はどれほどだと概算していますか?」
「我、主、守る」
「エフィー、オルクス落ち着け。あくまでこれは可能性だ。可能性の話ではあるが、俺は無視できない程に高いと見ている」
正確に言えば1人もしくは極少人数で言っても目的を達成できるだけの猛者がいる可能性だ。
猛者以外に必要なのは情報と目的達成に必要な食料や武器などの物資だけで、他には何もいらない。
極少人数で動くのも目的達成を可能な限り効率的に進めるため、費用と隠蔽目的だとも考えられる。
さらにプレイヤーならばアイテムボックスを所持しているはずで、そうなれば手ぶらでも問題ない。
プレイヤーの随行人は案内人か、もしくは部隊だと言い張るためのフェイクか。どちらであっても大した戦力で無いことに違いはないだろう。
さてドルヒ家が所持する戦力がプレイヤーであった場合、オウキの考えいた作戦は根底から覆される。
「ヘレン、敵の現在地は?」
「んー?さっき見てきた時は、森に入り始めたばっかのところだな。ほとんどが海の近くから来てたぞー」
恐らく前回の侵攻と同じく、本隊は海岸線を伝って進軍してくるのだろう。
これもある意味で当然で、森を突っ切ってくるのが原則的にあり得ないからだ。
「だからこ海岸線を断ち切る形で砦を築こうと思ったのだが……敵がプレイヤーとなれば話が変わるな」
「ですね。オウキ様、確実性を取るならば撤退すべきでしょう」
オウキの言葉にエフィーが冷静な言葉を付け加える。
海岸線に砦を築く、これは進軍経路が分かっており瞬間的に建設可能だからこそできる作戦だが、どうしても資源や建設時間が必要になる。
敵が雑兵ばかりならば適当な石材で見掛け倒しでも問題ないだろうが、プレイヤーがいるとなれば障壁になるかすら怪しい。
ならばその砦に万全を期してオウキたちが駐屯する方法もあるが、その場合は本体から外れた部隊や僅かに森の中を進軍している部隊を見逃すことになる。
それならばオウキたちを分けて配置する案もあるだろうが、敵プレイヤーの可能性と戦闘力が未知数であるためその手も使えない。
オウキは苦渋の決断を迫られていたと言っていい。
確実性をとってせっかく作り上げた安寧の地を戦場にするのか、それとも分けて配置して敵プレイヤーに当たってみるのか。
これまで多くの人を見捨ててきた経験を持つオウキであったが、幾度も困難を共に乗り越えてきた仲間を見捨てる選択肢は絶対に取れない。
オウキは溜息を一つ吐くと重々しく決断を……
「よろしければここで迎撃をお願いできますか?」
オウキではない、静かな声が会議場に響き渡る。その声の主は、最も上座に座っておりながら発言できない、今の状況を顕著に表しているエントからであった。
今回は敵軍情報まとめでした!
基本的な情報は既に書いてきましたが、オウキたちが知るのは今回が初めてということで、おさらい的な意味合いを含んでいます。
そして地味にですが、1話からリライトを進めています!
なんだか気づけば真面目真面目でガッチガチの話になってますが、ちょっと笑えるストーリーにもしたいと思っていたので、所々笑を入れつつも見やすいようにしていくので、お時間ある方は見直してみて欲しいです!
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