4-3 彼を知り己を知れば百戦殆からず・己
現目標:オルサバーグ防衛要綱を考案
「よ~し、それじゃあ防衛要綱をまとめてくぞ~」
やる気のないオウキの声が会議場に響くが、彼含め顔を突き合わせている者は至って真面目な顔つきだ。
それもそのはず、来るべき戦争に備える方法、つまりは自分の命を守る方法なのだから間違っても適当にこなしていい話ではない。
「まずは防衛の最終目標から決めていくか」
「えぇそれでよろしいかと。着地点を決めてないとブレますからね」
オウキの声に賛同を示すのは、全身銀色の鋼で作られた機械人間種のテツヤ。
彼はこの会議に出席するメンバーの中で、唯一オウキと同じプレイヤーでありながら社会人経験を持つ。
そのため目標も定まっていないプロジョクトが、どれだけ迷走するかを理解している。
「それじゃあ俺が考えている最終目標は、恒久的なオルサバーグの平和だ。これは異論ないな?」
オウキが座っている面々に視線を向けると、全員が問題ないと頷いてくれる。
この会議の出席者はオウキと共にこの世界にやってきた部下6人と、オルサバーグの本来の統治者エント・オルサ、彼の娘のスーラー、財務官見習いのカトリン、そして人間種代表兼オウキと同じ当主付アドバイザーのテツヤの計11人。
加えてオウキの後ろ将軍候補兼側仕え──小姓とも言う──としてエデルとイルマや、記録係としてエルフのエンメルもいるが、発言権はないので居ないの変わらない。
このメンバー──カトリンは少し別だが──ならば遠慮も配慮もそこまで必要ないため、オウキは最も偉いはずのエントに対して口調を崩している。
「よし、それじゃあ最終目標をオルサバーグの平和として決議した」
ここまではオウキの想像通り。
というのも会議に出席しているメンバーは、6人の部下以外常識的な判断を下せるものばかり。
ジリト王国を民もろとも滅却すべしや太陽神を信仰させるべしといった、荒唐無稽な意見を言う部下とは違うのだ。
「さて次は……迎撃方法でも決めるか」
少し言葉に詰まりながら提案するオウキだったが、そこにストップをかける者がでた。
「オウキ殿、情報をまとめるのが先決かと」
またしてもテツヤである。間違いなく彼はこの場において最も自由に発言できる者であり、それは自身も自覚しているので積極的に声を上げている。
「あ゛ぁ?迎撃方法を先に決めてもいいだろうが」
案の定、自由な発言を許さない空気を醸成している者がドスの効いた声を上げるが、ここで引くくらいならば最初から声を上げていない。
「ヘレン殿、それでは先に迎撃方法を決めるとして、あなたはどう敵を迎えうちますか?」
「はんっ!そんなもん燃やしゃ済むだろ」
「なるほど、それも1つの答えですね。これまでのダンジョンと同じで、何も考えず燃やしたらいいと」
もはや当然だと言わんばかりに殺気を振りまくヘレンの目を見据えたテツヤが、淡々と言葉を並べて煽り立てる。
「は?なんでダンジョンの話なんだよ。つぅーか何も考えずに燃やしてねぇよ」
「おや?どうして燃やさないので?」
「効かねぇ奴もいるだろうが!」
「そうでしょうな。それはこと戦争に関しても同じ。正しく効果的な対処をするためにも、まずは自軍と敵軍の情報が必須になるわけです」
ヘレンが机を殴りつけながら声量を増していく中、テツヤの視線はヘレンからオウキへと移っていた。
「なるほどな。テツヤの言う通り、効果的な迎撃をするためにも情報をまとめるのが先だな」
オウキがそう纏めると、少しだけ前傾姿勢になっていたテツヤは背もたれに体重を預け、ヘレンは眉間に皺を寄せつつも口を閉ざすのであった。
これは戦争だから分かりにくいが、ビジネスの場では当然の話だ。
例えば新商品を企画するとして、現在の市場も自社が何を造れるかも知らない状況で考えた企画など、間違いなくコケる。
バズって売れる可能性はあるものの堅実に売り上げを伸ばそうと思えば、市場調査で得られた情報の詳細な分析と自社の生産技術が必須。
戦争も同じで市場つまり敵がどのような状況なのかを知らないのも、自軍つまり自社が何を作れるのかも知らない状況で、マトモな対策など取れるはずもない。
そのことを分かりやすく諭す形でテツヤが見せてくれたので、オウキも納得して話の舵をそちらに切る。
「大事な自軍と敵軍の情報をまとめていこう。まずは自軍からまとめていこうか」
先ほどまで視線を集めていたオウキは、視線を渡すようにトップへと視線を向けた。
「え?あ、あぁすまぬ。我がオルサバーグの情報をまとめると……」
まさか突然自分に会話の主導権が渡されるとは思っていなかった、オルサバーグを治める家長は慌てて説明を始めるのであった。
城塞都市オルサバーグ、正式にはオルサ家領オルサバーグ。
その名の通りオルサ家が治める城塞都市で、オルサ家が所有する唯一の街だと言っていい。
そんなオルサバーグは北には広大なドルル湾、南には切れ目が分からないほど巨大なヴォラタス山脈に囲われ、まさにジリト王国とキセトの街との間にある通行路と言える立地にある。
この立地はある意味当然で、元々オルサバーグはキセトの町及びその周辺を治めるカストルム家から独立した場所だからの他にも、カストルム家当主サミュスの策謀があった。
どうしてサミュスはいくら寒村とはいえ簡単に独立を認めたのか。オウキたちというカストルム家でも抑えきれない戦力に臆したのもあるだろうが、それよりも今後も継続して行われるジリト王国との戦争で矢面に立たないためでもある。
今のカストルム家は当主が認めるほどに弱体化している。
優秀な人材、長期的な訓練、最高峰の装備、そのどれもが不足しているが、この問題を解決するためには膨大な資金が必要だ。
昔のカストルム家ならば用意できたかもしれないが、ジリト王国の侵略によって大陸北部に点在した亜人種の貴族たちは軒並み駆逐され、気づけば亜人種たちが暮らす領域の端になってしまったカストルム家に交易の手は伸びてこない。
だからこそ弱体化したカストルム家を復興しつつ、王国との戦争にオウキたちに任せるためサミュスはオルサバーグを独立勢力として認めたのである。
つまりオルサバーグは、ジリト王国の侵略を防ぐ壁として用意されたと言っても過言ではないだろう。
オルサ家からすれば癪ではあっても、ジリト王国からの侵略を防ぐ壁と言う役目を十全にこなすしか生きる道はない。
オルサバーグの前身となるエルフ村の住民に難民たち、流れ者から裏切り者と、オルサバーグ以外に居場所がある者はいないからだ。
だからであろうか、オルサバーグの人口に対する兵士割合が異常なまで高い。今オルサバーグで200人前後が暮らしているが、兵士の数が50人ほどなので約25%が兵士というのだ。
現代では多くて1桁後半であることを考えると、その異常性が丸わかりだろう。
さらに兵士の内訳は鬼人族が約半数で、それからはエルフの狩人やハーフゴブリンの戦士、そして復讐に燃える人間の兵士が数名と言ったところだ。
接近戦、それも槍といった長武器ではなく剣と剣がぶつかり合い肉薄するような近接戦特化の兵士の割合が多いのも特徴と言えるだろう。
そしてこの兵士たちは全て街を警備・守護するオルサバーグ騎士団に属しており、あくまで当主付アドバイザーのオウキと、彼が従えている6人の私兵とは全く所属が違う。
緊急時はオウキや彼の私兵が指揮官になることはあっても、基本的にはオルサバーグ騎士団長を兼任しているエント、もしくは副騎士団長の任についたスーラーが指揮官である。
「ご無礼を承知で申し上げさせていただきますと、それは維持できているのでしょうか……?」
挙手して質問するのは、財務官見習いのカトリン。
「維持できている……というよりも維持していると言った方が正しいな。これについてはカトリンさんの方が詳しいだろ?」
オウキはそう言いつつ、眉を顰めるカトリンから視線を外して今日のために用意された資料にやる。
その資料にはオウキの私兵エフィーから仕事を引き継いだカトリンとエネスティアがまとめた、オルサバーグの財政状況が記されていた。
そして資料をまとめたならばその内容がどれだけ酷いのかも理解できているはず。そう明らかに収入と支出のバランスがおかしいということに。
ここまで異常とも言える発展速度は、オウキの私兵ランドによる能力の側面が強く見えるが、それよりも圧倒的にオウキたちが元々持っていたゴールドや資源の類の影響が強い。
つまり騎士団もオルサバーグの発展もほぼオウキの持ち出しによるもので、街で騎士団を維持しているとは到底言えない。
「まぁ俺にも利があるから今のところ問題ない。だがいずれ街だけで運営できるようにするぞ。じゃないと借金が膨らんで仕方ない」
オウキは笑えないジョークを飛ばすのであった。
「つまりだ、俺たち自軍の情報を纏めるとこうなる」
オウキがエンメルが纏め上げたホワイトボードを指さしながら要約していく。
・自軍兵力は約50人
・近接歩兵の割合が多く、弓兵が少々
・装備や物資類の心配はなし(オウキのアイテムボックスが尽きない限り)
「それにしても……これだけ見たら絶望的だな」
鼻で笑うオウキだが、この場にいる全員が共有する意見でもある。
まだジリト王国の侵攻軍がどれほどの兵力なのか知らないが、それでも大規模な軍事作戦なのだから万を下ることはないだろう。
その軍隊の1割がオルサバーグに向かって来るとしても、千の兵をたった50人で防がないといけないのだ。
攻撃側は防御側の3倍の兵力が必要だと言われるが、そんなもの優に超えている。
「ふむ、まるで岩屋城みたいですが……オウキ殿はこれだけではありませんよね?」
絶望的な状況であるにもかかわらず、眩しいほどの灯を目に宿すテツヤが問う。
「もちろん。ここに俺たちが入るんだ。2人で事足りる、3人いれば確実だな」
そう笑い返すオウキは、普通の人から見れば狂人に違いないだろうが、それは紛れもない事実でもある。
オルサバーグはただの城壁都市ではない、あらゆる者を作り出せるビルダーのランドが手塩に込めて一から作り上げた都市だ。
城壁には自動迎撃装備や攻城兵器を無効化する仕掛けが、予算度外視でハリネズミのように仕掛けられている。
だからこそ守るべきはオルサバーグ内へと入れる北の正門と南東の裏門の2ヵ所のみ。
そこも以前の作戦で見てきたジリト王国兵を考慮して、オウキの私兵1人ずつ配置すれば十分に侵入を防げる。
もう1人がいれば確実と言っているのは、絶対的な城壁が突破された場合を考えてのことで、十中八九出番も無く終わるだろうが。
「となれば、カストルム家への援軍も考えるべきでしょうな」
テツヤの言葉にオウキの上がっていた口角は突如として落ちる。
「まぁそれはな……。はぁ、やっぱりサミュスさんと話し合うしかないかぁ」
渋い表情を浮かべるオウキであったが、それは無理からぬこと。
ただの一般人であったオウキが、貴族と言うお偉いさんを相手にするのは非常に疲れる。
それもまだ数回しか会ったことないのだから、その心労の重さは察して余りある。
だからオウキの気持ちとしてはサミュスとの会合は、オルサバーグの外交官を任命してから行おうとしていたのだが、その思惑は時間が許してくれない。
物と金は解決してくれるのに人だけ解決してくれないアイテムボックスに、恨めしさを感じたオウキは溜息を吐くのだった。
よく優秀な人材が足りないって書いていますが、理由の1つに小説的な都合もあります。
だってたくさんの登場人物出したら、誰が誰か分からないじゃん!っていう。
まぁ難民や村人たちの集いという状況の中で、優秀な人材がホイホイ出てくるのはおかしいってことで納得してください。
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