3-28 共生への道
現目標:ハウス作戦
概要:敵国内の辺境に住み教鞭をとれる人材を確保するため、少数部隊で潜入・スカウトする
進捗:作戦完了済み
主な新規加入者:テツヤ、エネスティア、カトリン
機械人間種テツヤ。
厳格とまでいかないものの教育熱心な家に生まれた彼は、高校受験で親の期待を裏切ってしまい放逐されかけた。
親への失意、自身の不甲斐なさ、そして世の理不尽さという現実の世界を不条理さを年若く受けた彼は、抑え込まれてきた反動を解放するかのようにやさぐれた。
しかしやさぐれても理性というストッパーと、遊びを知らなかった彼は家出程度しかできない。
そして初めて自宅のベッド以外、固い路地の上で目を覚ました時に出会った教師に助けられた過去がある。
そんな過去があったからこそ、テツヤは憧れの教師となって定年間近まで働いていて、これは斎藤という苗字も忘れかけているテツヤですらもハッキリと思い出せるほど、脳裏に深く刻み込まれている。
だからこそテツヤが命の恩人であった村人たちに報いたのも、その村人たちを我が子のように育ててきたのも、まさに必然と言えるだろう。
そんなテツヤだが、彼は昔から1つの信念を元に人々に教えきた。
それは【勉学は人生を広げるため手段】だということであり、勉学によって人生が閉じられかけて、そして勉学で新たな人生を拓いてきたからこその言葉であった。
決して勉学をすることが目的であってはならず、その人生の道を切り開くための道具であるべきなのだ。
故にテツヤは勉学によって開きそうだった村人たちの人生が、無為で無縁な戦争によって閉ざされていく様はよほど堪えてきた。
だが今は違う。
自身が守ると誓った村人たちは新たな指導者の元、新たな人生を切り開いていくだろう。
幸い新たな指導者は自分と同じ世界出身で、人間種に対しても亜人種に対しても平等に扱ってくれる。
人生が波乱万丈なものになるか、それとも安寧に過ごせるかはまだ分からないが、それでもただの弾避けとして散るか、ただただ命じられるがままに畑を耕す人生よりはマシだろう。
だがそんな人生を村人たちが送るためには、まだ数多くの障壁があり、その最たるものは移住先であるオルサバーグに先住していた亜人種たちの感情だ。
ハーフゴブリンとハーフリングはその弱さ故に幾度も人間種から迫害を受けてきた種族であり、鬼人族は数えきれないほど抗争を繰り返した種族である。
そんな彼ら亜人種が人間種への憎悪を募らせるのはある意味で当然であり、それは人間種のみで構成された村人たち、そして彼らを率いる同じ亜人種であるテツヤとて例外ではない。
幸い亜人種たちは理性では移住してきた人間たちに害意は無いと理解していてくれているのか、村人たちを害するような行為は確認されていない。
だが本能では人間種を拒否していることが、道行く村人たちを睨みつける視線でありありと感じ取れる。
テツヤは考えた、どうすればこの亜人種と人間種の溝を埋められるのだろうかと。
最終的には長い期間、共に暮らして溝を埋めていくしかないのだが、その埋めるための切っ掛けを作らなければ埋まることはない。
睡眠いらずの機械人間は夜通し考えた末に、とある一計を案じたのだった。
テツヤの心配を新たに指導者となる実質的な街の支配者オウキも持っていたらしく、テツヤの案じた一計は提案した即日に決行。
昼食後の午後一番だと言うのに、城壁外に建てられた練兵所には人間と亜人種によって埋め尽くされていた。
練兵所は兵士を訓練するための建物、いや広大な敷地と言えるだろう。
なぜなら敷地には練兵所とそれ以外の境目を見分ける木柵の他に、武器などを保管しておく武器庫、そして訓練する兵士が寝泊まりする兵舎が経つだけで、ほとんどが乾いた地面がむき出しの平地なのだから。
そんな練兵所へ、新たにやってきた人間種の村人を含めても200人ほどしかいないオルサバーグ町民は、観客席を作ってもなおすっぽりと収まるほど広い。
観客席で多数の目が、練兵所の中心へと進み出たエルフに向けられる。
そのエルフは本来ならば秘書として活動していたのだが、文官不足故にこのようなところにまで出番が回ってきた。
そのため中央に出てきたエルフは、可哀想なほどに脚を震わせながら高らかに宣言した。
「い、今から第1回オルサバーグ最強決定戦を、開催します!!」
その瞬間、急ごしらえで作られた観客席が揺れ動くほどの歓声に包まれた。
そう、テツヤが案じた一計とはまさに武闘大会であり、亜人種たちの性格を知っているプレイヤーだからこその選択であろう。
亜人種たちは種族によって性格は大きく違えど、根本的な思想に【力こそ正義】【強い奴が偉い】と考えていることが多く、その最たる例である鬼人族がオルサバーグには多い。
ここで人間種たちの代表であるテツヤが自身の力を示すことで、人間には守護者として、亜人種たちには良きライバルとして認識してもらう作戦だ。
本当にこの作戦に問題はないかテツヤは不安だったが、それ徒労だったと言っていい。
「4試合目勝者!テツヤー!!」
テツヤがトーナメントを勝ち上がるたびに湧き上がる歓声が大きくなるのだ。それだけではない。
「テツヤー!」
「俺とも戦えー!!」
鬼人族特有の低い声で、そのような言葉が飛び交って来るのだ。
始めは怒りの声かとも思っていたが、その言葉を発する鬼人族の顔に憎悪はどこにもなく、ただ純粋な尊敬と闘志の灯った顔をしている。
そして鬼人族にかき消されて聞こえにくいが、オルサバーグ内に住むエルフ族やハーフゴブリン種、ハーフリング種からの声もしっかりとある。
もちろん最初から応援する人間種の村人たちも声を上げてくれているのだが、亜人種に負けないよう、声が掠れるくらいに声を上げてくれている。
さらに嬉しい誤算として鬼人族は、自らの脚で人間たちの席へと赴き、そしてテツヤについて質問を始めたのだ。
鬼人族は骨の髄まで亜人種の思想に染まっているので、強者に対する興味が尽きない。
人間たちも最初は戸惑いつつも自分の知っていることを話し、そして隣に座りながら歓声を上げていく。
まさに今、練兵場では人間種も亜人種も垣根なく武闘大会を楽しんでいるのだ。
テツヤにすればこの亜人種と人間が混ざった歓声は、武闘大会を勝ち抜くことよりも嬉しい褒賞だ。
動くはずもない鋼鉄の表情が少し緩んだような気がしながらも、テツヤは次の試合へと臨むのだった。
武闘大会が開催されている練兵場には、一般観客席とは違って要人などをまとめた特別観客席があった。
もちろん特別観客席も、一般観客席と同じで急遽作られたものなので見栄えは悪いが、それでも要人警護の意味では十分すぎる場所となっている。
この特別観客席にはオルサバーグを運営する幹部の他に、キセトの街から来ていた商人たちが同席する中で、1人の人間種もそこから試合を見下ろしていた。
「そりゃあテツヤが勝つだろうなぁ」
そう声を上げるのは、テツヤから新たな指導者と見なされているオウキであり、彼は大活躍を続けるテツヤの試合を見てぼやいていた。
「そんなにあの機械人間種の方は強いのですか?」
「俺たちと比べたら弱いがね。それでもキセトの町なら1人で壊滅させられるだけの力を持ってるだろうな」
オウキに質問するのはオルサバーグ町長であり、街を支配するオルサ家家長のエント・オルサで、彼は答えを聞くなり青ざめた顔をしている。
彼からすれば、獅子身中の虫が2つに増えるわけだから当然の反応だ。
エントがどれだけその虫に苦慮しているかは、役職的に下位であるはずのオウキに敬語を使っていることからも分かるだろう。
新たな問題になるやもしれないと胃に穴が空きそうになっているエントの横では、冷静にテツヤの戦力を分析するオウキがいた。
オウキの見立てでは、テツヤは上級者に片足を突っ込んでいるプレイヤーと見ており、その予想は大まかには外れていないだろう。
今開催しているのは武闘大会であり、本気の殺し合いではないので武器は分からないが、それでも今テツヤが着こんでいる防具はNRGの黎明期に出た防具の1つだ。
NRGに限らずMMOでは最強防具はアップデートと共に更新されがちで、極めて少ない限定防具を抜きにしたら最強装備は時間と共に変わる。
コレクター気質のオウキも当然持っているのだが、限定装備よりも格段に劣る上に特筆すべき能力もないため、名前すら憶えていない。
だがそれでも時の最強装備を入手できるほどに、エンドコンテンツの最前線を走っていたのならば上級者だと言えるだろう。
その見立てを証明するように、つい先日完了したハウス作戦当初に保護したサンフェスという鬼人族も、数多くの鬼人族を纏め上げる族長キレツも、そしてハーフリング種の中でも戦闘に特化したアーロン・エイベルをも軽々と倒していく。
どうしてもパワー偏重の鬼人族では模擬武器の丸太を振り下ろす前に懐へと潜り込まれ、ハーフリング種は体格さやパワー面で敵わない。
何より彼らの強さはゲームに登場するNPCの範疇を越えておらず、どれだけ強く見積もって中堅プレイヤーほどの実力しかない彼らで歯が立たない。
そしてオウキの考えがただしかったと証明するのに、そこまで時間はかからないだろう。
勝ち抜いていくテツヤに、心の底から歓声を上げるエント・オルサを横目に、オウキも小さく歓声を上げる。
だがオウキの歓声はトーナメントを勝ち抜いたことへの称賛というよりも、まさに彼が案じた一計が見事にハマったことへの賛美であった。
オウキも人間種をオルサバーグに連れてくるまでの間、人間種と亜人種にできた深い溝についてどうすべきか考えていた。
テツヤとは正反対に、オウキは人間種であるが故に亜人種から迫害をされかけたわけだが、それを全て力によって黙らせている。
そのためオウキは今回の溝も力によって黙らせたらいいし、時間が解決してくれるだろうと軽い気持ちで考えていたのも事実。
これはまさにオウキが現実でもゲームでもあまり人と関わってこなかった弊害で、人の機微については非常に疎い。
しかもさらに酷いことに、オウキに忠誠を誓うパーティーメンバーも嫌われ者であったためか同じように疎いのだ。
そのためもしかしなくても、オルサバーグを二分する可能性があった人間種と亜人種の深すぎる溝は、テツヤのおかげで一石投じられて修正されたと言っていい。
だがそうとも知らず、オウキは作戦が見事に成功してると暢気に歓声を上げ続けるのだった。
あとがきを追記していくスタイル。
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