3-26 城塞都市オルサバーグの黎明
元々はエルフたちが集まってできた小さな集落で、名前なんてものもない。
そこに住まうエルフたちは西より亜人種を排除せんと人間が迫ってきているとは夢にも思わず、ただ何の代わり映えもしない日常を送っていた。
だがそんなエルフ村を大きく揺るがす出来事が、立て続けにおきた。
1つ目は狩人が見つけた人間とダークエルフという摩訶不思議な組み合わせで、村の位置を知られせないよう逃げた彼らに追討の刺客を送り込んだ。
その結果追討の刺客が全て撃退されるどころか、突如として現れた先ほどの人間に村が支配される有様である。
2つ目は不思議な人間によって支配されてすぐに、西より到来した人間の軍隊による戦火だ。
人間の軍隊は共通の装備を身に纏い、村を焦土と化しようと目論んでいたが、これもまた不思議な人間とその仲間によって撃退された。
それ以来、村に新たな別種族の難民を受け入れたり近隣の町と交流を始めたりしながらも、開発も魔法と無限とも思えるアイテムボックスからの資材を潤沢に使って急ピッチに進められた。
その結果……。
城塞都市オルサバーグ。前身はエルフの集落である。
外郭の外周には水堀が設置され、北の正門では敵からの侵略を塞ぎ留めつつ出撃拠点にもなる馬出が、南東の裏門では資源の搬入口や資材置き場が乱立していた。
また城壁の内部構造には貴重な鋼鉄が使われており、さらにその外側には魔法耐性を上げたコンクリートをコーティングしているため、物理攻撃にも魔法攻撃にも鉄壁を誇る壁が鎮座している。
そんな城壁の内側には都市を一周できる環状の大通りを基本とした碁盤目状の建物割りがされており、そのまま奥へと歩いていくと、再び水堀と城壁──外側の城壁を外壁、内側の城壁を内郭と呼ぶ──が見えてくるだろう。
この水堀と内郭は普段は町民たちの憩いの場を提供しつつ、戦闘時には最終防衛ラインと姿を変える。
内郭の内側にはオルサバーグの行政施設や重要人物の家、そしてもしもの時にシェルターとして活用できる地下倉庫やテレポートで帰ってくるための部屋を地下に隠している。
話を内郭の外側へと戻そう。水堀の外周には環状大通りが走っているが、さらにその外側には方角ごとに全く違う施設が立ち並ぶ。
正門を構える北側には防衛の要である軍事施設が最優先としつつも、他の町から来るであろう商人との交易を意識した商業区、そして彼らや冒険者が寝泊まりする宿泊施設や利用するギルドなどが多い。
正門から東側へと足を運ぶと徐々に町民が暮らす住宅街が見え始め、方角が南東へと切り替わり始めると徐々に工房や加工施設が目立ち始めてくる。
この方角は住宅区と商業区、生産区が混合している場所であり、治安維持のため怪しい店や表には出せない店などはここに集めている。
これは放っておいても作られるのならば、事前に一か所にまとめて管理したほうが手間がないからだ。
南東には資材搬入口である裏門があり、円滑に搬入から加工を行うために倉庫群や鍛冶場などあるため、少々耳にとって優しくない環境だ。
その南東を抜け南へと行くと、画一的な建物が立ち並ぶ異様な場所へと出る。
ここはランドが作った工場区となり、中はファンタジー世界には似つかわしくないロボットアームが大量に設置されており、紙といった生活用品から釘などの規格がある部品類、使用する弾丸などの武器弾薬などなど、ここだけ現代に戻ってきたかのような空気を漂わせていた。
工場群を抜け、最も門から遠い位置であり南の工場群を盾にする防衛計画もある南西では、街を運営するのに重要なインフラ施設が詰められている。
ほぼ全ての施設に必要な魔電を作り出す魔電炉、北側の海からパイプで流れてきた海水を真水化する施設や、真水を外郭や内郭の水堀に流し込んだ後、浄水して各家庭に送り、排出された下水を濾過して再び海に戻す施設もある。
一応内郭内の地下にもインフラ施設はあるが、規模的には南西にあるインフラ区には到底かなわない。
そのインフラ区からさらに西へ行くと魔電炉で消費する魔石の倉庫で区切りとして、住宅区が見えてくるだろう。
この住宅で区はそのまま北側まで続いており、これでちょうど街を一周したことになり、オルサバーグの全貌となる。
そんなこの世界でもトップに入るほど頑強な城塞都市になったオルサバーグの内郭内では、オウキが顎に手をやり唸っていた。
「う~ん……」
内郭内で最も大きな行政施設と領主が暮らすオルサ館ではなく、その隣に立ち並ぶ3階建ての要人用館にいた。
実質的な支配者と言っていいオウキだったが、表面上の役職はオルサ家付き軍事顧問。つまりただ戦争が起こったら指導する立場にいる一般人だ。
本来ならば客人、もしくは要人でも貴族ではないので低い立場だが、与えられた部屋は1階で最も大きな最上級部屋。
これだけでオルサバーグの表向きの支配者、元エルフ村の村長エント・オルサがどれだけオウキを重要視しているのか分かるが、当の本人は困り果てていた。
「何も思いつかねぇ……」
彼の悩みは簡単、自室に置く物と言ったらベッドくらいしか思いつかないからだ。
子どもの頃からゲーム大好きっ子だった彼は、ゲーム機さえあればどんな場所でも問題なかった。
仕事を始めて1人暮らしを始めた時も、とある理由で両手両足が使えなくなり病室で暮らし始めた時も、ゲームさえできたから不満を覚えていない。
だからだろう、ゲーム内の自室も効率重視でチェストが並ぶだけ、寝室というよりも倉庫と言った方が正しい部屋しか持っていなかった。
そんな彼が突然大きく立派な部屋を与えられても、困り果てるのはある意味当然だろう。
「……とりあえずチェストでも並べっかな」
そうぼやきつつもアイテムボックスに手を突っ込んだ時、部屋にノックの音が鳴り響いた。
視界とノック音だけでは誰か全くわからないが、扉の前に立っている人物は知っているのですぐ見当がつく。
「どうした?」
「オウキ様、そろそろお時間が」
「もうそんな時間か……了解っと」
エフィーの澄んだ声を聞いたオウキは、アイテムボックスを閉じて部屋を後にするのだった。
家号作戦、通称ハウス作戦が完了したのはつい先日のことで、オウキはまだ疲れが抜けきっていないがやるべきことがある。
その最たるものが、オルサバーグの最上層部のみを集めた会議であった。
最も格式高いところに座るは町長でありながらオルサバーグ周辺の土地を持つ貴族、エント・オルサ。
見た目はエルフながらも長寿種らしく見た目は若々し青年と言っても通じるだろう。
だが本人はどんどん老けてきたと愚痴っているようで、それをことさらオウキの耳に入るよう彼の仲間の前で言っているのが厭らしいところだ。
そして彼の右手側に並ぶのはオウキと、その仲間たち。久しぶりに7人全員揃っており、対面に座るだけでも委縮してしまうほどの圧力を持っている。
対してエント・オルサの左手側に並ぶのは彼の一人娘スーラーと、最初期に難民としてきたハーフゴブリン、ハーフリング、鬼人族の各族長。
さらにエント・オルサの対面には1人の者が座っていた。
「私は機械人間種のテツヤ。先日移住してきた人間種たちのまとめ役です」
ハウス作戦の第一目標だった村の長老テツヤであった。
そのテツヤの後ろには人間種でありながら、オルサバーグ内の住民から一定の信頼を受けているエデルとイルマが見張りとして立っている。
人間種に嫌悪感を覚えないようにするよう積極的にこのような役割を与えているのだが、まだ問題は根深いのが亜人種の各族長から伝わってくる。
しかしテツヤはそんな泣き言は言っていなられない。なぜならこの会議でテツヤの住んでいた村──テツヤ村──の村民たちの行く末が決まるのだから。
テツヤは動かない喉を動かし、存在しない握り拳を作って会議へと臨む。
行く末といっても直接的な生死を決める会議ではない。
ただオルサバーグで彼ら人間たちの移住者をどのように扱うかを決めるだけだ。
各族長たちは反対意見を出しながらもなんとか追放へと話を持って行こうとするが、オウキによる猛反発を受ける。
「お前らの種族が犯罪を犯した時、一族郎党罰するのが正しいと思うか?」
簡単な話に例えると、誰かが誰かを殴った時、その殴った奴が悪いと思うか殴る人類全体が悪いと思うかだ。
一部人類全体が悪いと思う人もいるが、ほとんどの人はその殴った奴だけが悪いと言うだろう。
オウキもまさにその考えであり、難民を作った人類ではなくジリト王国が悪いとしか考えていない。
失ってきた亜人種たちへの寄り添いも重要ではあるが、だからといって全て優先されると考えるのはあまりにも傲慢だ。
そのためオウキは亜人種全体が抱える人間種への葛藤には一定の理解を示すものの、特別扱いや分断は作らない。
中には人間種と亜人種の居住区を分ける案も出たが、それをオウキは一蹴した。
居住区を分けて融和を目指す政策は現実世界で実施された歴史があるが、そのどれもが結果は分断しか産まれていない。
だからこそ居住区はわざと共同で生活を送るよう亜人種と人間種を混ぜた。この文言を添えて。
「郷に入っては郷に従え。それが無理ならば相手を尊重しろ。さもなくば誰であっても追放だ」
オウキが会議参加者を黙らせる形で決めた人間移住者たちの話であったが、彼にとってこの件は重要な3つの内の1つ。
もう1つオルサバーグを運営するにあたって重要な件が残っていた。
「それでは次に私から議題を述べさせていただきます。私の議題は単刀直入に言うと、文官に付いてです」
今現在オルサバーグの住民は元エルフ村の住民50人ほどと難民60人ほど、人間移住者50人ほどの計300人弱だ。
そのため行政で何かを決める際はこのように幹部が集まって話し合っていたのだが、それでは人口が増えた時にパンクするのは目に見えている。
ここで必要になるのは文官、もっと言えば基本的な教育を受けた者たちだ。
亜人種は難民生活を送っていた者が多いため、文字や数字に滅法弱い反面、戦闘面では優秀な者が多いため武官がそれなりにいる。
だが筋肉だけで町が運営できるはずもなく、これまでそのような対処はパーティーの金庫番でもあったエフィーが担っていた。
つまり言い換えればエフィーが抜けてしまえば、オルサバーグの金や行政は全て止まることになる。そんな1人に頼った行政など愚の骨頂でしかない。
ここで先ほどの移住者の話に繋がる。彼ら村民は事前にテツヤから基本的な教育を受けており、計算能力や文字も読めるので十分だ。
そう言う意味でもテツヤ村の村民たちをオルサバーグに留めておきたかったのだが、何よりも……
「紹介しましょう。彼らは貴族家に仕えていた財政管理部の人たちで、ハウス作戦に同行してくれた人たちです」
オウキの紹介で姿を現したのは、カトリンとエネスティアの母娘。
彼女たちはハウス作戦の復路で、情報を欲して貴族屋敷に潜入したオウキがたまたま連れ帰ってきた人材である。
絶望的なまでに文官がいないオルサバーグには、喉から手が出るほど欲しい人材と言えるだろう。
「とりあえず一か月くらいは試用期間。もしそれで使えないってなったら別の仕事をやってもらおうと思ってる。立場そうだな……エフィー付き見習いと言った感じか?」
見習いと言っているが現状文官はエフィーだけなので、実質的に文官のナンバー2になる立場だ。
この提案も亜人種の族長たちは渋い顔をしたが、シゲルの言葉によって採択された。
人間たちの移住、2人の文官の話とハウス作戦によって得てきた人材を紹介し終えたが、まだ重要な事は残っている。
「それと最後になりましたが、ご報告が」
そう言って切り出したのは、ジリト王国に潜入したばかりの頃に知り、貴族屋敷に侵入した時に確信へと変わった情報。
「ジリト王国が近いうちに攻めてくる。それも大軍を連れて」
亜人種の族長たちだけでなくエント・オルサが最も聞きたくない言葉であった。
ここにいる亜人種たちは誰もがジリト王国によって辛酸をなめさせられているのだから、当然の反応だろう。
だがそうは言ってもやってくるのならば抗うしか他ない。
いくら防衛網を築いたからと言っても不安は消し去れないので、まだ当分の間会議は続けられるのであった。
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