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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-25 煥赫龍 ヘレン・クナウスト

現目標:ハウス作戦

概要:敵国内の辺境に住み教鞭をとれる人材を確保するため、少数部隊で潜入・スカウトする

進捗:人材を確保して帰路中

現在のメンバー:オウキ、オルクス、ヘレン、エデル、イルマ、テツヤ、エネスティア、カトリン

龍人族ヘレン、正式名称はヘレン・クナウスト。人間種オウキをリーダーとするパーティーに所属し、主に情報収集や偵察などを行うスカウトであると同時に、戦闘では拳一つで敵と肉薄する近接アタッカーだ。

そんな彼女はこの世に生を受けたのは、昔であり最近とも言える。

龍人族は最前線を走り続ける歴戦のNRGプレイヤー向けに作られたNPCで、NRGの全盛期でコンテンツ不足が騒がれ始めた頃に追加された。

設定上、龍人族は遥か古代に猛威を振るった龍たちやその末裔であり、人間と同じく龍人族にも位は存在する。

まず最も高位に位置するは、不老不死で数多の闘争で鍛え上げられ、力こそ全てだとする龍人族からも崇められるまさに神位だ。

神位の実装数は極めて少ない上に、ありとあらゆる特殊能力によってマトモに戦うこそすらも厳しいため攻略者はでなかった。

そのため実質的にNPCの龍人族で最高位に位置しているのは、数多くの龍人族を従え導く貴族的な役割を担った帝位だ。

帝位の龍人族はその役割を明示するためか家名を皆持っており、面識のない兄弟親族がいたりもする。

そして最下位に位置するのは王位で、実装初期に難関ダンジョンに、そしてアップデート毎に新規ダンジョンに追加されていったため、他のNPCと比較してもそれなりにいた。


ヘレン・クナウストは名前からも分かる通り家名を持っているため、帝位に位置する龍人族だ。

帝位の龍人族は数は決して少なくなかったが、それでも仲間にしているプレイヤーが少ないほどダンジョンは困難を極めた。

高レベル帯のフィールド最奥や極限環境下にダンジョンへの出入り口が設置されることが多く、ほとんどのプレイヤーはダンジョン挑戦権すら手に入れられなかったからだ。

やっとの思いでダンジョン入口に辿り着いても、待っているのは最高レベルのモンスターたちにトラップの数々。

それでも初回攻略者には帝位の龍人族が手に入る魅力がダンジョンへ誘っていたが、それも実装から日が経つにつれ落ち着いていった。

かくいうヘレンもその最難関ダンジョンの最奥にいた龍人族の1人で、神位ほどではないにしろ王位とは比較にならない難易度は高い。

そんな彼女のダンジョンは、荒々しい稜線が幾重にも連なる山脈の中央に存在したひときわ大きな火山火口内にあった、

防寒と防暑、そしてマグマ対策を完璧にするのが彼女のダンジョンへの挑戦権であり、そんなダンジョンに挑戦したのはオウキのパーティーがまだ5人だった頃。

トップランナーであったオウキたちは有り余るプレイ時間を背景に集めた金で防寒と防暑の最新鋭装備を着こみ、マグマはアイテムを湯水のごとく使って無理やり突破。

ダンジョン内では前衛で敵を防ぐオウキとオルクス、後衛からはドーシュの魔法が何重にも発動し、中央では加入したばかりのエフィーの指示とシーラの癒しの歌が途切れることなく飛び交う。

それでも極悪なトラップと極度のMP切れの問題で一時はクリアどころか無事に帰還すら危ぶまれた。

だが極悪なトラップは耐久に物を言わせたオルクスが全てを発動させ、MP問題は中衛と後衛がMP回復薬のクールタイムをズラしながら継続的に使用することで解決。

さらにはマナー違反として嫌われるダンジョンにゴミを投棄して道を塞ぐ行為だったを平気で行い、新たな挑戦者と迫りくる敵モンスターをボス部屋前でせき止め休息。

そこまでしてからオウキたちは、ボスであるヘレンに挑んだのだ。


ヘレンは別名煥赫(かんかく)龍と呼ばれるほど獰猛な龍人族だった。

由来はヘレンが龍形態の時、腕や頭、胴体から噴き出す炎が赤く光り輝く様を表現したものとゲーム設定ではなっているが、多くのプレイヤーは彼女の拳による苛烈すぎる攻撃で飛び散る血肉が炎に、プレイヤーやNPCが死亡した時に発生する消滅エフェクトが光に見えたからに他ならない。

その獰猛さはオウキたちとの戦いでも、最初から龍形態の全力で戦ってきたため遺憾なく発揮された。

物理と魔法のどちらでにも圧倒的適正を持つ龍人族の攻撃に備え、最もどちらにも適正があるが最も高い金属ヒヒイロカネ装備を纏ったオルクスの盾を粉砕し、横合いから斬りかかったオウキは歯牙にすらかけない。

ドーシュの放った魔法はブレスで相殺され、エフィーはバフをシーラは回復を切らしたら即座に誰かが細切れになる様相だった。

そんな状態を覆したのはオウキとエフィーが戦いの最中に編み出した策で、一か八かの大勝負であった。

まずブレスを吐きながら突進してくるヘレンを真正面からオルクスが受け止めることから始まった。

恐ろしい速度で減るオルクスの体力を、エフィーとシーラが全ての技を使ってサポートする。

それでも待っているのはヘレンの突撃なのだが、これをエフィーは秘蔵しておいた最高級の弓と弓技で鱗のないヘレンの目を撃ち抜き威力を殺し、オルクスが上下の顎を掴んで受け止めた。

そこへシーラのリジェネと体力回復薬を全て使ったオルクスが入り、ヘレンの内側へと突貫をかけたのだ。

失敗すればオウキはただ飲み込まれオルクスはかみ砕かれるだけ。前衛の失ったパーティーは一瞬で瓦解するだけなのだが賭けに勝った。

こうして無事にヘレン・クナウストを仲間にしたオウキは、斥候の大切さとデバフやダンジョン環境を整える者の重要性を覚えたわけだが、これはまた何れ語るとしよう。




そんなヘレン・クナウストだったが、今では昔よりも格段にレベルを上げたオウキたちと共に数々のダンジョンを踏破してきた。

斥候としての役目を完璧に遂行しつつも、新たな前衛として全てを粉砕するアタッカーとして活躍している。

ただ汎用的な人間形態で戦闘を行う場面は非常に多いが、長距離移動や周囲の環境さえ許せば龍形態で戦う場面もあり、その時は戦略級の戦力となるだろう。

つまり……

「退避ー!!退避ー!!!」

人間と魔物との境界線上に聳え立っていた関所では怒号が鳴り響く。

城壁並みの巨体は木々を組んで作られた道端に転がる枯れ枝のごとく粉砕し、森から侵入してくる魔物や魔族を警戒していた櫓は尻尾の一振りで木っ端微塵に砕け散る。

突如現れた国家存亡すらも揺るがす龍に、関所を守っていただけの兵に成すすべがはるはずもない。

枯れ枝のように振り回された腕か尻尾に当たって砕け散る者、倒壊する櫓や門に巻き込まれる者、使命か生存本能に駆られて逃げ出そうとする者ばかりで、誰も龍と相対する者はいなかった。


そんな中でも関所の防衛隊長は奮戦していた。

「伝令を出せ!!馬でも走ってでもいい、必ず後方部隊にも伝えよ!!そしてその足で殿下にもご報告するのだ!!」

魔の森からの侵略を防ぐ”フォーマーチ・ライン”の守備は代々第2軍が担っており、総司令官は多忙を極める第一王子パルメニカ・アルグアスが務める。

隊長は一般兵からの叩き上げで、その優秀さと実直さがパルメニカの目に留まって重用されてきた。

第2軍の本隊が侵攻作戦のため離脱していく中、国防の要となるフォーマーチ・ラインの守備として留め置かれるのだからその重用ぶりは明らかだろう。

フォーマーチ・ラインという長大な防衛戦を効率よく守るため、守備隊の多くは近隣の町に駐留。

そして境界線上の各所に設置した見張り台には狼煙を上げる台座──烽火台──も用意されており、一か所でも攻撃があれば即座に周囲の部隊と本隊と連携が取れるようになっていた。

これらの防衛概念は集団的な行動を苦手とする魔族相手には不要であり廃れていったが、重要性を訴え出た彼の働きかけと第一王子の尽力により設置。

歴戦の猛者と充実した士気、そして何よりも固い忠節によって結ばれた隊長によって守られていたフォーマーチ・ラインであったが、圧倒的な前の力ではその全てが無駄になる。


早々に烽火台は瓦礫の山と化すが、襲撃してきた龍が巨体故に狼煙が無くとも周囲に危機的状況が伝わるだろう。

作戦通り後方部隊は一刻もしない内にグレンツェの町からやってきて、共同防衛網を張る。

だがそれでは困る。なぜなら相手が敵である魔族ではなく、天災に等しい龍の襲撃なのだから。

天災相手にできることなどたかが知れている。ただ怯えて自分の身に厄災がどうか降りかかりませんようにと祈るしかできない。

だが防衛隊長は祈らなかった。少しでも、ほんの僅かな可能性に賭けてでも職務を全うするため動いたのだ。

「後続部隊は即時退却、代わりに町民を脱出させよ!!現時刻を持ってフォーマーチ・ラインを破棄する!!」

「隊長っ!?正気ですか!?」

防衛隊長の副官を務める男が、真っ黒に焼け焦げた鎧姿のまま怒声を上げる。

「正気だ!!あのような怪物を止められるわけがなかろう!!無為に損失を出すだけだ!!」

既に即応部隊を編成して対応に当たらせたが、帰って来たのは副官だけなのがどれほど敵が強大かを物語っている。

「し、しかし……!」

「心配するな。あの龍がいる間だけだ。居無くなればすぐにでも再制圧をしたらいい。その役目、お主ならば容易いだろう?」

「待ってください隊長!その役目は隊長では……?」

「ワシは自らの職務を全うするのみ。これ以上口論する気はない。行け!!」

あと数分で崩れ去るフォーマーチ・ラインの前線指揮所で、最後の軍議が終わりを告げた。


それから数分後、焼け焦げた地面と燃え上がる炎が入り混じるフォーマーチ・ラインに2つの集団に現れた。

1つは自分の足で歩ける負傷者だけを引きつれ副官が指揮する集団、もう1つは防衛隊長が自ら率いる騎馬数十騎の集団である。

(つわもの)どもよ!!今こそ我ら王国の盾とならん!!我に続けぇい!!」

短く鋭い防衛隊長の怒号により、まるで磁石が反発するように2つの集団は勢いよく離れた。

防衛隊長率いる騎馬集団は一目散に龍の元へと駆けていく。

幸か不幸か、瓦礫を構成していた木材と石材は灰へと姿を変えているから、騎馬を十全に活かせる環境が整えられている。

「駆けろ駆けろ駆けろ!!」

防衛隊長を先頭とした集団が、龍の前方を通りながら弓を射かけていくが彼らは騎兵であって弓騎兵ではないため、マトモに矢は飛ばない。だがそれでも防衛隊長の目論見は成功した。

龍の威圧的な瞳が騎馬集団を捕えるや否や、口元から灼熱の炎が溢れ出す。

「衝撃態勢ーっ!!」

防衛隊長の怒声が消える前に熱線が一筋。うるさかった馬の(いなな)きに蹄の音が減り、静かになるがそれでも彼らは止まらない。

「森へ逃げろ!!そして祈れ!!」

龍の眼前を通った騎馬集団は防衛隊長の号令通り、一目散に魔の森へと突撃していった。

騎馬兵にとって森は沼と同じくらいの死地であり、馬の機動性を全く活かせない。しかもその森には危険な魔物が蔓延っているのだから余計に危ない場所だ。

だが今の彼らは具現化された死の視線を逸らすための唯一の作戦であり、後はそのその視線が自分を見つけないことを祈るのみ。

木の根に足を取られ横転しても、木にぶつかって馬が潰れても、それでも彼らは森の奥へと走っていく。

それが彼らに残された唯一の生きる道であり、そして龍の注意を逸らす作戦で大事なことだから。


防衛隊長の作戦が功を成したのか、龍の注意は森へと向いた。いや正しくは森への入口に佇む防衛隊長に向いたと言っていいだろう。

「ご苦労であった。お主も自由に生きよ」

長年連れ添った馬が森に消えるのを見届けた防衛隊長は、身に纏っていた汗と(すす)で横れた鎧を荒々しく地面に投げ捨てていった。

彼が身に着けていたのは通常の騎士装備であり、龍のブレスを防げないのは何度も見ている。

防衛隊長は呼吸を整えると声を張り上げる。

「龍よ!!我こそがフォーマーチ・ラインを守護する者!!そしてお主を打ち倒す者である!!」

決死隊として自分に付き従った兵たちの逃げる時間を少しでも稼ぐ、既に防衛隊長は自身の生死に興味は無い。

龍が人間の言葉を理解するのか。ジリト王国内での通説では理解するとの説が一般的だが、出会った者などいないから真偽は不明だ。

だがどうやらその説は本当だったのかもしれない。

「グルル……」

龍が唸り声を上げ、口元から溢れ出していた灼熱の炎が姿を隠したからだ。

「龍よ。ワシの言葉に耳を傾けてくれたことに感謝する」

鎧を全て脱ぎ去っても佩いていた剣に手を伸ばし、ゆっくりとその刃を巨大な敵へと向ける。

龍も防衛隊長に応えるよう、片足を前へと出し再び口に灼熱の明かりが灯り出す。

「いざ、ワシの全身全霊を受けてみよっ!!」

防衛隊長は全速力で駆けた。幼い頃は畑仕事で、青年期からは軍務で愚直に鍛え上げた肉体は彼の全力に応えた。

狙うは突き出された足。真っすぐに、そして全身の力を込めて剣を振り落とした。

そして……固い物がぶつかる音がした数秒後に、地面に何かが突き刺さる音が続く。

地面に突き刺さった者は鈍い銀色をしており、それはさっきまで防衛隊長が握っていた剣の先っぽであった。

万策尽きた、防衛隊長は龍の口から発されるであろう灼熱の炎を見て悟った。

「ジリト王国に、パルメニカ殿下に栄光あれぇぇえええっ!!」




「──越境が終わりそうだ。ヘレンもその騎士に免じて撤収準備に入れ」

撃ち込まれた灼熱ブレスの残り火が漂う場所にいた男に、1人の兵士が走り寄ってきた。

「オウキ様!全員の越境を確認しました!もう大丈夫です!」

「……そうか」

報告にきたエデルの言葉に、相槌を打ちつつもオウキの目線は先ほどのブレスでマグマ状になった場所を捕えたまま。

「オウキ様、どうかされましたか?」

エデルの言葉を聞いてやっと視線を外したオウキは、長い溜息を吐く。

「いいや、何でもない。ただつくづく戦争は嫌だねぇって思っただけさ」

それだけ言って魔の森へと足を踏み入れていくオウキを、エデルは首を傾げながら付いていくのだった。

元々ヘレンを詳細にやる回だったのに、気づけば防衛隊長がメインの話みたくなってました……。

ちなみに防衛隊長はわざと名前を決めていません。戦争には名も無き英雄がたくさんいますから。


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