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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-24 予想外の大移動

現目標:ハウス作戦

概要:敵国内の辺境に住み教鞭をとれる人材を確保するため、少数部隊で潜入・スカウトする

進捗:人材を確保して帰路中

現在のメンバー:オウキ、オルクス、ヘレン、エデル、イルマ、テツヤ、???、???


「……雲になりたい」

「何を言っているんだ?」

俺のぼやきに無粋なツッコミを入れるのは機械人間(マキナー)種のテツヤで、こんなに面倒な思いをして敵奥地へと潜入した目的の人物でもある。

このテツヤを勧誘し本拠地オルサバーグに招致する作戦、家号作戦──通称ハウス作戦──の往路は極めて順調に推移していた。

想定よりも随行人のエデルとイルマの体力と脚力が強かったのと、テツヤが暮らしていた村──テツヤ村──の位置が近かったからだ。

だがテツヤ村に到着してからは作戦が暗礁に乗り上げる。

突然襲い掛かってきたテツヤを制圧しつつ、彼を招致するための条件として徴兵された1人の若き村人を砦まで潜入して奪還した。

これだけでも想定外なのに、村人全員の移住と期待していた瞬間移動アイテムの利用不可により綿密に計画された作戦は崩壊したと言っていいだろう。

順調だった往路とは異なり、人数が増えて進む距離が一向に増えない復路。

街道を見回る巡回兵がさらに村人たちの足を遅くし、空から一大移動集団の周囲を警戒するヘレンの重要性を跳ね上げる。

俺個人も慣れない大遠征で精神的疲労があるが、それよりもこの作戦を通してジリト王国が再び戦争準備を始めているから、俺たちも早く帰って防衛態勢を整えなくてはいけない。

そんな時だった。ヘレンから絶望的な報告が飛んできたのは。

「主ー!なんか大きな町が見えるぞー!」

「この辺りだと……ナール家の領都ですかね?」


敵対貴族家の本拠地をわざわざ通るのならば、少しでも情報を集めたかった俺は欲をかいた。

今のままだとジリト王国が近々攻めてくるとしか分からないが、それに参加するであろう貴族家ならば具体的な日付も分かるはずだ。

だが問題だったのは誰が潜入して情報を集めるか。その道のプロはヘレンなのだが、彼女は周囲警戒の要であり絶対に外せない。

テツヤは両腕を俺が切り落としたから満足に動けず、エデルとイルマは潜入に必要なスキルや能力は皆無。

残るは俺かオルクスなのだが、オルクスに潜入させるイコール正面突破になるので実質的に俺しか余剰人員はない。

そう仲間を説得したのだが、もう会議の中央にハリケーンが来たのかってくらいに大波乱。

「主……アタシじゃ力不足なのか……!?」

「いやいや。ヘレンにはこの集団の周囲警戒していてほしくてだな……」

「我が主、駄目、危険」

「オルクス、潜入にお前を連れていくと目立ちすぎるんだよ……」

慟哭して猛反対する2人を何とか説得したのだが、その代償はとんでもなく大きかった。

ヘレンは今度2人っきりでお空デートする約束を取り付けられたし、オルクスは今後も俺の護衛として傍にいると口約束することに。

とにかくこれで何とか俺が潜入して情報を漁ってくるのが確定したわけだから、止めようとして殺気をモロに受け止めて気絶したエデルとイルマを起こさなくては……。


そして始まる敵本拠地の潜入ミッションだが、上手くいかないんだぁこれが。

城壁を登り切った時思わず「待たせたな」と呟いてしまうが、ツッコミなど誰もいないのでそのまま城壁内へ。

街中は複雑に街路が入り組んでいるせいで、どこに貴族が住んでいるのか分かりやしない。

真っすぐ中央に向かったはずなのに城壁にぶつかるから引き返して、そしてまた城壁にぶつかるというのを繰り返していた。

そんな時たまたま見つけた酒場が視界に入り、情報収集と言えば定番の場所だと思ってフラリと入店。

店内に入ったらいつもゲームでやってた癖で、依頼やストーリー進行に重要な話が聞ける正面カウンター席に座ったんだが、なぜか恐い顔で酒場店主に睨まれまくった。

まぁその店主の鋭い眼光で冷や汗をかいた甲斐あって、この町の名前がナシュタットであること、あとは油が大量に出回っていること、そして内壁と呼ばれる壁の内側に貴族様の屋敷があるって知れた。

特に街に外郭と内郭があると知ったのは大きくて、これで俺が方向音痴だから迷子になったわけじゃないってことだ。

真夜中だから遠くは見れないから距離感がおかしくなって、何度も街の端から端までを往復していると思って絶望していた俺には嬉しすぎる情報だ。

感謝の意も込めてチップを多めに払ってから外に出て、再び城壁へと向かう。

「主ー!もう終わったのかー!?」

間違えて外郭を登ってしまった俺に投げかけられる純粋な言葉に殴られながら、なんとか内郭の壁を登り切って大きな屋敷の屋根に取り付くと、天窓から中へと入るのだった。




屋敷内の探索は正直いって全く訳が分からなかった。

重要書類と言えばお偉いさんの部屋と限っているのだが、部屋を開けても空けても出てくるのは武器装備類ばかりで、この屋敷は倉庫だと勘違いするほど。

侵入者が必ず通るであろう階段前を警備していた兵士を寝かせて下の階に降りても、同じように倉庫ばかりで何も発見できない。

恐らくこの屋敷には武器装備しかないんだろうな、そんな諦めの気持ちが大半を占めながら次の部屋に入ると違う世界が広がっていたのだ。

それはゲームの中でしか見たことないような羊皮紙の山に、封蝋に自らの家紋などを押し付けるシグネットリングに至るまで。ありとあらゆる重要そうな道具が置かれているではないか。

歓喜で震えそうになるが、まだ喜ぶには早い。部屋の外に山ほどあった武器装備類とは全く無縁そうな女が2人ほどいた。

片方は妙齢を少し超えたくらいで、もう片方は少女と呼べるくらい小さな女だ。

戦闘力と言う意味では取るに足らないが、どうやってバレずに部屋の書類を回収しようかと考えたのも束の間、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてくる。

この世界の元はゲームだったかもしれないが今はゲームではない。だから敵を気絶させても近くに隠せる場所があるとは限らない。

恐らく廊下の端に置いておいた兵がバレたのだろう。魔法通信で超遠距離から監視しているヘレンからも屋敷内で動きがあるという報告も来ている。

こんなに時間がかかるとも思っていなかった俺は、兵士が退出次第書類を搔き集めようと思ったのだが、またしても予期せぬ事態が起こった。

「お、お母さん?あ、あれって何?」

少女が俺を指さして言ったのだ。


確かに俺はヘレンと比べて隠密スキルは低い。だがそれでも意識しなければ見つからない程度には隠れられていたはずだ。

恐らく慢心もあったのだろうが、ともかく即座に少女を制圧して黙らせる。騒がれて兵を呼ばれるのが面倒だからな。

あとはもう片方の女性に指示を飛ばして書類を集めさせて回収したら終わりかと思ったのだが、予算や出費が表のようになっており一目で分かるように整理されていた。

オルサバーグでこんな書類を一度目を通した経験はあるが、なぜか挨拶から入ってグダグダと理由が続き、最後の方に欲しい金額を書くという無駄すぎる仕様だったので即座に是正したのは記憶に新しい。

だが是正はしたものの大きな数字を扱える者がほとんどおらず、ほとんどの書類をエフィーが処理していた。

これはいつか解決すべき問題であり教育でしか解決できないと思っていたのだが、既に即戦力の人物がいるのならば手っ取り早い。

俺を探しに乱入してきた女騎士の話から、放っておいたらこの2人の女が殺されるかもしれないのも都合が良かった。

ヘレンから多くの光が屋敷に入っていくのが見えるという報告を受けた俺は、半ば拉致するように女2人を連れ去ることを決めたのだった。




と以上が俺がここ3日ほど前に行ったことのまとめだ。

移動集団に新たな女2人──名前は母親がカトリンで娘がエネスティアというらしい──が加わったものの、既に50人ほど抱えているから全く問題はないのだが解決もしていない。

テツヤ村から徐々に範囲を広げてくるであろう追跡部隊に、ナシュタットからカトリン達を殺しにくる暗殺部隊も加わったからな。

バレないようにすべきだった、潜入するんじゃなかったと後悔の念が少し沸いてくるが、それ以上に優秀な文官を手に入れた嬉しさが勝る。

ただ優秀な文官だったとしてもジリト王国民だったからこその問題もあった。

2人を連れ帰った俺を真っ先に出迎えたのはヘレンだったのだが、当然ヘレンの背には隠しようの無い両翼が種族としての特徴を表している。

「もしかして……魔族!?」

カトリンもエネスティアも恐ろしい物を見たような顔で後ずり、重心は後ろへと下がっていた。

「魔族じゃない、亜人だ」

「亜人……?確か昔そのような呼び方をしたと見たことありますが、それよりも魔族は危険だって……」

「危険なわけがあるか。こいつは俺とずっと一緒に冒険してる仲間だぞ?」

「一緒に……!?」

警戒態勢を解かない2人は目の前の状況が理解できずにいるらしい。

「でも魔族は人間を何人も殺してます!そんな種を安全だなんて信じられません!」

「そうです!」

そう言って2人は悲鳴に似た声を上げるが、とある言葉で黙り果てる。

「だったらお前も俺も人間種は亜人を何人も殺してるから危険だな」

「それは違います!魔族は──」

「何が違うんだ?それとも殺しは問題ありませんとでもいう気か?」

「そ、そんなことありません!」

「じゃあジリト王国はどうなんだ?聞けば亜人を駆逐して手に入れた土地に国を興したらしいが、それこそ亜人の屍を数えきれないほど積み上げたはずだ」

「そ、それは……」

「目を逸らすな。事実を直視しろ。亜人を危険だっていうのは人間も危険だって言うことにな」

「……」

俺も偉そうに説教できる立場でないのは重々承知だが、それでもジリト王国民に刷り込み教育されている被害者意識はかなり危険な問題であるから口を出さざるを得ない。

本来人間と亜人は仲良く暮らしていたはず、それが俺がプレイしていたゲームの世界観だった。

この世界がゲームの世界なのかまではまだ分かっていないが、それでもゲームの世界観とは真逆の現状はかなりの皮肉だな。


そんなことがあり彼女たちを入れて移動した翌日の夜、カトリンとエネスティアはヘレンに頭を下げていた。

移動中にしっかり頭を冷やしたようで、ヘレンの顔を見る限りオルサバーグに入れても問題は無いだろう。

元はと言えば俺が優秀な文官欲しさに亜人の事を伝えていなかった俺が悪いので、俺からも後でヘレンに謝っていた方がいいな。

それにしても予想以上にカトリンがエネスティアが優秀で良かった。

もしあのまま亜人嫌いのままなら当然オルサバーグに入れたら問題しか起こらない。

だから最悪の場合は軟禁して強制労働をさせるしかなかったわけだが、現代日本で生まれ育った俺が人道的に貫き通せるか分からなかった。

もし貫き通せなかった場合、オルサバーグで新たな火種になったかもしれないが、今はその火種が無事に鎮火したことを喜ぼうじゃない。

あと意外というか真面目だなと思ったのは、カトリンとエネスティアはテツヤ村の村人たちにも頭を下げていたこと。

どうやら重税を課して領民たちを苦しめていたことを文官の彼女たちは気に病んでいたらしいが

「いいんじゃよ。お主らに決定権は無かったんじゃろ?抵抗してくれただけでワシらは十分じゃ」

と言って、村人たちは彼女たちを攻めなかった。

感情のままに怒鳴り散らす可能性もあったわけだが、こればかりはテツヤの教育に感謝しかない。


様々な問題を抱えては解決して抱えては解決してを繰り返してきた本日、ついに往路で最初に訪れたグレンツェの町が見えてきた。

嬉しさもさることながら、これだけの大人数を無事にオルサバーグへ帰すためには最大の障壁がある。

それは往路では透明化の魔法で難なく超えていった境界線上に並べられた柵やウッドスパイクといった障害物だ。

あの時は俺がエデルとイルマを抱え透明化魔法を使って飛び越えたが、今回は50人を超す大所帯なので時間的に厳しい。

まさか往路では作戦に全く影響はないと思って馬鹿にしていた障害物が、帰路で1番の障壁になるなんて誰が予想できただろうか。

あとちょっとで作戦を完了できるのにそれを阻む面倒な障害物、俺はそれらの現実から目を逸らすように雲を眺めるのだった。

かなりギリギリになったので荒いかもしれません・・・。

思った以上に回想が多くなった反面、現在のシーンが短くなってしまいました。


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