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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-21 酒場と店主と男と

うだるような暑さが幾分か和らぐ夜、とある町の酒場のドアを1人の男が開けた。

「らっしゃい。注文は?」

仄かな明かりで照らされた店主が、カウンターの越しで笑み一つ浮かべず投げかけると、男は平然と答える。

「水を一杯。あとはオススメ料理」

男が答えると店主は返事もせず店の奥へ行き、昼に井戸から汲みだした水をジョッキに注ぎカウンターまで戻ってきた。

店主の心の中で、ジョッキに入った水を片手に遠くまで運ぶのは面倒だからカウンター近くに座ってくれと呟いていたのだが、もしかすると聞かれていたのかもしれない。

「……なんでそこに座んだよ」

眉を(ひそ)める店主の前には、先ほどの男が当然のように座っていた。

いくら場末だとしても、飲んだくれや荒くれ者で幾分かの席が埋まっているが、まだまだ座るスペースはいくつもある。

「ここが空いていたので」

男は何食わぬ顔で答えるが、こんな見た目が恐ろしいおっさんの目の前に座るのは、自分に何か用事がある者かよっぽどの馬鹿しかいない。

もし馬鹿ならば酒場が破壊されない内にとっとと追い出すべきであり、反対に何か用事があるのならばそれが終わるまで意地でも尻を動かさないだろう。

店主は男の見た目と先ほど得られた回答を元に導き出した結論は……

「ちっ!あいよ水だ。料理は待っとけ」

「どうも」

そう言って、再び店の奥へと入っていくのだった。


「ほれよ」

店主はそんなに時間をかけずにカウンターまで戻ってくると、ガチャガチャと音を立てて料理を男の前に置く。

「マスター、これがオススメ?」

不満気な顔で見上げてくる男に、店主は不愛想に答える。

「マスターって誰だ。おすすめなんかねぇ」

「そうなんだ。で、店主これは?」

男が指さすのは、ついさっき店主が持ってきた料理だ。

「パンとスープだ。そうは見えねぇとでも言いてぇのか?」

「違う違う。初めて食うから気になっただけ」

男は笑って弁明すると、パンを掴んでスープに付けだした。

「ふむふむ、こうやって……あれ、柔らかい?というか膨らんでる?確か酵母ってもんが必要だったはず……それに芋もある?」

ブツブツと大きな独り言を言う男は、料理に対する不満をぶちまけるでも絶賛するでもなく、何か目新しい物を見たかのように料理を観察している。

その様子は不審者という他ないが、新たな客も注文も来ないので目の前の男から逃げられない。

もしかすると自分の判断は間違ったのかもしれない、そう後悔しかけた時に男は自分から話しかけてきた。

「店主」

「……何だ?」

「俺は見ての通り流れ者でね。今日この街に着いたんだよ」

店主が改めて男を見直すと、粗悪な布服の上に粗末なローブを羽織っているから確かだろう。

「だからこの街について知ってることを教えてくれよ。チップは弾むからさ」

男はパンを食いちぎりながら、呆気欄と笑う。

「そんなことも知らず来たのか?ここはナシュタット、お偉い貴族様のお膝元だ」

「へ~お偉い貴族様のねぇ。有名なのかい?」

「お前でもナール家って名前を聞いたことあるだろ?それくらい有名だ」

何かに満足したように男は何度も頷く。

「なるほどね。そりゃ儲かってるわけだ」

男はそう言って、近くにあったランプに視線を移す。

寒村や一般人が使う明かりに獣の脂を固めた蝋燭が使われがちだが、この場末の酒場で灯っているのは何かの油を入れたランプ。

だが店主は男の予想を裏切る答えを提示する。

「儲かってなんかいねぇよ。ただナシュタットには大量の油が流通してる。そのおこぼれを安値で買えてるだけだ」


ランプに使われている油はここでオリーブオイルのオリーブオイルで、現代でもかなり馴染み深い油だ。

名前の通りオリーブの実をすり潰した後に濾過するだけで精製可能なので、紀元前にまで遡れるほど古代からある油でもある。

オリーブオイルは他の植物性油や家畜の副産物として取れる動物性油と比較して、保存性が高く燃やした時の匂いも少ない。

だが反対にオリーブを生育する場所は限られており、寒冷地や日光が少ない土地を極度に嫌う。

そのため地中海周辺で多く栽培され使用され、その他の地域では代替油が使用される傾向にあった。

ここで地中海周辺の気候を思い出して欲しいのだが、夏はあまり雨が降らず熱くなり、冬は湿潤で温暖であるのが特徴なのだ。

対してジリト王国周辺の気候を振り返ると、北にある内海から齎される湿潤な空気が西海岸を濡らし東に行くほどその湿気は失っていく。

雨が降らないからこそ魔の森への侵攻ルートに海岸を使えたわけだが、その湿気が失われていく途上に位置するジリト王国沿岸の気候は中途半端故に、オリーブ栽培には全く適していないのだ。

かといって沿岸部以外、つまり内陸部に視点を移しても同じで、南の山脈から降りてくる冷たい空気にとってオリーブは凍害を起こして枯れてしまう。

故にジリト王国は全くと言っていいほどオリーブ栽培には適していないのだが、なぜかジリト王国の主力産業にオリーブは名前を連ねている。

理由は簡単、オリーブに限らず全ての植物がどのような気候でも育つようになっているからだ。

砂漠で稲作、極寒の中で育つバナナなど、植物学者から見れば世にも奇妙な光景が広がっていることだろう。

しかし植物にもある決まりは存在する。それは栽培可能地域が限定されていることだ。

同じ作物を同じ気候の下で育てても、栽培可能地域から外れれば例外なく枯れる。

温暖な湿地帯で稲作をしても、高温多湿な場所でバナナを育てても、まるで植物が拒絶するかのように枯れるのだ。

まさにゲームの設定だからこそ起きる珍事であろう。




「油が大量に流通してる?なぜ?」

そんな貴重なはずの油が流通していることに、男は眉をひそめた。

「そこまでは知らねぇ。だが内壁の中には運び込まれてねぇし倉庫でずっと積まれてるわけもねぇから、軍で使ってんだろ」

「内壁?」

「あ?そういやお前、よそ者だったな。内壁はこの街を統治する貴族様とその周囲にいるお偉いさん方が住む場所だよ。中はそりゃあ豪華だろうな」

「行ったことないのか?」

「あるわけねぇだろ。ただの酒場の店主だぞ」

店主にすごまれ、苦笑いを浮かべる男はすぐに表情を元に戻す。

「それで倉庫に積まれてる、と。いや積まれてないんだったか?」

「さっき言っただろ。油が腐っちまったら使いもんにならねぇんだから」

「腐っちまうのか」

「当たり前ぇだろ。そんでこんなに大量に使うなら倉庫に近い兵舎、つまり軍隊ってわけよ」

「なるほどねぇ。というか倉庫と兵舎って近くにあったんだな」

「は?お前見てねぇのか?正門で身分証を発行した場所が兵舎、それで門に入ってすぐの場所が倉庫だ」

呆れかえる店主に、男は頭を掻く。

「すまねぇな。城壁に夢中で全く見てなかったよ」

城壁に夢中だと言っても、あれだけ大きな建物を見逃すだろうか。

正門の外に立ち並び、いつでも出撃と町の安全を守ってくれる兵士たちがいる兵舎と、正門を入ってすぐに建ち並ぶ巨大な倉庫群を。


複雑に入り組み幹線道など存在しないナシュタットは、物の出入りが大きければ大きいほど困難だ。

運び入れるための労働力が必要になるのは当然で、狭くて通らない道を迂回しなくてならない。

前線基地ならば防衛に適した街並みと言えるが、物流が激しい大物貴族の領都としては実に不適格だと言えよう。

だがナール家は拒んだ。戦争と経済ならば迷うことなく戦争を選ぶと。

その結果、街はまるでウイルスを注入された生き物のように自由気ままに体躯を発展させてきた。

最初に建てられた城壁内が建物で埋まっても、いつしかその城壁が内壁と呼ばれ新たな城壁となる外壁が建てられても発展を止まらない。

無造作に建ち並ぶ建物は安全も規定もなく建てられ、場所が無くなれば上へ上へと積み立てられていく。

この問題は財務を管理する1人の女性とその娘からずっと前に提示されていたが、ナール家当主はこの問題を軽くとらえていた。

「次回遠征の褒賞で新たな城壁を建てよう」

数か月前に発された当主の言葉が、それを如実に物語っている。

しかしこの言葉は数か月の大敗退に続く大混乱で全てが白紙になったのだが、町民や流れ者に知る由も無かった。




「ま、とにかく店主のおかげである程度この街を知れたよ」

そう言って笑う男の手元には、いつの間にか綺麗になった皿と器が置かれていた。

「ふん、この街の者ならば誰もが知ってる情報ばかりだ」

「それでもだ。俺はこの街の者じゃないからな」

男は器を皿の上に乗せ、カウンターに置く。

「……あんた随分綺麗に食ったな」

器と皿にはかろうじて料理が乗っていたと思しき跡が付いているが、洗い残しと言われても納得してしまうくらい綺麗だ。

もしかするとそれだけ飢えていた可能性も考えたが、食い方とカウンター席に料理が飛び散っていないからその線も薄いだろう。

「あんた本当は何者──」

「店主、いくらだ?」

男は店主の話を遮って問う。

ローブの下には微笑む優しそうな青年の顔があったのだが、店主はなぜか喉から言葉がでない。唯一出せたのは料理の値段だけだった。

「……300ゴールドだ」

「安くないか?」

笑う男に釣られたように店主の口から言葉が飛び出す。

「周りを見ろ。安いつってもランプもただじゃねぇんだ」

既に日はとっぷりと落ちており、街を闊歩するのが町民以外が多くなる時間である。

「なるほどね。オーケー」

男はそう言って椅子から立ち上がると、カウンターに400ゴールドと謎のトーテムを置いた。

「ごっそさん店主。この置物は俺の故郷での名産物でな、店の中にでも保管しててくれ」

ローブを被り直し片手を上げ去ろうとする男に、店主はいつもならば絶対に言わない言葉が出る。

「おう、また来い」

すると男は一度だけ振り返り

「あぁまた今後来る」

それだけ言うと、男は夜の闇に溶け込んでいくのだった。


男が去った後、店主は深い溜息を吐いていた。

見た目はただの流れ者なのに、至る所で何かがおかしい男。

長年酒場という多種多様な人間が訪れる交流の場を営んでいる店主だからこそ感じ取れる感性的なものが、あの男と関わるべきでないと強く警告を出していた。

しかしその男が消えれば特にいつもと変わらない日常であり、そろそろ閉店時間だ。

カウンターに置かれたお金と謎の置物を手に取り、店主はふと考える。この置物を捨てるべきか否かを。

危険な男から貰った物なのだから捨てるべきだと思う一方で、自分の感性はなぜか警告を出していない。

置物を手に取り数分考えた後、捨てて恨みを買いたくないが、かといって目につく場所に置いて思い出したくもない店主は、厨房にあった小さな棚の置物を片付けた。

さて面倒な客は帰り、この酒場に残されたのは店主ただ1人。

普段感じ得ない疲労感を拭い去るため、まずはカウンターにあったランプの灯を消そうと手を伸ばし──

「ここの酒場もマァァァァァベラァァス!!」

よく分からない男が扉を開けた。

その瞬間店主の感性はこう叫ぶ、今夜は長くなりそうだ。そして店主の感性は、間違いなく正しかったのだった。

今回出てきた男って誰のことなんでしょうかね(すっとぼけ)

主人公目線だけだと世界観も敵の情報も一切出せないので、今回はこんな感じで世界観の設定などを出すようにしてみました。

ちなみに最後に出てきた男、実は既に登場済みのキャラだったりします。


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筆者の執筆モチベーションにも繋がるので、ぜひよろしくお願いします!

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