3-13 頑固な鉄人
現目標:ハウス作戦
概要:敵国内の辺境に住み教鞭をとれる人材を確保するため、少数部隊で潜入・スカウトする
メンバー:オウキ、オルクス、ヘレン、エデル、イルマ
「さて、やっと本題へと入れる」
山奥に設置したキャンピング・ハウスのリビングのイスへと腰を下ろした。
本題とは言うまでも無く、俺がリスクを取ってまで敵の奥地へとやってきた目的であり、見失ってはならない行動指標でもある。
「あっ!そ、そうでしたね!」
「忘れてませんよ!?」
先ほど騒音の説明を村人へと済ませたエデルとイルマが、慌てて離れた。
オルサバーグから魔の森を抜けるまでの間使っていたキャンピング・ハウスを、この2人は全く別の休憩所だと勘違いしているようで、注意しないとすぐに磁石みたく引っ付き始めるから困ったものだ。
「さて飲み物は……茶でいいか、いいな?この場で出せるのはそれだけだからな」
茶を美味しく淹れられるドーシュがいない今、残念ながら取り出せる飲食は全てインスタントのものになるわけで、コーヒーも紅茶も苦手だった俺のアイテムボックスには茶とジュースしか入っていない。
「ありがとうございます!ですが、オルクス様やヘレン様の分は……?」
「あぁ、こいつらの分は必要ない。護衛モードになったオルクスは何も口に付けないし、ヘレンは当分空からの監視だ。それにあいつがいた方がややこしくなる」
オルクスはともかく、ヘレンは俺に対して全力で攻撃をしたのが相当頭に来ているようで、頭を冷やすと言う意味でも空の監視を任せてある。
「さて……それで、あんたはいるか?」
俺は最後に飲み物を聞いた正面に座る相手は、先ほどまで生死を賭けた戦いをした長老であった。
「この腕では飲めんよ」
アピールするように持ち上げられた腕には、本来あるはずの手が肘下からばっさりと消えていた。
続けて長老は諦めを多分に含んだ声で、こうも続ける。
「それに、腕が合っても俺は飲めん」
嘲る長老はあの怪しいフードは取り上げられたため、その下にあった鋼鉄の肉体を晒していた。
見た目は人間と瓜二つなので人間種だと勘違いしそうだが、首の後ろにある電源を取り込むプラグ穴が明確に他種族だと主張している。
そう、長老は人間種ではなく、一般的な機械人間種であるマキナーだったのだ。
機械人間種マキナー、NRGの設定では古代遺跡から発掘された労働用ロボットで、休みが必要ないことからアンレストとも呼ばれる種族である。
ロボットであるが故に魔電さえあれば飲食が不要であり、低レベルであっても物理防御力のDEFや物理攻撃を行うときに使用するスタミナのSPが無限というメリットを持つ。
だが反対にレベルアップのステータス上昇値が低く、DEFを上げるためには特殊な外骨格アイテムを使う必要があり、更には外傷を受けた時はメカニックでしか手当できないデメリットも併せ持っている。
そのためもっぱらマキナーのNPCは下級労働員として働いていることが多く、あまりプレイヤーとして見かけた記憶は無かった。
「いや飲まなくていいってだけで、確か分解はできたはずだろ?」
数少ないマキナープレイヤーからの嘆願により、仲間と共に飲食を楽しめるような修正が入ったのは記憶に新しい。
「いや確かにそうだが、あの龍人族の女に胸部をやられてな」
「あぁ~なるほど。謝罪はしないぞ」
当然だともと答える長老を見ながら、改めてヘレンにはもう少し冷静さを覚えさせるべきかとも思う。
久しぶりに、というか全力で仲間が戦い様子を始めて実際に見たが、正直にヘレンの戦い方はかなり荒かった。
短気かつ浅慮の彼女は最も脳筋的な考え方をしており、思惑してから行動するエフィーや中立のランドやドーシュ、シーラ、常に落ち着いているオルクスとは根底から違う。
どれほど脳筋かというと、まだ仲間にし始めた頃レベルアップのために弓を使わせてみたが、狙いを定めるより直接弓矢を刺しに行ったくらいだ。
そんなヘレンが怒り狂った攻撃を受けたのだから、いくら俺が殺すなと命令しても瀕死状態まで持って行くつもりだったのだろう。
「さて雑談は終わりだ。本題に戻るぞ。まずは長老、あなたの名前は?」
忘れがちだが名前を聞いた瞬間斬りかかってきたから、名前すら聞いてないのだ。
長老は見定めるように俺を睨みつけた後、低い声で答える。
「テツヤだ。本名もプレイヤーネームもな」
「テツヤ、ね。年齢は?」
「年齢?マキナーは歳を取らないって知らないのか?」
「そりゃ当然知ってるけどさ、実年齢って意味だ。まぁいい、次にこの世界に来て何年目だ?そもそも、日付ってあるのか?」
「……」
この世界に来てから数か月、つい数週間前に人間の町を初めて味わった俺は、間違いなく常識に疎い。
昔ならば世間知らずだと笑えたが、今は知識1つで生死がの分かれ道になりかねないので、とにかく情報収集を大切にしている。
だがテツヤから答えはなく、怪訝そうな瞳しか返ってこない。
「なんだ?まだ言い方が悪かったのか?」
これ以上かみ砕いた質問なんて用意できないが、かといって元の世界だのなんだのと理解できるのは恐らくプレイヤーである俺とテツヤだけ。
厳に同席しているイルマは首を傾げて固まっているし、エデルは分かったフリで鶏のように相槌を打っている。
「オウキと言ったな?まずは聞かせろ。お前は一体どこから、誰の命令で来た?」
鉄に隙間から見える光を薄めつつ聞かれた俺は、現状漏らしても問題ない情報だと判断して答える。
「人間たちが魔の森と呼ぶ森からだ。誰の命令かは……強いて言うなら俺の上司に当たる町長だな」
エデルとイルマから「いやいやあなたでしょ」と言わんばかりの視線を感じるが、話をややこしくしたくないので気づかないフリをする。
「魔の森から……?ということは、あの龍人族の女は奴隷ではないのだな?」
「奴隷?あぁ奴隷紋を使った使役か?そんなもの使ってない、ただの仲間だ、もちろん俺の後ろにいる、このオークもな」
基本的にソロパーティーでプレイし続け、NRGのメインコンテンツである国運営を放っていた俺からしたら、大幅にステータスの弱体化を食らいつつも裏切りの可能性がある奴隷紋を使った使役なんて考慮にすら値しない。
だから正真正銘、俺は奴隷を使役した経験はないのだが、それでも疑い深いのかテツヤは同席するエデルたちに視線を向けた。
「オ、オウキ様の言ってることはホントですよ!な、イルマ!」
「えぇ。長老様が考えてるような扱いは決して受けていません」
慌てて答えるエデルに追従するイルマの言葉を聞いたテツヤは、鉄の瞼を閉じて何かを思案した後、敵意の消えた光をこちらに向ける。
「オウキ、さんでいいかな?」
「もちろん。言いやすい呼び方で」
「合い分かった。それではオウキさんと呼ばせてもらおう。オウキさんは本当にプレイヤー狩りではないのだな?」
「プレイヤー狩り?」
明らかに不穏な言葉に、俺は思わずオウム返しをしてしまう。
「結構。その反応を見る限り本当に違うようだ」
そう言い、さきほどまで決して絶えず燃えていた魔力は鳴りを潜め、心成しか雰囲気が随分と軽くなったように感じる。
「そのプレイヤー狩りではないな。良ければそのプレイヤー狩りとは何か教えていただいても?」
「もちろんだとも。というよりも、オウキさんは知っておいた方がいい」
こうして語られたのは、ジリト王国のとんでもない裏工作の実情であった。
前提としてジリト王国は人間至上を掲げた国であり、その名の通り世襲の王を頂点とした組織体制だ。
どうやらジリト王国の歴史は、亜人種を含む魔族を殲滅する遠征軍が独立したことから始まるようで、その歴史があるが故に貴族は特に人間至上主義はかなり根深い。
ただここで問題は1つ生まれる。時折現れるプレイヤーと自分を呼称する人間種である。
この世界の人間から見れば全く常識が通用しない上に、強力な魔物から当代の英雄を遥かに凌ぐほどの実力を持った者までいるプレイヤー名乗る者たち。
そんなプレイヤーが制御不能になるのを恐れた4代目ジリト王、通称戦王は国内にいるプレイヤーたちの追放令を発令。
だが長引く戦争でプレイヤーの戦力を欲した諸貴族たちは、王国内の滞在を黙認し続けた。
一般兵士として戦果を上げ続けるプレイヤーたちであったが、6代目ジリト王、通称狂王は圧倒的な戦果を持つプレイヤーのカリスマ性を恐れ、プレイヤー追放令よりも実行力のあるプレイヤー狩りを敢行。
プレイヤーだと認められた者は、当代の英雄級を含んだ暗殺部隊を送られ秘密裏に消されるのが、既に50年以上続いているだと言う。
それゆえに長老は圧倒的な実力を見せつけた俺を警戒し、一太刀で切り伏せようとしたのが事のあらましである。
「秘密裏に始末か。よくあんたは生き残っているな」
「俺は最初にプレイヤー追放令が出た時点で、ここで隠居していたからな。でも活躍を続けていた仲間は全員消されたよ」
「疑うわけじゃないが、そんな簡単にプレイヤーがやられるのか?」
「そりゃ真正面から挑まれたらな。だが奴ら何かしらプレイヤーに対抗する術を持っているみたいで、実際に何人もやられている」
「というか、なんでプレイヤーってバレるんだ?」
「そりゃここは人間種の国だからだよ。亜人種はその時点で処分、プレイヤーの種族も普通の人間種じゃねぇから、鑑定を受けたらすぐにバレる」
え?俺って人間種じゃねぇの!?
全く本題とは関係ない焦りが俺を襲うが、それを機敏に感じ取ったテツヤは補完してくれる。
「NPCは普通の人間種つまりヒューマンだが、プレイヤーは成長速度や寿命を延ばしてくれる特別な種族ハイヒューマンだ。だから、NPCを仲間にしても成長が遅かっただろ?」
「いや……一度も人間種を仲間にしたことないから分からんな」
信じられないと言わんばかりにポカンとされるが、事実なのだから仕方ないだろう。
俺が最初仲間にしたのはオルクスであり、それ以降も嫌われ種族しか集めていないのだから。
「そ、それじゃあ国の兵隊とかだったら分かるだろ?」
「国に所属してなかったから……」
「それだったら傭兵団かなんかあっただろ!?」
「それも……」
「お前はNRGの何をプレイしていたんだ!?」
気付けば、なぜか俺が責められていた。
なぜそこまでお前に言われなきゃいけないんだという怒りよりも先に、ソロゆえに楽しめなかったゲームコンテンツの多さを思い出して改めて泣きたくなった。
とりあえず、そうソロプレイヤーだった俺は心を深く傷つけられたが、情報収集は完了したと言っていいだろう。
後は本作戦であるハウス作戦の主目的を達成すれば任務完了だ。
「ところでテツヤ。俺たちがここまで来たのはエデルとイルマを帰すためじゃない」
「……なるほど。どうやってお前がエデルたちと出会ったのかは後々聞くとして、大方自分のチームに合流しろとか何とかだろ?」
話が早いと俺は笑顔を浮かべそうになるが、テツヤの表情を見たらひっこめざるを得ない。
そして案の定、テツヤから飛び出した答えは想像通りのものだった。
「お断りだ」
表情を自在に変えられるにも関わらず、テツヤの顔はその素材と同じくらい固い。
「何か理由でも?」
「そうやって何回もチームに誘われてきたが、もうたくさんだ。それに俺はこの村には大きな恩がある」
金属の瞼の隙間から垣間見える光が、点滅しながら窓の外へと移る。
「恩……?魔物を狩って村を守っているお前がか?」
「魔物を狩ってるのは、あくまで自分のエネルギー補給だ。そんなことよりも、こんな俺を黙って匿ってくれている村人たちへの恩の方が大きい」
確かに先ほどの話では王国内の亜人種やプレイヤーが徹底的に狩られている中、目の前の亜人種でプレイヤーのテツヤはなぜか王国内に住んでいるのだ。
人里離れた隠れ場所ならばいざ知らず、どれだけ寒村であっても人込みの中に隠れるのならば協力者は必要不可欠だろう。
「……言い方は悪いが、よく信じられるな」
「ここの村人は最初に俺を匿ってくれた人たちの子孫だ、信じられるさ。まぁ村長以外は俺のことをただの長生きとしか思っていないだろうけどな」
「だから長老ってか」
俺は皮肉交じりの言葉を帰すが、ハッキリ言って俺はテツヤの言ってることが理解できない。
仲間であると互いが認識しているのならばともかく、自分が何者かも理解していない人を信用するなんて不可能だ。
現にオルサバーグ内の町民相手であっても、共に何かを取り組んだり会議する時は、必ず自身の仲間を同席させるているのだから。
自分が心配性すぎるのか、それとも人間不信すぎるのか、はたまたテツヤがおかしいのかは分からないが、なんだか居たたまれなくなって話を切り替える。
「正直断られても困るな。あんたをスカウトするために、1か月以上かけてここまで来たんだから」
「それは済まない。だがそちらの苦労は、俺とは関係ないな」
取り付く島もないとはまさにこのこと。だが何としてもスカウトしたい俺は条件を切り替えて交渉を粘り続ける。
「なら一時的に俺たちの町に来てみるのは?一時的ならば問題無いだろ」
「お前、さっき1か月以上かけたと言ったな?そんな長い期間この村は空けられん」
「アイテムトーテムがあるから、行きは一瞬だ。帰りは……自分でどうにかしてもらうが」
「それでも最低半月だろ?認められんな」
「それじゃあ、村人を守るために腕を直すのは?町に置いてきた仲間にメカニックがいるから直せるぞ」
「それは魅力的だな。だが腕よりも村の方が大切だ」
まさに頑固一徹。譲歩案をいくら出しても結果は変わらず拒否のみ。
ここまで頑固ならば、エフィーの言う通りテツヤをスカウトではなく拉致すべきだったとも思ったが、そうした時に意地でも抜け出そうとして役に立たないだろうから、エフィーの案を承認しなくてよかったとも思う。
こんなにスカウトが難航するとは夢にも思っていなかった俺は、少しばかり黙って譲歩案を考えるも何も思い浮かばない。
その隙間時間を使ってテツヤは、懐かしむ声で話始めた。
「それにしても君がエデルで、君がイルマか。うんうん、2人ともよく無事に帰ってきてくれたな」
「ちょ、長老……!」
「あ、ありがとうございます!」
テツヤ呼びかけに感動するエデルと、感謝を述べるイルマ。
「それにしても君達は随分強くなったみたいだね。それだけ軍隊の訓練は厳しかったのかい?」
「え?あ、あぁ~これはこちらのオウキ様たちに鍛えられたもので、軍隊の訓練はちょっと……」
「そうですね。装備を貰って使い方を教えてもらっただけなので、訓練とは呼べないかもしれません」
「ほぅこちらのオウキさんが?それは、感謝したほうがいいか?」
明らかに2人と話す時よりも固い声音で質問されたので、俺も少しだけそっけなく答えてしまう。
「いや、この2人を一般兵のままにするのはもったいないって思っただけだ」
「なるほど。この子たちは物覚えがよかったからな」
「だろ?これからエデルやイルマたちのような人を増やしたいと思ってるんだが、やっぱり俺の町に来ないか?」
若干無理やりだがそう勧誘してみるが、返ってきた答えは相も変わらず同じものであった。
結構前から自覚していますが、自分に命名センスが無さ過ぎる!(某CM風)
でも格好いいからといってポンポン新しい人命やら単語を出したら、自分も読者も混乱すると思って極力出していません。
まぁその被害者がエント・オルサ、元エルフ村の村長だったわけですが。
これからも人名なんかの固有名詞はなるべく増やさない方向で、執筆をしていきたい所存です。
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