幕間3 それで合ってるの、スーラーちゃん
今回はスーラー視点のお話です。
どうも皆さんこんにちは、元エルフ村村長の一人娘、スーラーです!
あ、間違えました。スーラー・エルサです。
少し前、父上が村長から貴族当主になって一気に偉くなり、父上の名前が父上からエント・オルサに変わったので、私の名前もスーラー・エルサとなりました。
爵位とか領地で少しだけキセトの町長と揉めていましたが、爵位は適当で領地は元エルフ村、今はオルサバーグと名乗っている村より東と決まったようです。
最東端の町がキセトなので領地なんて無いも同然でしたが、この町の実質的な支配者であるオウキ様曰く「これで領地を拡大し放題だ。良かったな」と父上に笑っていました。
さてそんなやり取りも古い記憶になりつつある今、私には新しい役目がオウキ様から言い渡されました。
なんでも以前オウキ様がオルサバーグを留守にした時、オウキ様のお仲間であるドーシュ様に掴みがかったからだと言うのです。
「よくも俺の仲間に逆らったな」と言われて頭と胴体が離れ離れになるのも覚悟したのですが、なぜかオウキ様には高く評価されたみたいでして、よく分からない警邏隊という役職の長に抜擢してくださいました。
以前は工事現場の監督という、あの、大切な仕事だとは重々承知しているのですが、元村長の娘がするとは到底思えない荒々しい役職だったと思います。
さらに言えば有耶無耶になってしまいましたが、一応父上が人質として私をオウキ様の妻として送ったはずです。
貴族様みたいな高貴で優雅な生活をしたいとまではいいませんが、その、ほらもっと何かあるじゃないですか。
そういう役職にやっと私も就けたんだ、その感謝と喜びを胸に渡しは職務に邁進していきましたが……。
私は父上と私専用の仮設住宅のうす暗い廊下を通って玄関を出ると、部下の鬼人族が5人並んでいました。
「「「「「おはようございますっ!!」」」」」
完璧に重なった大音量の挨拶に手で答えると、1人の鬼人族が前に歩み出ます。
「組長!どうぞ!」
差し出された手の上には、この役目に就いた時に貰った装備。
どこに視線をやっているのか分からなくできるグラサン、ストレス軽減効果付きフレーバーを味わえる小さな棒の一服さん、そして威圧感抜群の棘がいっぱい出てる釘バットという棍棒。
ランド様の言葉は半信半疑でしたけど、確かにこの装備を身に付けたら反抗的だった町民たちも大人しくなりました。
それでも最初は力もないただのエルフ娘だと馬鹿にしてきた鬼人族の方や、ハーフゴブリン種の方もいましたが、釘バットさんで一発殴って制圧していったら徐々に消えていきましたね。
ちなみに”隊長”ではなく”組長”と呼ばれるのは、ランド様曰く『こういう組織のトップは長ではなく組長って言った方がしっくりくるぞ』と聞いてのことで、部下にも定着しています。
おっと、そのような私事を話している時間はありませんでした。さぁ今日も頑張って……
「よっしゃ、いくぞてめぇらぁ!!」
「「「「「おぅっ!!」」」」」
警邏隊の設立目的は主に治安維持のためであり、いくら全員が顔見知りだとしても悪さをする人は後を絶ちません。
悪さといっても殺人や窃盗など重罪ではなく、ちょっとした口論やサボリの摘発ばかりなのでですがね。
今は朝、慌ただしく本日の業務に取り掛かるべく何の規則性も無く建ち並んだ仮設住宅から、どんどん人が這い出してきます。
少し前に最も重要で大工事である城壁建築は終了しており、今は新しい住宅や欲しい物を手に入れられる商店、後は色んなものを食べられる食堂など、生きるための施設を建てていかなければいけません。
どの種族でも使いやすいようドアノブがいくつもあったり段差に気を付ける手間は増えますが、それでも自分たちが使う建物だと思うからこそ気合いの入る仕事です。
そう、気合いの入る仕事なのですが、中々ベッドから出てこない困った方も毎日チラホラと見かけます。
「あぁ~……。昔の旦那も月曜日はあんな感じだったなぁ。なんでも、月曜日の朝は地獄の始まりだとかよく言ってたぜ」
ランド様の懐かしむ言葉を聞いたものの、毎日同じことを繰り返している私からすれば、どうして朝だけ苦しいのかよく分かりません。
そしていつまでもダラダラしていては建つ物も建たないので、1つ1つ仮設住宅を回って起きない不届き者を叩き起こしていくのです。
寝坊助たちを起こし終わるくらいには、ちょうど朝と昼の間くらいの時間になります。
この時間最も取り締まりが多いのは、寝ぼけながらの作業者です。
ある意味で寝坊助よりも質が悪くて、目を閉じたまま工具や重たい材木を持ち運ぼうとするのですよ。
オウキ様より頂いた【労務安全書類】なる紙束の中に、ちゃんと【労働者は目を開き、意識のある状態で業務に取り掛かること】と書かれているし、何よりオウキ様直々にしっかりと守らせるようにとの言付けを預かっています。
なので部下と一緒に道行く作業者たちを観察して、目が空いていなかったり半開きだったら冷たい水を顔にぶちまけてやるのです。
この仕事は主に町中央にある仮設住宅から近い順番で行っていくので、新築の住宅が並ぶ住宅地区、様々な生活必需品が売られる商業区、商業区で卸す物を作る生産区の順になります。
と言ってもこの地区分けは大雑把で、大通りによっては商店ばかりが立ち並んでいたり、物作りの建物が並んでいたりするので、あくまで参考程度にするのがいいのです。
次に昼食を含んだお昼休みですが、この時間帯だけは警邏達の出番はありません。
あったとしても食べ過ぎて体調を崩した人の看病や、喉を詰まらせた人に水を渡すくらいで唯一ゆっくりできる時間です。
そして昼食終わりが最も忙しくて大変な業務になるのです。
お腹いっぱいになった作業者たちは、お昼休憩が終わると同時に元居た場所に帰っていくのですが、中にはサボろうとしてくる人がいます。
鬼人族の方は釘バットさんで足を殴りつけたら解決するのですが、問題はハーフゴブリン種のハーフリング種の方々。
小さな体躯を利用してコッソリと隠れてサボろうとしてくるんです。
建設中の建物や倉庫に隠れるのは常套手段で、最も面倒なのが城壁内に隠れられること!
鬼人族でも余裕を持って歩ける通常の通路とは別に、ハーフゴブリン等の小型な種族が城壁内の至る所へ行ける伝令通路内に隠れられると本当に見つかりません。
なので城壁内に隠れられないよう、見張りを立たせつつも現場の点呼でいない人を確認するのが重要なのです。
【労務安全書類】の【労働者名簿】と照らし合わせるとすぐにいない人が分かるのは、かなり便利でいいですね!
そんなこんなで1番暑くも忙しい時間は、皆さんの眠気が吹き飛びサボリがいなくなり終わりを迎えた頃、警邏隊は暇を持て余すようになります。
警邏隊が暇なのはいいことなのですが、同じ町の仲間があくせくと動き回っている間、立ちっぱなしでいてはいけません。
なので後の時間は不測の事態に備えて訓練を頑張っていきます。人の制圧方法から障害物を避けて走る方法、そして反抗者を撃退する方法に至るまでミッチリとやります。
もし私たちが反抗してきた人にやられてしまってもオウキ様たちがいるので大丈夫なのですが、このような細々としたことにお手を煩わせてはいけません!
そうして訓練所へと向かった気合い十分な私の前には、本日の訓練相手のサンフェスさんが立っていました。
サンフェスさん、オウキ様たちが出発した翌朝に町へとやってきた迷い鬼人族の方で、最初の出会いはそれはもう酷いものでした。
彼がやってきたあの日、警邏隊の長に就いたばかりで張り切る私を見て、あろうことが彼は私を指差し大爆笑したのです。
「へぇっ!?な、なんじゃその恰好ぉー!うわはははあははは、はぁっ!?」
えぇもちろん制圧しましたとも。全身全霊を込めた釘バットさんで。
あれは釘バットさんを全力で振るった最初の時で、最高に気持ちよかったのを覚えています。
そんなただのエルフ娘の私に制圧されてしまうようなサンフェスさんでしたが、ドーシュ様直々の訓練によって簡単に釘バットさんに当たってくれなくなりました。
それどころか全力を込めて振り下ろした釘バットさんを、木刀と呼ばれる模擬刀で受け止めてくるのです。
腹ただしいですが種族の違いでしょうか、サンフェスさんに力と体力では敵わないようで、見上げるほど巨体な彼に向かって釘バットさんを打ち込んでも打ち込んでも、疲れた様子を見せてくれません。
でも私は絶対にこのサンフェスさんを打ち倒し、分からせてあげたいのです。
「ス、スーラーちゃん?ほら、訓練なんだしさ、そんな殺気を向けてくるのは……」
「スーラーちゃんって呼ばないでください!私はこれでも警邏隊の組長なのですよ!?」
「い、いやそれは分かってるけど……。君みたいな小さくて可愛い子に組長ってのは……」
絶対に私を組長と呼ばせてみせる!!その一心で私はさらに強く釘バットさんを強く握りしめるのでした。
そうしてたくさんの汗をかいた夕方以降、仕事が一気に増えます。
なぜなら夕食を出してくれる食事処で、乱痴気騒ぎを起こす愚か者たちが多いからです。
そもそもです、これまで一日一食も怪しかった人たちが多かった人々が、一日三食も食べられるだけで喜ばないといけません。
なのに鬼人族を筆頭にハーフゴブリン種やハーフリング種、そして私たちエルフ種の一部からお酒も出して欲しいと願いが出されました。
最初に私に出された嘆願でしたが論外と言って切り捨てたのがいけなかったのでしょう、町長である父上の耳に嘆願内容が入ってしまい、結果として仮設の食事処で出されることになったのです。
お酒と言っても安物のホップらしいですが、あまりの美味しさに町民たちは大絶賛。ちなみに私も飲んでみましたが何が美味しいのか分かりませんでした。
そしてお酒が入った人が静かになるはずもなく、陽気になって暴れたり些細な事で喧嘩をし始めるのです。
しかもこの問題に警邏隊の部下も混ざっているので、警邏隊は実質私1人に。
私1人でも頑張って治安を維持しようと食事処に立っていたら、『スーラー組長が見ていると楽しめないので気を遣って欲しい』という嘆願が出る始末。
てめぇらが暴れるせいだろうがぁ!!
だから私は警邏隊の仕事をいつでもこなせるようにしつつ、食事処の裏で料理の手伝いをするのが夕方以降の仕事になっています。
「お前さんも大変だなぁ」
そう言って唯一私を慰めて下さるのが、この食事処をほとんど1人で切り盛りしているドーシュ様。
見たこともない素材を見たこともない調理方法で、見たこともなく美味しそうな料理に仕上げていく様子はまさに魔法!
「慣れたら誰でもできるぞ?」
ドーシュ様は謙遜していますが、木を人のように操って作業するのはもちろん、人と変わらないように動かすのは誰にも出来ないと思います……。
でもドーシュ様の手捌きは本当にこれまで数多の料理を作ってきた人のものであり、オウキ様が「ウチのパーティーの料理番はドーシュだから」と言っていた意味が分かります。
私もお手伝いをしながら勉強中なのですが、ドーシュ様みたいに高見へと行くにはもっと時間が必要みたいです。
さて、見回り(料理)が終わるのは、今日1日の仕事が終わるのと同じことです。
何もできない私はせめてドーシュ様のお休みを充実できるよう後片付けもするので、普段は私が最も仕事終わりが遅いと思います。
ですが本日はドーシュ様にお願いして、後片付けを代わってもらいました。
理由は簡単で、ランド様より頂いた一服さんの調子が悪いみたいで、甘い煙が全く出てこなくなったので直してほしいからです。
そう思ってオウキ様ご一行の仮設住宅、ではなく元村長宅の2階に設けられたランド様専用の研究室に足を運びます。
イビキと寝息が溶け込む暗闇に、私の足音を消してもらいながら研究室前に辿り着くと、中から声が聞こえてきました。
「──て思いますよ、ランドさん」
「別にいいじゃねぇかよ。スーラーの嬢ちゃんが嫌がってるわけでもあるめぇし」
この声は……ランド様とサンフェスさんでしょうか?それに話してるのって私のこと?
「でもあの格好は絶対に狙ってるっすよね?最初見た時笑っちゃいましたもん」
「だろぉ?旦那から聞いてた話を再現してみたんだが、バッチリだったか」
「そりゃもう!あれでスーラーちゃんの登場する時に、モノクロになって『警邏組組長 スーラー』のテロップが出たら完璧でしたね」
「あぁ~テロップってあれだろ?なんか下に出てくるやつなんだろ、あれ。あっしにはわっかんねぇだわ」
「残念。それだったら首から『警邏組組長 スーラー』って看板を掛けさせるのは?」
「分かってねぇなぁ。ヤクザだぞヤクザ。恐さと不法の象徴が、面白さと可愛さに変わってどうすんだよ」
「いいじゃないっすか。ヤクザなんておっそろしいイメージを、スーラーちゃんで可愛くする。完璧じゃないっすか」
……は?
その後、元村長宅には女性の怒号と苦しそうな呻き声が聞こえたとクレームが入ることになりましたが、それはまた別の話。
ギャグチックに描きつつ、現在のオルサバーグを描くことがメインの回でした。
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