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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-10 元トッププレイヤー、現在は御上りさん、これからは商人

現目標:ハウス作戦

概要:敵国内の辺境に住み教鞭をとれる人材を確保するため、少数部隊で潜入・スカウトする

メンバー:オウキ、オルクス、ヘレン、エデル、イルマ

「『主ー!そろそろ見えるぞー!』」

「『分かった。引き続き警戒、不審な生体反応は全て報告しろ。以上だ』」

ステルス飛行しているヘレンから魔法通話を受けた俺は、深呼吸して気合を入れなおした。

俺たちは今、亜人種と魔物が跋扈する通称魔の森を抜け、森を出てから何もない人間種との緩衝帯へと足を踏み入れていた。

既にオルサバーグを出発してから半月、緩衝帯を数日の旅程を続けているが、まだ作戦全体の半分の半分も終わっていない。

予想通り本作戦第一の壁として立ちふさがった、緩衝帯と人間種の間に作られた関所も突破してある。

この緩衝帯は恐らく森から魔物や亜人種たちの奇襲を避けるために設けられており、人間種の境界線にはウッドスパイクが森に向かって整然と並んでおり、ヘレンの報告では見張り櫓の近くにしか隙間は存在しない。

この見張り櫓、上に数人、櫓下でスパイクの内側には一定間隔に見張り、さらにその奥には数頭の馬と厩舎まで見える。

境界線上には木柵を並べた程度の防備しかないと思っていた俺たちからすれば悪い想定外で、これでは無策で柵を乗り越えるのは難しい。

本作戦にはほぼ影響しないし、敵の防御陣を知れたという意味で収穫とも言えるが、警備が緩慢であるほど作戦の成功率が跳ねあがる今は眉を顰めたくなる報告と言えるだろう。

そんな関所を透明化の魔法で悠々と通過した俺たちは、真っすぐ西へと足を延ばし、いくつかの川と森を抜けると、聳え立つ城塞都市が見えてきた。

ヘレンの報告で城塞都市がそろそろ見えると聞いていたが、実際に自信の目で見ると感嘆の声を上げざるを得ない。

本来であれば隠密作戦中に不用意な行動を厳に慎むべきだが、人間種に関するどんな情報を仕入れておくほうが有益だと判断し、町へと歩を進めた。


「あん?ちょいちょい待て待て。まだお前ら検査してねぇだろ」

いざ城塞都市に足を踏み入れようとした矢先、城門横にあった見すぼらしい掘って小屋から、1人の衛兵が飛び出してきた。

鉄の胸当てに鉄のヘルメット、鉄の剣と一般兵士のテンプレート装備を身に纏った兵士は、ずんずんと大股で俺たちに近づいてくる。

「どうしやしたか?」

集団の代表として俺が対応したのだが、近づいてくる兵士の目は嘲笑の色に染まっていた。

「どうももくそもねぇよ。町に入る前にはちゃんと検査、それが基本だろうが。ったく、これだから田舎もんってのは常識に疎くてやってらんねぇ」

俺への悪口を許さない過激派たちが横と空で殺気を強めるが、こんなところで作戦を失敗させる訳にはいかないため全て俺が対応する。

「へへ、何分田舎もんでして。それにしても、よく俺が田舎もんだと分かりやしたね兵隊さん、いい目をお持ちでいらっしゃる。それで検査ってどこでやってるんですかい?」

卑屈な口調でおべっかを使うと、すぐさま不機嫌だった衛兵の表情は勝ち誇った笑みへと変わる。

「ふん、まぁよかろう。田舎者の粗相も許してやるのが強き者の義務だからな。そして検査はあそこで行う。手荷物を全て出す準備をしておけ」

衛兵は指さして入り込んだ場所は、さっき衛兵が出てきたキャンピングカーくらいの掘っ立て小屋であった。


「じゃ、まず荷物を全部出せ」

仮設トイレ……失敬、衛兵曰く門番所のカウンターで、俺たちは圧迫的な応対をされていた。

カウンターといってもそんな大層なものではなく、ただ縁の広い窓のようなところだ。

俺は取り合えず衛兵の命令に従い、担いでいた荷物を窓の縁へと全て取り出す。

「ふむ……なんだこれは?」

「これですかい?これはビッグラットの歯と爪、んでこっちがスライムの核でやす」

ビッグラットは読んで字のごとく巨大な(ネズミ)モンスターで、関所近くで見つけて狩った。

ビッグと大層な名前が付いているが、精々一般的な兎程度の大きさしかなく、ラット系でも下から2番目の弱さ。スライムに至っては村人でも倒せるくらい最弱の魔物だ。

なので俺からすれば今出したアイテムは、素材というよりもただの売却アイテム、それもはした金にもならないゴミなのだが、仮の身分である新人商人に箔をつけるためにも必要だ。


「あとは冒険者用の装備でやす」

俺が袋の中に適当に放り込んでいた鉄の剣と盾を取り出すと、衛兵の目に警戒の色が籠った。

「なんでお前が、そんな装備を持ち歩いてるんだ……?」

「へへっ、そりゃ俺が行商人だからでさぁ」

「行商人だぁ?この町にか?」

鉄の剣と盾を検品しながら、衛兵は怪訝そうに尋ねてくる。

「えぇ。最近ここらへんが物騒だって噂を耳にしたもんでね。やっぱり、物騒な町の方が儲かるでしょ?おやじから貰うもんもらった俺ぁ、失敗もできねぇでね」

父親から借りた金で護衛を雇った田舎生まれの新人商人、事前に用意したカバーストーリーを通りに振舞う。

「ふんっ、お前の事情など俺には知ったことか。けど、どうしてもって言うなら考えてやらんでもない」

ニヤニヤと下卑た目で俺を試してくる衛兵。

「……へへっなるほど。それじゃあ優しい衛兵さんにぁ、その剣を1本お譲りしやしょうかね」

「1本?俺の優しはたったそれだけか?」

「おっと失礼。それじゃあそちらの盾も抱き合わせましょう」

「ふふん、いいだろう。俺の優しさに感謝するんだな」

新品の鉄の剣と鉄の盾を衛兵に渡すと、彼は嬉しそうに装備を指を這わせている。

土汚れと傷跡が付いた彼の装備とは比べものにならないくらい高性能だろう。

だが近隣の魔物素材すら見たこともなく、重たそうに力を込めて鉄の剣と盾を身に着ける衛兵ならば、俺たちの脅威に成り得ない。

装備一式で町に入れることを考えたら、十分な出費と言えただろう。




「それで……この町は?」

俺の問いにエデルが並走してくる。

「グレンツェの町で、元々は前哨基地だった町です」

「元前哨基地、ねぇ。出来たばかりの町なのか?」

そう聞いています、と答えるエデルを他所に、俺は今歩いている通りに軒を連ねる建物に目をやると、そこにはまだ汚れの少ない新築同然の家が立ち並んでいた。

これまでにジリト王国に関する情報を集めてきたからこそ、かの国が絶えず領土拡大していたのを知っている。

領土を得ただけで満足する領主などいるはずがなく、何か領の発展に寄与する産業を生み出そうとするだろう。

そのために一定間隔で街を興すのは必然であり、城壁外のまだ深い森を見ても町が興ってから大した時間が経っていないのは明らかだ。

ただ低く薄い城壁に、真っすぐ門から中央の屋敷まで伸びた大通りは、明らかに侵略からの防備を意識した作りではなく、強いて言うならば最低限の魔物を追い払える文化的な町と言ったところか。


「あともう1つ聞いていいか。こんなに大通りって静かなのか?」

俺はもう一度周囲を見渡し、今度は建物ではなく大通り上に視線を移すが、人っ子一人いないので視点は定まらない。

「いえ普通はもっとにぎやかですよ。なぁイルマ?」

「えぇ確かに。大通りなんて人込みの代名詞みたいなところですから」

イルマも同じように答えてくれるが、ゴーストタウンと化している町で人込みなどあるはずもない。

もしかして俺たちの作戦がジリト王国側に漏れていて、この町に誘い込まれた可能性を考えたが、ヘレンから何の報告もないし、門を守る衛兵も警戒心の欠片も無かった。

そうなると純粋に人が全くいないのが答えになるわけだが、城塞都市でそのようなことが果たして本当に起こるのだろうか?

どれだけ考えても満足のいく答えを導きだせそうになかった俺は、新たな指示をパーティーに飛ばした。

「エデルとイルマ、お前達は冒険者ギルドに行って情報を探ってこい。オルクス、お前はこいつらのお守りだ。俺は酒場などを中心に聞き込みする。何、心配するな、護衛は上空のヘレンに任せるからな」

不満気なオルクスを納得させると、俺たちは2つのグループに分かれて行動を開始した。


早速大通りに面した場所に酒場の標識を掲げた店に入ってみたが、中は真っ暗でとても営業中には見えない。

「すいませーん!営業中ですかー!?」

一応店の奥まで聞こえる声を張り上げる。

木のテーブルやイスに埃が積もっておらず、部屋角に蜘蛛の巣が張っていないからから誰かいると判断した俺は合っていたようで

「はぁ~い、なんだいなんだいお客さんかい?」

頭をボリボリと掻きながら、店奥から線の細いおばちゃんが出てきた。

ボサボサのまま後ろで結われた茶髪の根本は白く染まり始めており、服とエプロンの下に見える腕には無駄な脂肪も筋肉も付いていない。

これで恰幅が良ければ酒場の女将のイメージ通りなのが、少しだけ残念だ。


「すいやせん、今日この町にやってきやした商人でして……」

俺は門番の衛兵に語ったのと同じカバーストーリーを語りだす。

「商人?なんでまたこんな町?」

「いえいえ、ここらへんって最近物騒でしょ?そこに商機ありと思って来やしんよ」

「なるほどねぇ。あんたも遠征特需ってわけかい。けど残念だったね。もう徴兵された奴は、この町にいないよ」

遠征特需?徴兵?俺の知らない情報ばかりが飛び出してくる。

「遠征特需?それに徴兵って誰にでやすか?」

「あれ、あんた遠征特需狙いじゃないのかい?」

肩眉を吊り上げた女将を見て受け答えのミスに後悔するが、このまま押し通すしかない。

「へぇ何分田舎もんでして。それで遠征特需ってなんでやすか?」

「戦争特需ってのは、近々大きな戦争するっつってね、色んなところから食料と武器とかを買いあさってるみたいなのさ。もちろん買いあさってるのも徴兵してるのも、この町を含めてたくさんの土地を持ってるナール家だよ」

ナール家?どこかで聞いたことあるような気もしないでもないが、今はとりあえず女将の話に合わせる。

「ほえぇ~あのナール家が?どこを攻めるとかは?」

「そこまでは知ったことじゃないね。それよりも早く戦争なんてやめて欲しいものだよ。こんなガラリとした町なんて見たかないからね」

つまり情報をまとめると、この地を治めるナール家が、近々起こす戦争のための準備をしている、と。

そしてグレンツェの町がここまで静かなのは、徴兵されたからというわけだ。

そう結論付けると、俺は心臓を握りしめられたように冷や汗が流れ始める。


確かにジリト王国はキセトの町攻防戦を含んだ一連の敗戦を復讐するため、巻土重来するのは当然ながら予想していたが、ここまで迅速に行動を開始するとは思っていなかった。

軍隊は生き物と同じだ。急には動けないし止まれないから、ちゃんと準備期間は必要になる。

だが軍隊という生き物はかなり燃費が悪く、大飯食らいだと言っていい。

徴兵中の生活費など分かりやすい物から、人手を引き抜くことで起こる生産力の低下など間接的な損失もある。

キセトの町攻防戦の輜重部隊みたく、一般兵士に食事を持ち込ませれば費用は抑えられるが、決して強靭な兵士には成り得ない。

必然的にある程度の精強さと費用を抑えるならば、戦争より数か月前に徴兵、それから訓練というのが最適だと思われる。

つまりジリト王国は近々、再びキセトの町に迫ってくるというわけだ。当然キセトの町近辺にあるオルサバーグも、その戦争に巻き込まれる。

可能であれば軍の規模や遠征日時も知りたかったが、当然そのような情報を一介の女将が知っているはずもなく、この冷や汗が止まらなくなる情報を胸に酒場を後にした。




その後町中で合流した俺たちは、エデルたちの故郷へと向かうべく、グレンツェの町の発った。

エデルたちもほぼ無人の冒険者ギルドのカウンターに座るギルドマスターから同じ情報を受け取ったらしく、説明する手間が省けた。

当然近々ジリト王国が攻めてくる重要情報は、すぐに魔法通信でオルサバーグの留守を任せたエフィーにも伝えており、城壁の建築を急がせるとの返事を貰っている。

そうなってくると敵地に残る俺たちにできることは、一刻も早く長老なる人物を連れ帰り、オルサバーグの住人を育成してもらうこと。ただそれだけである。

この目的を達成するためにも、今後いくつかの町を経由する案を破棄し、可能な限り最短距離での旅程を目指すことに。

今後、俺たちは関係なくなっているかもしれないが、もしもの時に備えて空からのマップデータ作成をヘレンに任せ、ただひたすらに先を急ぐのであった。


「……ちなみに、本日から禁止だからな?」

「え?何がですか?」

「っ!?そ、そう、ですか。分かりました」

俺の言葉に首を傾げるエデル、顔を真っ赤にして目を伏せるイルマ。

旅程を短縮するというのは、当然1日に進む距離も増える。つまりゆっくりと隠密と体力温存を第一にした今までとは違って、かなり体力を消耗する。

特にキャンプに不慣れなエデルとイルマには心身共に気を遣っており、夜の大運動会を黙認していたのも、そのためである。

「あの、オウキ様、具体的に何を禁止に……っいててててっ!痛いってイルマ!ちょっ、どうしたんだよ!」

耳を引っ張られて連行されていくエデル。

うら若き彼らには申し訳ないが、今夜からはぐっすり寝られそうだなほくそ笑むのであった。

敗残兵と冒険者というカバーストーリー案もありましたが、何を狩っているのか、何ランクなのか聞かれたら詰むので、商人ということに。

しかも新人商人と名乗っているので、疎くてもゴリ押しできます。


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