2-17 影響の風
数日後、俺はいつもの連中といつもの場所で顔を突き合わせていた。
顔を突き合わせているのは俺と俺の仲間たちは当然として、エルフの村長に鬼人族の族長、ハーフゴブリンとハーフリングの村長、そして人間3人、新顔としてキセトの町の領主サミュス・カストルムもいる。
「よし全員いるな?それじゃあ戦果確認をしていきたいところだが、その前にここにいる妖狐族の男性はサミュス・カストルム殿。キセトの町のトップだ」
エルフの村長とハーフゴブリン、ハーフリングの村長がイスからひっくり返り、人間3人は真実の口のような表情になった。
鬼人族の族長は特に驚いた様子もないが、それと同時に話を理解している気配もないので、単純にサミュスがどれだけ偉い人が理解できていないだけで決して度胸や胆力があるわけではない。
ひっくり返った者たちが椅子へと這いずり上がるのを確認してから、俺は本題へと移った。
「それじゃあ本題だ。まずは俺たち本隊の戦果を報告する。まずはこちらに戦死者、負傷者ともに無し。シーラがいたから当然だな。そして壁のシミ君を使って敵の総司令官らしき人間を爆殺する作戦は成功。後は混乱状態の敵を蹂躙したってところで、作戦がものの見事にハマってくれた。強いて問題点を上げるなら、今後の情報源を考えて敵の幹部クラスを捕虜にできればよかったってことくらいか」
俺は一息に本隊の戦果を報告するが、亜人種と人間たちの反応が芳しくない。
「あの、大変申し訳ないのですがそれは本当なのでしょうか?いえ決してオウキ殿の力を疑っているわけではありませんが、おっしゃられている事があまりに大きすぎて……」
この場にいる大半の者の心情を代弁するように、エルフの村長が手を上げた。
「あぁ紛れもない事実だ。今ここでサミュス殿が腰を落ち着かせているのが何よりの証拠だろ?」
町が攻められている時にのんびり違う村にいることなどあり得ず、俺がテレポートで誘拐したならば落ち着いているはずもない。
だからサミュス殿が落ち着いてこの場に来ていること自体が、キセトの町の防衛が成功した証となる。
俺はそう考えて答えたわけだが、そもそもエルフの村長が聞きたかったのは防衛の成否ではなく、損害と成果があまりにも釣り合っていないことだったらしい。
後々エルフの村長から直接聞かされて気づいたのだが、この時の俺は一切気にしていなかった。
納得していない面々だが彼らを待っていたら日が暮れるので、俺からの報告は終了して次へと移らせる。
「それでは僭越ながら支隊の報告はこの私、エデルが行わせていただきます」
支隊の隊長はエフィーであったはずだが、チラリと横目で見た当事者は少しでも視線の当たる面積を抑えようと丸くなっているので、人見知りを発揮してしまったのだろう。
ただ人間への憎悪はこの作戦を通して薄れたのだろう、エデルに向けられる殺意の塊は随分柔らかくなった。
それでも少しばかり警戒の籠った視線を向けられているが、このまま共同生活を通して信頼を勝ち取っていけば問題はいずれ無くなるだろう。
単純だと思い勝ちかもしれないが、生物なんて汗を流しながら同じことに取り組めば自然とわだかまりは消える。特に命を懸けての事ならば。
もちろん性格的に合わないとか生理的な話での嫌悪感はあるだろうが、今回の場合はそうでないからな。
「我々支隊は作戦通り、指定の場所にて敵輜重隊を撃破。エフィー様、ランド様の的確な指揮とランド様やエルフ族の狩人の皆様、ハーフゴブリン族の方々、そして何より殿を務めていただきましたオルクス様のご活躍により、支隊も死傷者無しで作戦を遂行できました」
聞き取りやすくハッキリとした声でそう報告するエデル。
最初からリーダーシップを発揮し、彼が生まれ育った村にいた長老とやらの者による教育のおかげがこの場で発言しても違和感ないほどの知性を感じる。
「併せまして撤退中にオルクス様が敵司令官と思しき女性を捕縛。私とイルマが確認したところ、その女性はエルラ・ナールで間違いないと思われます」
うむ、俺たち本隊が忘れていた捕虜もしっかり捕っているので、実に優秀なところだ。
「それで……エルラ・ナールの処遇についてはいかがしましょうか?」
後方とは言え戦争を体験して少し険しくなった視線を、エデルが向けてくる。
「相手の司令官だろ?普通なら身代金を要求するか戦意向上のために処刑するかの二択になると思うんだが……他に何かあるか?」
俺としては貴族令嬢の捕虜など災いの種でしかないから、可能であれば今この場で諮って処遇を決めたいところ。
だが声を上げる者はおらず、それどころかほとんどの顔に「そんな面倒事を背負いたくない」と書いている。
「……無いようだから、一旦はこの村の地下牢獄に入れておく。何かしらの有効活用法を考え付いたら言ってくれ」
こうして面倒事は一旦棚に上げて、次の議題へと話を進めた。
「最後は私たち留守番組からのご報告をさせていただきます」
そう言って立ち上がったのは俺たちが出撃している間、村の防衛を任せていたドーシュ、ではなくエルフ村の村長が娘スーラーだった。
「恐らくオウキ様たちが撃破した兵士の集団が、この村へと侵入・略奪を試みましたが撃退、一部は捕虜にしています。そしてその人間の襲撃が断続的に起こることから、安全性を優先して城壁建築を一時中止。結果、城壁の完成が著しく遅れると想定されますが、城壁内に配置予定の家を先に建築しましたので、全体工期に大きな支障はないと思われます」
スラスラと淀みなく綺麗な声で報告してくれるスーラーに感謝しつつも、少しばかり申し訳ない気持ちになる。
なぜ俺が頼りにして任せたはずのドーシュが報告しないのか、そしてなぜドーシュは自分が任せられた部分の報告だと言うのにずっと祈り続けているのか、スーラーの心労は察して余りある。
それを言えばエフィーもなのだが、彼女はまだ人見知りだと言う理由で納得できるが、ドーシュはただのサボりだからこそ質が悪い。
「そしてこれは私からの要望ですが、村内にできた不要施設への焼き討ちと処断の許可を頂きたいです」
……え?あれ、俺の耳がおかしくなったのか?
「具体的に言えば増殖し続ける祭壇や祈祷所についてです。現在確認できるだけで祭壇が30数か所、祈祷所が10数か所。地面の中に隠された祭壇も複数確認しているものの、全貌はまだ判明しておりません。こちらの見取り図に、対象の位置と責任者を記載しておりますので順次焼き討ちの──」
「待て待て待て!分かった、分かったから!これは後で俺から追って処分を下すから!ともかくスーラーはこれまでご苦労だった。ゆっくり休んでくれ!」
もはや最後の方は報告ではなく呪詛になりかけた声を聞いて、俺はスーラーの心労を全く理解していないと理解した。
一応ドーシュには毎日魔法で問題なしと聞いていたが、それはあくまでドーシュにとって問題なしなだけで、スーラーにとっては問題大ありだったのだ。
……後でドーシュは締め上げるのは確定として、まさかここまでの苦労を押し付けることになってしまったスーラーには何か特別な褒美を与えなくてはいけないな。
俺は一切感情の籠らない評定をしながら頭を下げるスーラーを見て、そう決意するのであった。
これで俺たちが実行した作戦の結果やそれに付随して起こった問題を全て共有しただろう。
次に報告すべき者おらず自然と沈黙が支配した会議場を見渡したところで、俺は会議を総括する。
「よし。これで以上か。それでは引き続き城壁の建築と町の建築に取り組んでくれ。また何かあれば順次連絡する。以上だ」
俺の言葉で緊張感のあった会議室に弛緩した空気が漂い始める。
これからやるべきことは多くあれど、今は一時の休息を味わうのもいいだろう。
「サミュス殿。これが俺たちだ、ご満足いただけたかな?」
会議ではずっと静かに周囲に座る者の動向を探っていたサミュスへ、挑発的に問いかける。
「もちろん大満足ですとも、オウキ殿。あの王国人というのは気に入りませんが、それでも複数の種族を纏め上げる手腕は中々に素晴らしい」
「纏め上げるも何もただ救って協力を求めただけだ。まだまだ腹にどんなイチモツを持っているのかまでは想像できないな。今のサミュス殿みたいにね」
自分の領地で行われる戦勝パーティー関係の仕事を娘に押し付け、村に帰る俺たちに付いてくると言ったのは俺ではなく実はサミュス本人なのだ。
その結果、俺は帰りの行軍はシーラに任せて一足先にテレポートでサミュスと共に村へと帰ってきたわけだが、全員が帰ってきてこの報告会が開かれるまでの間、終始村を視察して回っている。
恐らく村の各所にある魔電を使った物や、元々が村だとは思えないほど完成された巨大施設を見て驚いているのだろう。
サミュス曰く領主になってからまだ日は浅いらしいが、それでも真意がただのゲームをしていただけの一般人が読み取れないくらいには腹芸が上手いから油断できない。
サミュスが俺の言葉を聞くと不敵な笑みを僅かに浮かべただけで答えた。
「そうですか。正直なことを言うと、もし人間に虐げられているようならば叛意を煽り仲間にしようとしただけです。元はと言えばこの村もカストルム家の土地でしたからね」
「それはそれは……。で、そんな話を俺にするってことは俺がみんなを虐げるような人間じゃないって評価を貰えたってことか?」
「もちろんですとも。私も各種族の皆様がどの意図で行動してるのかまでは分かりませんが、それでも彼ら彼女らは自らの意思であなたに従っている。そしてあなたもその意思を汲み取り、その力を使って富を還元している。あなたは良き領主ですよ」
「お生憎様、俺に領主は向いてないと思うがね。嫌いな奴を守るなんてしたくもねぇんだから。というか元はと言えばエルフ村からの使いを無視したあんたに原因があるんだぞ?」
「エルフ村の?あぁすいませんが、まだまだ私は若輩の身。少しでも威厳を持とうと、身分の低い者とはそう簡単に会わないようにしていたのです」
「なるほど、ね。やっぱり威厳なんて知ったこっちゃねぇし、そんな下らないものに左右されたくない俺からすれば領主なんて関係ねぇ話だな」
そもそも俺の最終的な目的は元の世界へと戻ることであり、もっと言えば人と関わざるを得ない領主なんて役目は絶対ごめんである。
聞きたいことが終わった俺はゆっくりしようと立ち上がろうとするが、尻が椅子から離れる前にサミュスが話を続けた。
「ところでここは元エルフ村だとお聞きしていますが、他に何か名前はないのですか?エルフ族以外も多く生活しており、トップは人間のあなただ。もっと分かりやすい名前にしてくれた方が、今後の私としても助かるのですが」
そう聞かれるが、実は村の名前問題は以前から提起されており、種族関係ない名前にしてほしいと嘆願されていた。
以前の会議でも村の名前をどうするか諮ったこともあるが、全会一致で俺の命名に従うという結果にしかなっていない。
俺にネーミングセンスなんてないから勘弁して欲しいところだが、みんなからの期待の眼差しが強くて「考えておくよ」としか言えないのだ。
それに前までなら「戦争前だからまた今度」と言い訳できたものの、それが終わってしまった今では逃げることもできない。
思いつく限りに良さそうな名前を思い浮かべても何も出てこない中、咄嗟に俺の口から出てきたのは思い出深い名前だった。
「オルサバーグ」、それはまだNRGが全くの無名でサーバーも1つしか用意されておらずゲーム開始地点が固定だった時代、最古参のプレイヤーを温かく迎え入れてくれた町の名であった。
この世界に転移する前にはとっくに廃墟どころか遺跡化していたが、最古参プレイヤーの手で聖地となっている場所でもある。
この世界にやってきた俺もある意味で、全く知らない場所へと放り投げられた初心者であり、NRGを始めた時と状況は同じ。
ある意味で始まりの場所として最も相応しい名前と言えるかもしれない。
「オルサバーグ、ですか。いいと思います」
「オルサバーグ、オウキ様承知しました」
耳ざとい者はそう言って村民たちに村の名前を伝えにいく。
俺の仲間たちはオルサバーグという本来の地名を知っているからこそ、感慨深い顔でこちらを見て頷いている。
こうして俺たちの始まりの場所は、NRGでも始まりの地となったオルサバーグと名付けられたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オルサバーグという町が人間たちの与り知らぬところで誕生した数日後、ジリト王国内は混乱の嵐に真っただ中にあった。
ジリト王国建国以来、負け知らずであった開拓大隊の敗戦。それだけに止まらず開拓大隊を率いた総司令官を含めた高級将校の戦死は、支配者階級である高位貴族の戦死は大混乱と共にあらゆる災厄の産声を呼び起こす。
手始めにジリト王国北東部で負けた開拓大隊の生き残りが野盗化したことによる治安悪化。
北東守備の王国第2軍の油断しきった哨戒網を潜り抜けた結果、治安維持の任に就く王国第6軍は連日連夜の出撃でかかり切りとなり、北東部以外での治安まで悪化する事態にまで発展する。
そしてジリト王国敗戦の報は、この世界に立つ全ての者へと届けられた。それは古来より幾回もの侵犯・略奪を繰り返してきた蛮族に、それは王国領土の本来の持ち主であった皇帝に、それは世界的な宗教の長や群雄が乱立する議会、王国とは正反対に位置する革新的な皇帝に至るまで届けられた。
被害総額はどれほどになるか予想もできないが、ジリト王国内で最も被害を被ったのは間違いなく開拓大隊の主力となり総司令をも務めていたナール伯爵であろう。
治安維持のために残した兵士以外の大半を失い、敗残兵らしき女が情報を聞き出そうとすれば何も話さないまま自爆する。
それでもナール家当主エッカン・ナールにとって幸運だったのは、ポツリポツリと朝露が落ちるが如く帰ってくる敗残兵の中に摘孫のエックルト・ナールがいたことであろう。
現在ナール家の男はとても少なく、つい先日戦死した嫡子エズンと帰ってきた摘孫エックルト以外いない。
他は子女ばかりで4人いる娘のうち2人は、既に王家と他家へと嫁いでいる。
残るは次女と四女なのだが、次女エルナは勇将として戦場での活躍が大きく、四女は失ったエルラの代わりに他家へと嫁ぐことが確定している。
そのため次期当主の座は若干二十歳の摘孫エックルトか、三十路を迎えたばかりのエルナのどちらかに決めねばならない。
どう決断しても家を割りかねない大騒動の予感を覚え執務室で頭を抱えるエッカンであったが、領内の治安維持部隊を率いていたエルナが凄まじい形相で飛び込んできた。
「父上!兄上が、兄上が戦死されたという報は本当なのですか!?」
「落ち着けぃ!その報は私のところにも来ている。真に信じたくはないが、真実なのであろう」
巡察途中で装備を身に纏っていたエルナは、執務室に鉄の音を響かせ崩れ落ちた。
エルナから漏れ出していた嗚咽の隙間を縫うように、エッカンは言葉を紡ぐ。
「エルナ。お前はエズンの元で戦うことを夢としてきたからな、悲しみに暮れるのは致し方ないことだろう。だが時がそれを許さぬ。すぐにナール家は動き出さねばいかんのだ」
エッカンの言葉を聞くと嗚咽を止め、いつもよりもしわがれた声でエルナも答える。
「そう、ですね。承知しました父上!このエルラ・ナール、今すぐにでも憎き仇敵を撃滅せしめましょう!!」
彼女の淡い碧眼には涙の水色ではなく、炎の如き赤で染まっていた。
「待て。まだその時ではない」
「父上!それではいつその時がくるのでございましょう!?」
「落ち着けと言っておるのだ!お前1人で行ってどうする?まずは陛下に出兵の許可を貰うのが先決であろう。先の戦いのようにな」
「……承知、しました」
エルナは拳を強く握りしめながら呟いた。
「安心しろ、間違いなく許可されることであろう。だが問題はそこではない。今の我が家は存亡の危機に迫っておる。次代を担う者にそう危険な場所へは踏み込ませまい。それでもお前は行くのか?」
次代を担う者、いわば次期当主となる者の事である。
現在のナール家直系には、エックルトとエルナの2人しかおらず、次期当主のエズンは戦死した今、家の存亡を大切にするならば四の五の言っていられない。
現状では間違いなく次期当主は直系を増やすことが最優先事項となり、命を落とすリスクなどもってのほか。
つまりこの問いには遠回しに「お前は次期当主の座を降りてでも戦場へ行くのか」と聞いているのだ。
いくら戦士として、騎士として活躍してきた者であっても貴族の端くれ、エルナは女とは到底思えない獰猛な笑みを浮かべ宣言した。
「もちろん行かせていただきます。その時はぜひ私に一番槍を」
その言葉を聞いたエッカンは重かった体を背もたれに預けると、下知を下した。
「分かった。一番槍は保証できんが努めよう。それまでの間、エックルトの側にいてやれ。私は王都へと向かい準備を整えてくる」
「承知しました父上。エルラ・ナール、全霊を持って当たります!」
全霊をかけるのはエックルトへの心配か、それとも戦への準備か。
願わくば両方であることを祈りながら、エッカンは参内準備を整えるべく椅子から立ち上がるのであった。
今日は諸用があって早めの更新!
1週間に1回更新にしたおかげで、めちゃくちゃ世界観設定とかストーリー展開を先まで決められ、1話の文字数に厚みを持たせられます。
というよりも、丁寧に書いていたら自然と文字数が嵩んでしまうので、どれだけ自分の書いた小説が雑だったかを間接的に証明してしまうことに……。
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