2-16 キセト防衛戦・戦後処理
大目標:安寧の地の確保、元の世界に戻る
中目標:侵攻してくる敵を撃破、元の世界に戻るための研究人材の確保
小目標:城塞都市の建設、難民たちを救援
現在の目標:キセトの町の防衛←------クリア!!
赤い絨毯が敷かれ豪華絢爛な装備や美術品が所狭しと並ぶ細長い廊下を歩く。
白い壁に無造作かつ何の意匠も感じられない赤や黒のシミが無ければ、つい先ほどまで戦争していたなどとは到底信じらなかっただろう。
そして廊下には俺が一定テンポで鳴らす靴音だけが響き渡り、前を進むシーラは尾びれを使い滑るようにドアを無音で通り過ぎていく。
敢えて1人だけ靴音を鳴らすことで油断した暗殺者などが罠にかかるかと思ったが、そのような者は気配すら感じない。
そうしてシーラに導かれるがまま廊下の終着点にある扉を開け放つと、そこには見知った顔と見たことない顔が2人座っていた。
見知った顔とはヘレンのことで、俺たちが城壁外の敵を掃討蹂躙している時、ヘレンには先んじて町首脳部の制圧を任じていた。
大きな翼を持つ龍人族の彼女からすれば城壁など関係ないし、何よりもアサシン系最上位のジョン・ドゥ、いやヘレンは女性だからジェーン・ドゥだから、こういう隠密任務は最適と言っていい。
現にこうして俺たちが領主室に何の抵抗を受けることなく、この町の首脳部に面会できているのだから。
「うむ、ヘレンご苦労。ある程度状況は聞いているが、こいつらが領主一家で違いないか?」
「おぉーそうだぞぉー!アタシ頑張ったろー!?」
全身を覆う黒い外套がパタパタと竜の尻尾が共に揺れ動き、真っ赤に燃え上がった朱色の瞳から眩いばかりの光が照射されている。
「そうだなヘレンは頑張った。ちょっとこれを横で静かに食べててくれ」
俺はアイテムボックスから最高級の牛を、贅沢に1頭そのまま丸焼きにして塩胡椒で味付けしただけの肉を取り出した。
ウェルダンからレアまでの焼き加減を全て同時に味わえると言って、ヘレン大好物の料理でもある。
案の定この忠犬ならぬ忠龍は褒美を与えるとすぐに静かになってくれたので、俺はここまで足を延ばした目的である2人を見た。
「さて、君達は見たところ妖狐族のようだが間違いないだろうか?」
妖狐族、名前の通り狐と人間が融合したような見た目をしており、その愛くるしいモフモフ獣耳と尻尾で多くのプレイヤーを虜にしつつも、日本の妖怪チックな要素を足し合わせられているのか火属性を筆頭に様々な魔法を使えるので、プレイヤー種族としても人気だった種族だ。
その妖狐族と見た目が酷似しているため簡単に推測できたのだが、ただ俺がNRGで見てきた妖狐族と異なり圧倒的に尻尾の数が少ない。
最大九尾まで増えるはずが今目の前に座る2人の妖狐族は合わせても三尾しか見えないのだ。
「そうだ、私たちは妖狐族だ。それで人間よ、ここに何をしにきた?」
俺の対面に座らされた妖狐族の中年男性が、尻尾の先端を炎のように揺らめかせながら問うてきた。
「何をしに、か。簡潔に答えるとすれば陳情か?」
「陳情、だと?人間の国では領主を縛り付け、土足で踏み込んでくることを陳情だとでも言うのか?なんとも野蛮な種族だな」
ある程度予想はしていたが、やはり領主の男も大の人間嫌いだというのは言葉の節々から感じられる。
だがこのまま言葉のサンドバッグを続けていると、俺の両脇にいる仲間に目の前の重要人物がサンドバックにされかけないから、俺は素知らぬ顔で話を切り出した。
「俺が陳情したいことは1つ。この町で活動する自由が欲しい。具体的に言えば人間であっても町に入れるようにして欲しい、あとは……そうだな。町中を歩いてるだけで衛兵が来るのも鬱陶しいから、何もしてないのに捕まらない権利が欲しい」
以前エルフに変装してこの町に訪れた時、ちゃんと衛兵が門の前で通行人の顔を確認していた。
というよりも門を通ろうとした時俺たちの周りには誰も居なかったから、きっと門を通過しようとする人自体が珍しいのだろう。
町中であっても町に入る時でも、毎回衛兵とやり合うのは面倒だからこそこの提案なのだ。
「……下らない芝居はよせ。どうせ貴様ら人間は我らを殺戮しこの町を破壊し尽くすだけだろう。この町を好きにさせろとハッキリと言えばよいではないか。だが残念ながら我が領民たちは貴様ら人間などに慈悲など乞わぬ。最後まで抗い貴様に一矢報いてやる」
中年妖狐族は目を細め、言葉に殺気を滲ませていく。
殺気が熱となり部屋を暖めていく中、俺はハッキリと宣言してやった。
「お前らを殺戮?町を破壊?なんでそんな面倒なことを俺がしなきゃならんのだ。そもそも俺は確かに人間だが、ジリト王国とやらとは全く関係ないただの一般人だ」
正真正銘、生まれも育ちも庶民でありただただゲームを楽しんでいただけの一般人の俺。
だがハッキリと顔に嘘だと書かれていたいるならばと、魔法で2人の妖狐族を窓際まで移動させ外の景色を見せてやった。
「こ、これは……!?」
戸惑いつつも外の景色を見た中年妖狐族の男は衝撃の声を上げる。
なぜなら数日間の戦闘に勝利した兵士たちが満面の笑みを浮かべて凱旋していたのだから。
兵士たちの活気は家に立て籠もっていた町民たちにも伝播し、今すぐにでも戦勝を祝う祭りでも開催されそうな勢いである。
「これが敗戦した兵に見えるか?それにだ、お前達を捕縛した彼女も、俺の隣にいる彼女も亜人種で俺の仲間だ。どう見てもジリト王国人には見えないだろ?」
再び2人の妖狐族を俺に振り向かせながら問いかける。
本当であればジリト王国人どころかこの世界の人間ではないのだが、他に人間の国があるかどうかや考え方も分からないため、これでジリト王国人ではない証明になると考えた。
だが返ってきたのは予想もしない方向からの真実であった。
「その考え、亜人種という呼び方、そしてその強さ……もしかすると、あなたは”ぷれいやー”なる人物なのでは?」
プレイヤー、その言葉を聞いた瞬間自分でも鼓動が早まり体に力が入るのを感じたが、今は交渉の場であり俺には仲間がいる。
時すでに遅しかもしれないが、俺は精一杯の余裕を搾りだして答えた。
「ふむ……もしもの話だが、もし俺がその”プレイヤー”であった場合、その時はどうする気だ?」
プレイヤーという言葉がある時点で、この世界で俺以外のNRGプレイヤーがいたことはほぼ確実だ。
そのプレイヤーと呼ばれる者たちがこの世界で生を終えたのか元の世界に戻ったのかは分からないが、これで何かしら元の世界に戻る方法の手がかりになるだろう。
だが今問題なのはプレイヤーがこの世界で、もっと言えば目の前の亜人種たちが”プレイヤー”にどのような認識を抱いているか分からないことだ。
善意や好意ならばそのまま協力を求めるのも手だが、悪意や敵意ならば明かさない方が善となる。
「どうするか、ですか。曖昧かもしれませんが、どうするともどうもしないとも言えませんな」
「なんだその答えになってない答えは」
その曖昧さは今岐路に立つ俺にとって毒だ。だからこそ掘り下げたいところではあるが、掘り下げてプレイヤーだとバレるのも避けたいところ。
「こう答えざるを得ないのは、その”ぷれいやー”なる人物が種族や考え方が全く持ってバラバラで、共通点と言えば総じてフラリと突然現れる猛者だということくらいでしょうか。なればこそ、この町の益に適う方へと対応を変えるのは当然のことでしょう」
妖狐族の中年男性の言葉を聞いて、俺は頷くしかない。
NRGはキャラクリが結構作りこまれているゲームなだけあって、プレイヤーの種族は自由に選べる。
そして大人気ゲームであるからこそプレイヤー層は広く、全年齢の日本人や海外にまで広がっているのだ。
必然的にこの世界の者が出会うプレイヤーも多種多様になるため、一律で対応しないのは領主として正しいだろう。
そうなってくると先ほどこの妖狐族の中年男性に提示した条件を呑ませるために重要なことは、俺に敵意がないことではなく、この町にとって有益なプレイヤーであることを証明することだ。
だが既に町にとって有益であることは、迫りくる敵を退けたことで証明できているはず。
ならばこそ、ここで俺が取るべき対応は……。
「なるほど納得いく理由だ。それでは改めて挨拶しよう。俺はプレイヤーの1人、オウキだ」
俺がそう自己紹介をすると、妖狐族の中年男性は納得したように顔を縦に振るのであった。
予想通りというべきか俺がプレイヤーであり亜人種の仲間もいると伝えると、俺への敵意は見る見る間に減った。
と言っても殺意の塊を常時ぶつけられていたレベルから、警戒心を持った目線へと変わった程度であるが。
「そして改めて言わせてもらおう。俺が求めているものはたった1つ。この町で活動する自由だけだ。それ以外は特に求めていない。あ、いや敢えて追加するならばその”プレイヤー”なる者たちの軌跡を後でじっくりと教えてもらいたいってこともあるがな」
「……その言葉、どこまで信じられますかな?」
「俺がこうやって話し合いでの解決を目指していることが、信用できる証じゃないか?」
俺の回答に妖狐族の中年男性は目を閉じ、しばらくするとゆっくりと重たく口を開いた。
「承知した。それではこの町の略奪行為や残虐行為を禁止する代わりに、この町での自由を許可しましょう。ようこそキセトの町へ。改めてご紹介しますと、私は領主のサミュス・カストルム、横のは娘のミコ・カストルムです」
こうして俺はキセトの町での活動権利を得ることに成功するのであった。
その後戻ってきた兵士に詰め寄られたり領主直々の演説で俺の紹介も行われたため、町民からの視線は殺意から憎悪くらいまで落ち込んだ。
つい数刻前まで人間との戦争をしていたのだから仕方ないと思うが、過ごしやすい活動拠点にするならば町民たちへの懐柔は行っていかなければならない。
それは後々仲間たちと集まった時に考えるとして、俺はヘレンを引き連れ薄汚れた扉を開いた。
「おっとまだ準備中で……ってお前さんか」
ピンクの眉間に皺を寄せ豚鼻を鳴らした豚人族の男、以前キセトの町に来た時に入った場末の酒場の店主である。
「そうだ、店長。どうだあれから、何か壊れたりでもしたか?」
「いや幸運なことにウチの店のもんは壊れてねぇな。ってそんなことより兄ちゃん、あんた人間だったんだな」
そう以前ここにやってきた時は変身魔法で、エルフに化けていたのだ。
ただ変身と言っても耳を伸ばしてエルフに化けた程度で、顔のパーツや大きさまでは変えていない。
だからこの店主から見ればただ俺のエルフ耳が消えただけなのだが、恐らく領主の演説で知ったのだろう。
「あぁそうだ。あの時は騙して悪かったな。それで、俺は入店拒否か?」
「いんや問題起こしてねぇしな。領主様直々に安全で問題を起こすなって言われてんだ、俺に文句はねぇよ」
そう言って陽気に笑う店主は以前と変わらずいい性格をしている。
「あ、いやだが文句はあるな。この前は綺麗なエルフとマーメイド、あとはオークの兄ちゃんがいたのに、今回はまた偉いべっぴんさんを連れてんなぁ。種族はちょっと分かんねぇけどよ」
そのべっぴんさんは尻尾を床に叩きつけながら上機嫌に笑う。
「へっへー!そうだろそうだろ!?なんてったってアタシはオウキ様の、ムグッ!?」
「あぁ~彼女は他の仲間だ。あとマーメイドのは今違うところで、エルフは知り合いの娘ってところだな」
あらぬ方向へと誤解が広がる前にヘレンの口を抑え込み、俺は説明を続ける。
「それでここに来た理由だけど、この前渡した物あっただろ?あれちょっと見せてくれないか?」
「前貰ったやつだぁ?あぁ~あのヘンテコな人形みてぇなやつか?構わねぇ持ってきてやるよ」
怪訝そうな表情をしつつも豚人族の店主はカウンター奥へと姿を隠して少し経つと、見覚えのあるブツを持って戻ってきた。
「よしよし、傷も無いみたいだし問題なさそうだな」
「そりゃそうだろうよ。だって、まぁ何というか、あんま見た目がよくねぇから奥にしまってたんだからよ」
「いやそれで問題ないよ。これは建物を守ってくれるアイテムだからさ」
そう、このトーテムは【不壊のトーテム】と言って、元々は建物の老朽化を代わりに引き受けてくれるアイテムだった。
それがゲームの仕様なのか建物へのダメージも肩代わりしてくれるようで、防衛戦では必須のアイテムになった。
ちなみに見た目はとんでもなく悪く、通称”不快のトーテム”とも言う。
「ほう!そうだったのか。ってぇと、この店が無事なのは……」
「もちろんこのトーテムの効果もあるだろうな。ま、トーテムを見る限りそもそも攻撃を受けてないっぽいが……」
「そいつぁ感謝だ!!この店は汚ねぇけど俺が必死に開いた店なんだよ!壊されなくてよかったぜ!!」
それよりも悲惨な未来があったかもしれないのに暢気だなぁという言葉を飲み込みつつトーテムと店主の安否が確認ができたので、俺は再度トーテムを豚人族の店主に押し付け店を出た。
店の外では広がり続けた祭りの喧騒が場末の酒場にまで広がっており、俺は少し足早に城門へと向かう。
なぜならそこにはずっと待機させたままの鬼人族とハーフゴブリン族の戦士たちが、そわそわした様子で待っているのだから。
取り合えず問題を起こさないよう注意をして十分な小遣いを渡した後、次の集合時間を伝えると蜘蛛の子を散らしたように消え去っていく。
俺はこの場にいない仲間に連絡を取り無事を確認した後、どうしようか悩んでいると……目を輝かせて待つ忠龍ヘレン公に負け、彼女がしたいと言っていた空中デートへと繰り出すのであった。
翌日、携帯食料での行軍に不満の溜まっていた者たちらしく二日酔いと腹痛に悩まされる者が多く、集合時間までに集まった者は少なかった。
ちなみに最も遅刻した者はシーラで、トーテムを確認するという名目で以前と同じ娼館へと足を運んでいたらしい。
それは別にいいのだが私財を投げうって娼館丸ごと貸し切りにしたらしく、「娼婦の子を全員満足させてきたわ♡」とほほ笑む彼女の頬は、どこか輝いでいるように見えた。
これにてキセトの町防衛戦は一旦終わりです!
これを足掛かりにオウキたちはどんどん活動範囲を広げていくので、これからもぜひご愛読のほどよろしくお願いします。
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