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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第2章 キセトの町

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2-15 キセト防衛戦・決戦2

大目標:安寧の地の確保、元の世界に戻る

中目標:侵攻してくる敵を撃破、元の世界に戻るための研究人材の確保

小目標:城塞都市の建設、難民たちを救援

現在の目標:キセトの町の防衛

太陽が天頂に昇り切ろうかという頃、ジリト王国開拓大隊は進撃を開始した。

進撃と言っても飛び出したのは僅か1部隊だけで、それ以外の部隊は無駄な消耗を避けるべく周囲の森に潜んでいる。

だがこの部隊の前列には大盾と分厚い鉄の鎧に身を固めた重装歩兵が隙間なく密集し、続いて破城槌とそれを曳いた工兵が、両脇にはあらゆる事態に対応できる軽歩兵で守っている。

そして最後に城壁からの抵抗を粉砕する弓兵と、開拓大隊の虎の子である魔法兵、指揮官とその親衛隊たちが続く。

開拓大隊の人数からすれば微々たる人数ではあるが、この部隊と森の中に隠した予備の破城槌が攻城部隊の全容だ。

常識的に考えれば少なすぎる人数ではあるが、周囲に潜む部隊は城壁からの抵抗が起きれば即座に援護に回り、その抵抗もほとんどない町を攻略するのだから十分であろう。


太陽が天頂へと到達する頃、ごく僅かな抵抗を粉砕した攻城部隊は固く閉ざされた城門にへばりついた。

工兵の掛け声で破城槌の中央に鎮座する衝角が振り子のように揺らし、その勢いのまま補修されず脆くなった城門に当てると、バキバキと鈍い音を立てて粉砕される。

城塞都市を守る城門とは思えないほどの脆さをしているが、このキセトの町は遠い過去人間の侵攻を幾重にも塞いできた過去を持つ都市。

その堅牢さを十全に示すように、町へと至る道にはもう1枚の城門が立ちはだかっていた。


「もう1枚城門があろうと関係ない!このまま前進し敵の希望を打ち砕け!!」

破城槌の後ろ、城門を僅かに出た場所で親衛隊に囲まれた前線指揮官のエックルト・ナールが吠える。

多くの人通りを想定していたであろう城門下の通路は、容易に破城槌を飲み込めるだけの広さと舗装が施されており、破城槌は悠々と車輪を進めていく。

そして街へと続く内門へと到着し再び衝角で鈍い音を奏でようとした瞬間、頭上から怒声が響きわたった。

「今だ!奴らにくれてやれ!!」

キセトの町守備隊は狩られるだけの獲物ではない。頭脳と力を持った生き物である。

城門通路上部に空いたマーダーホールから、防衛隊は町民総出で搔き集めた資材を一斉に投げ込んだ。


ほとんどの投擲物は兵士たちの盾や鎧により弾き返され、陶器や木の砕けた音が虚しく響く。

「ふん、奴ら何をするかと思えば……放っておけ、このまま城門を……」

抵抗とも言えない貧弱な抵抗など無視し、このまま町内へと流れ込めばそれだけで勝利は確実。

どう対応すればいいのか戸惑う兵士に命令しようとしたエックルトだが、突如として鼻に違和感を覚えた。

今この場を支配しているのは戦場では嫌というほど嗅ぐ汗と血の混じった不快な匂いではなく脳に直接つんざくような痛みを与える匂いであり、それはどこかで嗅いだ記憶のある匂いでもあった。


「この匂いは確か我がナール家の廊下で……」

ナール家は武家であるが故に、邸宅の廊下は無骨で飾り垂れられたものなど数えられるほどだ。

その中でエックルトが思い浮かべた記憶にはユラユラと妖しく揺らめく明かりが浮かび上がる。

真っ暗な暗闇では襲撃者に対応できないと、ここだけは通常の貴族のように高い油を贅沢に使っていた。

その油の匂いを嗅ぐ日常と命を奪い合う非日常がリンクし、それが戦慄へと変わるのにそう対して時間はかからなかった。


「まずいっ!!退避しろっ!!」

エックルトの怒声が城門通路へと届く前に、眩いほど大きな火が立ち込める。

悲痛な叫び声と共にのたうち回る破城槌を率いていた工作兵と、その守備に付いていた重装歩兵たち。

魔法兵たちは慌てて水を作り出して消火するが、油が装備に地面にと沁み込んだ火などそう容易に消えない。

「くそっ!魔法兵、あの穴を塞げ!!伝令、今すぐ新たな重装歩兵と予備の破城槌を求めてこい!!」

魔法兵がマーダーホールを破壊し尽くす頃には城門通路は奇妙なほど静かになり、新たな破城槌と重装歩兵が駆け付けるまでの間消火活動に専念させられるのであった。




若き当主候補が最前線で苦い経験をしている頃、本陣の天幕内ではジリト王国開拓大隊の総司令官エズン・ナールの前に1人の男が跪いていた。

「ふむ、揃ったか。それではお前からの報告を聞こうか?」

現当主ほどではないにせよ次期当主に見合った威厳を放たれ、震えあがる男は少し前別動隊を率いて森へと入った部隊長である。

そう、この男は摩訶不思議な力を手に入れたエルフの村を襲撃し返り討ちに遭い、そして命からがら逃げだしてきた壁のシミと呼ばれた男だ。

「はっ、エズン様!この度私が報告したい儀とは、森中で見つけたエルフ村についてでございます!」

「ほうエルフ村とな?その村がお前を孤独に、そして乞食のような姿にしたというのならば話を続けろ」

本来であれば敗軍の将であるこの男に耳を貸す価値はない。

だがそれでも森中で見つけた最重要機密を閣下にお聞かせしたいと、娘の率いる軍に帯同せず早馬で駆け付けた度量を買っての温情だ。

併せて娘が率いる輜重部隊からの連絡文書も持っており、機嫌がよくなったことも影響しているが側近ですらそのことは知らない。


そしてこの男がエズンに話した内容とは、まさに荒唐無稽、白昼夢とも言うべき内容であった。

曰くたかが寒村がこの町よりも強固な城壁を築いていた、曰く天から見たこともないほど巨大な岩が降り注いだ、曰く巨人が修羅の如き武で歩兵たちを撫で切りにした。

どれもが信じるに値しない内容ばかりで、同席した各部隊の士官らは嘲笑している。

「はぁ……お主吟遊詩人の絵空事を聞くのは構わんが、今この場で陳述しろとは言っておらん」

さしものエズンでも呆れ果て注意する始末であった。


「し、しかし……!私は本当に自分の目で見たのです!」

「分かった分かった。それで、どうしてお主はここに生きて立っているのだ?」

エズンは男の話を打ち切り、最も疑問に思ったことを聞く。

周囲からは先ほど男が語ったとの同じくらい荒唐無稽な言い訳を提案されているが、返ってきたのはこれまでとは全く違った。

「それは……私が捕虜となりましたが逃げて来たからです!」

「捕虜に?王国軍人としてのプライドを説きたいところであるが、それよりもそんな者らが実在するならば、逃げ出せるはずが無かろう」

動く要塞に鳥のように飛び回る何者か、そんな奴らがいたのなら逃げられるはずがない。

「どうしてかは分からないですが、逃げ出せたのです!私の他にもう1人女がいたのですが、そいつは私よりも先に脱走していて……」

「先に脱走者がいたのにお主も脱走できたというのか?それこそ相手が間抜けとしか言いようがないわ」

エズンはついに耐えきれず笑い始めると、周囲の者も一斉に笑い始めた。


「ほ、本当なのです!」

必死に男は強弁するが、思い返してみれば不可思議なことばかり。

どうして逃げ出せたのか、これが高位の貴族ならば身代金などの取引の可能性もあるがこの男はあくまでナール家に身を寄せる一介の騎士、身代金など払えるはずがない。

ここで男はふとあることに違和感を覚えた。

自分は一介の騎士でありナール家に特別な忠誠心があるわけでもない。

それにも関わらず自分はなぜここまで必死になって総司令であるエズンの元へとやってきたのか。

元々町を占拠する名誉よりもどこか魔族の村にでも略奪に入り小銭を稼ぐことを優先して、森中に入る軍隊の指揮に立候補していたはずだ。

一度覚えた違和感は嘲笑の渦中にあっても膨れ続け、そして……爆発した。


『おいおい命からがら報告したってのに、それを馬鹿にするだけってここには薄情者しかいねぇのかよ』

突如として響き渡った謎の声に、全員が即座に警戒態勢へと移る。

『おぉ?なんだなんだ戦争してるだけあって、そういう緊張感だけはあるみてぇだな』

「何奴だ?」

エズンは声が響く先、つまり先ほどまで必死で自身に起こったことを説明していた男を睨みつけた。

『へぇもう()()()()()じゃないって気づくんだ。司令官をしてるのも伊達じゃないってことね』

挑発的な言葉に眉一つ動かさず、エズンは問いかける。

「そうだとも。そういう貴様は下らない手を使っているな。大方、町攻略の妨害かもしれんが、このような精神攻撃で我らは揺るがぬ」

困惑に包まれていた天幕はエズンの言葉を皮切りに戦意に満ちる。

よく信頼し、信頼されている軍隊であることに違いはないだろう。


だがこの応対は人であっても精神が人外に染まった者相手では非常にまずかった。

『あぁ総司令だってこと否定しないんだ。それはよかった。あと精神攻撃?はっ、俺がそんなことしなくてもお前らなぞ返り討ちにできる。なんならこの男を使って戦っても勝てるぞ?』

分かりやすい挑発であっても、ここまで堂々と言われれば頭に血が上るというもの。

僅かな士官が武器を構えてにじり寄り、その様子をエズンは何も言わず見下ろしている。

そしてついにとある士官が調子に乗った者へと末路を司令官へと見せつけようと武器を振り上げた時、謎の声の男は不敵な笑みを浮かべ目が眩むほど発光し──。




『主ー!敵軍の陣地が爆散したぞー!』

「『報告ご苦労ヘレン。こちらも爆発の振動を知覚した。作戦通り動いてくれ。以上だ』」

オウキは空高くから偵察をする部下を見据えると、彼の視界を遮るように黒煙が立ち昇り始めた。

「よし聞こえていたな。作戦通り俺たちはこれから突進する。圧倒的な装備と力を持って敵を蹂躙するぞ!!」

「「「おぉー!!!!」」」

野太い咆哮を上げた20人の戦士たちは、現状を理解していない哀れな王国軍兵士に突撃を開始した。


オウキが行ったことはとても分かりやすく難しく、壁のシミと呼ばれた男にたった2つの魔法を仕掛けただけだ。

1つは最も分かりやすく時限爆弾のような魔法で、術者が念じたタイミングで爆発させられる【時限(タイム・)爆発(エクスプロージョン)】。

矢や石に付与して活用する魔法であり、中級者になってくれば直接攻撃する魔法を唱えた方が早いため、魔法の水増し程度にしか思われていなかった魔法である。

そしてもう1つは、まるで寄生虫に取りつかれた虫のように自我を術者の思うがままに操る【寄生(パラサイト・)意識(マインド)】。

主にMND(魔法耐性)が低いNPCやモンスターに使用し、盗賊団のアジトやモンスターの巣を発見する時に使われたい魔法である。

この2つの魔法は低レベルでも覚えられる魔法であるため、MND(魔法耐性)が低い者にしかかけられないことや魔法に覚えがある者ならば解除されるデメリットを孕む。

そして何よりのデメリットはどちらも魔法の維持に、一定量のMPを消費してしまうことだ。

それをオウキは極限まで引き上げたレベルでごり押した。

まさに全ての職業を貪欲に上げ続けたプレイヤーだからこそできた業だと言える。


オウキによるたった2つの小さな魔法は、ジリト王国開拓大隊には想像を絶するほど大きな損害を(もたら)した。

総司令官や各部隊の指揮官、名立たる士官が揃っていた天幕が跡形もなく消え去ったのだ。

加えて爆散と同時に発生した爆炎により、開拓大隊の本陣には見る見るうちに火災が広がり黒煙を上げる。

本陣の失陥、隊長以上の士官が爆発により失踪、それは瞬く間に立ち昇る黒煙と共に各部隊に伝わった。

それまで士気旺盛だった兵士たちを絶望へと叩き落とすには十分で、最もその絶望が顕著に表れたのは城門に突撃を仕掛けていた最前線の兵士であった。


「おいっ!!あの煙はなんだ!?父上はどうなっている!?」

町を守っていた最後の城門を突破し、即席のバリケードを乗り越えんと勇猛果敢に指揮していたエックルトは鬼気迫る顔で駆けつけた伝令を怒鳴りつける。

「はっ、もう一度申し上げます!味方本陣が消失した模様!そ、総司令や各部隊の指揮官との連絡が途絶えております……!」

「う、うそ、だ……嘘だっ!そのような流言に私は騙されぬ!貴様のような密偵に謀られぬわ!!」

エックルトは激高し腰に佩いていた宝飾のちりばめられた剣を抜くと、伝令を鎧ごと貫いた。

そして近くにいた親衛隊の者を伝令に任命すると、今後こそ正確で正しい情報を持ってくるように命令するだった。


だが床に転がる伝令は大慌てで前線に駆け込みながらエックルトに報告したため、既に多くの者に絶望的な状況が伝わっている。

バリケードを乗り越える足は止まり、遠くで聞こえていた剣戟音は徐々に大きさを増す。

半錯乱状態になりながらもエックルトは指揮を続けたが、兵士たちの後退は止まらない。

どれだけエックルトが優秀で百戦錬磨の兵士であっても、精神的支柱が取り除かれた彼らは薄氷の上を歩く海豹(あざらし)のようなもの。

その薄氷は新たに伝令として任命された親衛隊の者が、数分で戻り報告したことで限界を迎える。

「報告!!敵援軍、我が包囲軍を攻撃中とのこと!!このままでは我らは孤立します!!そして依然味方本陣との連絡は断絶中とのことです!!」

薄氷が割れ海中へと落ちた海豹は、ただ見えない海中から素早く近づく白黒のハンターに駆られる獲物と化していた。




城壁の外では戦争や戦闘と呼ぶのは烏滸(おこ)がましいほど一方的な殺戮が繰り広げられていた。

人間の2人分はあろう巨兵と反対に人間の半分くらいちかない小人兵が、逃げ惑う人間兵士を蹴散らしていく。

殲滅するわけでもなく包囲するわけでもない、ただ逃亡するために剣に手をかける兵士を蹂躙して混乱を大きくするだけの戦いだ。

当然突破しやすそうな小人兵に敵兵の攻撃が集中するが、身軽に避けられるか当たっても鈍い音を出しながら跳ね返されるだけ。

運よく鎧の関節部分や露出部分を斬りつけたとしても、次の瞬間には嘘だったように消えてなくなる。


そして最も厄介なのがこの巨人兵と小人兵の軍団が開拓大隊の本陣跡地から出てきたこと、それと軍隊を率いるオウキが狙いを絞っていたことだ。

指示を仰ごうと各部隊の副隊長や参謀が本陣に伝令を送るも、ほとんどがオウキの指示によって存在を消された。

なぜか運よく逃げかえれた伝令は自分たちの部隊にこう報告する。

「味方本陣は陥落。謎の軍隊が制圧している模様」

人間の伝言ゲームとは本当に恐ろしい。誰も聞いたことをそのまま伝えていると思っているのに、無自覚に自分の主観を混ぜて僅かな虚実が作る。

その虚実は人を得ることに大きくなり続け、指揮官というストッパーがいなければどんどん真実は霞んでいく。

「味方本陣が敵の大援軍によって制圧された!!」


こうしてたった20名しかいない大軍は、屋台骨を失った開拓大隊を木っ端みじんに打ち砕いた。

目的地までの道半ば、ただの略奪地点でしかなかった町で、ジリト王国は約1万5千もの兵を失う。

強大で騎士の国と評されたジリト王国からすれば総兵数の1割にも満たない数字ではあるが、王国首脳部の夢物語を無残に引き裂き現実へと叩き戻した戦であった。

次回から毎週日曜更新を目標にしたいと思います。

それに併せて、これまでの話の校正・加筆修正も行っていく予定です。

気長に更新をお待ちいただきますよう、よろしくお願いします。


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筆者の執筆モチベーションにも繋がるので、ぜひよろしくお願いします!

X(@KenRinYa)もやっているので、フォローもよろしくお願いします!

また感想や質問、要望などもコメントかXで受け付けていますので、ぜひぜひお送りください!

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