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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第2章 キセトの町

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2-13 キセト防衛戦・前哨戦2

砂浜を覆っていた暗闇が朝焼けの光により色を塗り替えられ始めた頃、数多の生命がひしめき合う地面で大きな動きが起こる。

意外にも大きな動きの始まり手に持てるほど小さな矢であった。

矢はまるで餌を見つけた小魚のように、とある男に牙をむいたのだ。

その男はジリト王国軍開拓大隊の輜重部隊が長エルラ・ナールがお気に入りの男で、壊れた人形のように地面に転がっても彼女は現状を認識できない。

いくら貴族として部隊指揮官としての知識を学んだと言っても、それはあくまで座学であり実戦経験など無い。

それでも僅かな間に敵からの攻撃の可能性に頭を切り替えられたのは座学のおかげであったろうが、その僅かな間に魚の群れは火を携え部隊を急襲していた。


「お、落ち着きなさい!!」

金色の絹糸のような髪を振り乱しながらエルラは声を張り上げるが、周囲にいるのは朝の支度を準備していた末端の兵士で、その手には武器ではなくバケツや薪を持っていて見ただけで戦力にならないと分かる。

そして唯一の頼りであった直属部隊は、外聞も無く寝巻のままテントから這い出しており、彼女の命令に耳を傾ける余裕のある者などいない。

「あなたたち!!(わたくし)の命令を……!きゃーっ!」

誰に声をかけるわけでもない叱責を叫ぶ頃、再び火の伴った矢が一斉に降り注いだ。

悪辣なことに矢の先端には(つた)が巻き付けられており、たっぷりと引火性の高い油を沁み込ませている。

そのため見る見る間に輜重部隊の陣地は、燃え上がる火によって昼間のような明るさに変わっていた。


先ほどまで書類やティーカップを置いていた机の脚は、燃え広がった火により著しく耐久性を落とし、ついには脚という支えを失した机はけたたましい音と共に崩れ落ちる。

その音で我に返ったエルラは苦労の末習得し実践していた貴族の娘としての所作を投げ捨て、一目散に自身の馬車の中へと逃げ込んだ。

馬車の中は閑散としており外の地獄絵図からは想像できないほどにいつも通りだ。

しかしいつものように枕元に置いていた呼び鈴を鳴らしても、恭しく入ってくるメイドや見目麗しいお気に入りの男も姿を見せない。

1人でいることが極端に少なく望めば誰かが駆けつけてきてくれた生活に慣れ親しんでいた彼女は、現状を悪い夢だと決めつけベッドの端へと座り込むのだった。




舞台は変わって砂浜では、混乱は大きいものの徐々に集団行動を取ろうとするものが出てきた。

それは上官の命令というよりも、ただ生き残るため絶えず火矢を打ち込んでくる者を排除する生存本能故の行動だった。

戦場であっても賞賛されるべき団結力であり、通常の相手であれば起死回生の反撃を行えたかもしれない。

だが今回の相手は戦術に秀でていた上に輜重部隊の陣地を全て見渡す目を持っており、反撃の機敏を見逃すはずはなかった。


弓矢とは弾き絞られた弓の弦の力を使って、鋭い(やじり)の付いた矢を飛ばす武器だ。

この世界では一般的な遠距離武器で、その廉価さ故に数多くの軍隊や歴史に登場する。

そんな弓矢が時代が経つにつれ金属や火薬と融合したのが銃火器であり、この世界でも存在する武器であった。

だが銃火器は高すぎる製造コストと打ち出す銃弾コスト、そして圧倒的なまでの火力のため王家しかその存在を知らない。

しかしこの戦場で唸りを上げ反撃の機敏を潰したのは、銃火器よりもさらに圧倒的な火力とコストを叩きだす代物であった。


徐々に砂浜の火が起き上がってきた太陽の明るさに負け始めた頃、戦意が高まり始めた兵士たちの足を止めるほどの咆哮が響き渡った。

一般的に咆哮の大きさは体躯に依存しており、大きければ大きいほど咆哮も大きくなる。

今この瞬間に聞こえてきた咆哮は確かに一瞬のことであったが、細長く展開されていた輜重部隊全員が聞こえるほどに大きかった。

森の中に想像を絶するほど巨大な魔族が潜んでいる、そう震えあがる兵士たちであったが絶望はまだ始まったばかりである。


不気味すぎる巨大な咆哮を聞いた兵士の中で、腰を抜かす者が続出していた。

とある兵士など先ほど「森の中にいる野郎どもをぶっ殺してやる!」と生き込んでいたにもいたにも関わらず、恐怖から数歩後ずさってから無様に腰を抜かしている。

彼の前には一緒に森の中に行こうと言い合っていた名も知らぬ仲間たちが、震える脚で必死に立っていた。

恐怖心に打ち勝つ仲間たちに心からの賛美を送りつつも、恐怖で力の入らなくなった上半身を支えきれず天と向かい合う。


あと少し、もう少しだけ気合を入れ直させて欲しい。そう願った瞬間、彼は全身を襲った強烈な衝撃で波打ち際まで弾き飛ばされた。

一体何が起こったのかも分からず、酒を呑んだ後のように視界に映る光景が歪む。

体を激しく揺さぶられた彼は先ほど食べた乾物を喉奥で食い止めつつ、何が起こったのか仲間に聞こうとした。

だが先ほどまで目の前にいた彼らの姿は、見渡してもどこにもいない。

統率もなくただ逃げ惑うだけの人間はたくさんいるものの、先ほどまで一緒にいた仲間の風貌を忘れるほど薄情ではない。

それならば自分と同じように吹き飛ばされた可能性も思い浮かべるが、倒れている人は遠くにポツリポツリと見えるだけで見たことない風貌ばかり。

だが彼はすぐに何が起こったのか知ることになる。なぜなら同じように目の前で人が消え去る瞬間を目撃したのだから。




ジリト王国の兵士たちには知る由もなかったが、天から降り注ぐ脅威は浜辺より森に入った奥に並び立つエルフの狩人たちよりさらに奥、そこに配置された5つの砲から撃ち込まれていた。

物好きなランド謹製迫撃砲、通称ビッグ・ポインターは現実世界で参考にした元込め式の迫撃砲で、魔法で塊にされた炸裂石(バースト・ロック)をお見舞いする凶悪な兵器である。

特徴は採算度外視、索敵や襲撃の考慮無しであることに加え、突貫工事で作られた防音機能付きの給弾場所あること。

その給弾場所が3本の指で天高く(そび)え立つ砲身が人差し指に見えたことから巨大な人差し指(ビッグ・ポインター)と呼ばれていた。


獣の咆哮のような発射音を喚きながら撃ちだすビッグ・ポインターを指揮しているのは当然作り手でもあり、ガンナーとしての最上位職デス・リーパーを習得しているランドである。

恐ろしいことに彼は砲のスペックを完全に把握し、指揮官のエフィーより貰った情報を元に発射角度の調整を完璧に済ませた。

風速や距離の誤差は存在するが概ね狙った場所に着弾しており、給弾場所では炸裂石(バースト・ロック)でバケツリレーをするハーフリングがいた。

問題があるとすれば炸裂石(バースト・ロック)が消耗品であるが故の経費だけで、発射音の五臓六腑に染み渡らせて悦に浸るランドにはあずかり知らぬことであろう。




場所は混乱を極める砂浜に戻ると、そこはもはや戦場というよりも狩場へと変化していた。

命令する者、命令を遂行しようとする者、その両者がいない軍隊などただの寄せ集めでしかない。

人々はただただ自身の命を取りこぼさないよう、矢と砲弾が雨霰のように降り注ぐ砂浜からの脱出しか頭に無かった。


その様子を森の浅瀬の樹上からずっと見ていたキセト救援軍支隊の司令官エフィーは、溜息交じりに呟いた。

「攪乱作戦の効果が出過ぎたか……これ以上の戦果は必要ないだろうし、回収しにいくぞ」

「承知」

彼女の声に呼応した銀色の塊が、地響きを立てて森の中から砂浜へと飛び出しす。

巨大な山としか形容できない銀色の塊は、恐慌状態の兵士たちに姿を現したのだ。


「オルクス、作戦通り所定の位置で迎撃を。その間に私は物資の回収を行う」

エフィーからは短く端的に、難しいことが分からないオルクスに配慮した指令出されていたが、元々はある程度の抵抗を想定されて下されていた。

オルクスは命令を忠実に、実直に、素直に行動する。

最高硬度の金属であるヒヒイロカネで鍛え上げられた大楯はオルクスの巨躯をすっぽりと包み隠しており、地面に擦られようが傷一つ付かない。

そしてヒヒイロカネよりも二段階劣るオリハルコンによって鍛え上げられた全身鎧は、装着者に与える襲撃を極限まで吸収することを目的とされていた。

最高品質の鎧と盾を軽々と装着する体格、十全に使いこなすために培われたディフェンフダーとしての技術が、オルクスを最強レベルのタンクへと昇華している。


ただ残念なことにオルクスの活躍はジリト王国の兵士たちは武器と防具を投げ捨て、銀色の塊から脱兎のごとく逃げ出しており全くと言っていいほどない。

ジリト王国の兵士からすれば巨大な銀の塊は森に潜む巨獣にしか見えず、僅かばかりに残っていた兵士たちの士気を完全に打ち砕いたからだ。

そんなこと敵の状態など露知らず、オルクスは構えを取って所定の石に着くと全方位の守備体勢を取る。

守るべき主なくとも、その主からの命令を忠実に遂行するために。

その姿は忠義の騎士とも呼べる威風を放っていたが、それを見守る観衆は1人としていなかった。




ランドが見えない敵から防備を固めている時、部隊指揮官であるエフィーは慌ただしく動き回っている。

「作戦は極めて順調。予定通りフェーズ4に移行する」

弓矢による強襲、迫撃砲による攪乱、オルクスによる威圧、そしてフェーズ4では敵物資に略奪であった。


そも、ジリト王国はこれまでに数多くの魔族──オウキ風に言えば亜人種──と戦いを繰り広げてきたが、魔族たちの連携を経験したことが無かった。

それ故にジリト王国は正面の敵を撃破すれば戦争に勝てる経験を幾重もしている。

だが戦争は生物同士が戦う以上、食べる物や戦うための道具、つまり補給物資は極めて重要だ。

ジリト王国もそれは認識していた。認識していたが、それよりも目先の敵に集中してしまった。

小分けにして物資を運ぶ、輜重部隊の護衛に気を遣うなどの対策を疎かにしていたのだ。


この前哨戦により、前線が与り知らぬところでジリト王国は今回の大規模遠征中の開拓大隊は物資の大半を失うことになる。

制圧した町を占拠し続けるための食料が、キセトの町より先に進むための装備が、後詰のために要請していた援軍が、その全てが消え失せた。

既にキセトの町を攻略したところで本隊は撤退か、家畜と侮っていた魔族の食料に手を付けるかのどちらしか道は残っていない。

趨勢(すうせい)は決した状況であったが、そんなこと知らない開拓大隊の本隊は城攻めを敢行していた。

幸か不幸か、輜重部隊を襲った悪夢のような猛者が本隊に迫っており、その壊滅の法を聞かずに済むのは確実だ。


馬車や砂浜に転がっていた物資の全てを、自身のアイテムボックスに詰め込んだエフィーは耳に手を当て通信魔法を唱える。

「フェーズ4終了。フェーズ5に移る」

フェーズ5、作戦を遂行した彼らの徹底だ。

砂浜に鎮座していた難攻不落の銀要塞と合流したエフィーの肩には、金色の絹糸のような髪を持つ女性が乗せられていた。

補給物資って大切。

人間って食料、水ないと駄目だし、戦うなら武器、防具も必要ですからね。

自分の補給物資にはゲームとPCさえあれば問題ないと思いますけど。


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