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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第2章 キセトの町

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2-12 キセト防衛戦・前哨戦1

兵士たちの朝は早い。

テントと呼ぶ粗雑な布を支柱になっていた木の棒から取り外し、自分たちの唯一の持ち物である背嚢にぶち込む。

そして背嚢の奥底でペチャンコに潰れていた乾燥大根や乾燥キノコなどの乾物を口に放り込み、唾液でふやかしつつもゆっくり噛み締め嚥下する。

支度の済んだ兵士は焚き火を使って飲料水を確保する者、薪を集める者、そして自身の乾物を食い尽くして仲間に恵みを求める者に分かれ、今日も苦しく長い1日が始まった。


ここに居るのは、王国軍の中で最も士気と練度の低い領主軍の徴収兵たち。

大半が大量の苦労を僅かな農作物に変換している農民で、振っていた物は剣ではなく(くわ)だ。

その上領主軍の中でも直轄部隊や王国軍と違って食料や装備の補給すら無い徴収兵は、武器代わりに手頃な丸太と木の皮で作られた防具、貯金を切り崩したり備蓄から捻出した糧食を用意しなければならない。

わざわざ自分の財と時間を費やして死地に向かえと言われているのだから、納得の士気だろう。


徴収兵たちが慌ただしく動き回り朝焼けの光が暗闇を駆逐し始める頃、やっと志願者で構成された正規兵たちがテントの中から這い出してくる。

志願と言ってもその実、恩赦目的の犯罪者や徴収逃れの逃亡者ばかりで構成されており、とても立派な兵士とは言えない連中だ。

だが一応は軍として体裁のためにも装備と食料が支給されているため、徴収兵よりもマトモそうに見えるが雀の涙程度のものだからあまり大差ない。


徴収兵と正規兵たちは支給品の有無で僅かに起床時間が変わるが、早朝のうちにやらないといけないことは同じ。

それは最も遅く起床する領主軍や王国軍の中でも直轄部隊の兵士たちのために、炊事や洗浄用の湯を用意しなくてはいけないことだ。

直轄部隊は主に貴族の子弟や子女、それに仕える騎士と兵士たちに連なる者で構成されているため、支度に徴収兵の2倍ほど手間と時間がかかる。

それを徴収兵たちが事前に準備して時間を短縮させており、直轄部隊の兵士たちにかかる手間もほとんどない。


専属の料理人が直轄部隊が一元管理している糧食を贅沢に使って用意された朝ご飯を食べ、湯で綺麗に砂利や土を取り払い魔法で乾かされた装備を身にまとう。

こうして優雅に準備を整えた彼らは、遅々として出立の準備が整わない徴収兵たち末端に怒鳴り散らす存在になるのが常だ。

いや今日に限っては常だったというべきだろう。




毎日変わらない行軍を繰り返し、最近変わったことと言えばあと数日で目的地であるキセトの町に辿り着くことくらい。

直轄部隊の兵士たちは戦功と名誉を求め行軍を速めるくらい士気は高まっていたが、それ以外の兵士たちは疲労困憊でそれどころではない。

通常であれば先頭と最後尾を徴収兵で固め、最も攻撃を加えられる可能性の高い森側を正規兵で守る布陣であったが、連日の疲れがたたって直轄部隊以外付いてこれない。

直轄部隊の指揮官たちは苛立ちを募らせつつも、後方から物資を持って追い縋ってくる末端の兵士たちに歩幅を合わせていた。

切り捨てていくことも検討されたが、自分たちが攻城戦真っただ中の先鋒軍に物資を送る補給部隊の使命を忘れるほど愚かではない。

ただ一度たりとも会議の場で、直轄部隊が監視だけでなく物資の運搬を行うという案は出されなかった。


直轄部隊の中央、補給物資に挟まれたところに行軍には似つかわしくない複数の馬に繋がれた豪華絢爛な馬車の中で1人の女性が目を覚ました。

「んん……ちっ」

子どもとは言えないものの熟成には程遠い肉体を持ち上げた女性が、絹糸のようなホワイトブロンドの髪をかきあげながら起き上がると、枕元に置かれていた小さな呼び鈴を力任せに鳴らす。

すると歳を重ねたメイドが馬車にすぐに入り恭しく頭を下げ、それを起きたばかりの淡い碧眼の目で睨みつけて言った。

「後方で最も煩かった者を処しなさい。方法は昨日と同じよ」

その言葉を聞いたメイドは顔を強張らせて頷くと、馬車から飛び出て行った。


いつもの方法とは、末端兵士の監視役である直属部隊の馬に両手両足を縛り上げた者を繋げる刑を指す。

移動しながら罰を与えられ、後ろに続く者も煩くした者の末路を見られる、そして刑を受けた者も静かになる。

この補給部隊の指揮官を務めるエルラ・ナールが好んだ刑であった。

「ほらあなたも起きなさい。さっさと支度しなさい」

エルラは同衾していた男性を叩くと、自分のお世話をするように急かした。


エルラ・ナール、現ナール伯爵家に名を連なる者で、今回の開拓大隊総司令を務めるエズン・ナールの二女。

現当主の祖父から寵愛を受け育った生粋のお嬢様であり、今回の侵攻作戦も自ら志願していた。

理由は簡単で自由気ままにできる自領に留まりたいから、その一言に尽きる。

というのもジリト王国は貴族同士の政略結婚が非常に盛んで、長女はほぼ絶対に王家へと嫁ぐ暗黙の規則がある。

必然的に次女以降の者が政略結婚の駒となるわけだが、政略結婚の駒ではなく優秀で手放したくなる駒であることをエルラは父に示さなければならない。

それは年上の叔母がエルラに見せたことであり、奇しくも同年代の叔母に駒としての役目を押し付けるためである。

ちなみにエルラは男性()()と同衾していることは公然の秘密でありながらも節度を保つため、男性たちは貞操体を付けられている


後方で慈悲を願う声が響き渡る頃、貴族令嬢らしいフリルの付いた真っ白な服装へと着替えたエルラは馬車内のイスに座った。

彼女の前のテーブルには数枚の書類が乱雑に置かれており、昨日部下が報告された内容を纏めたものだ。

同衾していたお気に入りの男に差し出された甘味の強い紅茶を口に含みながら、テーブルから紙を1枚とって中身に目を通す。

『万来の敵を粉砕せしめる力あり』『我が部隊は完全かつ迅速に任務を継続中』などの威勢のいい言葉と美辞麗句が踊り狂っていた。

それを見たエルラは笑みを浮かべ、また別の紙を取っていく。


そしてとある1枚を手に取った時、エルラの顔つきが険しくなった。

そこには『騎士ヴェアトロスの奇行について』と書かれており、遡ること数日前突然森の中からとある男が姿を見せた。

装備も無くただのボロ切れのみを纏った男は怪しさの塊であったが、エノラはその男が父の子飼いの騎士爵に属する男であることに気付いて一命をとりとめる。

勇敢な男が魔境である魔物の森から生還した、これだけならば感動の話で終わったのだが、その男は意味の分からないことを口ずさんでいた。

『森の中に魔王の如き人間と、強大な魔物が出現した』と。


一笑に付してしまうくらい馬鹿馬鹿しい報告であり、単にこの男が作戦失敗の苦し紛れとして大袈裟に騒いでいるだけだと結論付けられた。

だがその生還した男は総司令官であるエルラの父エズンに報告すると言い、早馬で先を駆けだしたのだ。

恐らく予定通りに行けば今日か明日には父の元に辿り着いていることだろう。

ただその男の誰にも止められなかったくらいの気迫と切迫感は、今もエルラの違和感として脳裏に刻まれている。

けれどその違和感が具体的にできず、今日もその書類をテーブルに放り投げるのであった。




時刻は朝、地平線から顔を出した太陽が徐々に角度を上げる中、物資を積んだ荷馬車から食料や機材を取り出し直轄部隊の兵士たちが優雅な朝食を摂り始める。

その横では正規兵や徴収兵がバケツや薪を担いで駆けずり回っており、異様なまでに静かに行動している。

そんな人混みの中エルラはお気に入りのイスとテーブルを外に運び出し、お気に入りの男に給仕させていた。

畏怖の籠った視線がエルラに突き刺さり、より彼女の苛立ちを増幅させる。

それでも部隊の指揮官として兵士に姿を見せて鼓舞するためにも、静かなプライベート空間の馬車内に戻れない。


見世物小屋で展示されているような居心地の悪さを覚えるエルラの元に、見慣れた顔の男たちがやってきた。

「ご機嫌麗しゅうエルラ様。本日もエルラ様は美の化身のよう──」

「そんな思いの籠っていない定型文を、(わたくし)はいつまで聞かなきゃいけないのかしら?」

「はっ!それは失礼しました!」

目の前の男たちは父エズンより派遣された子飼いの騎士たちで、命を含めた自由な裁量権をエルラは持っていない。

だから目にも入れたくない醜男や老兵と顔を突き合わせるのは、エルラにとってストレスの元でしかなかった。

唯一自身よりも美しい女が含まれていなかったのは、父エズンの少ない心遣いだろう。


エルラは醜男や老兵から現状についての報告を受けるが、先ほど書類で確認したこと以上の情報は出てこない。

相も変わらず勇猛果敢な言葉を並べ立てているが、エルラからすれば当然のことであり聞き飽きた言葉であった。

「それで?私に報告することはそれくらいかしら?」

「はっ!以上であります!」

「そ。それじゃあそろそろ出立するわ。兵たちに刑をチラつかせてもいいから急かしなさい。今日にも父上たちに追いつけるように、ね」

エルラの言葉を皮切りに、醜男や老兵は一斉に散って行った。


「はぁ……紅茶お代わり」

どうせすぐには出立できない、今までの経験則からエルラは確信を持っており何人かを引廻しの見せしめにする算段まで立てている。

ただ問題は見せしめの人数が多すぎると、馬の体力が無駄に消耗されてしまうこと。

このように考え事が尽きないエルラだったが、ふと耳に何回か耳にしたことがある風を切る音が聞こえてきた。

疑問に思って周囲を見渡すエルラだが真横にはお気に入りの男が紅茶を入れ、目の前には使い慣れたテーブル、その奥には慌ただしく動いている兵士たち。


「……?まぁいいわ……あつっ!」

聞き間違いだったと思いエルラはティーカップに手を伸ばすと、なぜか手に熱い感触を覚え咄嗟に腕を引いた。

自身の美しい手に火傷跡ができていないか心配しつつも、ティーカップの持ち手部分にまでかかるほど紅茶を零していた、お気に入りの男に怒りをぶつける。

「ちょっと零してるじゃない!お茶を淹れることすらできな、いの?」

エルラが睨みつけた男はお気に入りにするくらい整った顔をしていたのだが、どうしたことか額に見慣れない角のようなものが生えていた。

細長い木の角の先端には羽根のようなものが付いており、角の根本には赤い液体が漏れだしている。


男の顔を何回も見てきたエルラだったが、角が生えていたことなんて見たことがない。

いや正確に言えば男に生えた角のようなものに酷似した物は何回も見ているし、何なら触ったこともある。

しかし、だがしかしもしエルラの記憶内にある酷似した物と同じであるならば、今自分は…。

そう停止しかけたエルラの耳に、叫ぶ声が入ってきた。

「敵襲だぁー!!!」

キセト防衛戦、前哨戦の幕開けである。

キセト防衛戦は前哨戦1と2、白兵戦1と2で終わる予定です。

そして次回はオウキ側視点で描こうと思っていて、これは多分白兵戦でも変わらないと思います。


面白いと思った人は、ぜひブックマークや評価、レビューをして頂けると嬉しいです。

筆者の執筆モチベーションにも繋がるので、ぜひよろしくお願いします!

X(@KenRinYa)もやっているので、フォローもよろしくお願いします!

また感想や質問、要望などもコメントかXで受け付けていますので、ぜひぜひお送りください!

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