幕間2 頑張ってるよ、スーラーちゃん
「そこぉー!そこサボらなーい!」
「わ、ごめんなさいスーラー様!」
私が大きな声で言うと、慌てて土入りバケツを持ったハーフリングの人が走っていきました。
私はスーラー。エルフ村の村長の娘で、次期村長だった哀れな女です。
昔は1人で森に出かけて冒険したり村のおじいちゃんにイタズラして遊ぶヤンチャ娘でしたが、つい20年ほど前くらいからはちゃんと村長に相応しいようお淑やかにしています。
お淑やかにしていたのが駄目だったのでしょうか。
父上から村を侵略してきた人間の男に嫁げと下知されたかと思いきや、よく分からない工事現場の監督をさせられています。
……どうしてこうなったぁー!!!
ごほん失礼、いえいえどうしたこうなったのでしょうか。
あれでしょうか、私が従順な淑女だと思っているからでしょうか。
いえそれならば家に囲っておくとが普通というもので、工事現場を任せるなんて奇想天外なことはさせませんよね。
さてそんな私スーラーですが、最近とても大きな悩みがあります。
「スーラー様!今なら引き返せます、我々の村を取り戻しましょう!」
「スーラー様、僕たちもう工事なんてしたくない!」
元エルフ村の村民や工事現場で積極的にサボろうとするハーフリングたちの陳情です。
この陳情を纏めると簡単なことで『村を支配する人間を排除してエルフ村を取り戻してくれ』と。
陳情を上げた者の多くは若者と戦わない者たちで、村を支配しているオウキ様の強さを知らない者ばかり。
それも仕方ありません。だって彼らはオウキ様たちの戦いを自身の目で見たことがないのですから。
私ですか?私は見たことがあります。
いつものように父上の背中を見ていた時に、押し入ってきたオウキ様が護衛の狩人2人を何もさせず昏倒させるところを。
何をしているのかとか何をされたのかすら理解で着ませんでしたからね。
それにオウキ様の傍にいる魔族の方々もとても恐ろしく、誰であっても1人でこの村程度ならは消し飛ばせる実力を持っていて、人間の大軍をあっという間に蹴散らしています。
だから私は何度も言っています。
「いいですか。オウキ様たちは圧倒的な実力をお持ちです。あの方たちが本気で私たちを支配する気がないからこそ、こうやってある程度裁量権のある労働が出来ているのです。なので族滅されたくなければ、反抗などしないように考え直してください」
ですがいくら村長の娘と言えど、まだ何も成していないただの小娘。
多くの目が希望や懇願から失望や軽蔑の目に変わっていくのを見ました。
今も反乱を企てている筆頭であり私の教育係を務めてくれた元狩人のおじい様が、その深く切れ込みのはいった傷跡のある眉間に皺を作って去っていきます。
しかし生き残るためには仕方がないですし、何よりも生活環境は依然と比べられないほど便利になっています。
魔電と呼ばれる謎の力で夜でも室内を明るくできますし、新鮮で美味しい食事を楽しめます。
なので支配者が人間であること以外、何一つ不満はないのですから静かにしていなさい。
今日もそんな説教を父上と一緒にした私からは自然と溜息が出てしまいます。
「どうしたら多くの者が納得できるのでしょうか。オウキ様たちが多く出撃されている今、変なことを考える者が多いでしょうから対策を考えなくては……」
「うむ。あぁそれとスーラー、明日私は少数のハーフリングとハーフゴブリンを連れて、資源採取と村に行って有用そうな残留物を取ってくる。一応明後日には帰ってくる予定だが、その間の監視は頼んだぞ」
「分かりました父上」
そうして父上と分かれた後、私は作戦室にある資料を見直そうと元自宅へと向かったら、道端で太陽に向かって両手を広げるドーシュ様がいました。
彼はオウキ様たちが連れてきた魔族の1人で、唯一村の防衛のために残ってくれているお方です。
「ド、ドーシュ様?一体何を……」
「静かに!ワシは今、太陽神様からお言葉を受け取っておるのじゃ。えぇい、また1からになってしもうた。ところでスーラー殿、もしお暇ならワシと一緒にお祈りでもせんかの?」
「は、ははは……。ちょ、ちょっと私は仕事がございますので、またお誘い頂ければ……」
「ふむ、それは残念じゃ」
それだけ言うとドーシュ様は再びよく分からない言葉とポーズをして、太陽神に祈り始めました。
「ざけんじゃねぇ!!なんで私が必死になって庇ってんのにテメェは祈ってんだよ!!テメェも動けよ!!テメェが説得しろよ!!くそがぁ!!」
私は自室で大いに荒れました。えぇ、それはもう数十年間も心の奥底に封印していた乱暴さを解放してしまうくらいに。
大丈夫です、私の自室はオウキ様たちの形式上私を受け取ったことを示すために、村の外れにあるオウキ様たち用の家の一画にあり音も漏れないので心配なく騒げます。
そして片手にはオウキ様たちが用意してくれた魔電製品によってキンキンに冷えたビール、もう片方には甘辛味噌漬けみょうがというオウキ様がたくさん用意してくれた食べ物。
このピリっとした甘辛さと極上のビールが、私の口をどんどん滑らかにしてくれますが、明日から一体どうやって説得すればいいのやら。
そんな明日の悩みは全てお酒で流し込むのでした。
最悪です。やらかしました。
割れような頭痛と吐き気に襲われながら見た窓の外は、陽はとっくに高く上がっていたのです。
いつも私は遅くとも陽が地平線付近にある時に起きていましたが、今日は間違いなく寝坊です。
このような時は父上が起こしに来てくれるのですが、今日の父上は資源採取のために村にいません。
いつ愚かな若者が反乱を起こすのかも分からない今、抑え役の父上と現場責任者である私がいなくなれば……。
ちくしょう、てめぇら大人しく待ってろよ!!
「だ、誰もいない……!?」
外聞も無く全力で走り、辿り着いた工事現場ではいつも聞こえてくるはずの喧騒がありません。
「遅かった」その言葉が私の脳裏を過りますが、まだ、まだ止められる可能性が残っています。
「いえ、諦めてはいけません。まだです、まだ間に合わせて見せます!!」
反乱を実行に移すならば大勢が集まるはず、そして大勢が集まれるのは元自宅である村長宅だけ。
私は作業書や工事ヘルメットすらも脱ぎ捨て、全力で駆けだしました。
私の予想通り、エルフの村民たちとハーフリングたちは全員が元村長宅1階に集まっており、なんとその前にはドーシュ様がいるではありませんか。
「お、お待ちをドーシュ様!!私が、私が止めて見せますので、何卒ご慈悲を!!」
自分の身を盾にドーシュ様の前に立ちはだかり、今まさに迫りくる村民たちは……
「天より見守り下さる我らが神よぉ!!」
「「天より見守り下さる我らが神よ」」
「その慈愛に満ちた微笑みで!!」
「「その慈愛に満ちた微笑みで」」
なぜかドーシュ様の言葉を復唱していました。
「うん?これはこれはスーラー殿ではありませんか。どうなされた?」
「あの……工事の方は……?」
「工事?あぁあれか。今日は休みじゃ休み。毎日根を詰めては効率も悪かろう。それに、せっかくみな太陽の尊さに気付いたみたいじゃしな」
……確かに村民たちの目には、昨日までの濁った敵意は見当たりません。
いえそれどころか生まれたばかりの子どものように、済んだ瞳をしているものばかりです。
「……ドーシュ様?」
「ん?なんじゃ?」
「もしかして反乱対策として行っていたのでしょうか?」
私は今お淑やかに笑えているか分かりませんが、一応聞いておきます。
「なんじゃ対策とやらは。ワシは何もしとらんしのぉ。あ、いやみなが太陽の素晴らしさに気付いてくれただけで、決してワシが素晴らしかったというわけでは……」
は、はは、ははははは。
「クソジジィがぁ!!てめぇが最初っからこうしとけば私は苦労しなかったんだよぉ!」
「なんじゃなんじゃぁ!?お主はいきなり何しおるか!」
私の渾身の右ストレートを、クソジジィとは思えない前ローリングでよけやがった。
「ざけんじゃねぇ!私が毎日どれだけ悩みながら生活してたと思ってんだごらぁ!!最初っからやっとけやぁ!!」
クソジジィに追撃の左フックを決めてやろうと思ったら、今度は村民たちが立ちはだかってくる。
「スーラー様!ドーシュ司教は何も悪くありません!それよりもスーラー様も一緒に太陽へお祈りしましょう」
「てめぇもコロっと鞍替えしてんじゃねぇ!!」
前に飛び出してきたのは眉間に傷跡があるエルフでしたが、殴り飛ばしましす。
「スーラー様!落ち着いて!」
「うるせぇ!!てめぇらのせいで寝れてねぇんだよ!!落とし前付けろやぁ!!」
「争いは何も生みませんよ!」
「昨日までなんて言ってたか思い出せボケがぁ!!つぅーかお前らなんでそっちなんだよ!!ざけんじゃねぇよ!!」
こうしてなぜか1人反乱軍となった私は、この場にいる全員に殴り掛かるのでした。
次に私が目を覚ましたのは、薄っすら赤い光が部屋に入り込み1日の作業が終わるくらいの時間でした。
ですが私は起き上がれません。えぇ昼間に反乱を起こした私は、ドーシュ様の魔法によって捕らえられ気絶させられたような気がします。
なぜ確定じゃないのかと言えば捕えられた後のことを覚えていないからでして、状況的に眠らされたか気絶のどちらかでしょうが、あの時の私は興奮状態だったのできっと気絶でしょう。
ですが今重要なことはそんなことではありません。そうです、私が反乱してしまったことです。
私は反乱を止めるために東奔西走していたはずが、気づけば反乱していたなんてなんの冗談でしょうか。
しかし私がドーシュ様に牙をむいて殴り掛かってしまったのは、どれだけ言い訳をしたところで事実。
父上には既にオウキ様より下賜された魔道具で連絡済みで、予定を変更して急遽夜には戻ってくるようです。
あとは私がオウキ様にご連絡を入れて処分が下されるのを待つだけなのですが、少しでもエルフ族にご慈悲を賜るためにもドーシュ様に非礼を詫びなければいけません。
そのためにもまずは父上にキセトの町で買って頂いた生地の良い服を着て化粧を整えます。
これでもしも今着ている服が死に装束になったとしても悔いはありません。
もちろん部屋にある私物も一か所に纏め、簡単ですが遺書も分かりやすくテーブルの上に置いておくので、後片付けも簡単でしょう。
しかしこれだけ準備しても、いざ部屋を出ようとすると足が竦んでしまうもの。
けど私はエルフ村を率いていた父上の娘、つまり村長の娘なので責任を取らなければいけません。
自分の頬を叩いて気合を入れなおし、いざドーシュ様の元へ。
「ドーシュ様、いらっしゃいますでしょうか?」
ドーシュ様のお部屋をノックしましたが返事はありません。しかしドアの隙間からうす暗い光が漏れているので、いらっしゃることは確実。
強引に自室に参上するのは失礼かもしれませんが、それでも族滅を避けるためには失礼かどうかなんて気にしている場合ではありません。
「ドーシュ様、失礼します」
魔法で死ぬかもしれない恐怖を抑え込み、私はドアを開きました。
「いいぞぉ!もっともっとじゃぁ!」
なぜかそこはむさくるしい男たちが一心不乱に汗を流していました。
ま、またこのパターン……?い、いいえそうだったとしても私はドーシュ様に謝らなければ!
「ドーシュ様!」
「おぉスーラー殿か」
ドーシュ様と目が合いましたが、いきなり魔法を撃たれなかったので一安心。
ですが何時までも生にしがみ付いていては責任を果たせません。
「ドーシュ様……昼間の件について大変申し──」
「あぁ~そんなことどうでもいいぞ。それよりも!スーラー殿も我らが神事に加わらんか!?」
……は?
「ふぅ……」
汗を流し終えた私は自室に戻ってきました。
足腰を重点的に鍛えるとドーシュ様が仰っていたように、太腿から下は産まれた手の小鹿のようにプルプルと震えています。
腕もいきなり動いたからなのか、それとも必死に事情を聞き出そうとする父上を押し退けたからなのか、脚よりもマシですが倦怠感を覚えます。
ですが私はそんな体に鞭打ち、纏めていた荷物の中から昨日飲んでいたお酒と甘辛味噌漬けみょうがを取り出すと、テーブル上の紙を振り払って置きました。
うん、月も綺麗だし食べ物も美味しい。それでいいじゃない。
また明日も頑張ろっと。
元々スーラーは元荒くれという設定をしようかと思っていましたが、気づけばギャグ要員みたいになってましたの巻。
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