2-8 やっとスタートライン
難民たちがエルフの村にやってきたわけだが、問題はまだまだある。
その問題の中でも特に重要な案件は、命を守る村の城塞化についてだ。
ランドに初期草案のまとめを任せていたわけだが、そろそろキセトの町での戦闘が予想される。
それまでに絶対長期間かかる城塞作りには着手しておきたい。
だから難民たちの説得は亜人種としてまだ警戒の薄いエルフたちに任せつつも、必ず村に残ってもらうように指示を出しておいた。
迫りくる敵に対して、共同前線を張って命を守るためにという理由で。
これはエルフから他村の人間の救援を頼まれた時から考えていたことで、どう考えても50人程度の村民では生活できない。
いや正確に言えば安全を確保することはできない。
ほぼ全員が農民か職人であり、狩人は数少ないだから。
それに人数が多ければ多いほど多くの意見や頭脳が集まるから、俺たちの最終目標である元の世界への帰還も早まる。
まさに一石二鳥、三方良しの条件だから俺たちも骨を折って関係のない人間を助けるのに手を貸したわけだ。
「それで、エルフとして意見は?」
作戦室で俺の仲間とエルフ代表の村長、あと難民としてやってきた鬼人族とハーフゴブリン族、ハーフリング族の各リーダーがイスが座っている。
「エルフの総意として、村にある建物だけは必ず欲しいということでした。それ以外の建物は正直どのようなものがあるのか分からないため、判断できません」
今村にある建物と言えば、家と集会場、倉庫、作業所、畑くらいで、村には商売という概念も無かったから商店はない。
「家は当然として、集会場は今居る作戦室のような場所、作業所については作る物によって工房という形で分ける予定だが、問題ないか?」
「えぇそれで問題ございません」
エルフの村長は満足そうに頷いているが、後々商店を作るから商売という概念を教えないといけないな。
「次、鬼人族の要望は?」
難民の中でも最も血気盛んな鬼人族は、1日経って落ち着いたとは言え敵意が滲み出ている。
話を聞けば鬼人族は人間と常に戦争を繰り広げていた戦闘民族で、今回見つけたのは偶々戦争に負けて森を彷徨っていた時に見つけたグループらしい。
戦闘民族らしく最も強く賢い者にしか従わないと公言していて、鬼人族をボコボコにしたオルクスに従うことを決めている。
だが俺についてはよく分からん人間の癖に、強者であるオルクスを支配しているとかなんとかで嫌われているみたいだがな。
「鬼人族は飲む所、寝る所、戦う所、武器を貰える所があればいい」
鬼人族のリーダーキレツが腕を組みながら答える。
鬼人族は大きい種族らしく平均身長が2メートル、キレツに関してはオルクスとほぼ同じ2.5メートルもあり、難民側の席では他が小さいから際立って目立つ。
「ふむ。飲む所は酒場、寝る所は家、戦う所は練兵場、武器を貰える所は武器庫か鍛冶場になると思うが、恐らく鬼人族の要望には応えられるだろう」
「分かった。だがワシたちに心配は無用。嫌であれば別の場所に行くだけだ」
元々傭兵をやっていたというだけあって、住処を変えることにそこまで抵抗は無さそうだから、それも事実なのだろう。
「よし、それじゃあハーフゴブリンは?」
鬼人族の足元で戦意を見せていた緑肌の小人は、ゴブリンと人間の血が混じったハーフゴブリンという種族だ。
通常の人間と変わらない知能とゴブリンとしての俊敏性を併せ持ち、NRGでも嫌われ種族筆頭だった。
理由は簡単で元々ゴブリンというのは雄のみの種族。
そこに人間の血が混じる光景は想像が容易く、侮蔑の対象として山奥にひっそりと暮らすことが多かった。
俺としては祖先の罪が子孫に被るとは思っていなかったが、どうしても能力値的に貧弱だったから仲間にはしていない。
「あっしらは特に……。強いて言うならあっしらの身長に合わせた造りや工夫が欲しい」
ハーフゴブリン族の族長ゴススが、片時も俺から視線を外さず言う。
一応この村に残ることには同意しているが、何かあれば即座に逃げ出す算段は付けているだろう。
「ふむ大きさ問題、ね。これはハーフゴブリンに限らず、平均的な大きさを基準に大小どちらにも使えるよう調整する必要があるな」
ネットでNRGの種族一覧とか流し読みした記憶はあるが、平均は確か人間サイズだったはず。
だが今ここで人間サイズを基準にとか言えば批判は必須だから、敢えて言わないが。
「分かった。最後ハーフリング。何かあるか?」
最も数が多かったが戦意の無かった種族、ハーフリングの村長であり家長のポルソン・エイベル。
ハーフリングは家族で固まって村を形成するらしく、今回難民としてやってきたのはエイベル家というわけだ。
「私どもはハーフゴブリンの皆様と同じ要望でしたので構いませぬ。ただ、私どもから出せる戦力は、後ろにいるアーロンだけ。それでもよろしいか?」
確かにポルソンの後ろにはもう1人ハーフリングの者がおり、その者の腕は大きく膨らみ顔つきも険しい。
「ふむ……敵と戦うと言っても敵と顔を突き合わせて切り結ぶ者には限らない。後ろから敵を攻撃したり味方を補助する者、食料や武器といった補給物資を運ぶ者、戦闘場所や自分たちの住居を整える者と様々な役割がある。別に必ずしも前線で戦えと言うつもりはないから安心しろ」
「おぉ、それは重畳。私どもが出来ることは追々確認させていただきましょう」
ポルソンがそう言って頷いているが、他の2人と違って表情の変化に乏しいから内面までは分からない。
だが今は仮とはいえ了承を得られたということでいいだろう。
一通り意見が出終わってそろそろ第1回目の会議も終わり、そんな空気感が漂い始めるが、残念ながら1番長いであろう俺が残っている。
俺は後ろに振り返り、今まで上げられた事項が纏められたホワイトボードを確認すると、その横には満面の笑みでエンメルがマーカーペンを握りしめ満足気に眺めていたが、これからのことを考えると少しだけ哀れだ。
「よし、それじゃあ最後に俺たちの要望だ。簡単なところから話始めると……」
俺はつらつらと昨日のうちに仲間たちと話し合った内容を矢継早に言っていく。
まず話題にしたのは、城塞を築いていく上で明らかに足りていない土地を確保するために開墾しなければいけないこと。
元々50人くらいが暮らす1つの村を、最低でも150人ほどを暮らせる都市に変貌させる、しかも多種多様な防衛機構を組み入れてだ。
少なく見積もっても3倍くらい、普通であれば5倍くらいの敷地面積が欲しい。
そして城塞の中央に鎮座する城と周囲を囲む城壁、さらに城壁の外から本格的な住居や建物、商店街を作り、そのさらに外側に城壁を作り、最後に水堀を通す。
これが必要最低限の防衛設備を入れた都市計画で、まだまだ馬出か外堡のどちらにするかとか、尖塔を作るのかとか決めていない。
ただ魔物が蔓延るこの世界では、外側の城壁が最も固い西洋系の城になるとは思っているけど。
「それは……とても大きいですな」
エルフの村長の口からは曖昧な言葉しか返ってこないが、仕方ないと思う。
キセトの町は一応城壁はあったけど、水堀どころから空堀も無かったし、何より城壁で言うというところの外郭はあったが内郭は無かった。
あれがこの世界の一般ならば、俺の出した総構え形式のこの構想は理解できないくて当然だ。
「ただ今言ったのはあくまで防衛についてのみ。生活については一切何も含めていない。だから水とか食料についてだが……それはこれを頼る」
そう言いつつ取り出したのは、魔物から採取できる魔石だった。
「それが?」
「よくぞ聞いてくれた、えぇとゴススだったか?この魔石を使って俺たちは魔電の力を利用する!」
この宣言はNRGなら間違いなく盛り上がっていたはずなのだが、魔電なんてものが普及していないこの世界では、ただ静寂だけが残ってしまった。
魔電、それはNRGの世界で用いられたほぼ電気のような代物だ。
運営がそのまま【電気】という言葉を用いるのはファンタジー世界には似合わないと思ったのか、魔石と消費する面倒な仕様にして電気と差別化を図っている。
魔電の作り方は非常に簡単で特殊な炉の中に魔石を放り込む、たったそれだけ。
放り込む魔石の質と大きさによって発電量が変わるなどの性質を持っているが、1番面倒なのは特殊な炉を使うことでしか発電きないこと。
この特殊な炉の正式名称は【暴食の口】と言い、通称魔電炉。
ある程度一定間隔ごとに設置されていて、基本的に作ることはできない。
だからNRGで国盗り合戦が起きた時は真っ先に魔電炉が狙われ、どれだけのプレイヤーが魔電炉のためにお金を費やしたことか……。
ただいつかのアップデートで魔電炉が作れるようになったんだが、その条件がほぼ達成不可能な【クラフター特位職であること】だった。
そんな特殊すぎる特位職持ちなんてほとんどいなかったんだが、物好きだらけのパーティーだった俺たちにはいるんだな。
おっと話を戻して。
そう、俺はこの城塞都市に魔電を通して、快適に過ごす予定なのだ。
何ていったって俺は生粋の現代っ子、電気のない生活なんて送ったことがない。
まだパソコンとかスマホを操作してなくても我慢できるが、真っ暗で何も見えない夜とか何をするにしてもアナログな方法には慣れていない。
何より魔電を使った取水と排水は、生きる上で必須事項なのだ。
取水は言わずもがな飲み水の確保に必要だし、排水は衛生面でかなり重要。
排水技術がそこまで進化していなかった中世の城塞都市なんて、堀とか城壁の外に糞尿を放り出して疫病を生み出していたわけだからな。
だから取水と排水のためにはポンプが必要であり、それを動かすためには魔電が必須。
俺は誰も理解者のいない会議で魔電の重要性を説いたが馬の耳に念仏。
だがここは俺が支配者であることを理由に押し通させてもらおう。
ちなみにこの土地の支配者はエルフ村の村長から正式に俺に譲られた。
戦力が違いすぎるっていうのもあるが、何より多種多様な種族を纏められる自信がないからだと。
その代わりにスーラーをより強く推してきたから、抜け目はない。
「さて最後にこの防衛や撃退用の軍隊だが……これは後日にするとしようか」
理解できない単語をただ捲し立てられ理解が追い付いていない各種族のリーダーと、後ろでオーバーヒートして停止したエンメルを見たらそうとしか言いようがない。
「さて、早速だが城塞都市の建築に着手させてもらう。現場監督として外でドワーフの男が待っているから、各自そいつの指示に従うように」
俺はそう言って会議の終了を宣言、みんな頭を傾げつつも作戦室から出て行った。
まだまだ多くの問題点は残っているが、やっと城塞都市のスタート地点に立てた。
いや図案とか都市草案、材料確保すらしていないから、まだスタート地点に立つ準備ができたところかもしれない。
あぁ~こんな面倒ごとになるなら、俺たちが最初にいた穴を拡張して秘密基地にした方がよかったかもなぁ。
でもそうすると快適な生活とか研究もできないってことを考えると、これが1番なのかも。
「旦那~!適当に素材を置いてくれぇ~!」
俺は外から聞こえてきたランドの声に溜息を吐くと、誰もいない作戦室を後にした。
Q.魔電なんて便利な物があるなら、どうしてこの世界に広がっていないの?
A.炉はかなり特殊な施設だからです。それに魔石の主な用途は魔道具に使う消費物という認識も加わっています。
Q.え?それでも発展はするんじゃない?
A.RPGでたった3枠しかない特位職の枠なのに、クラフターで枠を潰す変人はほとんどいません。そしてジョブという概念自体薄いこの世界では、ジョブを取るという認識もないため発展していません。
Q.建築家の特位職って言ってるけど名前は?
A.決めていません(迫真)!!レオナルド・ダ・ヴィンチが1番合ってそうな気がするけど、多才すぎて他にのジャンルに使えそうで……。
以上、設定の裏話的なお話でした。
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