2-4 コミュ力は皆無、戦闘力は過剰
『はい。はい。承知しました。はい。それでは。エフィー、アウト』
コールを切ると、さっきまで聞こえていたオウキ様の声が消える。
今頃あのエルフのチビ女と一緒に楽しくやってるかもしれないと思うと、心がざわざわする。
けどクヨクヨなんてしていられない、私はオウキ様の期待に応えるんだ。
「ドーシュ、道もっと広げて」
「ふむ?それくらい構わんが……どうしてじゃ?」
「撤退路とする」
「なんじゃなんじゃ?もうすぐ着くと聞いたからって、ビビっておるのか?」
この狂木ジジィ……今すぐ燃やしてやろうか。
ちょうど今真っ暗な森を通っているから、それはそれは素晴らしい松明になる。
けど、オウキ様の期待を十全に満たすためには、こんな狂木ジジィも必要。
「違う。ここは村民たちを連れた時の撤退路」
「ほぅそうじゃったか。ならば是非も無し……と言いたいじゃが、偵察を鑑みた結果か?」
「……違う。けどここは彼らから聞く限り必ず通る」
背後にいるエルフの村から連れてきた案内人兼紹介人の狩人を見ると、彼らもコクコクと頷いている。
「ふむ、そうだとしてもじゃ。別にエルフの狩人たちが信用ならんと言っているわけではない。空からの情報も含めた方が正確な判断は必要じゃろ」
「……じゃあドーシュが聞いて。私に押し付けないで」
「ふむむ……深刻じゃなぁ。まぁいいじゃろ、『コール・ヘレン』」
今のヘレンは分かりやすいくらいピリピリしてるから、あんまり話したくない。
きっと怒っている理由も私と一緒だから、どう声をかけて良いかもわからないから。
それに私が仲良くできる自信なんかないから、コールすらも嫌だ。
『なんじゃと!?あい、分かった。すぐに向かう。待て、まだ隠密中じゃ!それに状況確認が……この馬鹿者めっ!』
途中まで静かだったドーシュが突然騒がしくなり、ヘレンの名を叫ぶと口を荒くした。
「ドーシュ、ヘレンは何を?」
「ちょうど今、村が襲撃を受けている最中らしくてな。あやつが単身突撃したようじゃ」
「単身突撃?それはまずい」
「じゃろ?だからエルフの御仁方、申し訳ないが急がせてもらうぞ」
ドーシュは狩人たちの返事を待たず、私たちの足元に大きな根を作り出す。
「捕まっておれよ!」
私はいつもみたいに掴みやすい出っ張りに脚を引っかけたけど、後ろの狩人たちは哀れなくらい必死に根にしがみ付いていた。
「それで、これは?」
破壊された小屋や村を横目に、辿り着いた岩肌に立っていたヘレンに私は聞く。
けど私の質問は後ろからの悲鳴でかき消された。
「こ、これは……!?」
「ひ、ひぃっ!」
未だに根にしがみ付いていた狩人から聞こえたと思うと、地面に落ちて呻き声をあげている。
情けないと思ってしまうけど、初めて見た人なら仕方ない。
だってヘレンとその周囲は赤色の絵具をぶちまけたような惨状が広がっているから。
しかも落ちてる松明でヘレンが照らされているから、いつもより恐く見える。
「単身突撃とは、まったく。それで、怪我はしておらんじゃろうな?」
「あん?ドーシュか……問題ないぜ」
手に持っていた何かを勢いよく投げ捨て、さっきまで顔を出していた殺気は鳴りを潜めた。
それが何だったのかは、背後の呻き声が静かになったことから分かると思う。
「それで、何があったんじゃ?」
「何もねぇよ。ただ人間が村を襲ってたっぽいから殲滅しただけだ」
「ふむ。それで村民は無事なのか?」
ドーシュに問われたヘレナは軽く顎をしゃくると、ライトでその先を照らす。
するとしゃくった岩肌の先のには、人間の半分サイズの小さな穴が空いていた。
「……おい、ヘレナ。まさか埋めたとは言うまいな?」
「失礼だな。自分たちからここに逃げ込んだんだよ。文句ならこいつらに言え」
相変わらずオウキ様の前とそれ以外では態度が全く違うヘレン。
それと普通に話せるドーシュはすごいと思う。
「あい分かった。それじゃあ村民との交渉は……っとと、エフィー、お主が指示を出せ」
「え?」
突然呼ばれたから素っ頓狂な声を上げてしまった。
「どうして私が?」
「どうしてって、お主がこのチームのリーダーじゃろうが」
「そうだけどドーシュがやって。それが効果的でしょ」
「えぇい、その役目はお主がオウキ殿に任せられたんじゃろ。だったら頑張って務めを果たさんかい」
それを言われると耳が痛い。
私は肺から一旦息を全部出してから、改めて指示を……
「んじゃアタシは偵察行ってくらぁ。後はよろしく」
私の指示よりも先にヘレンは飛んで行っちゃった。
偵察をしてくれるのは嬉しいけど、範囲とか目的とかも決めてないから正直使い物にならない。
けどホっと胸を撫でおろしている自分もいる。
「あぁ~お主らは全く……」
「うるさいドーシュ。あなたは周囲の木を密集状態にして矢も魔法も通さないようにして不意打ちを防いで。その後は周囲の警戒を」
「警戒などヘレンの領分じゃろうに。じゃがまぁ、あいわかった。後は頼んだぞ」
ドーシュんはお小言を吐き捨てると、魔法を唱え始めた。
今ならこの狂木ジジィを簡単に射貫けるけど、私は気持ちを……切り替えるか。
穴のあいた岩肌に近づき、私は息を吸って。
「も、もうひぇきはいないからだいひょうぶ!」
……噛みまくった、帰りたい。
けど今交渉できるのは私だけ。
いや、一応交渉役にエルフの狩人を連れてきてる、ううん連れてきてた。
今は白目向いて何の役にも立たないけど。
ただ私が恥をかいたのに、何も動きがないのはムカツク。
「とにかく、で、でてこい!」
よし今度こそ言えた。
穴から何か物音が聞こえ始めたから、きっとこの土竜も聞こえたと思う。
けどそれでも一向に姿を見せないから、もう1回呼びかけをしようかと思ったら声が聞こえた。
「お前らが敵じゃない証拠を出せ!!」
「敵じゃない証拠?そんなの出せるわけないじゃない」
「やっぱり見ろ!こいつらは敵だ!!」
穴の中で怒声やら罵声が聞こえてくるけど、本当に面倒くさい。
「ドーシュ。おがくずのクッションを作ってて」
「それは構わんが……何をするんじゃ?」
「別に。こうするだけ。『タイフーン』!」
私は穴に向かって風の中位魔法を唱えた。
「お主、まさか!?」
ドーシュは驚いてる、けどもう遅い。
穴から飛び出す暴風は茶色だったけど、徐々に透明さを取り戻していく。
うん、そろそろ……。
スポーンッ!
そんな音が似合うくらい突然よく分からない物体が暴風の中から飛び出してきた。
これで光ってたら流れ星みたいに見えたかもしれないけど、残念ながらその物体は暗いからよく見えない。
でも、さっき作らせたおがくずの山には、ちゃんと突き刺さってる。
うん、これで問題なし。
「ドーシュ。これからズラすから、もっとおがくずを作ってて」
私の言葉を待っていたのか分からないけど、それからはさっき見た物体が何回も何回も飛び出しては、おがくずの山に突き刺さっていくのを眺めた。
「ん、これで全部かも」
「う~む」
私の報告にドーシュは難色を示すばかりで、労いの言葉もかけてくれない。
「なに?上手くいったからいいじゃない」
「いや、確かにそうかもしれん。そうかもしれんが、これはのぉ……」
足がニョキニョキと生えた黄色い山を見ても、別に私もやりたくてやったわけじゃない。
「まぁいい。ワシが介抱しておこう」
「よろしく」
さて私は改めて中の確認を……。
「うぉぉぉぉ!!仲間を返せぇ!!」
すると穴の中から突然、小さな人間のような奴が突っ込んできた。
そいつの大きさは普通の人間の半分くらいで、それ以外の特徴はあんまりない。
あ、強いて言うなら飛んでいった物体に比べたら圧倒的に腕と脚が盛り上がっているというくらいかな。
でも人間を敵視してるってことは、多分亜人種?
じっくり観察していると、その小さな亜人種は影で見えにくい位置に構えたナイフを持って突貫してくるけど、持っていた弓でそのナイフを弾き飛ばしてやった。
「くそっ!だが負けない!!」
何こいつ。
今度は拳を握りしめて、格闘スタイルに変わった。
「なに?私忙しいから、あっちで大人しくしてて」
「うるせぇ!!この人間の手先が!!」
多分この小さな亜人種の渾身の右ストレートだと思う。
けど肉体強化もレベルも無い拳なんて、痒くなる虫の方が厄介。
頭を少しだけ左に逸らして、足を引っかけてやった。
「なにぃ!?」
「それじゃ」
後は宙に浮いた小さな亜人種を、弓でホームラン。
うん、また1つ黄色い山の装飾が増えたけど別にいいでしょ。
さてと、さっさと中を確認して終わらせよっと。
結局岩肌に作られた洞窟の中にはそれ以上いないみたい。
まぁ呼びかけただけで中に入ることはしないから、本当にいないかは分かんないけど。
けど見た感じさっき私と遊んだ奴が1番強いっぽいから、きっといないと思う。
「ドーシュ、撤退準備は?」
「おぉエフィーか。うむ、やはりと言うべきか、彼らはかなり怯えているみたいで話にならん」
木の檻に入った小さな亜人種を見てみると、一部が起き上がっているみたいだけど、暗いし檻が一部屋分くらい広いから表情まで見えない。
いやどんな表情をしてるかなんてどうでもいいけど、このままだと帰りにくいから勘弁して。
こういう時に役立つのがエルフの狩人なのに、こいつらさっきから眠ったまま起きる気配もない。
寝息も偶に聞こえてるから多分寝てる、本当にむかつく。
「仕方ない。ドーシュ、この檻に入れたまま連れて行く」
「なんじゃと!?彼らはあくまで難民であって捕虜じゃないじゃぞ!?」
「文句言うならドーシュが説得して。あと、ヘレンも帰ってこないからどうにかして欲しい」
「う、うぬぅ……」
ドーシュが呻いたまま押し黙ってしまったけど仕方ない。
説得できるなら最初からしてる。
無理なことは無理なの。
「村民の件はわかった。ただヘレンについては……」
またドーシュのお小言が始まるのかと思ったら、炎の轟音が鳴り響いた。
そして続くのが地面を割るくらい豪快な打撃音。
私はこんな非常識な音を出せる人物なんて、1人しか知らない。
「……はぁ~」
「ドーシュ、溜息吐かないで。まずはヘレンを回収する」
頭を振るドーシュに文句を言いながら、私たちはさっきの轟音の震源地に向かうのでした。
能力はあるのにホウレンソウをしないメンバーのお話でした。
狂っている時1番おかしいのはドーシュで、それ以外なら1番まともなのもドーシュです。
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