2-2 キセトの町へ・前編
「ふひぃ……疲れたぁ……」
俺はそう言って、腰を反り天を仰ぎ見る。
ペキペキと腰から凝った音がなり、細い道を行く人々がこちらを不審な目で見てくるが関係ない。
「あらオウキ様、後で腰を治してあげましょうか?♡」
「いや結構だシーラ。これくらいなら俺1人で治せるし、精神的な疲れの方が大きいんだよ」
「あら残念」
その豊満な肢体を押し付けてきたシーラを追い払い、改めて俺は目の前に聳え立った城門を見る。
エルフの村長から聞いていたように、ちゃんと石作りの城壁だが上部が崩れてかけている。
樹海から出てくる魔物を阻むだけで、侵略者の撃退は一切考えていないらしいからな。
とりあえず、このまま門まで行って中に入ろうか……っとその前に。
「オルクス。今の俺は何に見える?」
「我が主。エルフ、見える」
「そうかそうか、それなら問題ないな。オルクスも立派なオークに見えるから大丈夫だ」
「我が主。感謝」
オルクスはいつも着ている銀色のフルアーマーではなく、緑色の肌を見せつけるように胸当てと腰当という戦士装備をさせている。
しかもサイズを縮めていない本来の巨体だから、これで人間に間違われることは無いだろう。
当然シーラもいつも魔法で人間の足に変形させているが、今回は尾ひれになってマーメイドであることが一目でわかる。
そして最後、俺はもう1人の同行者に目を向けた。
「それで、町に入る準備はできていますか?スーラー」
「はい。出来ています」
エルフのスーラーがそう力強く頷いてくれた。
本当であればスーラーではなく村長を連れて行く予定だったが、出発前日に開いたエルフの村長を招いての会議で問題が発覚したのだ。
「この村には私が残っていないと、村民の統制に不安が残ります」
考えてみれば当然のことで、占領したばかりの土地にいた指導者を引き抜き、ごくわずかな監視員しか残さなかったら問題しかない。
だから村長の言は最もなのだが、俺的には動かせる人員が不足している今、取らざるを得ないリスクだと思う。
「オウキ殿の言うことも正しいと思います。ですが、領主に救援物資の相談や戦闘があったことを報告するためには、ある程度の立場を持っておかないといけないのも事実です」
村長の反論に俺も頭を抱える。
そこらへんにいる一般人の言葉とお偉いさんの言葉、どっちを信用するかは自明だ。
だからこそ村長をという話だったわけだが……。
「えぇ。そこで私の代わりにスーラーを連れて行ってもらえればと思います。村長の娘という立場もありますし、何より何回か連れて行っているので道案内もできる。問題はないでしょう」
「……確かに」
これで立場や道案内の問題は、村長を連れて行くのと遜色ないほど解決できたと言っていいだろう。
そう、この問題は。
「他に立場が明確で連れて行けるエルフは?」
「いません。ここは村ですので、ちゃんとした立場なんて無縁でしたからな」
「それなら一般エルフを使者とすることもできるだろ?」
「できますが、使者だと証明できる物なんて用意できません」
……うぅ~ん、困った。
本当にスーラーを連れて行くのに問題が無いことが問題なのだ。
現に今も俺と村長の会話で、どんどん殺気と陰気を強める馬鹿者が2人もいるのだから。
間が悪いことにその馬鹿者2人とか今回別行動だというのも、ここまで悩む原因にもなっている。
かといって2人をこちらのチームに入れてしまえば、南の村に行くチームが立ち行かなくなってしまう。
俺は胃と視線の痛さに耐え、1つの決断を下した。
「分かりました。スーラーを連れて行きましょう」
結果、朝から不機嫌な2人を宥めたり、慣れない森を移動したりと、町に入る頃には精神的な疲労がピークに達していた。
スーラーが気を使って立ち並ぶ屋台を紹介してくれたが、元々ウィンドウショッピングを楽しめる質ではないから何も落ち着かん。
それにずっと入院していた弊害かそれとも元来の性格なのか、人込みというのが辛くて仕方がない。
だからなのか今はとにかく辛いことを終わらせて、それから人気の少ない場所に腰を下ろしたい。
「すまんスーラー。先に用事を済ませてしまおう」
俺はそう頼むと、スーラーは戸惑いつつ町の中央にある領主館へと連れて行ってくれるのだった。
既に太陽が頭上を通り過ぎた大通りからは、食欲をそそられる匂いに満ちていたが、全てを無視して歩を進める。
そして到着した領主館を見て、唖然とした。
「オウキ殿?どうしましたか?」
護衛設定を守りつつスーラーが心配してくれるが、その表情は真剣である。
「え、えぇとここってちょっと豪華な宿屋か何かでは?じゃないと、こんな道路沿いにあったら……」
「い、いえここが領主館が間違いありません。手続きの衛兵もおりましたし」
た、確かに門の前にはフワフワの尻尾がある衛兵が2人立っており、スーラーが何か用件を伝えると1人が館の中へと入っていった。
見た感じ3階建てでレンガ造りの家で、ちょっとした庭園と全体を囲う鉄製のフェンスがあるだけ。
それ以外の防備は姿形もなく、腕っぷしの強い者であれば真正面からでも落とせそうほど貧弱である。
「あ、もしかしてあそこに見える盛り上がり部分に領主館があったのか?」
「よくお分かりになりましたね。お父様の話では元々そこに領主館があったらしいのですが、壁が崩れたのと交通が不便という理由でここに移転したみたいです」
「……は?」
こ、交通に不便だからって防備を弱める奴があるか!?
いやもちろん平時ならばいいかもしれんが、もうすぐ戦争が始まろうこの時にまだ変えてないのか……?
「あ、オウキ殿少しお待ちを。私が戻ってきた衛兵に話を聞いてまいります」
領主館から出てきた先ほどの衛兵を見るなり、スーラーは門前へと戻っていった。
俺はそれを見送った後、周囲を見渡してから静かに護衛に徹していた仲間にだけ聞こえる声で言う。
「作戦変更。協力取り付けは無し」
「承知しました」
「承知」
俺が何を言わんとしているか分かっている仲間の2人に安堵しつつ、こちらに駆け寄ってくるスーラーを迎えるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「本当に申し訳ございません」
「大丈夫だから、とにかく顔を上げてくれ。目立って仕方がない」
何度も頭を下げるスーラーを宥めつつ、周囲のテーブルを確認するが誰もこちらを見ていない。
今俺たちがいるのは場末の酒場で、明らかにガラの悪い亜人が闊歩している。
なぜ領主館に向かった俺たちがここにいるのか、それは至極簡単で領主が忙しくて会えないから。
正確に言えば領主の代わりに役人が話を伺ってくれることになったのだが、その役人も今は忙しいから夕方また来てくれと暢気に歩いて伝えてきた。
ハッキリと言えば舐められている。
たかがエルフ村の村長の娘とその護衛だろうという見下しが、衛兵の視線からありありと伝わってきたのだから。
危うくオルクスがその衛兵の頭を潰しかけたが、問題を起こしたくない俺は急いで腰を落ち着かせられる場末の酒場に来たというわけだ。
だからスーラーは正直悪くないのだが……。
「店主さん。これでこちらの方々にお食事をよろしいでしょうか?」
そう言って彼女がカウンターに出したのは木の弓矢。
一瞬領主の趣向返しでもしているのかと思ったが、スーラーの顔は至って真剣であり、酒場の店主は瞬きをしている。
「あぁすまん店主。これで頼めるか?」
俺はスーラーと店主に割って入りポケットから出したように見せたのは、俺の持っていたNRGのお金だった。
この世界で俺たちの持っているお金が使えるのか分からないから、賭けになってしまったのだが
「あいよ。お客さん、今度からお金も知らない子を連れてこないでくれよ?」
「あ、あぁそうだよな。悪かった今度から気を付けるよ」
肩を透かして金を店主を受け取ってくれた。
「それで、注文は?」
「あぁ~、お任せで。そうそう、俺の連れがオークなんだが……」
肉メインにしてくれないかと言いかけたが、俺は言葉に詰まる。
「あん?オークだからなんだ?」
訝し気に聞いてくる店主は、その豚鼻を鳴らした。
見た目とかではなく本物の豚鼻を。
「その、彼が好きそうなものを頼む」
「オークってことは肉だろ?あいよ、腕を振るってやるよ」
それは比喩的な意味で言ってるんだよな?
本当に腕を振るって自分の肉を焼くとかじゃないよな?
だがそれを直接聞く勇気は俺には無かった。
そうして金を払った俺は仲間たちの座るテーブルに戻ってきたのだが、スーラーが謝りっぱなしになったというわけだ。
「本当に申し訳ございません。村ではこれでいけるのですが、町では不可能であったことを失念しておりました」
スーラーからすればただでさえ領主で自分の失態だと思っているのに、飯代がこちら持ちになっているわけだからな。
「別に気にするな。それよりもオルクスとシーラ、この金はどうやら使えるみたいだぞ」
悪いけど今はスーラーに付き合っている余裕はない。
俺は持っていた金をテーブルに置き、仲間を見渡す。
「使える?いつも、同じ」
「あら、それはようございました。これで私たちは無一文じゃないということですね」
「あぁそうだな。オルクスとシーラの言う通り、俺たちは無一文じゃなくて金持ちだということだ」
この世界に来る前、さらに言えばダンジョンで崩落に巻き込まれる前に金策していたこともあり、今俺の懐は温もりすぎて熱々だ。
「というか、それよりも使えるということに注目しろ」
「え?なるほど、確かに使えるのはおかしいですね」
頭を傾げるオルクスを横目に、シーラはすぐに意味を理解してくれた。
そう普通別世界であるならば、俺たちが使っていたお金──NGと言いNRG Goldの略──が使えるのは明らかにおかしい。
NRGならば別におかしいことではないのだが、店主の反応を見る限り使い慣れた貨幣のようにも見える。
「お金が一緒。これが示しているのは、誰かがこの貨幣を持ち込んだ奴がいるってことだろうな。となると、間違いなくこの世界に俺たちと同じような奴がいる、もしくはいた」
「えぇ私もそう思います」
「「???」」
シーラと顔を突き合わせて議論するが、オルクスとスーラーは何の話をしているのか分かっておらず、しきりに頭うを傾げている。
スーラーは仕方ないとしても、オルクスには分かっておいて欲しいのだが……。
そんなことを思っていたら店主が大量の皿を持ってやってきた。
「へいよお待ち!まずお前さんと、そこのエルフのお嬢さんはこれだ!」
店主がそう言いながら置いたのは、緑色で染め上げられたサラダ。
見た感じレタスとキャベツ、後はキュウリ的なものもある感じだが……肉が無い。
「次にマーメイドのお嬢さんはこっちだ!」
シーラの前に出されたのは、大量の小魚に塩か何かを振りかけた海鮮盛りだった。
肉が一切ない俺のやつよりもマシかもしれないが、シーラは俺たちと食う物は変わらないから辛いかもな……。
「最後、オークのあんさんにはこれだ!」
そして出されたのは俺たち3人を合わせた皿よりも大きな皿に乗せられた、飴色の子豚一頭だった。
「あんな大金をはたいてもらったんだ。奮発したよ。ガッハッハッハッ!」
豪快に笑いながら、満足気に去っていく店主。
そう言えば適当に金を出したから、昼食の相場とか一切聞いていなかったな。
というよりも……これ店主の子どもとかじゃないよな?
そんな悪魔的な考えが頭をチラついたが、そんな考えを振り払い俺たちは遅めの昼食を摂るのだった。
ちなみにサラダと小魚だけでは全く足りなかった俺とシーラは、オルクスの食っている肉を少しだけコッソリと分けてもらった。
店主のイメージは最初牛でしたが、豚になりました。
だって千と千尋の〇隠しが悪いんや!いやあれは客側だったけど、亜人+飯屋のイメージがそれしかなかったんが悪いんや!
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