1-10 Hello World
「ふむ……捕虜といってもこんな少ないもんなのか?」
俺は武器と装備を取られ、ほぼ下着姿のまま後ろでに縛られている捕虜を見る。
男4人女2人の計6人の捕虜は、1,000人規模の軍隊であったことを考えるにかなり少ないように思う。
そして男女1名ずつ他の者よりも明らかに服が破れており、ほぼ下着姿というよりも丸裸に近い恰好をしていた。
恐らく怪我もしていたと思うが、シーラがささっと回復したから今は分からない。
「さてお前達は俺の捕虜だが、まずは所属を聞こうか」
俺は作戦室の新品のイスに座り、精一杯偉そうに聞いた。
こういう時って偉そうに聞くもんだって相場が決まってるし、何より捕虜に舐められちゃあ危険もあるからな。
ふふん、こいつら全員俺にビビってるのか震えるだけで何も答えないぜ。
「どうした?まさか俺の言葉が分からないとでも?」
「い、いえ、分かっております」
「そうか。それじゃあ、なぜ答えてくれないんだ?」
1人の女兵士が答えてくれたから、そいつに視線を向け問いかける。
「そ、そちらの、御方から、その、目が……」
プルプルと震える彼女が示したのは、俺の隣で立ち並ぶオルクスだった。
あぁ~オルクスは直接こいつらの戦闘したし、今も敵ってことで殺気丸出しだからな。
……ってことは恐れられているのって俺じゃなかったってことか、ちょっとだけショック。
「ふむ……オルクス。武器を戻してサイズを小さくしてやれ。このままだと話にならん」
「我が主……。わかり、ました」
一瞬だけ難色を示すも、オルクスはその巨体を人間サイズまで縮め両手を後ろに置いた。
「これで問題はないか?それならば改めて聞こう。お前達の所属を──」
「この化け物め!その力でまた人間を殺戮するのか!!」
ほぼ全裸の男が威勢よく叫びだした。
普段の俺ならば聞き流す罵倒だが、今回は違う。
「誰が化け物だって?そこの臆病者よ」
俺はそいつの目の前に立ち聞き返した。
「だ、誰が臆病者だ!貴様こそ臆病者だ、よくそんな化け物に黙って従い続けて──げぶぁっ!」
喧しかった男は宙を回転しながら舞い、作戦室の新たなシミになった。
いや、今の力加減ならなりかけたという方が正しいだろう。
俺は自身の足甲に付いた血を拭いながら、改めて質問する。
「さて他に俺の仲間を化け物呼ばわりする臆病者はいるか?もしいるのなら今ので済ませてやる」
足甲を拭い終わり顔を上げた俺の前には、顔面蒼白で震える4人の人間と、ニンマリと口角の上がるエフィーがいた。
そんなイレギュラーが起きたものの、イスに座り直して質問する。
「それでは気を取り直そう。お前らの所属は?」
俺の質問に人間たちは顔を見合わせた後、順番に口を開いていった。
「お、俺は第6軍開拓大隊輜重隊のエデルだ」
「俺も、同じ隊のユ、ユルク」
「私も同じでイルマです」
「あ、あたしは……そ、そう同じでアンゲリカよ!」
ダイロクグンカイタクダイタイ……ええい、そんな訳の分からん呪文みたいなものを唱えよってからに。
どいつもこいつも金髪のイケメンと美女で、目は薄緑といったところか。
「それで、あの臆病者は?」
「し、知りません……」
俺が顎で壁のシミになりかけ、シーラが作った水球に入れられて連行されている男を指す。
だが奴の名前も所属も分からないようで、全員が首を振っていた。
よし、それじゃああいつの名前は分かりやすく壁のシミ君にするとしようか。
「本当です!た、ただ降伏する時に襲い掛かってきたので……」
「襲い掛かってきた?味方じゃないのか?」
震えた声でそう弁明するイルマの声に、俺は思わず問い返した。
「え、えぇ一緒に戦ったと思うのですが……その……」
イルマはそう口籠り、その長い髪で顔を隠した。
「構わん、言え。どんな答えであろうがお前らを罰しはしないとも」
するとイルマはエデルとユルクと顔を見合わせ、か細い声で答える。
「き、きっと降伏先が魔物だっただからだと思います……」
「魔物……?」
俺はイルマの言葉を復唱しながら考える。
魔物というのは知能を持たない代わりに、心臓近くに魔力の集積所となる魔石を持った動物のことだ。
俺が洞窟で狩っていたキングエビルベアも魔物としてカウントされる。
だが俺はこの世界に来てから今まで1度も魔物を見ていないのだ。
となると考えうる可能性としては……
「つまりだ、こいつを魔物と勘違いしたという訳か?」
俺は親指でオルクスを示しながら聞くと、イルマたちは僅かに遅れて頷いた。
「まぁこの巨体なら仕方ないこと、か?」
見た目は銀色の塊だったからな、輜重部隊ってことは後方だろうから見間違うのも無理はないか。
「い、いえ……人間以外魔物だと見なされているのです」
「……は?」
俺は口を開けて固まってしまった。
何を言っているんだ?そんな雑な括りをしている奴なんて、ゲームの時ですらいなかったぞ。
「……ふぅ。一旦話を纏めよう。お前らは私の仲間を野蛮な魔物だと思ってた。それに違いないか?」
「は、はい……!」
……そう考えれば、ここまで捕虜の数が少ないのにも納得がいく。
いくら殲滅する気で戦闘したとしても、僅か7人しかいない俺たちが1,000人近くを殺し切るのは、逃げられないとは言え時間がかかる、はずだ。
それなのにほとんどが短時間で全滅したことを考えると、捕虜になることを良しとしなかった可能性が高い。
いやまともな捕虜扱いになるとすら思っていなかったら、無謀な突撃を敢行したとも言える。
「で、それならばなぜお前らは今ここで俺の前にいる?」
捕虜の話から透けて見えるジリト王国の考え方からすれば、今ここで捕虜になっているのは明らかにおかしいだろう。
俺の感覚で言えば、宇宙人に降伏するみたいなものだからな。
「お、俺たちは農村育ちで……」
「あ、あぁ徴兵されたんだ。だから僅かな可能性でも……」
イルマの後ろで汗の池を作っていた2人が言い、イルマもそれに頷く。
アンゲリカだけはその3人を睨みつけているから、きっと違うのだろう。
「分かった。それではお前らの選択が正解だったと示そう。オルクス、そいつらを……」
ある程度の話を聞いたと判断した俺は、エルフたちと同じ収容所に入れて置けと言いかけて、口を噤んだ。
ここまで人間が亜人種を嫌っているのに、逆が大丈夫な可能性はないと言っていい。
「オルクス、こいつらの見張りを頼む。逃げ出そうとした場合は、殺処分を許可する。その間に俺とエフィーは下の様子を見てくる」
そう言って、俺はオルクスのお辞儀を横目にエフィーを連れ、階下へと向かった。
元村長宅1階、現在は捕虜収容所となっている場所、そこはとてつもない熱気に包まれていた。
「人間だぁー!殺せー!!」
「やっちまえー!!」
エルフどもが叫び腕を振り上げているが、圧縮された水の壁を突破できずにいる。
「シーラ、やっぱりこいつが来てからか?」
「あら、オウキ様。えぇご察しの通り、こいつを連れてきてからこれです。ほら、起きなさい!」
どこからか現れたシーラが腕を振るうと、宙にぶら下っていた壁のシミ君が勢いよく床に叩きつけられ、今度は床のシミ君になりかける。
「いや、そいつの口は塞いでおいてくれ。喋らすとろくでもない」
「は~い」
ムクリと起き上がった壁のシミ君は可哀想に。
起きたばっかりなのに鼻からスパイス入の水を流し込まれ、そのまま粘着性のある水で口を塞がれた。
「ぐむっ!むむむぐぅっ!!」
暴れ回り悶絶する壁のシミ君を他所に、俺はエルフたちの前に出た。
「さて諸君。すでにエンメルから聞いていると思うが、戦闘は終わった。このように人間の捕虜も取っている」
俺の言葉を聞いて、空気が弛緩しエルフの顔に笑顔が戻ってくるが続けて言う。
「ただし、それはお前達エルフも彼らと同様捕虜だ。俺がお前達を自由にできるということを忘れるな」
そう告げるとエルフたちの顔から笑顔が消え、俺が降りてきた時の表示へと戻る。
うんうん、これでお前達も逆らったら人間みたいになるという脅しができたわけだ。
これで、村長とエンメル以外からも情報の聞き取りは容易になるだろう。
情報を取った後はさっさと村から離れて、次の行動を決めないといけないが……
「オウキ様、お願いしたいことがございます」
エルフの村長が俺に頭を下げながら出てきた。
「お願い?そんなことできる立場にいるとでも?」
「思っておりません。ですが、我が村を想っているからこそ、命を捨て懇願させてもらいます」
嫌な予感がプンプンするけど、話も聞かずに斬り捨てるのはせっかくの情報源を失うことを意味する。
それに最悪の場合は断ればいいだけだから、俺たちに害は及ばないだろう。
「いいだろう。言ってみろ」
「はっ!まずは感謝を。そして私どものお願いとは、オウキ殿にもう少しだけ我が村に滞在して欲しい、それだけです」
「はぁ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまった。
「お前ら……ふんっ、最初は俺が人間だからって攻撃を加えてきたのに、叶わないと知るや俺を用心棒にしようってことか」
「えぇ、言葉を変えたらそうなります」
村長のエルフを睨みつけるが、奴の表情に変化はない。
「断る。そこまでしてやる義理はない」
「それならば私たちも、これ以上の情報を与える謂れはありません」
村長は矍鑠と笑いながら答えた。
「……もう一度言っておこう。そんな立場にいるとでも?」
「えぇないことは分かっておりますとも。ですが、もしお受けいただけないのであれば、先祖伝来のものを使って自ら滅びるのみ」
「そんな戯言を信じるとでも?」
「反対にどうして信じられないと?エルフは見目がいい種族、もしもの手段を講じないほど愚かではない」
「……」
俺の知る限り、エルフにそんなアイテムか種族魔法があるなんて聞いたことがない。
だが今俺の知っている情報と、村長の言っている情報が同じである補償もないのだ。
いや、考え直せ。
今俺たちにとって何が必要であるかを。
今俺たちが欲しているものは、情報と拠点の2つだ。
ここにいるだけでその2つが獲得でき、デメリットは気軽にこの村から離れられなくなるだけ。
最悪の場合でもエルフを殲滅すればいいだけ……か。
「いいだろう。ただしお前らの下に入る気はない。だから俺にお前と同じ村長権限を寄こせ。それで共同統治という形にしよう」
俺は最大限の譲歩を入れた提案をすると、村長はにこやかな表情になり
「分かりました。それでは我らのことをよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるのだった。
最初見た時は偏屈ジジィみたいなエルフだったが、今のこいつは嫌な商売人のような気持ち悪さがある。
伊達に長生きして村長になっていることだけはあるってことか。
「最後に聞かせろ。どうして人間の俺に頼った?」
そそくさと仲間の元へ事情を説明しようとする村長を呼び止めて聞く。
「なぜ……ですか。我らは強い者の統治を是としております。それが嫌いな者であっても。そしてそれこそが種の繁栄と安寧に繋がると信じて。これは多くの方に共有している考えだと思いますが……。お答えに満足いただけましたかの?それでは説明してきますじゃ」
それだけ言い残すと、村長は再び足を動かして去っていった。
「……」
俺は、何も言えない。
強い者に従う亜人種たち、か。
それとは対照的に、亜人種を忌み嫌い殲滅せんと戦う人類。
なんだかこの世界の縮図を無理やり見せつけられた気がして、今後の事を考える俺の頭を痛ませるのだった。
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