04 朱に交われば……元からでしたか。
夏休みに入り、お祖父様の鍛錬を受けながら、お父様の手伝いをさせてもらったりして過ごしていると、久し振りにトマスが訪ねて来ました。
「あちらで出来た友人に聞いたんだけど、本当は子爵家の三男なんだって?俺、侯爵家のミッシェルの事を威張って自慢したのに恥をかいたよ。」
といきなり言い出しました。何をどう威張ったのか知りませんが、状況確認をしようと、
「トマス、僕が初等学校に転校して来た時に話したと思うんだけど、僕は侯爵家を継ぐ為に此処に来たんだ。産まれが子爵なのは本当だけど、今の籍は侯爵家に在るよ。僕は次期侯爵だからね。
それに、僕の事を何故君が、僕の知らない所で自慢するのだろうか?誰に言ったのかも知らないけど、それの責任は僕には無いと思うけど。」
と冷静に告げると、トマスは更に激怒して、
「本当、彼らの言う通りだね。その無責任な考えもあの人にそっくりみたいだ。僕は2年間も君に騙されていたなんてショックだよ。
言い訳が有るのなら聞いてあげようと思ってわざわざ来てやったけど、必要無かったみたいだね。もう、絶交するよ。次に僕を見掛けたとしても声を掛けて来ないでくれ。」
とだけ言って帰って行った。僕に付き添っていた侍従がお祖父様に報告しに行くのを見送って、多分、トリトーン兄さんに苛められた腹いせに僕を苛めていた誰かの仕業だろうと考えた。
トマスが王都でどんな目にあったかは知らないが、中等学校受験の為に2年間も勉強を教えてもらった事を棚に上げて、一方的に僕を非難する今のトマスとは友人だとは思えない。
気付こうとしなかっただけで、トマスもあの迷惑な集団と同じ人種だったんだなと、軽く落ち込んだ気がした。
友人が一人も居ない状況だったから、初めての友人に浮かれただけで、相手を見極め無かった自分が悪い。と反省して生活していると、今度はポールが訪ねて来た。
トマスがトマスの友人達を使って、僕の悪口を言い回っているそうだ。
「夏休み中で、個別に言いふらしているようだけど、休み明けの学校で騒動になった場合の対策を検討して於いた方が良いかなと思って来たんだ。
先生に対処して貰うだけで済むなら良いけど、悪質なら侯爵様のご威光も借りたいから、今から話だけ通しておきたい。」
と、告げて来た。僕も先日トマスが来た時の状況を伝えて、この件はお祖父様の耳にも入っていると話した。トマスやトマスの友人達は子爵家や男爵家、平民で構成されているから、上級貴族は問題無いと思われるが、身分を弁えないのは下級貴族に多くみられるそうで、場合によっては各家で対処させる事になるのだとか。
「子供の喧嘩で済まないのだね。トマス達は私の実家を知って私を子爵家扱いしてるみたいだから、きっと問題無いと思っているよ。
この家は侯爵家で、しかも領主なのにね。彼らは中等学校に上がったのに責任の所在も弁えないなら、家での対処も仕方ないかな。」
ポールと話しながら考えをまとめていると、侍従が連絡したのか、お祖父様が来ました。
「ポール、報告をありがとう。彼らの親には休み前に叱責したばかりだが、子供達に更生が見られないなら親に責任をとって貰うだけだ。彼らは実質謹慎中だと言う自覚が有るかどうかが問われると気付けるかどうか、自ら反省して考えを直せるかどうかで今後が決まるのだ。
休み明けにミッシェルは少し騒がしくなっても大丈夫かな。我慢出来ないなら言いなさい。直ぐに処置するからね。」
この領内に住んでいると言う事は、お祖父様の配下で有る。と言う事です。親戚でも無い下級貴族をのさばらせるなどあり得ませんから、このままでは彼らの進退は明るくは無いでしょう。
休みの後半はポールとファッブル、それにアンガスを加えた4人で剣の鍛錬や新学期に向けた予習や復習をして過ごしました。時々ポールに連れられたケビンも付き合ってくれます。剣術ですか、僕は5人中、5番目でしたが何か?………後期の実技試験に受かる最低の能力が育つ事だけを目標にしましょう。
新学期に入り少し身構えて登校しましたが、心配した様なヒソヒソ話は聞こえず、誰にも絡まれる事なく過ごせました。お祖父様がさっさと根回しをした事と、お祖母様がさり気無く御友人方に囁いて下さったからでしょう。
「まったく、平民の方が分かっているなんてなぁ。商店街でも話していたみたいで、逆にさけられていたぞ。
キース様が亡くなられてケント様を呼び戻したい。って思っていたのは侯爵様方だけでは無いのにな。大人達は皆ミッシェル様に期待して見守っているのにな。」
「ミッシェル様は気付いて無いみたいだけど、身の回りの品を全部買い揃え直したのも有って、商店街でも注目されていたんです。しかも、確認の儀式で複数の属性を授かった話も聞こえて来ましたから、流石は侯爵家の跡取りと盛り上がっていたんです。」
ポールとファッブルの二人に言われて驚きました。属性の話は何処まで言われているのでしょうか?公式には風と水の二属性を謳っていますがどうなっているのでしょうか?
「えっと、どんな噂が流れているか怖いんだけど。私の所為で侯爵家に傷が付かなければそれで充分なんだけどね。産まれが子爵家なのは変えられないし。」
ドキドキしながら呟くと、二人とも笑いながら、
「ミッシェル様はもっと自分に自信を持って良いですよ。王都に行ったトマスがどんな可笑しな話を持ち込んだとしても、それはミッシェル様が取り合わなくても良い事です。」
「今の、それからこれからのミッシェル様を私達は知っていますから、気にする必要は有りません。それに、あの子達は領都を追い出されましたから、もう会う事は無いかもしれませんね。」
力強く言う二人に支えられて私は安心出来ました。そうか、次期領主の悪口を声高に叫ぶなんて常識では有り得ないな。と理解しました。
トマスの友人達は伝手を辿ってあちこちに分かれて行ったそうです。後期始まってすぐに停学になるか、他校に転入するかを選ばせた。とお祖父様からは聞きましたけど、つまり、貴族は誰も反省していなかったのですね。
平民の商家の子だけは親と一緒に謝りに来て、泣いて謝っていました。親も騒動を引き起こした子爵家や男爵家とは商取引を中止するとお祖父様に宣言していました。勿論、今回のトマスの一件には加わっていません。
商店街でも力の強かった家でしたが、今回の件は色々と後を引いたらしく、最近は静かだそうです。でも、トマスの一件で上手く立ち回ったそうで、商店街での居場所はキチンと確保出来たとか。流石は目端の効く商人だ。とお祖父様の評価は上がったみたいです。
ポールがこっそりと王都で情報を得ていたみたいで、トマスのその後に付いて教えてくれたのですが、トマスの友人の子爵令息は王都の中等学校に転校出来たらしく、トマスを従えて威張ろうとした処、誰からも相手にされなかったそうです。
僕の名前を使って失敗したのはトマスから聞いていたのに、つい、売り言葉に買い言葉で出してしまい、嘘つき子爵家の嘘つき仲間と囃し立てられたのだとか。僕が侯爵家に移籍したのは本当ですが、知られていなければ如何とでも言えますからね。僕を虐めていた奴等には通用しないだけですが、理解出来ないでしょうね。
そんな事をしなければマトモな人達と付き合えたでしょうが、遣らかした後で気付いたとしても遅過ぎます。
あぁ、アイツらは僕の代わりに甚振る奴が出来たと喜んだかもしれませんね。




