02 心機一転。やり直しの始まり。
お祖父様の領地に引っ越したので、当然だけど学校も変わった。王都の家は中心地から外れていたので歩くには遠く、学校迄は馬車に乗って行ったけど、新しい学校はお祖父様の家の近くで歩いても余裕で通える。
前の学校では、兄さん達の傍若無人な振る舞いや、僕の着せられていた服のせいで虐められていたけど、新しい学校では誰も意地悪な兄さん達を知らないし、僕も新しい服を着ているから誰からも虐められず、一人でいても気が楽に感じていた。
僕はあまり社交的では無いし、クラス内のグループもなんとなく出来ている処にスッと入っていくスキルも持っていない。取り敢えず、どんな人達なのか観察する所から始めようかな?と考えているので焦ってはいない。
それに、図書室で初めての友達が出来たんだ。前の学校の時のように一人で本を読んでいると、同じように一人で勉強している子がいて、最初は軽くお辞儀し合う程度だったんだけど…彼、男爵家嫡男のトマス・ライアンは、
「僕は嫡男だけど王宮で働く文官を目指しているんだ。だから王都の中等学校に行きたいんだ。でも、家にはあまり本が無いから、中等学校受験の試験対策の為に図書室で勉強しているのさ。」
と話してくれた。僕はこの街の中等学校に進む予定だから、後、2年程しか一緒に勉強出来ないけど、まぁ、それは仕方がない。僕はお祖父様達の為に。という大義名分で王都の学校から逃げて来たんだからね、苛めっ子が沢山居る王都の学校になんて、友人のトマスの為だとしても行きたく無い。
ただね、一緒に勉強していてフッと気付いたんだけど、トマスはあまり勉強が出来ない。多分要領が悪いんだ。
僕は5歳の時、キルリアン兄さんに川に突き落とされて、熱が下がらなくて死にかけた事が有ったんだ。朦朧としていたその時に頭の中にいろんな知識が流れ込んで来た。この世界以外での知識っぽい物がかなり有ったかな。知らない事がほとんどだったから。結果、5日程高熱が下がらなくて寝込んだんだ。
あの時も母さんは、『キルリアンに付き纏って川に着いて行った上に、勝手に落ちた我が儘なミッシェルが悪いのよ。』って一方的に僕を責めるだけだった。僕は高熱でうなされているのに看病もされずに、ただベッドに押し込められてほったらかしにされただけだったな。
偶然、仕事が早く片付いたお陰で、予定より早く父さんが帰って来て慌ててくれたからお医者さんに診てもらえて薬を貰えたけど、そうでなかったら僕はどうなっていた事か。
あの時だって、本当に!キルリアン兄さんが!嫌がる僕を引き摺って川に連れて行ったんだ。そして川に突き落として笑っていたんだ。僕は溺れかけて悲鳴をあげていたのに。
偶然岸に流されてやっと草を掴んだ手を、キルリアン兄さんは蹴り飛ばそうとしたんだ。また川に突き落とされそうとした処を、通り掛かった近所の人が助けてくれたのに。
それなのに母さんは、助けてくれた近所の人や僕の話に耳を貸さないばかりか、キルリアン兄さんの言い訳だけを聞いて、僕を嘘ばかり吐いていると決めつけて、病み上がりの僕に、更に家事手伝いの仕事を増やしただけだったな。
「暇な時間が有るから余計な悪さをするのよね。キルリアンにまで迷惑を掛けて!」
って言って。近所の人からキルリアン兄さんに対しての話が広まったのは、キルリアン兄さんのやらかしの所為で、被害者の僕の所為じゃない!兄さん達を母さんがちゃんと躾しないからじゃないか!
熱が戻ってしまいふらふらしながら食器を洗っている僕を、帰って来た父さんが見つけて慌てて止めさせてくれたけど。既に冷たい水仕事を何時もの倍以上させられていたから、結局そのまま倒れて高熱を出し、更に2日程寝込んだんだった。
そうそう、学校に入学した後で休み時間に読んだ図書室の本の話に、転生者の話があった。僕の時は知らない知識が流れ込んで来ただけだったけど、多分、僕って転生者なのかもしれない。と思った。知らない人の人生の話は出て来なかったけど、知る筈のない知識を得て視点が子供で無くなったように感じていたから。
そう。僕は5歳の時に悟りを開いたんだ。母や兄達に何かを求めてはいけない。信じられるのは父だけ。この家にいる限り僕は幸せになれない。正直な話、我慢していたら3人に殺されてしまうかもしれない。と気付いたんだよ。
川に落とされた時だって、キルリアン兄さんは僕を助ける気は無さそうだったし、反省なんて当然していないと思う。母さんに平然と嘘を吐いていたからね。そう、あの3人は僕を虐げるのが生き甲斐みたいだからね。
で、話を戻すけど、トマスの要領が悪い。って気付いたのはその知識から。『何を』に着目せずにただ文字を読んでいるだけだから、いつまで経っても内容が理解出来ないんだ。丸暗記するわけでも無いし。そこを指摘して、僕のノートを見せたのが、友達になったきっかけだ。
トマスの今迄の勉強の仕方を見直しして受験の為に学力の底上げを手伝う事になった。…トマスは、『流石は王都の学校から転入して来ただけは有る。』って僕に感動していたけど、たぶん、違うと思うよ。他の成績の良いクラスメートを見れば分かると思う。何処に産まれたって、出来る子の考え方は同じだと思う。
図書室で二人の勉強会をしている内に他の子達も寄って来て、鬱陶しい友人擬きが増えて来た。僕は利用されてるだけの様な気がして最初から嫌だったんだけど、トマスが『僕の友人を紹介したくて呼んだ。』って言うから、諦めてみんなで勉強する事にした。
トマスは僕に勉強を教わる事のお礼として、僕に友人を作らせたかったそうだ。でも、僕は友人はトマスだけでも良かった。正直なところ、彼らはトマスの友人かもしれないけど、僕には質の悪いただの他人の距離しかない。
10歳の誕生日に、王都から父さんが来て、教会に連れて行ってくれた。10歳になると魔力が覚醒すると言われていて、その確認の儀式があるのだ。属性は遺伝する場合が多く、複数出る場合も結構有る。貴族は二属持ちの方が多い位じゃないかな。父さんもそうだし。
創世神アクリオン様に祈った後、水晶に手を翳すと、数色の輝きが放たれた。祖父母も父さんも2属性だったので父さんは一色でない事に驚かなかったけど、立ち会った神官は驚いた様だ。僕は父さんに促されて、
「水晶に出て来たのは、父さんと同じ、風と水の属性だった。」
と申告した。僕は目立ちたくなかったし、父様さんも頷いていたから僕の考えで間違いないと思う。だけど立ち会った神官は、
「水晶には二色以上の色が見えました。風と水以外の属性も授かった筈です!こんなに多くの属性を持っているなら王宮に報告すべきです。」
と言い募ったが、父さんはお祖父様の名前を出して、風と水の2属性で報告するように確約させた。その上で、多額の献金をして無駄に騒がない様に沈黙を誓約させたのだった。
祖父母宅に帰って、父さんにホントの事を聞かれたので、
「他にも、火と土と時空の属性は出ました。今までも実家の家事手伝いでこっそりと生活魔法として使っていたから、風と水と火は持っていると思っていたけど、予想より多く出ました。」
と自分でも驚いた事を伝えた。基本属性とレア属性の5属性持ちにはみんなが驚いたが、
「流石に5属性は多いな。やはり風と水以外は内緒だな。しかし、既に魔法を使えていたのか。」
とお祖父様が言って終わりになった。母さんから手伝いと称した家事全般をさせられていたからね。大変過ぎて気付いたら使っていた。と言う感覚でした。ですから魔法を使っている意識は有りませんでしたね。
属性が確定したので、僕は正式に侯爵家の跡取りとして子爵家から籍を抜き、侯爵家の籍に移動した。正式に母や兄達との縁は切れたので正直なところホッとした。お祖母様は、
「たとえ属性が1つだったとしても、ミッシェルが我が家の跡取りとして籍を入れる事は決定していたわ。乱暴で頭の悪いキルリアンとトリトーンに侯爵家は任せられないもの。今迄籍の移動が待たされたのは、あの陰険なミネルバがゴネていたせいよ。」
と憤っていたけど、僕は無事に籍を変えられたので気にしなかった。母さんが何を思って僕の籍を子爵家から外そうとしなかったのか、僕には思い付かなかったけど、愛情からでは無さそうなので、もう済んだ事として忘れる事にした。これ以上関わりたくないし。
父様もお祖父様と話し合った結果、離婚して侯爵家に戻る事になったので安心した。その後はお祝いのご馳走を食べて、翌朝、父様は王都に帰って行った。
兄さん達は1属性しか持っていないので、僕の属性の話しは実家ではしないと父様はお祖父様に話していた。頼まれて婿に入った子爵家だが、母の両親が他界した今、母さんの意見が強いし、下手な事を知らせる意味が無い。と話していた。
僕が侯爵家の籍に入り、正式に侯爵を継ぐ事になった話を聞いたキルリアン兄さんは、
『俺が侯爵になり、トリトーンが俺の代わりに子爵になれば丁度良い。爺さん達の面倒はそのままミッシェルにみさせて、爺さん達が死んだら、ミッシェルから爵位だけ寄越してもらおう!』
と母さんに強請ったらしいが、母さんに言われても父様が取り合う事は無く、兄さん達に甘い母さんも流石に此方までは来なかった。侯爵のお祖父様に逆らう事は流石に母さんでも無理だったんだと思う。
その後、父様は、キルリアン兄さんが上級学校を卒業するのを待って子爵位を渡し、コンポート子爵家から籍を抜いて、僕の後見をする為にシュバイツァー侯爵家の籍に戻って来た。
しかも、父様は自分の籍を移動する際に、今後、母さん達が父様と僕に関われない様に、王家に出す絶縁状をコンポート子爵家としてキルリアン兄さんに書かせてたんだって。侯爵位が貰えないと聞いたキルリアン兄さんは怒って、何が有っても僕の面倒をみたく無いからと、速攻で書いたらしいけど、逆の状況に思い至らない考えなしで助かったね。
でも誓約書の提出を知った母さんが侯爵家との繋がりを切られたくなくてゴネたそうだけど、既に受諾されていて決定しているし、後ろ盾すら持たない子爵家が侯爵家の力に敵う筈もなく、最後には役所の受付で『私は侯爵家に騙された!』と喚いて失笑を買ったそうだ。騙したと言うなら母さんの方だと思うけどね。
しかも『ミッシェルと私達は血が繋がっているのだから、あんな紙切れ一枚なんかで切れない。』とか騒ぎ出したので、静かに怒った父様が更に罰則を書き足した、接触不可を含む絶縁状に判を押させられたんだってさ。悪足掻きも過ぎるよね。
因みに、父様達は政略結婚で、母さんの亡くなった父に頼み込まれて結婚したんだって。母方の祖父が生きていた頃は、母さんもお淑やかだったらしいけど、祖父が他界して、祖母も後を追う様に亡くなり、僕が生まれた頃には今の様に変わっていたって。僕は、騙されたのは父様の方だと思ってます。
「兄達は優しい時の母さんに育てられたのなら、なんであんな性格なんでしょう?」
と不思議に思ってお祖父様に聞くと、
「性根が、我が儘なミネルバに似たのだろう。隠していても、本性が遺伝していたなら、そういう事だ。」
とおっしゃってました。母さんに見放されていた僕は、幸か不幸か父様に似ていたのだと思います。後天的に前世?を思い出したからそのせいも有るとは思いますが。つまり僕は、女の子が欲しくて産んだのに、男が生まれた失望から始まり、性格が自分に似ていないから虐げられた?らしい。やっぱり、僕に責任は無いよね。
王宮での文官仕事が長かった父様は領地経営にも向いていた様で、お祖父様と楽しげに仕事をしています。僕も領主を継ぐ為に最高学府だけは王都に行く事になりましたが、出来れば、領内の学校で終わりたかったなぁ。
取り敢えず、中等学校迄は此方に居られるので、基礎をしっかり詰め込むつもりです。その後は領地経営を学ぶ為に頑張って王都の上級学校に進学します。




