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幸せを掴む迄の軌跡  作者: 清香


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01 僕はミッシェル。男の子です。

 …………疲れた。


 キルリアン兄さんもトリトーン兄さんも、僕の物を勝手に持ち出して使っては、壊れてからしか返してくれない。しかも、その壊した物を母さんに見せては僕が壊した事にするんだ。その上で、自分の持ち物の壊れかけを親切そうに僕に渡して来るんだ。今度は壊すなよなんて言って、さも、弟思いの振りして母さんにアピールしてさ。


 母さんは、兄さん達しか信用しなくて、僕を物を大切にしないと怒る事しかしない。どれだけ言っても僕の話は聞いてくれないと分かったから。僕はこの家で抵抗するのを止めた。だから。あの話が聞こえて来た時に、父さんに頼んで父方の祖父母の家に逃げる事にしたんだ。


 「キースは結婚しないまま、病が完治せずに亡くなってしまった。幸いお前には息子が3人居る。我が家を継がせるのに、孫の一人を寄越せないか?」


 って、キース伯父さんのお葬式の時に、お祖父様が父さんにこっそりと話しているのを聞いたから、直ぐさま母さんに隠れて父さんの所に行き、


 「お祖父様とお祖母様の力になれるなら、僕が行きたい。」


 って言ったんだ。母さんはあの家を嫌っているから近寄らないし、祖父母は二人とも厳しいから、甘ったれた兄さん達は行きたがらない。祖父母の厳しさは正しい厳しさだから、僕には渡りに舟だと思えた。


 キース伯父さんは優しく誠実な人で、若い時に病気で亡くした婚約者を忘れられなくていたそうだ。やっと、次の恋を。と前を向きかけた頃に今度は自分が病魔に倒れたそうだ。それが僕が産まれた頃の話しで、ずっと治療していたんだけど特効薬が見つからなかったらしい。僕が初等科に入学する前に見舞いに行ったのが最期だった。


 ベッドに横たわっていた青白い顔のキース伯父さんは僕にも優しくて、挨拶の時に握った手は暖かかった。楽しい話を聞かせてくれて、お見舞いに行った筈なのに、僕の方が元気をもらった気がした。『またね。』って別れたのに、二度と母さんは連れて行ってくれなかったのだ。


 父さんは仕事で家に居ない割には、兄さん達の行動を知っていたみたいで、僕を虐めている事に気付いていたらしい。母さんが僕を蔑ろにしている事も知っているみたいだ。母さんは隠してないし、まぁ、普通に気付くよね。


 「実家には、最初からお前を行かせるつもりでいる。」


 と、コソッと耳元で囁かれた。僕はホッとした。


 因みに、兄さん達が壊した僕の物は全部父さんのお土産だったんだ。兄さん達がお気に入りの母さんは僕には何も買ってくれないからね。新品のお土産以外はほとんど壊れている兄からのお下がりの物だけ。あの人達はそんな物しか僕には渡さないからね。


 『お下がりが二人分も有る。』ってのが母さんの口癖だしね。トリトーン兄さんにはキルリアン兄さんのお下がりを殆ど渡さずに、新しい物を買っていたのにね。それなのに、僕の処に来るのはどれもボロボロだった。


 だから僕は父さんのお土産以外には既に壊れた物しか持っていなかったんだ。お土産は兄さん達にも買って来てるのに、兄さん達は何故か僕のを取り上げて使っていたから、それを見て父さんは気付いたって言ってた。


 でも、母さんはずっと家に居るくせに、僕が兄さん達に虐められているのが分からないみたい。と言うより、多分、兄さん達を好き過ぎて、何時も兄さん達の味方しかしないから、僕が虐められている事実には気付こうともしなかっただけだと思う。というより、僕を虐げる事で兄さん達の機嫌が良ければ嬉しいだけなんじゃ無いのかな?


 ……何より、僕のミッシェルって名前は女の子を欲しかった母さんが付けたらしい。唯一の母さんからのプレゼントが女の子の名前。僕が3人目の男の子に生まれたから、母さんは僕が疎ましいんだと思ってる。気付きたくは無かったけど、僕を一番蔑ろにしているのは母さんだよ。



 お祖父様から正式に養子の話が来た時は、『私の大切な子供達を手放せと言うのですか‼︎』って怒ってた癖に、父さんが僕が行く事を決めたら、『お義父様達もお年だし、誰かが一緒に暮らすべきよね。』なんて、手のひらを返したように喜んでる母さん。二人の兄さんだけが大切なんだって丸分かりだよね。


 父さんは僕が行き来が出来る様に、『コッチにも服とか荷物を残しておこう。』って言ってくれたのに、母さんは僕の荷物全部を箱詰めにした。『服なんて直ぐに小さくなって着られなくなるから、残しておいても勿体無いでしょ。』なんて言ってるけど、それって全部、兄さん達のお下がりのボロだよね。学校の同級生や近所の人からも、母さんの使ってる雑巾の方がよっぽど綺麗って笑われた奴。


 春休みに入るタイミングで僕は引っ越しをした。母さんが恥ずかしげも無く詰め込んだ箱を開けたお祖母様が、詰め込まれていた服を見て絶句し、全部、新品に買い直してくれた。僕は初めて自分の体格に合った服を着たよ。


 『雑巾にもならないようなゴミを詰めるなんて!』


 と詰め込められていた服を全部父さんに見せて、お祖母様は文句を言ってくれたけど、新しい服や身の回りの物を買うお金は全部父さんが出してくれたんだ。父さんはお祖母様に、


 「本当はキチンと身体に合った物を買い揃えて持たせたかったけど、王都で揃えるにはミネルバの目が有ったから辞めたんだ。

 ミッシェルの為に使う筈のお金を、アレは何に使っていたのか問い正したい気持ちは有るけど、言っても仕方ないのは分かっているからなぁ。キース兄様には申し訳ないけど、ミッシェルを救って貰えて助かったよ。

 私が家にいない時のミッシェルの扱われようを知ってからは、どうやってあそこから逃げ出すのかをずっと考えて悩んでいたんだ。」


 と話しているのを聞いて、僕は救われた気がしたんだ。やっぱり父さんは僕の味方だった。


 実家に居た時に家事は僕の仕事だったから、此処で家の手伝いを頼まれても僕にはなんの問題も無かった。でもお祖母様が家事を仕切っているし、この家には侍従や侍女、メイドまでいるから手伝いなんて頼まれなかった。だから春休みで家に居るのに僕はやる事が見つからなくて、


 「何か僕にでも手伝える仕事は有りませんか?」


 ってお祖母様に聞きに行ったんだ。そしたら、お祖父様に呼ばれて裏庭で剣の稽古が始まった。実家に居た頃の僕は、兄弟の中で一人だけ家の手伝いに忙しくて、余計な暇なんて無かったから、道場に通っている兄さん達が羨ましかった。中でも稽古の為に、お祖父様から僕だけの木刀を貰えたのが一番嬉しかった。


 「ミッシェルは剣術を学んで来なかったのか?先ず、剣の持ち方が違う。」


 もらった木刀を持って、ドキドキしてお祖父様の前に立ったのだけど、何も知らない僕は最初から間違えてしまったようだ。


 「ごめんなさい。兄さん達は道場に通わせて貰えたけど、僕だけは母さんの手伝いをしなきゃならないから、一度も通わせてもらえず、兄さん達にも教えてもらった事が有りません。」


 お祖父様を失望させてしまったのが悲しいけど、僕にはどうしようもない。俯くしかない。すると、さっと近寄って来たお祖父様が僕の頭を撫でながら、


 「ミッシェルの所為では無い。今日から始めれば良いのだ。間違った事を教えられていなくて良かったな。

 それにしても、ミネルバは何でミッシェルにだけやらせなかったんだ………」


 と言うので、僕は、


 「たぶん母さんは、僕を女の子にしたかったのだと思います。母さんが僕に付けた名前もミッシェルだし。だから剣術は必要じゃなかったのでしょう。家事は散々仕込まれましたから。」


 と、つい愚痴ってしまいました。それを聞いたお祖父様は、


 「もう、今までの事は忘れよう。今からは、男として生きて行けば良い。さぁ、新生ミッシェルの誕生だ。」


 と、剣の構え方から教えて下さいました。………ただ、小柄な僕は木刀に振り回されて、素振りだけで息が切れました。そんな僕を残念そうに見ながら、お祖父様は一言。


 「ミッシェル、先ずは体力作りから始めよう。」


 そんな処にお祖母様が様子を見にやって来て、素振りをしながら肩で息をしている僕を見て心配しています。休憩を取ってもらうと、お祖父様に近寄って、


 「モーリス、もしかしてミッシェルに剣術は向いていないの?」


 と聞いて来ました。僕の今までの話を聞いていたお祖父様は、


 「いや、今日が初めてだから、分かっていないだけ…だと思う。ミッシェルは努力家だから、評価するには早過ぎるし、まだ、これからだ。」


 僕は素振りを再開しながら、話しているお二人を見ていると、お祖父様が父さんに見えて来て、お祖母様が母さんに見えて来ました。親代わりのお二人だけど、僕が正式に養子に入ったら………なんて思ってしまった。


 だって、二人の態度は兄さん達に対する母さんみたいに見えたんだ。子供の為に何かをするのが親なんだなぁって思ってしまった。



 春休み中、お祖父様に付いて稽古をしたり、新学期に向けて勉強をしているうちに日々が過ぎ、転入した初等学校への初登校日を迎えました。

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