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虹灯す  作者: かすり
13/40

第一幕/第四話/①《斗》

Next EP:3/31

BGM: https://on.soundcloud.com/MBjviuWdYp4XrKKG8


一話・鬼出電入きしゅつでんにゅう…目にも止まらない速さで現れたり、消えたりすること。

二話・夜郎自大やろうじだい …自分の力量も知らずに、偉そうに振舞うこと。

三話・雨笠煙蓑うりゅうえんさ…雨の中で働いている漁師の容姿を言い表す言葉。

四話・斗南一人となんのいちにん…この世で最もすぐれている人のこと。

(引用元・四字熟語辞典 https://yoji.jitenon.jp/)

『にしても三番目の試合すごかったなあ』

『なあ、あの赤襷の大将ってさぁ……』

 群衆から聴こえる声。    

「後輩二人が二本取ってんのに、ワタシ恥ずかしいわぁ」

中堅の試合を終えて。

「いやいや、一本あるだけでもデカいっすよ! ウチの優勝は一応決まったし」

京都を背負う愛武高は先鋒と副将が二本勝ち、中堅が一本で計五本取り。対する大阪の黒桃高は現在二本。残り一試合でアラレが負けても勝敗は既に喫している。

先輩という立場でありながら本数で誇れない自分が情けないと、己の実力不足を嘆くボブヘアの少女。

そんな彼女を隣でニコラが宥める。

「まぁ切り替えよ。大将戦で気ぃ抜くんは相手に失礼や」

そう言ってハクは姿勢と心を正した。

コートには既に二人の大将が準備をしている。余所見してる場合じゃない。

「赤、愛武高校・釣瓶(ツルベ) (アラレ)

「白、黒桃高校・時素(トキモト) 和奈(カズナ)

一帯に、彼女達の名を呼ぶ声が反響する。勝っても負けても予選最後の試合だ。気を引き締めていかなければ。

夕暮れ手前の市街地、岸和田城周辺の城壁を間近に捉える大通りの中心に陣取る大きなコートは段々と影を落とし始め、猛暑も緩やかに下降を辿る。足早と帰路につく者、夜の祭りを待ち侘びて街に繰り出してくる者、その双方が入り乱れる所為で、周辺は未だに熱気が収まらない。そんな喧騒に見守られながら、袴を着た少女達は睨み合う。

 審判の合図で礼。

長く続いた戦の決戦、それぞれ開始線に立ち薙刀を構えようとした瞬間。

二つの異変が起こった。

「あっ」

頬をツンと突かれた感覚。ハッとして三つ編みの少女は空を見上げる。

ポツリ、ポツリと。やがてそれは塊となって降り注ぐ。

雨だ。沈み始めていた夕陽は夜の到来と共に呆気なく姿を消して、分厚い雲だけが空を埋め尽くしていた。

なんだろう、この感じ。ただの夕立じゃない、異様な禍々しさを兼ね備えている。

そのとき。

「オヌシら、全員おるか」

どこからともなく現れた着物姿の少女がコートに紛れ込む。今から大将戦に挑もうと息巻いていたはずのアラレの目前に、ふらりと。おかげで対面の少女も目を丸くするばかりであった。

この豪雨で試合など到底できない。その場にいた人々は大慌てで建物の方角へと走り去っていく。

「ハネヒメの“祈雨(キウ)”じゃ。始まるぞ」

通り雨と説明するには激しすぎるスコール、以前神社で体験したものとは比べ物にならない勢いだ。風も徐々に強まる。屋根上にいると吹き飛ばされそうになる。

「全員防具を外して。ハクとオオバちゃんは大阪の子らを避難させて! シマちゃんとウチで敵勢力の把握!」

あれだけ居た群衆はあっという間に散って居なくなってしまった。大通りに二つの地車がポツンと置いてけぼりだ。

無論その方が好都合なわけだが。

マユヒメはまるで蜘蛛のように、建物の壁面を伝って高所から様子を探るが、やがてある一点に視線を釘づけた。

その先、大阪湾が織りなす海上を覆い尽くす真っ黒な雲の一部がベリベリと剥がれ落ち、巨大な穴を完成させる。

直後にゾワッと全身の毛が逆立つような感覚をその場にいた全員が覚えた。

途轍(とてつ)もなく禍々しい気配。どう考えてもこの世のものとは思えない。

その大穴は地獄とでも繋がっているのか、そこから鉄を切り裂くような甲高い獣の声が鳴り響く。

『ゴォォォォォォォオォォン!!』  

反響するように、何度も何度も。

喩えるならば、地下鉄を走る電車に刃こぼれしたチェーンソーを叩き付けたような不快音。

併せて姿を表す怨念の象徴。怪奇の群勢が遂に現世へと返り咲く。

人の原型を保ちつつも、縦に割れた顔面から尾を覗かせるもの、完全に狐の姿で体毛を妖しい茶色に染めたものなど、形態は不定形で様々。地車と大差無い程巨大なものや人と同じ背丈のものなどなど。ゾロゾロと蠢きながら、そして階段を降るようにゆっくりと。豪雨という歓声を浴びながら、列を成して登場するその姿はまるで百鬼夜行。その悍ましい光景にアラレも思わず「マジか……」と声を漏らす。

敵の正確な数は分からない。多すぎて把握できない。

暗黒に繋がる大穴の、その更に奥から。

ドンドコドンドコドンドコドン!

ピーーーーーーー!

コォォオオォォォォン!!

耳を(つんざ)くような音量で爆ぜた祭り囃子が鳴り響くと同時に。

魑魅魍魎(ちみもうりょう)の最後尾、際立って異様な気配が四つ。

「あれが、マユヒメさんの言ってた……」

他の化け物とは一線を画す存在。

ーー怪狐には四つの階級がある。まだ完全に成体化していない野狐(ヤコ)を一番低いものとして、次に成体となってからの気狐(キコ)、その上の仙狐(センコ)、千年の修行を重ねた最上級に位置する狐を天狐(テンコ)と呼ぶ。

いつかの着物少女が語っていたことを思い出した。

ーー天狐四天には気を付けろ。奴らは他とは比べ物にならん程の強さじゃ。

狐を模した奇妙な面を付けて現れる四体のそれ。遠目からで容姿ははっきりとしないが、確かに居る。

ーー逆に言えば、復活直後の今しか討つ機会はないということ。

「あれが、ウチらの敵……」

単純に頭数で数えれば同等。このタイミングを逃せば勝機を失う。

やるしかない。


「うわっ!」

 小さな悲鳴を上げるニコラ。理由は簡単、曳き手をなくして動くはずのない地車が突如、金切り声と共に前進し始めたからだ。驚いて二階から身を乗り出すと、なんと車輪部分に歯車を背負った化け狐が棲みついているではないか。加えて一階と屋根上からは

『ドンドンドコドンドコドンピーヒャラピーヒャラ……』地獄の宴が祭り囃子を掻き鳴らす。

いつの間にか忍び込んだ敵に周囲を阻まれてしまった。

「先輩、向こうも!」

ニコラの指さす方向、コートを挟んだ向こう側に佇む地車にも同じように怪狐が乗り移っていた。そちらには今しがたハクとカスミが大阪メンバーの救出に向かったところである。

まずい、このままでは。

そう考えるのも手遅れ、ガタンガラガラと歯軋りのような音を鳴らして少女達を乗せた方舟は暴走を始める。

「ハク、オオバちゃん!! 無茶せずに、後でそっち向かうから!」

アラレの指示が槍のように飛ぶ。分断されてしまったが、焦らずに対処する。重たい防具を既に取り外し、再度薙刀を握って「シマちゃん、準備ええか!」と相方に叫ぶ。もちろん三つ編みの少女はいつだって準備万端だ。

地面を削りながら加速する地車。法定速度を無視したそれはまるで弾丸のよう。

このまま二階に籠っていても戦いづらいだけだ。

せーの、互いの呼吸を合わせて屋根上に飛び移る二人の少女。一気に景色が変化する。

嵐の如く吹き荒れる風、揺れる車体の振動。別世界に弾き出されたような異形を改めて痛感するが。

「こーん♪」

そこに居たのは一匹、龍踊りをする茶色の狐。

法被に身を包んで楽しそうに舞っている。敵意がないのか、気にも留めていないのか。

その場違いな様相を目の前に、ニコラは無言のまま薙刀を構え近づく。

躊躇いもなく歩み寄って。

「邪魔じゃボケェ!」

蹴り飛ばす。

こーん!と間抜けな声で明後日の方向に姿を眩ます一匹の狐。暗闇の中へと吸い込まれていくが。

まるでその一撃が合図であるかのように。

空を群がる妖が少女達を一斉に睨む。

奇声をあげて。

全身の神経を駆け抜ける緊張。

そして降り注ぐ、恐怖。

「来るぞッ」


荒れ狂う大阪の大海を見下ろす狐が一匹、開戦を合図する。

艶やかな声色で。

「嫁入夜行の始まり始まり」

同時に。

狂乱が始まる。


【構成】

全四幕ー各四話ずつ



【基準】

A


【ジャンル】

バトル・恋愛・スポーツ


【注意点】

・『』は過去の台詞や引用、通話など通常時会話と区別する際に使用する。

・“”は作中の重要なキーワードや特定の単語に使用する。

・ふりがなについて→カタカナで記したふりがなは登場人物や特別な読みに使用する。

・本作のほとんどはWikipediaを基に筋書きを作成しています。そのため情報の正確性が曖昧です。

あくまで今作はフィクションとしてお楽しみ下さい。

・一話を投稿した日から一年間を改訂期間とします。誤字脱字、誤情報など、皆様から寄せられた情報を基に修正していきますので、お気づきの方はお知らせしていただけると幸いです。

・⭐︎マーク→視点変更

・二次創作等うぇるかむーーーよー


【年齢基準】

 以下の区分を参考にして下さい。

・A(全年齢向け)

・B(青年向け=R15以上)

・C(成人向け=R18以上)

・J(幼年向け)

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