ユージとルーク。追放後に出会った二人は赤の他人。
「あ、ヤッベ。こいつユージじゃねえわ」
致命傷を受け人間の見た目に戻った男を見て、俺はようやく間違いに気付いた。
俺の名前はルーク。以前はユージ率いるパーティで雑用をしていたが、なんやかんやあって追放され、なんやかんやあって成り上がり、そして今日なんやかんやで魔族化したユージを倒す事になった。
だが、こいつは俺の知るユージじゃなかった。昔のあいつとすっかり変わってしまったとかそういうのじゃなく、正真正銘全くの別人。俺にとって初対面の、俺にとって無関係なユージさんだった。
「あー、やっちまったー!知らない人相手に色々カッコつけて、因縁にケリつけるつもりで必殺剣技かましちまったー!」
俺は顔を真っ赤にして蹲る。いや、だって「ルークウウウウ!!出てきやがれえええ!!」って叫ぶ怪物が広場に出たって聞いたら、俺の昔居たパーティ『虫の息』のリーダーのユージと思うじゃん!実際、お前ユージなのかって聞いたらユージだよって返事したし。
でも、このユージは俺の知らないユージさんが魔族化した姿だったんだ。この世の中、追放する奴はユージか名無し、追放される奴はアルスかルークが定番だけど、まさか同じ町にユージが二人居て、どちらもパーティ衰退してたなんて俺が知るはずも無いし、こっちの方のユージさんを倒してしまったのも完全に不可抗力だ。俺は悪くない!
だが、今重要なのは俺の責任の有無では無い。このままではユージさんが役目を果たさないまま昇天してしまうという事だ。このユージさんに追放された方のルークさんをユージさんの死に目に立ち会わせないと、ルークさんはスッキリしないまま人生を送る事になってしまう!
「この中にルークさんは居ませんかああああ!!!!」
俺は広場に響き渡る声量で叫んだ。このユージさんもこの広場で暴れればルークに会えると踏んで居たはずだ。ならば真のルークさんはこの辺りで活動している可能性が高い。
だが、1分以上待ってもルークだと名乗り出る者は現れず、更にまずい事に人間に戻ったユージさんが目を覚まし始めた。
「うう…ルーク、そこにいるのか?」
マズイ!冷静に間近で見られたら俺がルークじゃないルークだとバレてしまうがな!
「オラァ!」
「グヘぇ!」
俺はユージさんの顔面にグーパンして視力を奪うことで凌いた。すまん、ユージさん。せめて、アンタの知るルークとして最期に付き添ってやるから許して欲しい。
「前が見えねえ…。ルーク、俺はここまでみたいだな。ルーク、今まで色々迷惑かけちまったな」
「そんな事もう覚えてないよ。俺は今の仲間達との日々が大切なんだ。お前の事なんてすっかり忘れていた。だから、過去の思い出話とかはよしてくれ」
「クソっ、もう俺の事はお前にとっちゃ他人事かよ…」
ハイ、他人で初対面でっす!ごめんねー!思い出話とか絶対ボロ出るからスキッブするからごめんねー!
あー、さっさと終わらせて、すたみなきんぐの食べ放題行きたい。ユージ、早く死んでくれ。
「ユージ、最期に何か伝えたい事があれば聞いてやる。それが元仲間としての俺がかけられるせめてもの情けだ」
だから、はよ死ね。
「じゃあ最期のお願いだ。俺を倒したその剣術、その技に『びょんびょんスペシャルマーク2』と名付けてくれ」
「え、何そのクソみたいなネーミングセンス」
「ルーク、俺と組んでいた時にお前は自分の剣技にびょんびょんスペシャルと名付けてシャウトしまくってただろ?しまいには、俺たちにまで変な技名を押し付けて来て、それが恥ずかしくてお前を追放したんだっけ」
マジかよ。ルーク最低だな。
「だが、お前が正しかった。これからは俺の事は気にせず、昔みたいに好き放題にびょんびょんスペシャルしてく…れ…ガク」
一生に一度のお願いを告げて息を引き取ったユージさんは、最期まで俺をルークと思っていた様だった。それはいいのだが、びょんびょんスペシャルは今後一切使う気は無い。
「ユージさんの遺言を本物のルークさんに伝えなきゃだけど、今日はすたみなきんぐでドカ食いして寝る!色々と疲れた!」
こうして俺はモヤモヤを抱えたまま夕食に向かった。このモヤモヤが晴れる日は来るのだろうか。
■ ■ ■
「そんな、僕のびょんびょんスペシャルマーク8が敗れるなんて…」
やっべー、こいつルークじゃねーわ。俺の元仲間のルークは、こんな事言わねえ。
俺の名はユージ。冒険者パーティ『虫の息』のリーダーで、ルークは俺のパーティの元メンバーだった。しかし、冒険者業というビジネスモデルの寿命が尽きようとしている事を察した俺が、冒険者装備のリサイクル事業にシフトする事を告げると、剣の道を捨てられないルークは出ていく事になってしまった。
それから月日が流れ、リサイクル事業が軌道に乗り、冒険者の方の仕事を完全に畳もうとした頃、俺の前にルークが現れた。人間の傲慢さに絶望し、魔王の右腕となったと言うと、そいつは復習の第一歩として自分を追放したユージ、即ち俺に襲いかかってきた訳だ。
「だが、俺はこいつとは初対面のユージなんだよなあ」
白目を剥いて倒れている自称ルークを見下ろしながら俺はため息を吐く。ルークを追放したという過去こそ共通してるが、俺はこのルーク君が探していたユージとは別人である。
俺は一切悪くない。だって、フードで顔隠して黒髪をチラ見せして「久しぶりだねユージ。君のパーティの衰退は風の噂で聞いたよ」とか言われたら、あのルークだって思うじゃんか!
と言うか、俺は素顔剥き出しなんだから、お前が人違いに気付かないと駄目だろ!赤の他人のルーク君よう!確かにこの界隈、追放する奴はユージだらけで追放されるのはルークだらけだが、こんなアホな勘違い普通するかー!?
そういや、俺のパーティに居たルークも人の顔覚えるの苦手だったな。なんて思っていると、ルークが目を覚ました。
「ユージ、パーティが衰退したって話だった割に、以前とは別人の様に強くなってるじゃないか」
「よく見ろ。俺は別人だぞ」
俺はギルドカードと名刺を取り出し、身元を明かした。俺が思っていたユージと違うと気付いたルークは、顔を真っ赤にしてオドオドしながら、俺に頭を下げた。
「あ、何かその、す、すみませんでした」
「分かってもらえた?そんじゃ、衛兵呼んだから大人しくしてるんだぞ」
赤の他人のルーク君が衛兵に連れて行かれたのを見送ると、俺は本来の目的へと戻る事にした。俺がこの通りに来たのは、晩飯の為だ。今日は久々に運動して汗かいたから腹がパンパンになるまで肉が食いたい気分だ。
「おっ、広場の近くにすたみなきんぐあるじゃん!今日はあそこにするか!」




