81 指導
長い間放置してすみませんでした。
レオカディオは気が付いていなかった。
レティシアが姿をくらましていることに。
そしてアーロンがいないことにも気が付いていなかった。
エレナとディエゴが付いているから大丈夫だと無意識のうちに考えていた。
無意識下で、彼女と彼がアーロンを見守ってくれているだろう、自分の手に負えなければ自分に助けを求めるだろう、と思っていたのだ。
そしてレティシアの性格を一瞬だけ、この場において忘れていた。
いや、レティシアの本質を忘れるほど付き合いが疎遠になっていたのだろう。
一緒にダンディーの下で稽古している時には、無意識下でも忘れることのなかった彼女の性格を。
★★★
「おい、良い性格してるな」
試合会場から降りたアーロンの首根っこを掴んだレティシア。
言いたいことはたくさんある。
消息がつかめず心配していたこと。
試合内容について。
言いたいことが詰まって嫌味しか出てこない。
「お久しぶりです」
レティシアの突撃を、ある程度予想していたアーロンは挨拶で返す。
レティシアと遭遇することは、騎士団の末席に名を連ねてから、いつかあることだろうと予想していた。
逆に今まで遭遇しなかったことが奇跡みたいなものだとも。
ただもし自分の存在を知られたとしても、無視してくれるのではないかという淡い期待を持っていた。
「腕が鈍ってないだろうな」
レティシアがアーロンの挨拶を無視して放った言葉は、ただ剣のこと。
首根っこを掴んだまま建物の外に連れ出そうとするレティシア。
明らかにただで済みそうにない雰囲気を感じるアーロン、そしてディエゴ、エレナ。
(本当なら、この場でボコボコにしてやりたい)
喉の奥で詰まっている感情を剣で発散したいレティシア。
さすがのレティシアと言えども、公衆の面前、しかも団のトップだけでなく大臣やその部下達が来ているのだ。
皆が見ている前でボコボコにすることは出来ない。
言いたいことは本当にたくさんあるのだ。
言葉だけで言ったら数時間もかかりそうだが、剣なら数十分で済むだろう。
「レティシア様、アーロンをどこに連れて行くおつもりですか?」
アーロンのお目付け役を言いつけられているディエゴが、恐怖を押し殺して、殺気に包まれているレティシアに尋ねる。
騎士団の階級はもちろん、剣技も何もかも足元に及ばない相手だ。
そして脳筋軍団のトップであるレティシアに歯向かうことは、いつどのような対応を取られるか分からない。
反射的に剣で切りつけられるかも知れない。
それ程の殺気をレティシアは放っている。
それだけではない。
レティシアに話しかけた、ただそれだけで第八騎士団員に目を付けられるかもしれない。
しかし、アーロンが連れ去られていくことを黙って見逃がせば、レオカディオの望むような結果にならないことは確実だ。
当然レオカディオから厳しい叱責がなされるであろう。
「お前たちも来い。そっちの女もだ。一緒に指導してやる」
この簡単な一言で、お目付け役の二人は行動を封じられてしまった。
ディエゴとエレナに拒否する権利もなければ、誰かに助けを求める余裕もなかった。
かくして第十騎士団員三名は、レオカディオに連絡をする間もなく、レティシアに連行された。
★★★
「オレリー、ところであいつらはどこだ?」
アーロン達の姿が見えないことに気が付いたレオカディオがオレリーに尋ねる。
「ダルミロ様とお話しなされている時に、レティシア様とお話しなさっていたようでしたが」
見たままの結果を報告するオレリー。
悪い予感がする。
悪い予感しかしない。
悪い結果にならなければいいが。
いや、悪い結果にしか想像できない。
「どこに行った?」
「ディエゴとエレナがついていましたけど」
「どこに行った?」
「あっちの方でしたが」
オレリーは立ち去った方向を指さす。
レオカディオは頭を抱える。
オレリーは今日のためだけに借りてきた人材だ。
レティシアを力づくで止めるためだけに借りてきたのだ。
そのオレリーに、全ての事情を察して対応しろというのは無理な話だった。
そしてオレリーが指さした方向にあるのは、出場選手だけが使える訓練場。
レティシアが何をしようとしているのかは一目瞭然。
(もう手遅れか?)
多分手遅れだろう。
五体満足で戻ってさえ来てくれたらいいと考え直した。
どうせ決勝の相手には敵わないのだ。
怪我さえしなければ後は何とかなる。
怪我さえしていなければ、試合に出す。
そしてダルミロの指導を受けさせる。
しかし、ダルミロの指導もアーロンの身体が壊れていなければだ。
身体を治す時間はない。
せめて五体満足なうちに助けに行かなければ、とレオカディオは動くことにした。
★★★
間もなく決勝戦が始まる。
ぼろぼろに痛めつけられたアーロンが会場に姿を現す。
レオカディオの救助は結果的に間に合わなかった。
ディエゴとエレナも、アーロンのついでにぼろ雑巾にされていた。
(全く、手を出さないという約束はどうなったんだ。目を離すとすぐにこれだ。しかし手加減する技術は一流だな。怪我させることなく紙一重で半殺しか。)
レオカディオは、手加減具合にレティシアのアーロンに対する愛情の深さを見た。
アーロンに対するものではないかも知れない。ダンディーに対するものかも知れない。
どちらでも現状は変わらない。
試合に出られるだけの体力が残されている。怪我はない。
とりあえず作戦に影響はない、はずだ。
対校戦に託けて(かこつけて)ダルミロを使う作戦に。
アーロンを強くする、ダンディー最後の弟子を強化する作戦に支障がないことに安堵するレオカディオだった。
★★★
「決勝戦、第一騎士団リカルド選手、第十騎士団アーロン選手前へ」
リカルドとアーロンは試合場に入る。
試合場の中央で、リカルドとアーロンは剣を構える。
二人と呼吸を合わせて主審は試合開始を告げる。
「試合始め」
決勝戦の舞台に立った二人の動きを観客たちは見守る。
最初に動いたのはリカルドだった。
実は身内に不幸があり、そちらに掛かりっきりになってしまいました。
さらにお約束のように、パソコンが壊れてしまい続きが書けなくなってしまいました。
過去の経験からバックアップを取っていたのが幸いしましたが、各種処理の関係と仕事の都合でなかなか時間を捻出できず(言い訳)申し訳ありませんでした。
現状が落ち着くのに時間がかかるようなので、この作品を一旦終わらせたいと思います。
あと1~2話ほどお付き合いしていただければ幸いです。




