80 マスクマンと阿修羅剣、そしてダルミロ
「マスクマンって、本当にあの阿修羅剣だったのか」
レティシアが騒いだことと、オリビアとタマラが応援していることでマスクマンと阿修羅剣の騎士を結びつける声が上がっている。
試合場のアーロンは、一本しか木剣を持っていないにも関わらず。
俄然周囲の注目度が上がる。
あのレティシアが取り乱すだけの選手だ。
取り乱したレティシアをレオカディオ達が無理やり抑え付ける姿が嫌が応にも観客たちの目に入る。
しかも文官なのに、脳筋と揶揄される第八騎士団の選手から一本先取するほどの腕前。
今まで誰も聞いたことがない無名の選手。
「ビニシオ! 文官に負けるな!」
「後がないぞ!」
「本気を出せ!」
会場内から様々な声援がビニシオに向けられる。
文官に負けてもらいたい、というのが騎士団員の総意なのだ。
文官に負けたら存在意義そのものが揺らぐ。
騎士団の面子に関係のない観客たちは、あの暴風剣姫の直弟子と思われるアーロンの応援をする。
文官が現役の騎士団員に勝つ方が面白いに決まっている。
会場がそれぞれの応援で二分される。
声援を受けビニシオの動きに変化が見えてきた。
それまでの動きも悪いものではなかったが、目に見えてビニシオの動きが早くなってきた。
一本先取されたこともあるのだろう。
攻撃的な動きに拍車がかかる。
「今じゃないんだよな」
自由になったレティシアが苦言を漏らす。
(これがビニシオとリカルドとの違いだ。更に言えばアーロンとの……。)
一本取られたから意図的に動きを変える。
それに根拠があるのならともかく、さっきの打たれ方、そしてあの剣の振り方なら根拠はないだろう。
何もしないよりはマシかも知れないが、その程度だ。
それに小手先の変化で勝機が見えるほど、簡単な相手ではないのに。
そこのところを教え切れていない自分が歯がゆい。
そしてその教えを消化しきれていないビニシオが。
アーロンはビニシオの剣を受け流す。
受け流されたビニシオの剣は、次第に速くなっていく。
観客は迫力が増しているビニシオの攻撃を見て悲鳴が上がる。
騎士団員は剣速と引き換えに荒くなっていくビニシオの剣に悲鳴のような声援を送る。
騎士団員の声援虚しくビニシオの剣が制御できない程荒くなっていった。
「一本! それまで」
審判がアーロンの勝利を宣言する。
ビニシオの剣を受け流して、会場の誰もが認めざろう得ない程のきれいな一本をアーロンが決めたのだ。
会場がどよめく。
文官が決勝に駒を進めたのだ。
しかも優勝候補の一人であるビニシオを破って。
その文官は暴風剣姫の直弟子であり、阿修羅剣であり、バンダリ三兄弟を倒したマスクマンなのだ。
「ほう、第八のビニシオまで破ったか。これは予想以上だったな」
ダルミロがレオカディオに話し掛ける。
「思っていたより今日は動きがいいですね。準決勝の結果は出来過ぎです」
レオカディオが謙遜する。
「この調子だと、第一のリカルドもやられるかもな」
ダルミロは上からの発言をするが、リカルドの実績を考えれば当たり前の立場だ。
「まさか、それだけはないでしょう」
「君とレティシアの教え子なら有り得るかも知れないと思ったのだが」
「リカルドを超えるほど鍛えているのなら、レティシアに任せていますよ。まだまだ全てにおいて足りませんので、ダルミロさんに鍛えてもらいたいんですよ。あのリカルドを育てたように」
「アブラアンの直弟子が何を言っている」
「彼のような結果は無理ですよ。直接指導を受けた私でさえ彼の魔法は分かりません。それを言うならレティシアだって直弟子ですよ」
レオカディオが指導能力を謙遜する。
自分の指導能力は謙遜だが、レティシアの指導能力は本気で否定している。
レティシアの指導は教え子の能力を問うものだ。
教え子に能力がなければ、レティシアの指導は一般的な指導者の域を出ないものと考えている。
教え子の能力に比例するような指導力なら、それは指導者ではない。
「彼女の指導者としての能力を否定する訳じゃないが、彼女の弟子は一流を超えられていないな」
ダルミロは一部同意する。
本音を言えば、ダルミロもレティシアに指導能力はないと考えている。
ただ、指導するための駒としてなら、レティシアにも使い道はある。
しかしレティシアが自ら指導するとなると、その能力に疑いを持たざろう得ない。
強者イコール優れた指導者ではない。
ただ、本当に強い者を育てるには、金剛石を研磨する金剛石のような人材が必要になる。
レティシアは、その時に必要になるだけだ。
「そうなんです。本人が強いからと言ってその技術を教えこむことが如何に難しいか。その点ダルミロさんは凄いです」
「私だって、今までの教え子で一流を超えられそうなのはリカルドだけだよ」
「それだけでないことは存じております。私もレティシアも、たった一人すら一流を超える人材を出せておりません。だからこそ対校戦の監督はダルミロさんに任されているのではないでしょうか」
ダルミロは指導者としては一流だ。
リカルド以外にも優秀な剣士を育てている。
それを知っているレオカディオはダルミロを持ち上げ続ける。
これもダルミロを金剛石として使うため。
どうしてもダルミロが必要なのだ。
アーロンを磨くために。
「レオカディオにそこまで言われると私もその気になってしまうな」
ダルミロが笑って言った。
「それでは決勝戦を楽しみにしますか」
これ以上褒め言葉を出せないレオカディオは話を打ち切る。
ダルミロの指導力と一定の技量は認めているが、ダルミロの剣技は自身と比較すると二段階程劣る。
アーロンを早期育成するための手段としてダルミロを利用するだけだ。
決勝戦の結果は目に見えている。
アーロンは勝てない。
アーロンではまだ勝てないのだ。ダルミロが教えるリカルドには。
お久しぶりです。
無事転勤が終わり、新しい環境にも慣れてきました。
もうしばらく話は続きますのでお付き合い願います。




