77 マスクマン~場外戦
遅くなりました。
まだ頑張っています。
「なかなか良い剣士じゃないか」
アーロンの試合を見た第一騎士団団長のダルミロはレオカディオに話しかけた。
「ありがとうございます。しかしダルミロさんの騎士団に比べると全然です」
レオカディオは第一騎士団を持ち上げて謙遜する。
「いや、あれは体は小さいが中々の剣士になりそうだぞ」
褒められたダルミロはアーロンを更に褒める。
「そう言ってもらえると私も嬉しいですが、うちは文官なので剣よりも書類の方に精通してくれた方が助かるんですけどね」
レオカディオは思ってもいない言葉を笑顔で吐き出す。
「あの子はまだ若いだろ」
「ええ、この間入ったばかりでして、剣も仕事もこれからですね」
まだまだ伸びしろがあり、使い道が剣士だけじゃないことを暗に告げる。
「前途有望じゃないか。ところで稽古はどうしてるんだ」
「一応、この試合に出場が決まってからは、少しずつ教えてはいますが、私自身人に教えるのは不得手でして、もう一人出場している子と稽古させているのが現状ですね」
更に嘘を紡ぎだす。
教えるに値する剣士がいないから教えていないだけだ。
「ほう、その程度の稽古だけで一般団員とまともにやり合うことができるのか。気に入った。対校戦までの間、私に預けてみないか」
ダルミロが本音を出す。
(掛かった!)
レオカディオは胸の内を悟られないように注意しながら話を進める。
「いや、まだ一試合終わっただけですよ。それに第一騎士団の稽古は無理でしょう。しかも対校戦の練習の邪魔になるのでは?」
「対校戦だからだよ。それに一試合見れば十分だ。色々なタイプの剣士が居れば、それだけで価値がある。あのスタイル、君と同じ近衛流剣術正派だろ? アブラアンがいなくなってから使う剣士が少なくなっているからな」
「まあ、近衛流剣術正派はあまり実戦的とは言えないし、習得しづらい流派ですから」
「その流派の技を、試合で使えるレベルまでに習得していること自体が素晴らしい。さっきの試合だって、自ら打って出た剣を一瞬の判断で守りの型に切り替えることができていた。しかも誘って打った剣じゃないのにだ」
ダルミロがアーロンの試合をべた褒めする。
褒められて悪い気はしないが、目的は別だ。
「いやいや、たまたま決まっただけですよ。それに文官が練習とはいえ対校戦に参加したら、他の団員からの風当たりが強くなりますから」
「対校戦は私の管轄だ。他の奴に文句は言わせない」
「それに文官としての仕事も覚えさせなければいけませんし」
「対校戦が終わってからでも仕事は覚えられるだろ。それにあれ程の腕なら、一般団員への異動を希望するかもしれん」
「そうですが近衛流剣術正派ですと、レティシアが教えたがるかもしれませんね」
ダルミロが一瞬渋い顔になった。
「確かにそうだな。うちの指導方針とあいつの指導では方針が全く違うからな」
「レティシアに教えて貰うのが悪い訳じゃないのですが、彼女の技は同門の私から見ても独特なので」
「彼女も対校戦の指導官になっているから無碍にもできん。しかも若者から人気があるから手に負えん」
「そうなんですよね。せめて期間を決めてダルミロさんが専属で教えるという形であればレティシアも口を挟まないのではないでしょうか」
「専属かあ」
更に渋い顔になる。
「それくらいしないと、レティシアに最初っから引っ掻き回されますよ。それにずっと相手する訳じゃないですから。数日、稽古の形が決まるまでレティシアから引き離しておけばいいだけですし」
レオカディオが畳みかける。
レティシアがアーロンを見つければ、最初っから他の団員を無視してアーロンに掛かりっきりになるだろう。
それでは駄目だ。
「レティシアから引き離しておくだけなら、私が専属で教えることにして、フラビオを担当にすればいいか」
「それなら大丈夫かと思います。それとアーロンは根が文官なので、放っておくとサボっちゃいますから、目を離せないですね。そもそも目を離すとレティシアが連れて行くかもしれませんので」
しっかりとアドバイスする。
アーロンは基本的にサボることはない男だ。
しかし、目的を達成するまではレティシアに手を出されたくない。
ダルミロにこう言って対応させておけばレティシアは手を出せないだろう。
「彼女が下手に指導すると壊れる可能性もあるしな。とりあえず対校戦の稽古が軌道に乗るまでの間は彼女に手出しはさせない」
「うちの団員にそこまでご配慮いただいてありがとうございます。それでもレティシアが何をするか分かりませんので、こんな感じでアーロンの訓練を組んでもらえませんか?」
さらっと紙に訓練計画を記載する。
「とりあえずこんな感じで一週間の計画を作っておけば、レティシアも無理にうちの団員に手を出せないでしょう。文官が一般団員の稽古に参加するのですから、始めは稽古に着いて行けないのも当たり前ですし、という理由で別メニューを作ってみました」
「お前はいつも仕事が早いな。文官の体力が一般団員に劣るのは当たり前だからな。彼女がいると士気は上がるものの、うまくコントロールできる者がいないと苦労するよ」
ダルミロが愚痴をこぼす。
「そうですね。兄弟子である私でさえ、レティシアのことはコントロールできませんから」
苦笑いで同調するレオカディオ。
苦笑いに合わせるダルミロ。
とりあえず、とりあえずだ。
計画通り、何も知らないダルミロを嵌めた。
あとは午後、レティシアがアーロンと邂逅する場面を無事に済ませるだけだ。
胃が痛い。
職場でコロナ患者が出ました。
その電話を受けた時は、目の前が真っ暗になりました。
五類になりましたが、休まれると誰かが穴埋めしなければなりません。
誰かとは? 私ですか? そうですね♪
転職する気はないのですが、つい求人案内を見てしまいます。
有給取得日数、平均○○日。
そんな数字を見て、転職先を妄想する今日この頃です。




