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76 マスクマン~その5~エレナの試合

(絶対に勝つ)

 そう思って臨んだ試合。

 周りからは、泥仕合にしか映っていないはずだ。


 (それでも勝ちにこだわる)

 勝つだけを目指した試合。


 絶対に格好良くない。

 いや、それどころか絶対に格好悪い。


 自分が目指したあの女性(ひと)のように美しく、華麗に、そして誰よりも強く、そんな女性に今はなれない。


 全剣の配慮により出場を許された予選。

 自分が望んだ形とは全く違った出場。


 何よりも全てを持っているアーロン。

 才能、そして強さ。

 妬ましい。


 あれだけの才能があれば全剣からの支援も十分理解できる。

 その支援のおこぼれで、出場、そして稽古をつけて貰った自分。


 その稽古(おこぼれ)で知ったことが一つだけある。

 自分は弱い。

 全く強くない。

 才能なんて、アーロンの半分もない。


 しかしその稽古で少しだけ、強さと言うものの片鱗に自分の手が触れたような気がする。

 格好よく勝てるのが理想だ。

 しかしそこまで辿り着くためには、どれほどの努力を積み重ねなければならないのか。

 才能があることを前提に。


 自分自身、うまくまとめられないが、強くなるための才能がなくても、ある程度までは強くなれるだろう。

 ある程度が、人によって大きく異なるが。

 そして自分自身、強い相手に勝てる道が残されていることを、全剣による稽古で知ったような気がする。


 その道が本当に有るか否かを、今日の試合で確かめてみる。

 勝てる道が残っていれば、その道を愚直に進むだけだ。



「それまで。時間切れにより、これから一本勝負となります。始め」

 審判が試合を一旦止める。

 試合時間を使い切ったのだ。


 相手のイラつきが目に見えて分かる。

 周囲からのブーイングに腹を立てているのだ。


 エレナにもヤジは飛んできている。

 しかし全く気にならない。

 自分は弱いのだ。

 その中でやれることをやっているだけだ。


 相手の攻撃を捌き切る。

 相手の体力と集中力を奪う。

 隙ができるまで耐える。


 アーロンとの稽古で学んだ戦法だ。


 しかし、ただ耐えるだけではない。

 相手が自分のペースで動けないようにコントロールする。

 少しずつタイミングをずらして戸惑わせる。


 こんな戦法、ついこの間まで考えたこともなかった。

 自分が尊敬する剣士は、そんな狡すっからい戦法は使わないだろう。

 それでも自分は弱いのだ。

 この大会に出場している選手の中で一番弱いのは自分だろう。

 その弱さを理解できる程度の稽古は重ねてきた。

 逆に稽古をしなければ、自分の本当の弱さに気が付くことはなかっただろう。


 最弱の選手。

 しかし最弱でも戦い方によっては勝てる可能性がある。

 現役の騎士団員に勝てれば、自分の夢に大きく近づくのだ。


 勝ち方に意味がある?

 勝ち方を選べるほど自分が強くないことを十分理解した。

 強くなくても勝てる道を模索した。


 アーロンは強かった。

 体力を削られた状態でも、全く油断できない。

 しかし、アーロンの体力と集中力を削れば削るほど、勝率は上がった。


 試合でも同じことをするだけだ。

 稽古で、普通に勝とうとしたときは、ほとんど勝てなかった。

 自分が一番勝つ確率を試合でも選択するだけだ。


 その結果、相手だけではなく自分にもヤジが飛んできている。

 つまり観客がイラつくほど、自分が粘っている証左に他ならない。

 それだけ自分は試合をコントロールできているのだ。


「おい、文官の女に負けるぞ」

「ちょろちょろと逃げるな。文官でも騎士団なんだぞ」

「女如き、力技で潰せ」

「女相手に力ずくでしか勝てないのか」


 色んなヤジが飛んでいる。

 相手の目つきがおかしいことになっている。

 あたかも自分を殺しに来ているかのように。


「キエー」

 奇妙な気合と共に突っ込んでくる。

 一瞬だけ相手の木剣に自分の木剣を軽く当てて捌く。

 相手は体当たりも考えていたようだが、ギリギリのところでエレナは躱す。


 相手は体当たりを躱されると反転してさらに突っ込んできた。

 (ん? 少しおかしい)

 相手が反転する際に少しバランスを崩しているように見えた。

 軽く木剣を捌いたことが効いたのか?


 (勝負!)

 思いっきり木剣を振る。


 勝負すべき時は勝負する。

 一瞬だけ相手を凌駕すればいいだけなのだ。

 凌駕できなかったら負けるだけ。

 元々相手は自分より強いのだ。

 後悔しないように思いっきり振りぬけばいい。


 バン!

「一本! それまで」

「「「おお!」」」


 審判の宣言と同時に観客からの声が会場に響く。

 エレナの剣が決まったのだ。


「文官が二人も勝った」

「今年の第十騎士団は凄い」

「文官に負けた奴は首だ」

 色んな声が飛び交う。


 どの声もエレナの耳を通過するものの、全て素通りする。

 自分は勝ったのだ。

 一般団員に。


 勝ち名乗りを受けている間、全剣とアーロンとの稽古が脳裏を横切る。

 諦めなくてよかった。

 稽古は無駄じゃなかった。

 自分のプライドを捨てて稽古を受けた。

 自分のための稽古ではなかった。

 全剣の目はアーロンだけを見ていた。

 全剣が自分に教えることでさえ、アーロンの技術向上のためだった。

 そんな屈辱を耐え、掴んだ一勝。


 反転し、試合場を出ようとすると、試合場のすぐ外にアーロンが立っていた。

 満面の笑みで手を叩いていた。


 アーロンの前まで歩いて行ったエレナ。

「随分と余裕だな」

 憎まれ口を叩いてしまった。

 本当は感謝の一言でも伝えたかったのだが。


 アーロンの表情は変わらなかった。


 次に顔を合わせる時は、一言だけでも感謝を伝えようと思ったエレナだった。


土曜部も日曜日も仕事しました。

月曜日も仕事です。

余暇ってどこに落ちていますか?

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