74 マスクマン~その3
お待たせしました。
すぐに75話もアップします。
つまらない。
せっかくデートに誘ってくれる女がいたのに、演劇を見て、服買って終わりか。
思い描いていたデートには程遠い。
事件に巻き込まれたのは不運だった。
仕事と言って女をほったらかしにするようでは、男として見込みがない。
せめて、ほったらかしにした詫びとして、次のデートの約束を取り付けるとか、次につながる行動を起こせよ。
「はぁあ」
ため息を吐くレオカディオ。
最近は、ずっとアーロンの事だけを考えている。
いかにして強くするか。
アーロンは素直だ。
手を抜かずに稽古をする。
教えたことは、きちんと吸収している。
しかしそれだけだ。
アーロンなりに強くなろうとしている意志は伝わってくる。
しかし、それは自分を信用しているだけに過ぎない。
自分から更に高みを目指すという心がない。
女とデートするための休みが欲しくて大会に出たのかと思えば、それ程その女に興味を持っている様子はない。
今、奴の心の上位にあることは、職と金だろう。
安定した職業、そして生きるための金。
それ以外は見えてこない。
つまらない男だ。
ダンディー最後の弟子。
しっかり基礎は鍛えたからあとはお前が教えろ、と言わんばかりの素材。
自分の下に来たのは運命だろう。
しかし本人にやる気がない。
正確には、レオカディオがダンディーを想う程、アーロンに強くなりたいという気持ちがないだけだ。
普通に強くなろうという気持ちはあるだろう。
それだけでは足りない。
ダンディー最後の弟子として、もっと強くなってもらわなければ。
「団長、女優のノエリア様と劇団長が面会を求めております」
エレナが報告する。
「何の用だ」
「劇団の護衛についての相談とのことです」
つまらない話だな。
「いつも通り、要望内容とルーティーンを検討して回せ」
そんな話、ここまで持ってくるな、と言いたいところを堪えて指示をする。
いつも通り奴らの要望を聞いて、その要望に合う内容で、第一から第九までの騎士団から順番に人選すれば済む話だろうが。
もっとも、あの劇団ならほぼ第八騎士団で決まりだろうが。
「それが、内容としては、先日のマスクマンを護衛にしたいという要望となりますので」
エレナが返す。
マスクマンか。
マスクマンのデビューを考えると少しだけワクワクする。
ダルミロを嵌めるつもりだ。
そんな妄想は後でだ。
ノエリアがマスクマンを所望?
まだマスクマンの正体を晒すのは早い。
しかし……。
「分かった。今でいいならすぐに通せ」
★★★
「珍しいな。第十騎士団から選手を出すなんて。しかも二人も」
政務官であるアンセルメがレオカディオに話掛ける。
「お久しぶりです、アンセルメ様。今年は良い人材が入りましたので、第十騎士団もデスクワークだけじゃない、ということを見せようかと思います」
「ほう、よほど自信があると見える。楽しみにしてるよ」
「ありがとうございます。ぜひ彼の試合を注目して下さい」
レオカディオはダンディーの兄に言葉を返した。
稀代の天才剣士、アンセルメ・イグレシアス。
今は剣の道から大きく外れ、財務大臣政務官をしている。
今日声を掛けられたものの、それ程仲が良かったり付き合いがある訳じゃない。
彼は、あいさつ程度に全ての団長に声を掛けているのだろう。
それよりもダルミロだ。
彼のことを嵌めなければならない。
レティシアの妨害を乗り越えてダルミロを嵌めることが今日の唯一の仕事だ。
会場内に今日出場する選手が集まってきている。
団毎に列を作って整列が作られてきている。
その選手たちから、そして観客席から、少しだけざわつきが聞こえてくる。
今整列している選手たちは、今日の予選からの出場選手だ。
つまり各団の予選会で勝てなかった選手だ。
第一騎士団から第九騎士団まで、希望する団員は各団の予選会で負けても、今日の予選からであれば出られるのだ。
各団の予選会を勝ち抜いてきた者たちは、午後からの本選からの出場になる。
第十騎士団だけは、団の予選会で勝っても団長の推薦がなければ出られない。
一応優勝したアーロンは、レオカディオが言えば午後の本選からの出場でも構わないのだが、ダルミロの目に留まらせるために目立たせることを考えて予選からの出場にした。
しかも午後からの本選はレティシアも見に来るだろう。
レティシアと揉める前にダルミロを嵌めなければならない。
大会役員の一人がざわつきの原因である第十騎士団の列に向かっていく。
話を聞いた後、大会責任者の第一騎士団団長のダルミロに伝えに行く。
(そろそろか)
レオカディオは腹を括る。
これからしっかり演技をしなければならない。
「レオカディオ。君の団員がマスクをしているが、君の指示だと言っている。本当か?」
予想通りの動きをするダルミロ。
「ええ。目立たないようにマスクを着けさせていましたが、まずかったですかね? 一応試合の時は外させますが」
「マスクを着けている方が目立つじゃないか。来賓の方々もいらっしゃるんだ。外させてくれ」
「分かりました」
素直にダルミロの言葉に従うレオカディオ。
役員席を立ってゆっくりとアーロンの前に向かう。
アーロンからマスクを受け取ると、少しの間自分の顔に着けて観客席を見渡す。
レオカディオのマスク姿を見た観客は更にざわつく。
今までアーロンのマスクに気が付いていなかった観客が騒ぎ始める。
観客席だけではなく、整列している出場選手からも声が漏れる
反転する前にマスクを外して、自分の席に戻るレオカディオ。
「すみません、お騒がせしました」
ダルメロの前で一言謝罪して席に座るレオカディオ。
「おい、あれってあのハーフマスクか?」
「第十騎士団に関係あるのか?」
「全剣様があのマスクマン?」
「そんな訳ないだろ。あの若い騎士がマスクマンだろ」
会場が大きくざわめく。
(これで奴のことを知らない人間も注目するだろう)
レオカディオは仕込みが順調に行ったことを確認した。
後はアーロンが実力を出すだけだ。




