70 エレナの特別訓練
済みませんでした。
70話、投稿していたつもりでした。
遅ればせながら掲載します。
エレナは全剣の提案に一も二もなく飛びついた。
提案とは、全剣とアーロンの訓練への参加。
(あの全剣の指導を受けられる)
自分の希望である第八騎士団とは全く別であるが、全剣の指導を受けられる機会を逃す訳にはいかない。
全剣は弟子を取らないことで有名なのだ。
最も、全剣は文官集団の第十騎士団。
剣を振るう機会は皆無。
そのため、いくら請われても業務を優先するスタイルを崩すことはなかった。
その全剣が指導する機会。
アーロンのことは気に入らないが、本大会への切符だけでなく、業務中の訓練参加。
またとない機会を逃す訳にはいかない。
「えっ? 終業三十分前でいい?」
全剣の言葉で、全剣の指導したい者が第十騎士団の代表選手ではなく、アーロンだということを明確に言われた屈辱。
アーロンは午後一杯なのに、自分はたった三十分。
全剣にとって、エレナと言う人間に剣士としての価値が三十分しかないと言われたにも等しい。
それでもエレナが目指すのは暴風剣姫。全剣ではない。
屈辱は甘んじて受けよう。
今のエレナに、実力はない。
今のエレナにあるのは、夢への機会だけ。
屈辱を受け入れて、チャンスをものにするのだ。
全剣の指示通り、三十分前に訓練場入りするエレナ。
その前から訓練場に入って訓練したかったが、全剣の機嫌を損ねてしまっては元も子もない。
少しだけ早く仕事を切り上げ、軽く体を慣らしておいた。
どんな訓練でも期待に添える動きができるように。
「よく来たエレナ。少しアップしておけ。アップが終わったらアーロンと試合だ。アーロンは試合に勝ったら訓練終了だ。ほら立て」
エレナは襤褸切れのように、無様に転がっているアーロンを見る。
これから試合なんて無理だろう。
こんな襤褸切れと試合させるために自分を呼んだのかと思うと、少しやりきれない。
それ程、エレナに実力がないのか、アーロンを買いかぶっているのか。
「大丈夫です。アップは済ませてきました」
エレナは全剣に言葉を返した。
「それなら始めるか。試合は二本先取だ。開始線に立って……、始め!」
全剣が開始を告げる。
試合から始まる訓練。
立っているだけでもやっとのアーロンに木剣を構える。
少し動けば、アーロンは倒れるだろう。
簡単に勝てるとエレナは思っていた。
バン!
「一本。開始線に戻って」
おかしい。
さっきまで襤褸切れのように転がっていた者の動きとは思えない。
しかし一本取られて、エレナは反省した。
襤褸切れでもエレナよりも強かった。
今度は油断しない。
息も絶え絶えのアーロンに木剣を向ける。
はた目から見ると、アーロンがやられているようにしか見えないだろう。
そうしたのは全剣様だが。
「二本目初め!」
バン!
「はい終了。アーロンの勝ち」
つまらなそうに試合終了を告げる全剣。
「やったあ、終わった!」
倒れこみながら喜びを表に出すアーロン。
呆然と立ちすくむエレナ。
何も実力を出せずに終わった。
まさかの秒殺。
恥ずかしい。
全てに恥ずかしい。
準備できていると言った自分。
本大会に出場する自分。
第八騎士団を目指している自分。
剣を握っている自分。
そして襤褸切れに秒殺された自分に対して。
★★★
(もう少し、体力を奪わないと駄目だな)
レオカディオは訓練を反省した。
体力を奪うだけでは足りない。
数時間訓練をして身体を全て動かしているアーロンにぶつけるには、多少アップした程度のエレナでは足りないのだ。
(エレナももう少し前から訓練させるか)
レオカディオとはレベルが離れすぎている。
アーロンと同レベル程度の相手と、接戦の稽古をさせたい。
そのため敢えてエレナを訓練に入れた。
しかし、アーロンの体力と技術を過小評価していたことに気が付いた。
線の細さ。
それだけで体力と技術を判断していた。
技術も体力に相応したものしか身に付いていないと勝手に思っていた。
あのダンディーが教えたのだ。
見た目で能力が判断できないのは当たり前だろう。
最も自分でさえ見た目で強さが分からないと言われているのだ。
そんなことすら忘れていた。
レオカディオは、剣への熱い想いが甦ってきたことを感じていた。
剣への情熱は、とっくの昔に冷めたものと思っていたのに。
レオカディオはアーロンにダンディーの影を見て、ギリギリの戦いをさせて強さを少しでも底上げしたい、と思った。
そのためには使えるものは全て使う。
エレナもその駒の一つだ。
彼女がどこの騎士団に行こうと関係ない。
残るも良し、去っても良し。
彼女の代わりはいくらでもいる。
しかしダンディーの教え子に代わりはいない。
ダンディーの教え子を正しく導くためなら、エレナの人生なんかどうなっても構わない。
本人の希望が、本人がそれを対価として欲しいというのであれば、エレナをどう使おうとも気にならない。
払ってやろうとも。
その代わり、強者の餌となれ。
うまく使える人材なら、希望を叶えてやる。
他の騎士団への移籍が希望なら、その程度簡単に叶えてやる。
彼女程度の技量であれば、文官でいた方が間違いなく幸せだろう。
現場の騎士団で勤務すること。
それが彼女のためにならなくても、アーロンを指導するための代償として払ってやる。
エレナのためにならない? そんな些末な事どうでもいい。
レティシアの剣技が染み付いている。
丁寧に余計なものを削ぎ落としていかなければ。
あんな邪道を教える必要はない。
ダンディーから受け継いだものを、正しい剣技を正しく教える。
それだけで十分強くなれる。
彼の技術を全て覚えきれるか今後の指導次第だが、その見込みはあると思う。
レティシアに教わった?
たった数日で地方予選を制した?
ふざけるな。
彼(ダンディーの弟子)の才能を無駄に使わせやがって。
あの攻めの形五番。
あんな曲芸を使う必要はない。
しかし、習得が難しいアレを実戦で使えるレベルまで引き上げたのはどっちの才能なのだろうか。
そんな曲芸で、レベルが低いとはいえ地方大会を制することができる能力。
そんな能力を持つ者を入団させることもできなかったレティシア。
レティシアの奴。
彼女のことを考えるだけで怒りがこみ上げてくる。
ダンディーの遺産をどぶに捨てるような真似をするなんて。
偶然、本当に偶然がなければ、ダンディーの遺産は王都の人ごみに紛れて消えて行っただろう。
ダンディーの遺産と気が付いた時点で、信用できる団員を常時付けておかなければ駄目だろう。
脳筋姫ではそれすら考えられないか。
レオカディオとアーロンの出逢いは偶然ではない。
これは運命だ。
「エレナ、負けて悔しかっただろう。明日は勝てる。そのために今から訓練をしよう」
優しい口調とは裏腹に、一時的に、一瞬だけアーロンを超えられる剣、将来につながる可能性が非常に低い剣技をエレナに叩き込もうとする、非情なレオカディオだった。
週末仕事が入りました。
更新できるか不安です。




