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67 二代目全剣


 全剣。

 初代全剣はその名を返上し、今では零剣と呼ばれている。

 二代目全剣は、ミラン家の次男、レオカディオ・ミランである。

 現在は第十騎士団の団長を務めている。


 二つ名を貰ったものの、全剣の名は重すぎると思っている。

 二代目全剣と言えば、ダンディーの後釜である。

 誰がどう考えたって、全剣の名を引き継ぐには全てが足りない。


 しかしレオカディオ以外に全剣の名を引き継ぐ者がいないことも事実。

 他の十剣に比べて、剣の腕が劣る訳じゃない。

 彼らと比べると特色がないだけなのだ。

 彼らは一点豪華主義。

 一つを突き詰めて、誰もが到達できない高みまで登り切った。

 レオカディオは全ての剣技を高レベルで使える。

 それだけだ。


 ダンディーがダンディーという異名がついているか考えて欲しい。

 そういう人の後釜なんて比較されるばかり。そして言われる評価が劣化版。


 劣化版と言われるのはまだいい。

 その自覚はある。

 自分のおかげでダンディーが悪く言われることがあれば、悔やんでも悔やみきれない。

 本来であれば、全剣の名を継ぐことは本意ではない。

 しかし、レオカディオ以外にダンディーの後釜と言える人物はいない。

 暴風(ストーム)(プリン)(セス)は人気はある。

 実力もある。

 ただ、全剣と言えるほど全ての剣は使えない。

 彼女は全剣の名にふさわしくない。


 誰が全剣の名を引き継ぐか。

 消去法で行くとレオカディオ以外に全剣の名を継ぐ者はいなかった。

 ダンディーの後釜として、みんなに認められる日は来ないだろう。

 それでもダンディーへの恩を少しでも返すため、自分の評価を落とすことになろうとも全剣の名を継いだのだった。




★★★




 騎士団の予選会。

 毎年のつまらない恒例行事。

 特にもつまらないのが第十騎士団。


 文官の集団である第十騎士団。

 騎士団と名は付いているものの、団員は剣技で入団した訳じゃない。

 大会と言っても、お遊戯みたいな()()しか身に付けていない者達のチャンバラごっこにすぎない。

 そんな大会なんて、仮にも全剣の名を継ぐことを許されたものが見ていて楽しいはずがない。


 レオカディオは腹の内を隠して席に座っている。

 やはり、ディエゴとエレナが頭一つ、二つほど抜けている。



「やあっ!」

 元気な気合が聞こえてくる。

 声の方向を向くと、アーロンが試合をしていた。

 無駄な動き、声の大きさ、技術はないものの頑張って試合を進めている様子が窺われる。

 (彼か。頭の良さだけではなく体力もあるのか。若いからな。若くて体力があるのなら、いざという時に目いっぱい仕事をさせられるな)

 剣技に注目せず、ただ業務のことを考えるレオカディオ。


 その程度の興味から、レオカディオはアーロンの試合を眺めることにした。


 アーロンは全力で相手の剣を躱し、打ち、外す。

 足さばきがなっていない。

 打ちが下手くそだ。

 防御もなっていない。

 しかし、相手のレベルが低いので一応試合にはなっている。

 (田舎剣術ではこんなものか)


 レオカディオはアーロンの剣について評価を終了すると、アーロンの試合に興味を失った。

 他の試合会場に目を移そうとしたとき、ふと違和感を感じた。

 (気持ち悪い……)


 アーロンが一本決めた。

 下手なりに動いていたことが勝利の決め手か?

 しかし強い違和感がある。

 気持ち悪いのだ。

 アーロンの動きが。


 観客席から歓声が聞こえる。

 若い女性の観客達だ。

 (珍しい。この大会を見に来るなんて)

 誰かの交際相手かそれに近い者だろう。

 誰の応援だろうか。

 二面しかない試合会場。

 今勝利を決めたのはアーロン。

 (王都に来て間もないはずだが)


 疑問が湧き上がる。

 ・ 王都に来て間もないアーロンに若い女性の応援団。

 ・ 気持ち悪い剣。

 違和感が二つ。


 正直、下手くそ(アーロン)の試合を見たいと思わないが、その違和感を解消しない方が気持ち悪い。

 決勝戦まで席を外す機会を窺っていたが、アーロンを見極めるため腰を落ち着けて試合を見ることにした。




★★★




 アーロンの試合が始まる。

 アーロンの動きはガチャガチャしている。

 足さばきが、わざと下手にしているくらいのレベルでひどい。

 しかし足さばきのリズムは悪くない。

 悪いどころか一本を取るまでのトータルで見ると、ガチャガチャした動きでさえ計算されているような気がする。


 それどころか、剣筋に見覚えがある。

 気付いた瞬間、背中に寒気を感じた。


 (誰だ?)

 この剣筋は明らかにダンディー門下のものだ。

 誰だ? 誰が教えた?

 そもそも、こいつは誰だ?


 アーロンの動きを観察、検証する。

 十の形を使えるか?

 でたらめな足さばきを検証する。

 脳内で正しい足さばきに直す。

 きれいな形を使えそうだと結論が出る。

 あえて技術を落として試合をしていることに殺意が湧く。

 いや、ダンディーの剣を冒とくしていることに殺意が湧いたのだ。


 強さは?

 どの程度の動きができる?

 脳内でシミュレーションする。

 相手が低レベルなのが悔しい。

 強さが一定レベルまでしか推測できない。


 エレナより強いのか?

 デイエゴを凌ぐのか?

 相手が相手では、そこまで計算できない。

 しかし、彼、彼女よりも基礎ができている可能性は高い。



 アーロンの応援をしている女性たちに、声を掛ける騎士団員がちらほらいる。

 (彼女たちは誰なのだ?)

 ほどなくあることに気が付く。

 (阿修羅剣の食堂か?)


 双子の看板娘。

 若い騎士団員が最近はまっている食堂。

 どっかのギルドメンバーが謎の騎士団員にコテンパンにやられた。

 謎の騎士団員は暴風(ストーム)(プリン)(セス)が使っていた阿修羅剣を再現したという噂。



 暴風(ストーム)(プリン)(セス)

 スカウトしたはずの団員が急に姿を消した。

 あの暴風(ストーム)(プリン)(セス)があれ程にまで入れ込んでいた新入団員。

 短期間だが暴風(ストーム)(プリン)(セス)自ら手ほどきをしたという。

 暴風(ストーム)(プリン)(セス)が教えた、攻めの形五番だけで地方大会を制したという。


 まさか?


 レティシアは、ユダの少年と言っていた。

 本名はユダじゃないのか?


 そもそもユダとは?

 十二使徒のユダか?


 アーロンの出身地はどこだ?

 正確なところは忘れたが、大体方角的には合っていたはずだ。



 この剣筋は、レティシアが短期間教えただけのものではない。

 そもそも地方大会に出場する時点で、ある程度師匠の剣筋が染み着いている。


 あのレティシアの浮かれ具合。

 絶対にそうだ。

 あのレティシアの落ち込みよう。

 絶対にそうだ。



 アーロンが辛勝した。

 そして準決勝が始まる。

 デイエゴとの勝負だ。


 ガチャガチャした試合が始まった。

 レオカディオは脳内でアーロンの動きを補正する。

 (面白い)

 どこまで狸を演じるつもりなのだろうか。


 顔がニヤける。

 アーロンがまぐれを装って一本が決まる。


 (そろそろ化けの皮を剥いでやろうか)

 レオカディオは席を立って試合会場に近づく。


 アーロンの動きに合わせて、思いっきり息を吸い込む。


「三!」

 アーロンに向かって大声で叫ぶ。


 試合が終わった。


 レオカディオは確信した。

 アーロンは、ダンディーに師事したことがある。


嘘みたいに休みがつぶれていく今日この頃。

勤労感謝の日も勤労しました。

昨日急遽、週末の仕事が入りました。

「ラブストーリーは突然に」は嬉しいですが、「ハードワークは突然に」は嬉しくありません。

「仕事とは命を削ることなり」というような感覚を覚えます。

これから仕事に行きます。

それでは。

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