66 騎士団の大会~その2
予選会の当日。
アーロンは、少し早く出勤した。
大会会場設営準備のためだ。
前日にも準備していたにも関わらず、やることは思っていたよりも多い。
今までは大会に出て試合することだけに集中していたが、その裏で色々準備することがあるのだということに今さらながら気づいたアーロンだった。
「ねえアーロン、君はガチ組? それともエンジョイ組? 」
今年入団したばかりだと言うイネスに尋ねられた。
勝ちたい気持ちを適当にごまかすアーロン。
きっとイネスも本気で尋ねている訳じゃない。
コミュニケーション代わりに聞いているだけだろう。
その証拠に深く追求してこない。
作業の合間にイネスとの雑談が続く。
イネスは元から文官志望であることから、剣術はほとんどできないとのこと。
アーロンは田舎出身であることから、王都のレベルが全く分からないなどと適当にごまかした。
基本聞き役に回り、自分の情報を出さないように気を付ける。
どこから変な情報が出るか分からない。
先日のフクロウ亭の件もある。
自分に興味を持たれないように、狭く浅く付き合う。
業務に支障が出ない程度の浅さで人付き合いをする。
本当なら、こんな予選会などで目立ちたくはない。
しかし、オリビアへの恩を返すためには仕方ない。
お金も何も今はない。
少しだけ目立つかもしれないが、最終的にエレナかディエゴのどちらかに負ければ大きくは目立たないだろう。
頑張って、休日だけ頂く。
給料があるからボーナスは要らない。少し未練はあるけれど。
準優勝だって、正直できるかどうか分からないのだ。
目標は休日取得だ。
★★★
「今年もうちの予選会は、客がいないねえ」
全剣こと第十騎士団団長のアルカディオ・ミランが自虐気味に言った。
「一般に公開しているとは言っても、所詮ここは文官の集まりですから」
エレナが観客のいない理由を簡潔に答える。
レベルの低い大会など、関係者以外はなかなか来ない。
「今年はどうだい? 」
全剣がエレナに尋ねる。
「頑張ります、としか言えません」
「調子は? 」
「悪くありません」
「そうか」
全剣はエレナの返事を聞いて、少し寂しい表情をした。
「ところで、あそこの観客席だけ少し騒がしいねぇ。何だろう? 」
「さあ、分かりかねます。聞いてみますか? 」
「それには及ばない。こんな時間から珍しいなと思っただけだ。もうすぐ開会式が始まる。エレナも選手席に行ったほうが良い」
そう言って全剣はエレナから離れた。
★★★
「宣誓、我々文官一同は日ごろの運動不足にも負けず、明日からの激務を忘れ、本日だけは一介の騎士団員として、全ての剣を全力で振ることを誓います」
昨年の予選会優勝者であるディエゴが宣誓をする。
ディエゴは第十騎士団予選会を三連覇している。
宣誓も洒落を利かせるほど余裕が見える。
ディエゴの宣誓を聞いてエレナは悔しさが顔に出ないようにしていた。
ディエゴさえいなければ、自分が本大会に出られるのに、と思いながら。
ディエゴが試合に出るのは反則だ。
元々第五騎士団に半年だけ在籍していたのだ。
『普通』の文官ではない。
そもそも普通の騎士団員として入団できる程度の実力があったのだ。
普通の騎士団員が、文官の大会に出て無双している。
そんなこと許されない。
しかしディエゴが出られるのも今年限りだ。
入団五年未満の若手が対象なのだ。
来年になれば、ディエゴはいない。
しかし、ディエゴを倒さないで本大会に出るのも何か悔しい。
気が付くと奥歯を噛み締めているエレナ。
ディエゴだけがこの第十騎士団での敵だ。
彼さえいなければ、予選会は余裕で優勝していはずだ。
しかし、その普通の騎士団を半年で首になった男が倒せない。
奴を倒して、今年こそは第八騎士団に転属させてもらう。
エレナは自分の目的を再確認すると、深呼吸をして冷静さを取り戻した。
★★★
双子姉妹の声が聞こえる。
「アーロン、応援に来たよ」
観客席から声を掛けられたアーロンはオリビアとタマラを確認すると驚いて一歩後ずさりした。
(団員たちに見られたらやばい)
「今日はどうしたの?」
すぐに離れなければ、と思いながらも平静を装って問い掛ける。
来た理由を聞いておかなければ、今後も声を掛けられ続けるかも知れない。
「アーロンの応援に来たんだよ」
二人とも同じことを答える。
この二人と知り合いなことがバレるとフクロウ亭事件に関わっていることも当然知られてしまう。
「ありがとう。ただ入団したばかりだから、俺にだけ応援があると先輩たちに目を付けられちゃうから、俺のことは内緒にしていてね」
「え~、それはつまんない」
二人はブウブウ文句を言う。
このまま騒がれると、この二人と個人的な知り合いということがバレる。
「優勝したらボーナスが出るんだって。先輩を差し置いてボーナス貰うとそれだけで目を付けられるからさ。勝ったらボーナスで何かプレゼントするから」
どうせオリビアと出かけるつもりなのだ。
その時に何か買えばいい。
狙うと目立つからボーナスまでは貰うつもりはないけど。
給料も出るのだ。辞めない限り永続的に。
こう言っておけば、試合会場で声を掛けらる可能性は少なくなるだろう。
声を掛けられる回数が少なければ少なくなるほど、言い訳はしやすくなる。
フクロウ亭に行ったことがある程度の言い訳で治まるくらいであれば。
★★★
「やあ」
「一本、それまで」
試合は決勝まで含めて五試合。
文官による試合だけあって、一試合目は拍子抜けする程あっさりと勝った。
相手の一歩目の踏み出しだけで、自分よりもはるかに弱いことが分かっていた。
相手は、文官の中でも特に弱いことは容易に推測できたが、それでも第十騎士団の強さの基準が分からないため、偶然を装ってギリギリで剣が入ったように装った。
「もう少しだったのに」
相手の先輩が惜しがる。
「ちょっとだけズレていれば初勝利だったのに」
やはり弱い相手だったか。
二試合目も三試合目も同じことの繰り返しだった。
ギリギリのところで相手の剣が防具を掠め、自分の剣が偶然に当たったかのように装う。
問題は準決勝と決勝だ。
ディエゴは強い。
エレナはそうでもない。しかし、強くはなくとも弱くもなさそうだ。
準決勝の相手はディエゴだ。
ディエゴに勝ってエレナに負ける。
難しいが、自然に負ける方法を考える。
ディエゴに勝つのも本気じゃ駄目だ。
ギリギリか偶然を装うのがベストだ。
ディエゴクラスの相手にそれができるのか。
できなければ本気を出すしかない。
「準決勝、ディエゴ選手対アーロン選手」
審判の声に合わせて試合会場の中に入る。
礼をして剣を持って向き合う。
二本先取。
出合頭で一本を取ることができれば、非常に楽に試合を運べる。
「始め!」
開始の合図とともにアーロンは素人臭い上段打ちを放つ。
「やあ!」
あっさりと躱すディエゴ。
躱しただけでなく守りの型1番を繰り出してくる。
オーバーに空振りした振りをして、空振りの勢いそのままに横に一回転してディエゴの剣をしたから弾き飛ばす。
弾いた反動そのままにディエゴの面を襲う。
「一本!」
審判の判定が下る。
「おおっ!」
観客が騒然とする。
でたらめな動きで一本先取したのだ。
優勝候補から。
まぐれとしか思っていないだろうが、見ている観客たちは驚いている。
「二本目始め!」
審判が試合を再開する。
ディエゴの目の色が変わる。
さっきまでの余裕の表情から一点、目つきが吊り上がっている。
「やぁ、やぁ、やぁ!」
連撃を繰り出すディエゴ。
ディエゴの連撃を余裕なさそうに背中を丸めて必死に受け止めるアーロン。
スピードもパワーもあるが、単純な軌道を描くだけの剣筋。
(レティシアの剣に比べたら天と地の差がある。更に言えば、レティシアには劣るがティシムの方がはるかに強い)
アーロンは冷静にディエゴの剣を分析する。
しかし、先取されたディエゴの剣劇が止む気配はない。
(普通に戦ってくれた方が厄介だったな)
さっきの一本はアーロンを舐めていたからこそ、できた隙。
今は防御が全くなっていない。
疲れから連撃が止めば仕留められる。
連撃を受け止められなくなって、破れかぶれで出した剣が偶然に当たる、というシチュエーションを待つアーロン。
ディエゴの技が切れた時を虎視眈々と狙う。
「三!」
突然全剣が大声で叫ぶ。
タイミングよくディエゴが突きを繰り出してきた。
アーロンは型通りに突きをいなして上段切りを放つ。
バン!
「一本、それまで」
試合が終了する。
全剣がニヤニヤしている。
ディエゴはこの世が終わったかのような表情をしている。
食堂の姉妹は二人で喜んでいる。
アーロンは勝手に体が動いてしまったことについて、どう言い訳しようか考え始めている。
「アーロンの勝ち」
審判が宣言する。
これで休暇の取得という目標は叶えたらしいが、それ以上に厄介なことが待ち受けていることをアーロンは感じていた。
なんとかアップしました。
仕事が忙しすぎておかしいです。
食事する時間もなくて体重が減っています。
久し振りの休み(一日だけですが)を満喫しようと思ったら、朝の7時前から仕事のトラブルを知らせる電話が鳴る今日この頃。
明日の仕事が失敗したら(ピー)だぜ!
心が狂いそうです。
何故俺だけ?
今週も忙しいこと確定です。




