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63 謎の騎士団員探し


「うちの者がご迷惑をおかけいたしまして、本当に申し訳ありませんでした」

 レティシアに頭を下げる男。

 カブロンギルドのギルド長をしているルカスは、第八騎士団の団長室で頭を下げていた。


「だから、そんな事はうちの団とは関係ないんじゃないか」

 レティシアは、全く興味なさそうに言葉を返す。


「うちの若い者が、レティシア様の部下に手を出そうとしていたこと、王都の治安を害したこと、深くお詫びいたします」

 レティシアの返答を無視してルカスは再度謝罪した。


 二人の会話は嚙み合っていない。


「ティシム、一体何なんだ? 」

「だから先程簡単に説明したじゃないですか」

「簡単すぎて分からない」

「だから、ギルドの若い者が、食堂の看板娘をからかっていたらイケメンで若い騎士団員に注意されたので、ムカついてボコろうとしたら反対にボコられた。その際団長の阿修羅剣で華麗にボコられたので、団長まで謝罪に来たっていう話じゃないですか」


「阿修羅剣が問題なのか? 」

「だぁかぁらぁ、カブロンギルドのメンバーが、うちの団員に手を出したのでその謝罪に来たんじゃないですか」

 ティシムは何事にも興味のないレティシアに切れていた。


「そこまで簡単だと、意味は分からないが筋は分かった。ところでルカス、ボコられたメンバーは大丈夫なのか? 」


「王都の治安を担う騎士団様にご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。うちのメンバーについては大したことはありませんでしたので、しっかりと焼きを入れておきました。今後ご迷惑になるようなことはさせません」

 ルカスは平身低頭謝罪を繰り返していた。


「ところでティシム、その団員って誰だ? 」

「それが分かればそいつを連れてきていますよ」

「分からないのか? 」

「阿修羅剣を使ったイケメンとしか」

「イケメンと言える程の団員なんて、うちの団に居たか? 」

「心当たりがないから困っているんでしょうが」

 第八騎士団にイケメンはいない。

 これは騎士団にある暗黙の了解事項である。


「他の団ではないのか? 」

「阿修羅剣を実戦で使う時点で色物に決まっているじゃないですか。普通の人間は普通の技を使いますよ」

「うちの団に色物しか居ないって言うのは心外だな。相手が弱いから、見よう見まねの阿修羅剣でからかっただけではないのか」

 レティシアはまともなことを言う。


「畏れながら、その者たちはうちのメンバー中でも有望株で、将来は特攻隊に所属させようと考えているメンバーでして。ただのメンバーであれば不祥事を起こした時点で首を切っております」

 ルカスが口を挟む。

 真似事の剣術でやられる者ではないとのこと。


「素質はあっても、現時点(いま)は大したことないんじゃないか」

 厳しいことを言うレティシア。

「まだ有望株どまりではありますが。それでも最低限、騎士団であれば新団員程度の実力はあると思っているメンバーとなります」


「新団員相手なら、遊びで相手できるんじゃないか」

「団長、新団員相手でも、それができるのは限られた者だけです」

「ならどこのどいつか分かるだろ」

「だぁかぁらぁ、それが分かればとっくに連れてきてますって。団の運営に興味がないのは分かりますが、もう少し考えてください。そもそもそれができるのは班長から小隊長以上の者ですよ。しかも話を聞けば、麺棒二本で相手したそうですよ」

「ハハハ、調理道具に負けたのか。ギルドの有望株もかわいそうだな。食堂の看板娘を喰おうとしたらイケメンに調理されたって話か。しかもイケメン騎士団員は、ギルドメンバーが狙っていた看板娘をお持ち帰りして、泣きっ面に蜂ってやつか」

「全く持ってお恥ずかしい限りです」

 言われるがままのルカス。

「ごほっ」

 下品な言葉を使わないように咳でけん制するティシム。


「ギルドのメンバーの話では、年齢的にそのメンバーと同じかそれ以下ということです。そのメンバーは十八歳ですので、小隊長はともかく班長ですら難しい年齢かと思われます。そもそもあんな技を使う若い団員なんて、心当たりがありません」

「余技として遊んでいる奴らはいるだろう」

「だから言ってるじゃないですか。若くて阿修羅剣を実戦で使えて、麺棒で新団員二人を同時に相手できて、かつ圧倒することができる団員なんて心当たりなさすぎですよ。そもそもそんな団員が居たらどこの団でも有名になっているじゃないですか」

 ティシムは切れながら言った。

 最も最近のレティシアは暴れるか無気力か、それらを交互に繰り返している状態であった。

 ギルドの長が謝罪に来ているのに、無気力状態で対応しているレティシアに怒りを覚えているティシムだった。


「まあ、そんな奴が居たらスカウトしても良いかもな。イケメンは困るが」

 口から出た言葉とは裏腹に、スカウトする気がなさそうなレティシア。


「その通りです。そもそもそんな団員が居たら、若い女性が放っておかないでしょうからね」


「怪しくないか? 」

「ええ。腕が立つ若者でイケメンが、わざわざ場末の食堂に騎士団員と自ら言って飯を食っている。しかも騎士団が探しても、どこのどいつか分からない。色恋詐欺の類ではないかと」

「そうじゃなくて、ギルドの若い奴の話だ」

「はあっ? 」


「まあ、どうでも良いか。ルカス、話は分かった。そちらのギルドに手は出さない。うちの団員かどうかはきっちり調べるが、うちの団員じゃなければ連絡はしない。その団員の情報があればうちの団にも情報をくれ。以上だ」

 レティシアはあっさりと謝罪を終了させた。

 興味がないのか、やる気がないのか、それとも両方か。


 謝罪を簡単に受け入れてくれたレティシアに感謝しながらカブロンギルドのルカスは帰路についた。




「そもそも阿修羅剣なんて、ただ二本の剣を振り回した結果に過ぎないのに。それを根拠に第八騎士団と決めつけるなんて馬鹿じゃないか」

 ルカスが居なくなった部屋でレティシアがぽつりと言葉を漏らす。


「ギルドとしては、どこの騎士団かは関係ありませんよ。騎士団に謝罪したと言う形さえ取れれば。それにあの阿修羅剣は、あなたにとってはただの結果に過ぎないかも知れませんが、見ていた人にとってあの光景はそれ以上のものだったのですよ」

 ティシムは昔を思い出して言う。


「結果とは言ってもデスペルタル級の実力がやっと付いた直後の試合だったからな。少しばかり尖ったことをやってしまっただけだ」

 レティシアが当時の心境を語った。


「ただ、誰彼できる技じゃないことは確かです。最低でもどこの団に所属しているかくらいは調べてみないといけませんね」

「ちょっと(ルカス)の話が疑問なんだよ。まず奴の話を疑え。奴が本当のことを話していても、その情報源が間違っていれば違う方向を探すことになる」

「分かりました。確実なところを押さえて探します」

 ティシムはレティシアの指示に、素直に従うことにした。




★★★




「マスター、今日はいつもより客が多いね」

 常連客がフクロウ亭の店主に声を掛ける。


「ああ、先日うちの娘に手を出そうとした奴が他の客にのされてから、ずっとこんな感じだよ」

 エベラルドが不機嫌そうに答える。


 先日、自分が不在の時に娘たちが狙われたことで機嫌が悪いのだ。

 自分さえ残っていれば、そんなことにはならなかったのに。

 しかも娘を助けたのは若い男。

 そりゃ男親としては不機嫌にもなる。


「ところでその勇者様は来てないのか? 」

 常連客が更に聞いてくる。


「目立ったり色々詮索されるのが嫌なようで、あの日以来来てないよ。ところでお前さんは酒飲みにきたのか、それとも調査にきたのか? 」

「嫌だなあ、酒飲みに来たに決まってるじゃないか。ほら、いつものくれよ」

 バツ悪そうに酒を注文する常連客。


「はいよ」

 常連客の前にビールをドンと置く。

 客に対する礼儀は感じられない。

 苦笑いしながら常連客はジョッキを口に運ぶ。



 常連客達は、色々なギルドから頼まれて、アーロンの身元を探っていた。

 呑み代を奢るから、と言われ簡単に引き受けているものが大半だが。

 あの晩目撃していた常連客達はしっかり口止めされており、当時の状況すら答えることはない。

 少しでもしゃべったら、店に出入り禁止という厳しい罰符が科されると脅されているからだ。

 当日、現場を見ていた常連客には口止めをしているし、見ていた常連客達は、カブロンギルドの若者の行動に怒りを抱いているので、多分話すことはないだろう。

 その時いなかった客の方が面倒だ。

 当時の緊迫した雰囲気を知らず、金に目がくらんで恩人(アーロン)を売りそうだからだ。


 エベラルドですら、あの晩のことは大きく感謝している。

 アーロンの身元がバレたくない、と言う気持ちも十分理解できる。

 ギルドの若手と騎士団員の私闘。

 ギルドからは報復のおそれがあり、騎士団からは何らかの懲戒処分を受ける可能性がある。


 うちの娘を守ってくれたんだから、アーロンの個人情報くらいは守ってやらないといけない、とエベラルドは思う。


 しかしひとつ面白くないことがある。

 タマラがアーロンに熱を上げてしまったらしい。

 オリビアも今まで以上に興味を持ち始めたようだ。

 妻のバシリアでさえ、娘と結婚してくれないか、と(のたま)う始末。

 うちの女どもがみんな少年(アーロン)に夢中になったのだ。


 少年(アーロン)には、うちの娘に手を出しさえしなければ、ずっと無料(ただ)で飯を食わせてやっても良い。

 しかし、進んでうちの娘からあいつの宿に行くとなると、非常に気が重い。

 娘を応援するべきか、麻疹(はしか)として処理するべきか。

 どうしたものか。

 とりあえず、あいつはうちの娘に手を出す気はなさそうなので、そこだけは少しほっとしている。

 しかし、いつまでうちの娘の魅力に抗えるか。

 うちの娘を放っておくのも許せないが。

 その前に麻疹が治っていて欲しいと思う。

 タマラだけじゃなくオリビアも、奴の借りている宿に食事を届けに行っている。

 夕飯と浴室の朝食、そして昼の弁当と。

 娘たちには、店の手伝いのために早く戻るように言っている。

 タマラを一人で行かせるのは危険なので、一緒に行かせているのだが、娘二人を取られるような気がして不安になるエベラルドだった。



 更に騎士団員が興味を持ってこの店に来るようになった。

 体つきの良い男たちがこぞって食堂を訪れる。

 常連客よりも酒も食事も出るので、売り上げは大きく伸びているのだが、普通の常連客、特に当時の状況を知る者たちが遠慮して店から遠のいている。

 その常連客に対して、申し訳ないと言う気持ちがあるエベラルドであった。



★★★



「レティシア様、全剣様がお見えになるそうです」

 ティシムが伝える。


「嫌だ。会いたくない。これから若い奴に稽古つけに行かなきゃならない」

「無理です。あちらから来られるのですから。しかも大金も預けっ放しなんでしょ」

「あれは私のお金じゃないし。あんな金がなくても私は十分に金を持っているし」

「レティシア様、それは無理が通りませんよ。そもそもユダの少年の話で来るんでしょ」

「その話が一番したくないんだよ」

「諦めましょう。私も一緒に説教聞きますから」

「お前に取れる責任はない。間違いなく全ての責任は私だって言うはずだ」

「その通りでしょうね。それでもレティシア様お一人で全剣様にお会いしますか? 」

「……」

「でしょうね。ご一緒いたします」

 ティシムはレティシアを言いくるめた。


「ところで、いつも忙しいが口癖の全剣がわざわざこっちに来るって何かあったのか? 」

「全剣様と言え、いつもレティシア様を呼び出すばかりじゃ悪いとでも思ったのでは? 」

「あいつがそう思っている訳ないだろうが。金の文句とスカウトのことをネチネチと言うつもりだろ。奴に出すお茶はないと心得よ。少しでも歓迎していないことを態度で示して早く帰らせるぞ」

「レティシア様、それはちょっと無理では」

 レティシアの子供じみた発言に振り回される予感しか感じないティシムだった。


先週はお休みさせていただきました。

残念ながら趣味の会は延期となり参加できなくなりました。

その代わり仕事が舞い込んできてしまい、時間外労働の時間が睡眠時間を簡単に抜いて行きました。

来週も仕事が減ることはなさそうです。

ブラックというのは目の隈の色を言うのでしょうかね。

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