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62 フクロウ亭での大事件


「僕のおかげで助かったわよ」

 バシリアはそう言って、アーロンに肉多めで煮込みをよそった。


 (なんで世の中の大人は、全ての人が肉好きだと思っているんだろうか)

 いつも感じる疑問を飲み込みながら、ゆっくりと食べ始めた。


 バシリアが喜んでいるのは、苦手な帳簿をアーロンがきれいにしてくれたからである。

 しかも帳簿は、商工会の会合に間に合わせなければならなかったのだ。

 いつもなら家族全員で帳簿と格闘していたのだが、アーロンがあっさりと帳簿を整理したので喜んでいるのだ。

 商工会の会合は今晩。

 いつもなら徹夜したり、最悪税理士を頼んで間に合わせていたのが、食事を提供しただけのアーロンがすべてやってくれたのだった。


「さすが騎士団の星。帳簿なんてお手の物だね。お母さん、だから拾ってきてよかったでしょ」

「全くオリビアは。拾ってきたときは帳簿(そんなこと)できるって知らないで拾ってきたくせに」

「でもアーロンは役に立つでしょ」

 自慢げなオリビア。

 あたかも自分で帳簿を整理したかのようにふるまうオリビア。


「まあ、この僕になら毎日無料でご飯食べさせてもお釣りがきそうね」

 以前税理士を頼んだことを思い出したバシリアが本音を漏らす。



「あれ、今日は親父いないのか」

 常連客が店内の違和感に気が付く。


「今日は商工会の寄り合いなのよ」

 バシリアが答える。

「へえ、じゃあ今晩は美人母子だけだ」

「その通りよ」

 バシリアが肯定する。

 店内に笑いが起こる。



「おい、今晩はあの親父いないみたいだぜ」

「ラッキーだな。親父が帰ってくる前に済ませちゃうか」

 その会話を聞いて、若い男二人が不穏な空気を漂わせた。



「おいオリビア、今日こそは付き合ってもらうからな」

「タマラちゃんは俺に付き合ってよ」

 二人組は席を立つと、オリビアとタマラの腕を掴んで店外に引っ張り出そうとした。


「おい、お前ら何しやがってんだ」

 常連客が席を立って二人から姉妹を奪い返そうとする。


「おい俺たちの邪魔するんじゃねえ。俺たちは少しデートがしたいだけなんだよ。分かってるだろうな。俺たちはカブロンギルドだぜ」

 持っていた木刀を常連客に向ける。


「うちの娘たちをどうするつもりよ」

「ちょっとデートするだけだよ。悪さなんてするつもりないから」

 その行動からは信じられない言葉を吐く男たち。


「ちょっと、僕、何とかしてよ。騎士団なんでしょ」

 常連客がおじけづく姿を見て、バシリアがアーロンにすがった。


 (面倒くさいことをする奴らだ)

 せっかく夕飯を食べ終わりそうなのに、邪魔をする奴らがいる。

 少しイラっとしたアーロンだった。


「騎士団? 兄ちゃん、騎士団ならこの()たちを助けてくれよ」

 常連客がアーロンに注目し声を掛ける。


 常連客はともかく、バシリアに頼まれては無碍にはできない。

 給料が入るまでは、この食堂がまさに生命線なのだ。


「騎士団? そんな訳ねえだろう。こんな小さい奴が」

 若い、と言う意味で使ったのだろうが、アーロンにはカチンときた。


「お前ら、ここは飯を食うところで女をさらうところじゃない。カブロンギルドっていうのは女に飢えた山賊の集まりなのか」

 イライラを言葉に詰めたアーロン。

 あと二口三口で食べ終わるのに。


「なに、女に飢えているだと? おい兄ちゃん、うちのギルドを馬鹿にされたらこっちも引くに引けなくなるぜ。謝るんなら今のうちだぜ。謝っても半殺しは確定だけどな」

 オリビアとタマラの手を放し、二人ともアーロンに詰め寄る。


「半殺しって、二人で半分だから、それぞれ半殺しにして欲しいって事か」

 アーロンが二人を煽る。

 心の中には、あと数十秒で食べ終わるのに、と言う気持ちしかない。


「この自称騎士団員は、よっぽど腕に自信があるらしいな。表に出ろ。稽古をつけてやる」

 二人はアーロンの肩書に一応警戒する。

 名前だけでも稽古ということにしておけば、万が一本当に騎士団員だったとしても言い訳は利く。

 どうせこんな若い奴が騎士団の訳がない。

 半殺しはともかくとして、腕の一本くらい貰ってやればこの店の連中も大人しくなるだろう、と思っている男二人。



「ところでお前の木刀(えもの)は? 素手で俺たちとやろうって言うのか」

 無手に気が付いた男がアーロンに尋ねる。

 (こいつ、本当に騎士団なのか? 普段から何も持っていない奴が)


「「これ使って! 」」

 得物を持ってい愛事に気が付いたオリビアとタマラがそれぞれ麺棒を持ってきた。


 確かに、店のオヤジは麺棒を武器代わりにしているようだったが、本当に得物として麺棒を持ってくるとは思っていなかったアーロンはちょっと引いた。

 (これは武器じゃなよ)


「まあ、これでいいか」

 麺棒を持ったアーロンは両手に持って軽く振る。

 (両手に持てば、元々の流派はばれないだろう)


 ダンディーに喧嘩の時は流派バレするな、と言われたことを思い出した。

 確かに流派バレしないことは重要だ。

 今、アーロンが王都、しかも騎士団に居ることを知られてはいけない。

 ダンディーに教わった近衛流剣術正派がバレない様にしなければならない。

 こんなことから巡り巡って、レティシアがアーロンの居場所にたどり着くかも知れない。

 何の流派を使うか?


 ふとレティシアが稽古で見せていた二刀流を思い出した。

 両手に剣があると思えばいい。

 麺棒は普段使う木刀よりも短い。

 少しは片手でも振りやすいだろう。


 双剣術ということにしようか。

 双剣なら、カン流棒術剣技をベースに技を組み立ててみるか。


「二人一緒に相手にするから二本あれば丁度いいか」

「なに? 俺たちを舐めているのか! 」

 アーロンの独り言に激高する二人。


 常連客達がアーロンとカブロンギルドのやり取りにざわつく。

 騎士団を名乗る少年とカブロンギルドの男二人との戦いだ。

 商品は看板娘二人。

 (片方は食事だが)


 店の外で対峙する三人。

 見守る常連客とバシリア。


「そろそろ土下座でもするか」

 ニヤつきながら男二人はアーロンを挑発する。

 ここまでお互いに煽りあって引きことは出来ないだろう、という目論見があっての言葉だ。

 二人相手に勝てっこないだろう、と余裕の立場だ。


「なんで悪いことをしている奴が偉そうにモノを語っているんだ。虫けらなら羽音だけにしろ」

「言うじゃねえか。どっちを先に相手したいんだ? 」

「片方ずつだから負けたと言われるのも困るから、一緒に掛かって来いよ。土下座するなら二人でやれ」

 アーロンが煽る。

 さっさと面倒ごとは片付けて、食べ残しを片付けるのだ。

 早く帰りたい。


「お前、そこまで言っておいて命乞いはできないぜ」

 二人はアーロンに飛び掛かった。



 (こいつら馬鹿正直だな)

 前方の左右から切りかかってきた二人を見たアーロンはため息を吐きながら右斜め後方に身体を捌いた。


 (前後から襲えばいいのに)

 二人はアーロンと一直線になり、二人同時に切りかかることができない。

 正面にいる男の剣を左右の麺棒で、上下叩いて男の木剣を弾き飛ばした。

 ギャラリーに飛んでいかないように注意しながら。


「おおっ! 」

 ギャラリーから声が漏れる。


 アーロンはあえてとどめを刺さずにその男を放置する。


「あと一人か」

 残った男に麺棒を向けるアーロン。


「なにいい気になってるんだ」

 残った男はそう言いながらアーロンに切りかかる。

 アーロンは両手の棒を巧みに使いながら、男の木剣を捌き続ける。


「くっそー」

 怒りながらアーロンに連撃を繰り出す男。

 一撃も当たらず、外からは遊ばれているようにしか見えない。


「木剣を拾うんだったら土下座してからな」

 木剣を落とした男が拾おうとしている姿を見て言い放つ。

 男はアーロンの言葉を聞いて一瞬固まったが、それを無視して木刀を拾う。


「この野郎! 」

 木刀を拾い上げた男がそのままアーロンに襲い掛かる。


 片方の麺棒で木剣の剣先を変えると、もう片方の麺棒で左右の手甲を連続で叩く。

「うっ」

 手甲の痛みに耐えかねて、拾い上げたばかりの木刀を落とす男。


「許さんぞ」

 男が興奮して襲い掛かる。


 相手の興奮すればするほどアーロンは冷めていく。

 (攻めが単調過ぎる)


 格上の剣士としか稽古していなかったこともあってか、カブロンギルドを名乗る男たちの技術の拙さに幻滅する。

 (王都の剣士はレベルが低いのか)


 麺棒を折らないように丁寧に相手の木刀を捌くアーロン。

 この麺棒があるからこそ美味しい料理を食べられるのだ。

 一時の感情で、エベラルドの麺棒を壊してしまったら、ツケで料理を提供してもらえなくなるかもしれない。


 相手の連撃を全て捌く。

 捌く合間に、軽く腹や腕に軽い打撃を入れる。

 大きな怪我をさせてしまって、カブロンギルドが報復に来ても困る。


「自分で負けを認められないのか」

 アーロンが降伏を促す。


「うるせえ、倒してから言え」

 男は負けを認めない。

 認められないだろう。

 看板娘を略奪しようとしたのに、看板娘だけでなく、常連客にも格好悪い姿を晒しているのだ。


 アーロンは降参させることを諦めて、決めることにした。

 長々と戦いを長引かせても良いことはない。


 なるべく怪我をさせない程度に、そして相手が諦めるように技を決めるしかない。

 タイミングを計って木剣の剣先と柄の下を同時に叩き、男の木剣を弾き飛ばす。

 木剣を失った男の目を確認しながら、腕、肩、胴、太ももに連撃を叩きこむ。

 怪我をさせない程度、しかし反撃の気持ちを叩き折る程度に威力を見極めながら。


「阿修羅剣じゃないか」

 ギャラリーからそんな声が聞こえる。

 何を言っているのか分からないが、流派を隠すことには成功したらしい。

 近衛流剣術正派でなければ、何の流派でも構わない。


「さっさとここから消えろ。もうここには来るな」

 倒れこんだ男に向かってアーロンは言い放った。


 先に木刀を落とした男が倒れこんだ男に肩を貸して店の前から立ち去った。



「おーっ! 」

 ギャラリーが湧いた。


「僕、本当に騎士団だったのね」

 バシリアが駆け寄って言った。


「あれって、レティシア様の阿修羅剣じゃないのか」

 ギャラリーが不穏な言葉を発する。


 (阿修羅剣って何? レティシアと関係があるのか? )

 戦っている間は出てこなかった汗が出てくる。

 何かやばい感じがする。

 確かに、レティシアの剣技を真似た部分はあると思う。

 しかし彼女の得意技は型の攻めの形五番。

 その形を使っていないのだからレティシアの名前が出てくること自体おかしい。

 何かやらかしてしまったか。


 やばい空気を感じたアーロンは、バシリアに堅く口止めをして、フクロウ亭を早々に立ち去った。

来週はお休みするかもしれませんが、まだ話は続きます。

頑張ってアップ出来たら褒めてください。

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