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60 お金がない

休みがない。

今の私です。

昨夜、寝ている私に休日出勤を促す電話。

指示や命令ではありません。

急ぎの仕事があるよ、と言う内容だけです。

時間外手当?

自主的に出勤しているだけですから。


「お金がない」

 アーロンは手持ちのお金に不安を覚えていた。

 残っているお金を計算してみると、給料支給日まで持ちそうにない。

 間違いなく足りない。


 懐が心もとないので、馬鹿正直に宿に相談してしまったアーロン。

 嫌そうな顔をされた挙句、滞納したら宿を追い出されると脅され、連泊割引を勧められた。

 連泊割引条件は、先払いである。

 そのため、寝るところだけは確保できた。


 この王都で浮浪者していたら、せっかくの就職先から首を切られるかもしれない。

 更に浮浪者をしていると軽犯罪になると聞いている。

 そのため、住居の確保は必須であった。


 住を確保した次は、初任給が入るまでの間、食をどうにかするしかない。

 どうする?

 非常に難しい。

 村と違って、山菜が普通に生えている訳じゃない。

 生えているのは、雑草。


 ツケで食べられる店があるだろうか?

 そもそもツケができるほど顔見知りの店があろうはずもない。

 ツケは宿よりもハードルが高そうだ。


 仕事に行く前とか後に少しだけ働けないだろうか。

 副業禁止かも知れないが、背に腹は代えられない。

 少しの間ならバレないだろう。

 休日に土木作業をするか。

 あの手配師を探して短期バイトをするか。


 先輩に(たか)るか?

 あのエレナという先輩が、アーロンに食事を奢ってくれる未来を想像できない。

 却下。


 アーロンをスカウトして男に奢って貰うか?

 そっちの方が危険だ。

 レティシアと絶対に知り合いだ。

 個人的な付き合いはなくても、最低限仕事上の知り合いではあるはず。

 ()()騎士団()団長()とは距離を置かなければ駄目だ。

 もしレティシアに知られてしまえば、支度金として預かっていたお金を家出費用にしていたことがばれる。

 良くて折檻。

 あの厳しい稽古を思い出すアーロン。

 悪くて……。悪いことが多すぎる。


 それとも、借金か。

 借金する相手はどこだろう。

 どこの貸金業者が一番健全なのだろうか。

 そもそも就職したばかりでお金を貸してくれるのだろうか。

 変な業者から借りてしまって、骨までしゃぶられるようなことにはならないだろうか。


 分からないことだらけだ。

 誰に聞けば分かるのだろうか。聞いてもきっと分からないだろう。

 どうすればいいのだろうか。



★★★



「お母さん、拾ってきちゃった」

 オリビアは軽く言ってごまかそうとした。

 しかし、そんなことを許す母親(バシリア)ではない。


「今度は何を拾ってきたの」

「腹ペコな犬かな」

 オリビアは胡麻化しながら答える。


「犬かな? って何? 本当に動物の犬なの? 」

「まあ、犬と言えば犬かな。本当は人かも知れないけど」

 曖昧に答えるオリビア。


「今度はその(ひと)をどうするつもりなの」

「ご飯食べさせるだけ。給料入ったらお金返すんだって」

「もう、あなたの趣味に付き合っていたらこの家破産しちゃうわよ」

「そんなことないでしょ。今までの人達は、みんな真面目に返してくれているじゃないのよ」

 オリビアは反論する。


「確かに、今まではそうかも知れないわね。でもその犬が払えなかったら、当然飼い主であるオリビアのお小遣いで飼ってね」

 母親のバシリアは諦めて言った。


「分かったわよ。でもこの子騎士団なんだって。きちんと払ってくれるわよ」

 自慢そうに言うオリビア。


「この(ちいさ)()がねえ。さすがに犬を拾ってきたと言って鳥を拾ってくるとは思わなかったわよ」

「鳥? 」

 頭をひねるオリビア。


「サギのことよ。全くオリビアは人が良いんだから」

 オリビアの双子の妹であるタマラが、母親が言った比喩の意味を教える。


「なによタマラ。この子は詐欺師なんかじゃないわよ。」

 オリビアが反論する。


「全く、双子の姉ともあろう者が、簡単に小さな男の子に騙されてしまうのを見るのは忍びない」

 泣くふりをするタマラ。


「私はそこまで小さくもないですし、嘘も吐いていません。お給料が入るまで少し食べ物を分けていただければ。お給料が出たらきちんとお支払いします。それに体力には自信があるのでお店の手伝いもさせていただきます」


 母子漫才のやり取りを聞いていたアーロンは、我慢できずに口を挟んだ。

 犬から鳥に変わったのは、どうでも良いにしても、このままだと笑われた挙句食事が貰えなくなるかも知れないという危機感を抱いたのだ。


 せっかく給料日まで食事を食べさせてくれると言う人が現れたのだ。

 これを逃したら、飢え死にしてしまいそうだ。

 腹が空いたまま過ごすということには耐えられそうにない。

 多少の悪口くらいは言われても仕方ないし、乗り越えなければならない。


「まあ、食事代を取りっぱぐれたらオリビアが支払う、と言っているからいいんだけど。僕も嘘を吐くならもう少し上手な嘘を吐きなさいよ。その体で騎士団はないでしょ」

 オリビアの母であるバシリアがアーロンを諫める。


「いえ、本当に騎士団に就職したんです。ただ文官ですけど」

 言い訳をするアーロン。

 これでも()(ティ)騎士団()団長()にスカウトされていたことを言いたくなった。

 でも、それを言ったら余計に信用してもらえなくなるだろう。


「文官? そっちの方が逆に入団が難しそうだね。じゃあ僕、帳簿なんかもできるの」

 喰いつくバシリア。

 バシリアは帳簿が苦手なのだ。


「得意ですが」

 (こども)扱いされたことに、少しだけムッとするアーロン。

 子ども扱いされたことから、自分の得意分野をアピールする。

 それが子供だとも思わずに。


「それじゃあ、今度うちの帳簿を整理してよ。お肉多めにするから」

「私はあんまり肉が得意じゃないんで、普通に野菜多めが嬉しいです」

 バシリアの好意を踏みにじるアーロン。

 素直にありがとう、と言えばいいだけなのに。


「そんな若い子が遠慮するもんじゃないよ。座って」

 自分の苦手な帳簿を整理してくれると聞いて、露骨に態度を変えるバシリア。

 アーロンを座らせると、煮込みを肉多めでアーロンのテーブルに置いた。

 出されたものに文句を言う習慣がないアーロンは黙って食べる。


「ところでお前の名前は? 」

 今まで沈黙を貫いていた店の主人であるエベラルドが声を掛ける。

 マッチョで体が大きい男だ。


「アーロンです」

「アーロンか。うちの妻はもちろん、娘たちに手を出したらただじゃおかないからな」

 ニコニコ笑いながらアーロンに詰め寄る。

「分かりました」

 愛想笑いをしながら煮込みを口に運ぶ。


「肉も柔らかくて美味しいだろ。これでしっかり柔らかくしてるんだよ」

 エベラルドは手にした麺棒で自分の手をぺたぺた叩いている。


「手が掛かっているんですね」

 アーロンは愛想を振りまく。


「そうなんだよ。でも料理以上に愛情と手を掛けているのが娘たちなんだよ。そこんとこ宜しくな」

 笑顔の下に怖い顔が隠されているのが見え見えだ。


「お父さん、お客さんを怖がらせないでよ。せっかく美味しい料理食べているんだから。美味しいものは美味しく食べさせてあげなきゃ」

「そうだなオリビア。父さん少し気になっちゃってさ。ハハハ」

 誤魔化すエベラルド。

 釘を刺されなくても、手を出す気は全くない。

 女に振られて故郷を飛び出してきたばかりなのだから。


 とりあえず、オリビアのおかげで食事にも目途がついた。

 この恩はいつか返そうと思うアーロンだった。

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