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59 就職先

毎週コンスタントに投稿することを命題としておりますが、なかなか現実との折り合いがつかずに困っております。

今回の連休は四連休の予定でしたが、一日だけは絶対に休め、と言われております。

意味とすれば、三日間は出て仕事をしろということになります。

リアルに負けず頑張ります。


 アーロンは男に就職先まで連れて行かれた。


 アーロンは甘く見ていた。

 聖書の翻訳業務程度だと。

 どこか翻訳業務の会社(ところ)での仕事だと思っていた。

 委託先だって、普通は使徒調査庁だ。

 こんなことになるとは全く予想していなかった。

 正門前に到着した時、アーロンは自分の考えが甘かったことに気付いてしまった。



 正門には、『王立騎士団正門』とご丁寧に刻まれていた。

 無意識にレティシアのことを思い出し、身体が硬直して足が止まったアーロン。


「どうしたんだい。ああ、僕のことを知らないんだな。僕はここの第十騎士団団長なんだよ。騎士団と言っても僕のところは騎士団の事務方担当だから、剣を振るうことはほとんど無いから安心していいよ」

 男はアーロンに安心するよう言った。

 (安心なんかできるか)

 アーロンは心の中で大声を出した。


 まさかの就職先は、使徒調査庁どころではなく、第十騎士団だった。


 間違ってレティシアに会ってしまったら大変なことになる。

 どうやって逃げるか。


 でもさっきの職業斡旋所とはケンカ別れしているし、この先少しでも条件のいい就職先が見つかる可能性は少ない。ないと言っても過言ではないだろう。


 団と名の付くようなところの国家公務員は、簡単に就職ができない。

 厳格な調査があり、入団試験も難しいと聞いている。

 第十騎士団は騎士団とは言っても、事務方、つまりは文官が所属する先だ。

 おとなしく仕事をしていれば、レティシアに会う可能性は減らせるのではないか。

 しかも、数日しか顔を合わせていないのだから、そのうち自分の顔も忘れてくれるのではないだろうか。

 自分に都合のいい可能性に気が付いたアーロン。


「いや、僕、試験受けてないんですけど就職できるんですか」

「もちろん。私がOKを出せばね」

 余裕のある表情で男が言う。


 腹を決めるアーロン。

 レティシアに合う可能性は少ないだろうが、会ってしまう可能性がゼロでは無くなった瞬間だった。

 今さら断ることもできず、流れに乗って就職することになった。

 何と言っても待遇が良いはずだ。

 レティシアに気付かれなければ、現時点最高の就職先だ。

 この機会を逃す手はないだろう。



「あっ、全剣様ではありませんか。今日はこちらの門からお入りですか? 」

 門番が男に気が付いて姿勢を正す。


「そうだね。今日は新入団員を連れてきたから、ここから入るよ」

「はっ。それではどうぞお入りください」

 恭しく敬礼する門番。


 (全剣? 第十騎士団長? これってレティシア様とかなり近くないだろうか? )




★★★




「ところで、翻訳はいつまでにどれだけしなきゃならないんですか」

「仕事をしてもらう前に、しっかり雇用契約をしてからだね。エレナ、この子の契約をしてくれ」

 エレナと呼ばれた女性が対応を始める。


「これに必要事項を記載してください。それと戸籍書類はありますか」

 エレナは書類を差し出す。

 必要事項を記載して、戸籍書類を添えて返す。


「ふっ、ムルシア出身ですか。田舎ですね」

 エレナが独り言と思われる声のトーンでアーロンの出身をディスる。


「手続きが終わったら、すぐにでも翻訳をさせて欲しい」

「手続きが終わりましたので死ぬまで働かせても金の問題で片がつきます」

 怖いことをエレナが言う。


「エレナ、アーロンにどこか適当な部屋をあてがって翻訳させてくれ。時間がない」

 十剣と呼ばれた男はそう言って部屋から立ち去った。



「ここでいいですので、早速翻訳してください」

 エレナは、昨日アーロンが見た聖書を机の上に置いた。


「昼休みは、十二時から一時間です。昼休みはどこに行ってもいいですが、この部屋を出るときは、一旦聖書を十二時前に私まで戻して下さい。私にも昼休みがありますので」

 いじわるそうな、冷たい声でエレナが言った。

 拒否できるはずもないアーロンは、エレナのいる場所を聞くのが精一杯であった。




★★★



「どこまでできた? 」

 終業時間直前に男がやってきた。


「とりあえず一冊は終わりました。今二冊目に取り掛かっているところです」

 進捗状況を報告するアーロン。


「ほう、思ったよりも早いな。それなら充分間に合うな。その調子が続くなら、もう帰ってもいいぞ」

「今日の分の報酬はいつ貰えるんですか」

「お前の契約は日雇いじゃないから月に一度じゃないかな。契約した時に居たエレナに聞いて見てくれ」

 そう言って男は立ち去った。


 お金が貰えなければ、宿に泊まることもできなくなる。

 生活が安定するまでは、日払いでお金が欲しいところだ。



「給料? 今日入ったばかりの人にお金のことを聞かれるとは思いませんでした。うちは月に一回です。そんなことよりもきちんと仕事してくださいね。あなたをここに入れた人は団長なんですから。団長の顔を潰すことはしないでください。そんなことをしたら、王都では生きていけませんよ」

 エレナに脅された。


 団長が偉い人だということは理解している。

 レティシアも偉かった。

 その考えで行けば、人気はともかくとしてかなり偉い人なんだろう。

 村で偉い人と言えば村長しか思い浮かばないから。


「済みませんでした。ただ、お金がなくて日銭暮らしなんです。今日もいきなり連れてこられて、日銭を稼げなくなって困っているんですよ」

 アーロンは窮状をややオーバーに伝えてみた。


「個人の都合は関係ありません。給料は月に一度と決まっておりますので、その日が来たら給料はきちんと支払います」

 冷たく言い放つエレナ。


「ところで、給料日はいつなんですか」

「毎月始めです。つまり一日が給料日です」

 アーロンは計算した。

 ギリギリ足りそうだ。


「ところで、寮とかはないんですか」

「ありますが、新人は準備もあるし、何よりも信用が足りませんから就職した翌月からですね。通常の試験を受けて入団した人は別ですけど」

 規定通りのことを話すエレナ。


「少しでも早く寮に入ることは出来ないですか」

「無理ですね。規則で決まっていますので」

 アーロンは借金を覚悟した。


 どこから金を借りればいいのだろうか。

 ただ、目の前の女性は、一切そういうことは考えてくれないらしい。

 

 団員ならば、給料は安くないはず。

 一か月我慢してしまえば何とかなる。


 一か月と数日の我慢だ。

 そうすれば、王都の文官として生きていける。


 アーロンは目の前のエレナと交渉する気もなく、ただただ現実を受け入れた。


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