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57 王都

遅くなってすみません。

しばらくリアルが押しそうです。


今回から王都編になります。

出来れば今日中にもう一本は上げたいと思っています。

 木を隠すなら森の中、とはよく言ったものだ。

 人が多い。

 村とは比較にならない。

 ただ広すぎる。

 王都は広すぎる。

 全く道が分からない。

 建物が多すぎる。

 都市の作りに規則性が見いだせない。


 よって、どこに何があるのかさっぱり分からない。

 アーロンは初めての王都に戸惑って、いや彷徨っていた。


 到着して一日目は、宿に泊まることすらできなかった。

 宿を見つけられなかった訳じゃない。

 宿を見つけた時はまだ時間が早かったのだ。

 そろそろ宿を探さなきゃ、と思った時には宿がどこにあるのか分からなくなっていた。

 暗くなったら、宿を探すことすらできなくなった。


 二日目は、食事をすることが難しいことに気が付いた。

 まず飲食店に入るハードルが高かった。

 今までは、ダンディーやレティシアに連れて行って貰ったことはあった。

 一人だと入りづらい。

 金額が分からない。

 何を提供するのか分からない。


 食事は、ようやく見つけた屋台でなんとか食べられた。

 お腹が空いていたが、それよりも喉が渇いていた。

 屋台で水を所望する。

 水でもお金を取られた。


 予想以上にお金の減る速度が早い。

 最悪飢え死にしてもいいと思ってはいるが、お金が少なくなると、なぜか不安になる。

 その何故が理解できない。

 俺は死にたくないのだろうか。

 それともただ単に苦しみたくないのだろうか。


 三日目でようやく職業斡旋所を見つけた。

 宿のおばちゃんに教えて貰ったのだ。

 これで飢え死にからは解放されたと思った。



 職業斡旋所をの建物を眺めながら出入りする人を観察する。

 入るのに勇気かきっかけが欲しいと思ったのだ。

 どちらもない俺は、出入り口をただ眺めて、付近をうろうろしていた。

 朝一で入るように助言されていたが、入るきっかけがつかめない。


 少しばかり人が途切れた状況で意を決して建物に入る。

 勇気を振り絞って中に入ったは良いが、誰も俺のことを気にしている人はいない。

 ちょっとほっとする。


 事務所内を観察する。

 長いカウンターに対応する人だろう。女性が三人いる。

 声を掛けるべきか、声を掛けられるのを待つべきか。


 そういう初歩的なルールやマナーすら俺は知らないことに気が付いた。

 本当に俺は田舎者なんだな、と思った。

 さっき、誰も俺のことを気にしている人が居なくてほっとしたことを思い出した。

 ほっとするべき状況じゃなかったのだ。


 声を掛けられない、と言うことは受付の女性に声を掛けることがルールなんだろう、と推測する。


「すみません、仕事を探しているのですが」

 俺は暇そうにしている一人に声を掛ける。

「初めて? 」

 ダルそうに返される。


「はい、初めてなので……」

「じゃあ、これを持ってそこに座っていて」

 渡された紙を見ると、解体系の土木仕事らしい。


「他の仕事はないんですか? 」

「初めての人は、こういう仕事で実績を積んでからじゃないと他の仕事斡旋できないんです」

 ダルそうに言われる。

 そういうものかと思い、指示された場所に座る。

 そこには汚い男たちが陣取っていた。


 その者たちは、ニヤニヤしながら俺を見ている。

 声を掛けられる訳でもない。

 上から目線と言うか、馬鹿にされている感じがする、


 意味が分からない。

 トラブルを起こさないためには、声を掛けられるまで黙っているのが一番か。



 程なく手配師がやってきて、待機していた者達を貨物馬車に載せて現場に行った。


 その日は、ほこりにまみれてぼろい建物を解体して瓦礫を作り、そして運んで、宿代に少しだけ満たない金を貰って一日が終わった。

 この金額しか貰えないのであれば、別の宿を探すしかなくなる。

 できれば寮付きの仕事をあっせんしてもらいたい。

 もう少しの辛抱なんだろう。

 きちんとした仕事をあっせんしてくれるまで。




 翌日も職業斡旋所に行く。

 昨日ダルそうにしていた受付嬢が俺を見ると、手を振って自分のカウンターに呼ぶ。

「今日もこれね」

 昨日よりは愛想よく紙を渡してくれた。

 中身は昨日と一緒だった。


「いつから他の仕事斡旋してもらえるんですか」

 尋ねてみた。

 このまま宿代よりも安い土方仕事じゃ、金も体力も続かない。


「もう少し実績を作って信用度が上がってからだね」

 マニュアルのように答える受付嬢。



 仕方ないと思って昨日と同じ手配師に現場まで連れて行かれる。

 しかし、このままではジリ貧だ。


「すみません、この仕事はいつまでやれば信用度が上がるんですか」

 手配師に尋ねてみる。


「信用度? なんだそれ? 俺には関係ないぜ」

 あっさり会話を切られるアーロン。



「おい新人、二日目で気が付いたか。結構ぬるい奴だな」

「……」

 同じ職業斡旋所から来た男に声を掛けられる。

 意図が分からないので無視する。


「まあ、二日で分かったんだから、それほどでもないんじゃないか」

「そうカモな、ハハハ」


「おい新人、教えてやるからみんなに昼にでも水くらい奢れや」

 一人がアーロンに声を掛けると、残りの者達も声を掛け始めてきた。


 彼らの話を聞くと、どうやら自分が搾取されているらしいことに気が付いた。

 しかしどうやって、詳しい事実を教えて貰えばいいのだろうか。

 彼らは情報の代わりにモノを要求している。

 水を奢る?

 それほどの金額にはならないだろうけど、この話がガセネタだったら?

 一度騙された者は二度騙される。


 職業斡旋所とこの男たち、どっちを信じるのか。


「どうせお前はまだ登録していないんだろ。明日にでも聞いてみろよ」

 一人の男がアーロンに言った。


「登録って信用度を上げないと登録できないんですよね? 」

 アーロンは職業斡旋所に言われた事実を確認する。


「「「ハハハ」」」

 みんな笑いだす。


「お前もそう言われたクチか。あの女だろ。右端の。そいつだけじゃないがな」

 俺を見ていれば分かることだが、その指摘は心にズドンと響いた。


「あいつらは、新人をカモにして搾取するんだよ。ここの手配師(にいちやん)には言えないけどな。要は手数料をピンハネするんだよ。だからお前はまだ登録できていないだろ」

 厳しい事実を突きつけられる。

 本当か嘘か、俺には判断できない。


 この情報をどうすべきか。

 商人ならどうするか、しか想像できない。



「果実水奢ってやるよ。もっとはっきりと俺に教えろよ」

 乱暴に言い放つアーロン。


「嘘なら只じゃおかないからな」

 一応保険的な言葉を掛けておく。


 正直自分の中にある情報だけでは判断できない。


 正しい判断をしたくても、今日は職業斡旋所に行けないから今日のモノにはならない。

 明日聞いたらどうするのか?


 本当だったら?

 嘘だったら?


 今日をどう過ごすべきなのか?

 明日をどう過ごすべきなのか?


 それらを考えた結果だ。

 騙されても仕方ない。

 職業斡旋所かこいつらのどちらかに騙されているのは間違いない。

 

 職業斡旋所が騙していた場合、アーロンはなにが言えるのか。

 こいつらが全員敵だったら俺はどうするのか。


 結果的にアーロンができることは何もない。

 ただ騙されていた事実を受け入れるだけだ。


 それならどちらの事実を受け入れた方が自分にとってメリットがあるか?

 こいつらが嘘を言っていたとしても、本当のことを言っていたとしても、デメリットは水代だけ。


 もし職業斡旋所が嘘を吐いていたのなら、こいつらは俺の味方だ。


 あいつらが俺を担いで水を求めているのか。

 それとも事実の提供で水を提供を求めているのか。


 もし、職業斡旋所が嘘を吐いていたのなら、この男たちは役に立つ同胞だ。


 求めている以上のものを与えてみる。

 まだ金に余裕があるうちに。



「ほう、素直に奢るのか。水だけで良いぜ。どうせ仲間になるんだ」

「早い決断だな。頭が良いのか、人を疑うことを知らないのか。どっちでも良いが、当たりを選択したな」


 とりあえず、アーロンの選択は正解だったらしい。

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