56 家出
急な仕事が入り、四苦八苦しております。
朝6時に出勤して午前2時に帰宅とか。
きちんと続けますので見放すことのないようにお願いします。
家族は大会が終わればすぐに帰ってくると思って、俺を送り出した。
荷物もほとんど持たずに家を出ようとすれば、誰だって家出するとは思わないのだろう。
荷物が少ないのは、引っ越ししようと思っている訳じゃないからだ。
少しだけ生きることができる程度に荷物が足りればいいだけだ。
いつ死んでもいい。
もう生きている意味が見いだせない。
と言うよりも、生きていたくない。
幸せな人たちと同じ空気を吸いたくない。
幸せな人たちに自分を思い出して欲しくない。
こんな不幸な自分を。
ただ家族を悲しませたくはない。
自分がこの世から消えるだけで家族は悲しむだろう。
それは俺が望んでいることじゃない。
俺の希望は、誰からも忘れ去られること。
そして、この村から一切遮断された生活を送ること。
あの世に行けば家族への不幸を除けばすべて解決する。
しかし、それだけは望んでいけないことだ。
ただ単純にこの村から逃げる。
それだけの話だ。
まだ誰も俺の意図には気づかないだろう。
アイネが結婚するから俺がこの村から居なくなる、そう思われたくない。
アーロンと言う人間は、騎士団に入るために王都に向かうが、その後行方不明になるだけだ。
騎士団に入るのが怖くて居なくなったのか、何かのトラブルで行方不明になったのか。
それは永遠に知られないだけ。
俺は家族との今生の別れを心に抱きながら家を出る。
家族はそんな俺の心を知らずに笑顔で見送る。
心が痛む。
少しだけ泣きそうになる。
もう会えない、もう会わない。
そんな覚悟をしているのは俺一人。
そうだ。これで良いんだ。
俺はこのまま行方不明になる。
それでいい。
夢の無くなったこの村からは一切離れていたい。
そう思って、俺は家を出た。
家族の笑顔に見送られて。
なんとか涙を流さずに。
★★★
家を出るのは思い切りで出ることができた。
しかし、行き先についてはノープランに近い。
どこに行くか。
州都ムルシアは村からは遠いが、村人や知り合いの商人に出くわす危険性が全くないとは言えない。
馬車に揺られながら考える。
どうすればいいのか。
つい数日前は希望に満ち溢れた状態で馬車に乗っていた。
何なら昨日も。
しかし今は、希望どころか人生の終着駅を探すために乗っている。
人生って、本当に分からないものだ。
この歳で言うのは何だけど。
昨日と今日では、天国と地獄のくらい違う人生になっている。
アイネが居なければ俺の人生は全く無意味だ。
ダンディーに剣を教わっていたころが懐かしい。
勝ちたいけど実力がなくて悶々としていたあの頃。
ダンディーに指示された稽古の意味が分からなくても、一生懸命に稽古をしていた。
アイネにふさわしい男になるために。強くなりたくて。
たった二か月で世の中が変わった。
結局、剣が強くなってもならなくても結論は変わりなかったんだろう。
俺の人生は。
ただ、今は州都に行ったことと、王都への誘いを受けたことで、村を離れるきっかけになった。
この村以外の世界を大会に出場して初めて知った。
王都なら、職業斡旋所と言うものがあるということは知識では知っている。
多分、俺の成績なら何処かで雇ってくれるだろう。
それを考えると行き先は王都一択か。
そんな行ったこともない職業斡旋所のことを唯一の頼りにして王都に向かう俺。
懐には、レティシアから貰った金が入っている。
その金が尽きる前に働き口が見つからなければ飢え死にするかも知れない。
それならそれが一番いいような気がする。
俺が生きる場所がなかっただけの話だ。
そういう運命なら仕方がない。
家族には、俺と言う人間を諦めて貰おう。
馬車に揺られながら村とアイネと家族と全てから逃げるアーロンだった。




