53 暴風剣姫VSアドルフォ流迅狼剣
毎日読んでくれた方々、申し訳ありませんでした。
急な仕事が入り、更新できませんでした。
仕事の愚痴と言い訳を言いたいのはやまやまですが、皆様が望んでいるのはそんな話じゃないということは理解しておりますので、本編を頑張って進めたいと思います。
次回からは週末更新になります。
よろしくお願いします。
「それでは本大会の敗者復活戦の前に、十剣の一人であるレティシア選手とレガネスギルドのビセンタ選手による公開試合を行います」
試合の説明で会場が湧く。
地方で暴風剣姫の戦いが見られるのだ。
こんな機会は滅多にない。
しかも最近は暴風剣姫は試合から遠ざかっている。
「試合は大剣による戦闘不能での決着になります」
観客が騒ぎ始める。
ただでさえ重い剣。
戦闘不能での決着。
誰がどう考えても身体の大きい選手に有利な条件だ。
レティシアとビセンタ。
闘技場にいる二人を見比べるとそのサイズは明らかに違う。
身長、体型、そして性別。
防具を着けていることから、頭部以外への打撃では、一撃で相手が戦闘不能になるとは考えづらい。
重い剣を振り回して相手に当てる。
勝つためには、それを何回か繰り返すか、頭部を含めてクリティカルな一撃を繰り出すか。
「選手の紹介をしたいと思います。一人目は皆さんご存じの暴風剣姫こと第八騎士団団長であられますレティシア選手。この方については紹介は要りませんね。私も初めてご尊顔を拝見しましたが、非常にお美しい方でございます」
ビセンタの紹介まで、一拍置く。
「対する選手は、レガネスギルドのビセンタ選手。見ての通り、大きな選手です。身長は百九十八センチメートル、体重は百二十キログラム。レティシア選手の倍以上の体です。そしてこのビセンタ選手は、先月のデスペルタル級の昇級試験において歴代最高得点で合格しております」
観客が感嘆の声を漏らす。
「それでは、このデスペルタル級剣士二人による公開試合をお楽しみください」
アナウンスが試合内容に期待を持たせる。
最強の二人による最強決定戦と言ってもおかしくない。
★★★
「それではお二人とも準備は宜しいでしょうか」
審判が二人に尋ねる。
単なる形式的なものだ。
「俺はいつでも構わない」
ビセンタ。
「私も構わないのだが、お前は本当に覚醒しているのか? 」
ビセンタに質問するレティシア。
「先月昇級したばかりですが、紹介された通り、デスペルタル級には歴代最高点で合格しましたよ」
自慢するようにビセンタが答える。
「そういう意味で聞いたのではないのだが、回答としては十分だ。審判こっちもOKだ」
レティシアはビセンタの返した答えで十分な情報を得た。
(ユダの少年が見ている。ダンディーには勝てないだろうが私を見てもらう。あのダンディーが最後に指導した少年。この五日間では私のことをほとんど知って貰っていないだろうから)
ビセンタの答えを貰うとともに、心の中ではアーロンのことを考えていた。
「それでは、試合開始、始め」
一呼吸おいて審判が試合開始を宣告した。
対峙する二人。
ビセンタは大剣を上段に構える。
対するレティシアは脇構え。
大剣を右後ろ半身に隠している。
「重くて持ち上げられないか」
ビセンタが軽口を叩く。
レティシアは無言のままだ。
ビセンタは定番通り上段から剣を振り下ろす。
ほぼ無防備のレティシア。
脇構えは剣の長さなどが相手に知られていない時には有利に働く。
相手がどの程度の間合いを取ればいいのか分からない。
しかし今回使う剣は同じ長さ、同じ重量だ。
全く有利に働く訳ではない。
しかしレティシアは脇構えに構えた。
脇構えの利点は残り一つ。
レティシアは、ビセンタに体格で劣り、筋力でも劣る。
ビセンタの言う通り、レティシアの強みは剣速だ。
軽い剣を使って速度を上げる。
速度を上げて、ピンポイントで狙えば剣の重さの不利はカバーできた。
軽い剣なら、両手に持って二刀流でも戦ってもいた。
軽い剣で速度を出せば、剣の重さ程度の不利は覆すことが出来た。
ユダの少年に見せたいのは自分の得意技ではない。
どのような状況でも勝てる方法を探す、ということだけだ。
ユダの少年に才能はあるだろう。
何と言ってもダンディーが教えたのだ。
そして、あのへき地から州大会で優勝できるまでの実力を付けたのだ。
更に言えば、攻めの形五番を軽々と扱って見せた。
今まで私しか出来なかったことを。
偶然適性があったのか、それとも何でもできる才能なのかは分からない。
第八騎士団全員が欲しくても叶わなかった才能を持っていることだけは間違いない。
その才能に、一つだけでも私が教えたと言える技術を残したい。
あのダンディーの最後の弟子に。
ビセンタは定番通り上段から剣を振り下ろす。
脇構えにしているため、ほぼ無防備に見えるレティシア。
普通であれば、ビセンタの一撃で終了だが、レティシアに限ってはこれで終わらない。
レティシアは脇構えから、足法と背筋を併せて、地面すれすれの位置から大剣を擦り上げる。
ビセンタが勝利を確信して振り下ろした剣をかち上げる。
ガン!
両者の木剣が空中でぶち当たった。
勝ったのはレティシアの背筋と体重を使った大剣。
負けたのはビセンタの振り下ろし。
ビセンタが上から振り下ろした剣が、下から振り上げられたレティシアの剣に力負けしたのだ。
(まさか! )
ビセンタが結果に驚愕する。
どう考えても振り下ろしの力が強い。
下からカチ上げる剣が弱い。
しかもこの大剣は特別製。
通常の大剣よりも三倍重い。
普通の剣士なら、まともに持っているのも難しい。
それなのに暴風剣姫の振り上げた剣に負けた。
レガネスギルドが調査した結果でを基に、ベストな戦術を立てている。
その戦術が通用しないかも知れない。
レティシアは重い剣でも強いのかもしれない。
(いや、この一発だけだ)
ビセンタは防がれた一撃で崩れた体勢を元に戻す。
どう考えても、特別製の大剣を振り回すには、あの身体では小さい。
ビセンタクラスじゃないと扱い切れないだろう。
しかも暴風剣姫が軽い剣を好んで使っているのは調査済みなのだ。
更にもう一撃がビセンタを襲う。
(嘘だろ。追撃が速過ぎる)
ビセンタは、追撃を防御する。
ガン!
受けの剣だけでは衝撃を相殺できなかったビセンタ。
防御しきれず、軽く一撃を胴に貰ってしまった。
姿勢が崩れる。
勢いに気圧される。
無意識に後退して、崩れた体勢を戻す。
レティシアの一撃ごとに観客の歓声が闘技場に響き渡る。
大きすぎる剣を使いこなす技術、不利な身体差をものともせずパワーで圧倒する攻撃力。
歴代最高点で昇級したと言う説明はすでに観客の頭の中にない。
同じデスペルタル級と言えどもここまで力の差があるのか、と感じさせられている。
レティシアの三撃目がビセンタを襲う。
今度は防御が間に合わず、まともに胴に入った。
防具を抜けてくる衝撃。
呼吸が一時止められる。
衝撃と痛み、酸素不足を我慢しながら吹っ飛びそうになる身体を立て直しながら後退して間合いを取る。
レティシアの追撃はない。
中段に構えた大剣でレティシアとの間合いを計る。
今攻撃されたら逃げるしか手はない。
次の攻撃までに呼吸を整えようと酸素を肺に取り込む。
非常に劣勢だということは充分過ぎるほど理解している。
(なぜだ。なぜこれほどまで強いのだ。剣が軽いほど強いはずじゃなかったのか)
ビセンタは調査結果と違う結末に驚いている。
「この勝負は戦闘不能で決着が決まるんだったな。簡単に終わってしまったらもったいないだろ。少しは我慢しろよ」
レティシアがビセンタに言った。
簡単に終わらせるつもりはない。
すぐに終わらせないのは、ユダの少年へのメッセージだけではない。
祝勝会に直接水を差したのはこいつなのだ。
ダンディーを馬鹿にされて始めた賭け。
そんなことも忘れて祝勝会をしていた時に、テーブルを蹴ったのはこいつ。
こいつは私とダンディーを舐めてくれた。
こいつは私に勝てると思い込んでいるようだ。
この程度、と思っているのだ。
私が舐められるのはなぜ?
女だから?
身体が男に劣るから?
どんな想いでどれだけ努力してきたか、こいつには見えないんだろう。
努力したから誰でも強くなれる訳でもない。
強くなれないかもしれない要素なんてたくさんあった。
身体がない、男じゃない、強くなれないかもしれない。
それでも強くなるためにひたすら練習した。
『努力は必ず報われる? 』
私がそれを言えばみんな納得するだろう。
しかし私と同じか、私以上の努力をしても、ある程度までしか強くなれなかったものが星の数ほどいる。
それを私は見ている。
努力したから必ず強くなれる訳じゃない。
だがそれを知っても強くなるために努力し続けた。
対戦相手の身体能力は素晴らしいものがあるだろう。
しかしまだ鍛え上げられていない。
まだ素材にしか見えない。
未だ、強さと言うものを理解していないように見える。
まだデスペルタル級は早かったように思える。
歴代最高点で昇級したと言っても。
「歴代最高得点とやら、歴代最速でデスペルタル級剣士を廃業させてやる」
数分後、審判がビセンタの戦闘不能、そしてレティシアの勝利を宣言した。
ビセンタは生きていた。
脚と腕が折れ、ぼろ雑巾のように転がった状態で。
レティシアは闘技場で観客の称賛を受けていた。




