50 決勝戦
「一本、それまで」
準決勝を難なく勝利したアーロン。
勝ったものの、浮かれている様子はない。
アーロンの課題は勝つことではない。
教わった技術を試すことのみ。
勝敗は二の次。
当然負けて良い訳ではないが、教わったことをしっかり出し切ることが肝心だ、と言われている。
一回戦に勝利したことで、騎士見習いは確定。
あとは少しでも勝ち星を積み上げて、村に凱旋したいと思っているが、スカウトしてくれたレティシアの機嫌を損ねて約束を反故にされるのも困る。
徹底的に叩き込まれた形は、意外と自分に合っていたみたいで、想像以上に勝ててはいる。
しかし、これが最後まで続くとは思っていない。
(決勝戦、出来れば勝ちたいけど)
どうせここまで来たのだ、 決勝戦くらい自由にさせて欲しい、と言う気持ち。
どこまでこのスタイルで行けるか試してみたい、と言う相反する気持ちがある。
とりあえず、決勝まで来てしまった。
★★★
「アーロン選手、クストディオ選手」
審判が決勝の呼び出しをする。
アーロンは開始線に立つ。
同じく開始線に立った相手を見ると、身長が二メートル近い巨漢だった。
この選手の試合を見ていたが、身長の高さとリーチの長さを生かした戦い方をしていた。
(強いんだろうな。これだけ体があれば、それだけで十分勝てそうだ)
アーロンは素直な想いを思考にする。
あのエリオドロよりもでかい。
エリオドロも体の大きさだけで実際は大して強くはなかったが、村では強い振りをして大きい顔をしていた。
(まあ、やるだけやるしかない。勝ちたいけど勝ちは二の次、と言われてるし。一度も剣を振らずに負けることだけはしないぞ)
「試合開始、始め」
審判の合図で決勝が始まる。
アーロンは遠い間合いから一気に攻める。
相手はアーロンの袈裟切りをしっかりと受け止める。
(おお凄い、押し込めない)
アーロンは二撃目を打ち込んだが、相手は後ろに下がらず、再度しっかりと受け止めている。
それどころかアーロンを押し込みそうな圧力まで感じる。
(さすがに身体の違いがはっきりしている)
三撃目を放つアーロン。
相手は三撃目に合わせ、剣を受け止めるとともに押し込んできた。
袈裟切りだけだと分かっていれば、いくらパワーがあっても剣速が速くても対応はできる。
★★★
クストディオは冷静にアーロンの剣を受け止めていた。
一撃目の剣は、この試合で受けたどの剣よりも重かった。
二撃目も速く、そして重かったが、予測できたことから圧力を確認できた。
(これなら大丈夫、自分のペースで剣を振れる)
そう判断できた。
一試合目からアーロンの試合を見てきた。
大会前は、サイナーが一番の難敵だと思っていた。
アーロンなんて選手は全く眼中になかった。
しかし、サイナーを一蹴する姿を見て考えを改めた。
ところが全試合、単調なのだ。
暴風剣姫のお手つきと言うことは聞いていたが、今まで見てきた試合全てが袈裟切りだけなのだ。
決勝くらいは攻めのパターンを変えるのかもしれない、と思って警戒していたが、全く変わらない。
舐められているのか、それとも理由があってやっているのかは分からないが、流石にこれはないんじゃないかと思う。
暴風剣姫のことは良く知っている。
彼女の弟子なら袈裟切りだけで戦うことも多少は理解できる。
しかし実際の大会で貫き通して勝つのは至難の業だ。
剣筋の全てが予測の範囲内なのだ。
更に言えば、身体が小さい。
剣を受けて分かるが、かなり練習したんだろうと思う。
剣が速くて重い。
圧力も身体以上のものを感じる。
しかし、それだけだ。
三撃目を予想する。
しっかりと受け止め、体当たりをする。
後方にしっかり飛ばして面を打つ。
優勝は決まったも同然だ。
★★★
「やあ! 」
アーロンは三撃目を繰り出す。
相手が体当たりで押し込んでくる。
一歩下がって体当たりを躱す。
一瞬で前に出て四撃目は胴を打つ。
相手は胴を察知し、上段に一瞬上げた剣を下げ、ガードに間に合う。
バン!
クストディオの剣はガードに間に合ったものの、体勢が崩れる。
追加でアーロンが体当たりをする。
半歩だけ後方に下がるクストディオ。
(俺が当たり負けた)
軽くショックを受けるクストディオ。
更に五撃目を打つ。
クストディオの剣が弾かれる。
(まずい! )
予想以上の剣圧に押されるクストディオ。
バン!
「一本、開始線に戻って」
クストディオの面にアーロンの剣が入った。
観客が歓声を上げる。
小柄な剣士が、派手な技で大男から一本を取った。
それだけで観客は喜ぶ。
普通は大男が簡単に勝つ。
それを覆したのだ。
だがそれだけではない。
「さすが暴風剣姫様の弟子だ」
「暴風剣姫の試合を見ているようだ」
「暴風剣姫ってすごいな」
観客が、アーロンと言う選手ではなく、暴風剣姫の弟子と言う目線で見ているのだ。
「二本目、始め」
力技で一本取られたクストディオだが、負けるにしてもパワーで小柄な選手に負けたとなれば、将来への影響は大きい。
クストディオは開始の合図とともにアーロンに突進した。
剣を振らないのは、アーロンの一撃を受け止めるため。
もし突進中に一撃放たれても、その一撃だけは確実に受け止めて体当たりをする。
細心の注意をもって、最高の速度とパワーでアーロンに突っ込むクストディオ。
見ればアーロンは、体当たりを受け止めるため防御の姿勢を取っている。
(吹っ飛べ! )
クストディオは防御の体勢で構えているアーロンを、一発で場外まで吹き飛ばすか、戦闘不能になると思える程の体当たりを仕掛けた。
アーロンは突っ込んでたクストディオに合わせて体当たりを受け止める。
そのまま受け止めてはかなり不利になる。
体当たりの瞬間、僅かに右斜め前方に身体を捌いた。
観客のほとんどが気付かないほど僅かな瞬間、僅かな距離。
たった十センチほど。
そしてクストディオの身体を捌きながら防御に充てている木剣を少し前に押し出す。
大きく体勢を崩したのはクストディオ。
受けて立ったアーロンは微動だにせず、のように見えている。
アーロンはクストディオを押し出した木剣を、その流れのまま八相の構えに戻し、袈裟切りにする。
クストディオは大きく崩れた体勢から無理やり木剣で防御する。
アーロンの袈裟切りを防御したクストディオの体勢は更に崩れ、転倒しそうになる。
アーロンの追撃がクストディオを襲う。
「一本、それまで」
叩き倒されたクストディオは、ノロノロと起き上がる。
屈辱物の世界だ。
身体の劣る選手に、力比べで負けたのだ。
完膚なきまでに。
今後のことなど考えられず、どうなるのかも分からない。
今まで思い描いていたキャリアが崩れたことだけは確かだった。




