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5 初日を終えて

 訓練初日を終えて、アーロンはくたくただった。

 やったことと言えば、十六方向の足法だけだ。

 しかし、やっていることが足法だけのためか、むやみやたらに膝下だけがパンパンに張っている。


 休憩と言えば、お昼を食べている時だけ。

 ダンディーからの質問も足法をやりながら。

 資料の場所を説明するときも足法での移動。


 こんな姿を妹のダフネに見られたら、秒で笑われること確定の絵面だった。

 しかも、ダンディーからは、

「もっと美しく動け! 」

 としか言われない。


 心と足に疲労を抱え、後頭部にこぶを作った一日だった。



「じゃあ帰るか」

 鬼教官なのか放置教官なのか未だによく分からないダンディーに促されて帰路に就く。

 頭を打ったから地稽古ができないのは理解できても、実際やった練習が足法だけじゃ、納得できない。

 ちょっとモヤモヤする。

 早く強くならなきゃいけないのに。


 ダンディーは資料を風呂敷にひとまとめにして抱えている。

 アーロンは、弁当の空容器を持つ。


 アーロンは、三十分も歩かなきゃならないのか、と憂鬱になりながら廟の鍵を閉め、歩き始める。


「何歩いている? 走るぞ」

 ダンディーは木剣で軽くアーロンを突っつきながら走るように促す。


「いや、ちょっと疲れているんですけど」

「まだまだ。そんなのは疲れに入らない。走るぞ」


 ダンディーはそう言って、木剣でのツンツンを激しくする。


(ちょっと待ってくれ)

 アーロンは心の中で思いながらも、木剣から逃げるように走り出した。


「ほらほら、遅いぞ」

 ダンディーは走っているアーロンへの突っつきを止めない。


「やめて下さい」

「早く走ればいいだけだ。ほらほら」



★★★



「ダンディーさん、アーロンは大会に勝てそうですか」

 アントニオは夕飯が始まると、早速質問した。

 ダンディーの調査に影響が出ることを心配しているのだろう。

 強くなりたい、なんて、男の子であれば誰でも罹る熱病のようなものだ。

 アーロンには墓守人としての素質がある。

 何であれば、今すぐにでも墓守人どころか調査員になれるくらいだ。

 さっさと騎士への道を諦めて欲しいアントニオだった。


「まあ大丈夫でしょう。きちんと剣を振れるようになれば」

 事も無げにダンディーは答える。


「へえ、お兄ちゃんダニエルに勝てるんだ。優勝したらどうするの? 」

 ダフネがアーロンを茶化す。


「どうもしないよ。騎士になれるかなんて、分からないじゃないか。そもそもまだ村の大会すら始まっていないのに、なんで優勝した後のこと考えなきゃいけないんだよ」

 ムスっとしてダフネに答えるアーロン。

 アーロンはダフネの質問の意味が、騎士になる、という言葉じゃないこと理解している。


(このマセガキめ)

 忌々しくダフネのことを思う。


「そうだよね。騎士になったらお父さんの仕事手伝えないよね。そう言えば、雑貨屋に資料が届くのは明日だっけ? 」

 ダフネが続けて質問する。


(こいつ、分かってて言ってるな)

「明後日だよ」


「お兄ちゃん、ダンディーさんのお仕事手伝うのに忙しいよね。その他に剣術も大会で優勝できるくらい練習しなきゃいけないんでしょ。私が取りに行ってもいいんだよ」

 ダフネが意味ありげに言った。


「別に、行きたきゃ行けばいいさ。ただお前に資料が読めればだけどな」

 冷たく言うアーロン。


「ダフネ一人じゃ危ないから、その日は私が行こうか」

 アントニオが口を出す。


「お父さんじゃなくてお兄ちゃんと取りに行きたいな。お兄ちゃんと行くと、リサちゃんお土産いっぱいくれるから」

「そうか。『美味しい肉屋さん』のリサちゃんは、アーロンと昔から仲が良かったからな」

 ダフネに甘いアントニオが納得する。


 ダフネがアーロンにこっそりウインクする。


「ダンディーさん、明後日は半日ほどアーロンを用足しに使ってもいいですか」

「資料とは、ユダのものですか」

「そうです。この村には三か月に一回、新しい資料が届くので」

 アントニオはダンディーの許可を求める。


「せっかくだから、私も行ってみたいですね。アーロン、一緒に行こう」

 ダンディーがアーロンを誘う。


 アーロンは、嫌な予感がするものの、資料の受け取りには行きたい。

 ダフネがニヤニヤしている。


「分かったよ。明後日資料の受け取りに案内するよ」


「楽しみだな。地方にユダの資料がどのように届いているのか」

 嬉しそうに言うダンディー。

 ニヤニヤが止まらないダフネ。

 苦虫をかみつぶしたような顔のアーロン。

 三者三様の表情。



「アーロン、お肉をたくさん食べなさい」

 ダンディーは自分の皿の上の肉をアーロンの皿に移す。


「いいですよ、ダンディーさんの肉がなくなるじゃないですか」

「そんな気を遣うより、たくさん食べて身体を作ろう」

 ダンディーはにこやかに笑う。


「ダンディーさん、お気遣いなく。アーロンには別に食べたい分だけ食べさせますので。ベリダ、ダンディーさんに別のお肉を焼いてくれ」

 アントニオは恐縮して言う。


「いいですよ。私にはお酒のつまみがあればいいだけですので」

 そう言ってビールを一口飲む。


「お兄ちゃん羨ましい」

「ダフネちゃんにはこれあげる」

 ダンディーは、別のお肉を取り分けてあげる。


「ダフネも、はしたない」

 母親のベリダが注意する。


「アーロンが大会で勝つためには、身体もしっかり作らないと。万が一取りこぼしがあると私も責任感じてしまいますので」

「そんな、アーロンがいくら頑張っても勝負は時の運ですし、そもそもダニエルとは体の大きさが違います。ダニエルのほかにも強い子がたくさんいますから」

「そうは言っても、身体が一番ですから。しっかり食べて大きくなれよ」

 ダンディーが無責任に言う。


 アーロンは、皿の上の肉を見て、正直要らないと思った。

 最後の自宅までのランニングがのおかげで、食欲がないのだ。


「俺は肉があんまり得意じゃないんで」

 そもそもアーロンは肉が好きじゃないのだ。

 その上、最後は走り過ぎて余計に食欲がない。


「食べるのも訓練だ。訓練したら食べる。食べたら訓練する。この繰り返しだよ」

 そんな無理を言うダンディーが鬼に見える。


 疲れた体には酷な程ヘビーに感じる肉料理を、何とか腹に詰め込んで食卓を離れるアーロンだった。










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