48 決着
「二本目、始め」
審判が試合開始を告げる。
アーロンは八相の構えに取る。
サイナーは左斜め後方に二歩下がる。
アーロンは慎重に右斜め前方に一歩踏み込む。
サイナーは更に左斜め後方に一歩半下がる。
サイナーは危険を感じて後方に逃げた。
アーロンが急に間合いを詰めて打ってきた。
サイナーはアーロンの打ちをガードする。
さっきはガードしていた木剣を持っていかれた。
今度はその失敗を生かしてガードを固めた。
そもそも間合いの詰め方が異常だ。
一瞬で数歩の距離を詰めてくる。
距離を取らないと攻めの形五番の餌食だ。
場合によっては場外すら厭わない。
そう思いながらアーロンの一撃を受ける。
バン!
今回は受けきった。
アーロンの剣が返ってくる。
もう一度受ける。
サイナーの木剣に大きな衝撃が来たが、再度受けきった。
アーロンの剣が返ってくる。
サイナーは瞬時の判断をする。
前に出るか? 後ろに下がるか?
前に出たら体当たりが来そうだ。
体当たりを受けたら、次の剣を受け切れない。
後方へ逃げる。
「場外! 開始線に戻れ」
審判がサイナーの場外反則を取る。
(仕方がない)
サイナーは思った。
あれほど瞬時に距離を詰めてこられるとは思ってもいなかった。
守勢に回ってしまうと主導権を握られてしまう。
相手のペースで試合を進めると負けてしまいそうだ。
呼吸を整え、審判の再開を待つサイナー。
再開されたら攻撃する。
相手の出方は分かった。
全て攻めの形五番で押し通すつもりだろう。
それなら、出させる前に決める。
決めきれなくとも自分のペースに持ち込む。
「再開、始め」
審判の合図とほぼ同時、ややフライング気味にサイナーは突っ込みながら上段から剣を振った。
アーロンが八相の構えから袈裟切りでサイナーの上段切りを迎撃する。
サイナーはアーロンの袈裟切りを受け流す。
予想通り、突っ込んで行ったおかげで、アーロンの袈裟切りにサイナーの剣を弾き飛ばすだけの力がない。
受け流しながら、剣を上段に引き戻すサイナー。
(これで決まった! )
勝利を確信したサイナーが、受け流した剣を上段に引き上げた瞬間だった。
バーン!
「一本、それまで」
サイナーの空いた胴に衝撃が走るとともに大きい音が発せられた。
(嘘だろ)
サイナーは打たれたことが信じられず、呆然と立ち尽くした。
「サイナー選手、開始線に戻りなさい」
審判の声にサイナーの体が勝手に従う。
サイナーの頭の中は真っ白だった。
「アーロン選手の勝ち」
審判の勝ち名乗りを受けるアーロンを呆然と眺めるサイナー。
(完全に受け流したはずだ。決めに来た剣をしっかり受け流したのは間違いない。なのになぜ俺の剣より早かった? )
サイナーはハビエルのことを思い出すことなく、自分が負けてしまった理由だけを考えていた。




