46 狼の戦術
アドルフォ流迅狼剣をメインにしているレガネスギルド。
アドルフォ流迅狼剣は、狼の動きを真似ているだけではない。
行動そのものを真似ている。
相手の弱点を見つけ、徹底的に弱点を突く。
ハビエルが賭けたもの。
それは二十億ギニー。
ハビエルの全てを超える金額だ。
ハビエルは全く負けた後のことを考えていない。
なぜなら絶対に負けないから。
勝てば一億ギニーの金が手に入る。
しかも美貌の貴族を蹂躙できる。
しかも負けはない。
そもそも、負けるはずのない勝負からのスタートだ。
更に勝利を確定させるため、ギルドのメンバーを僻地(オレイロス村)に飛ばした。
アーロンの戦い方を調べるためだ。
流派は近衛騎士流正派。
近衛騎士流正派は、型に嵌まった技のみ。
形は古臭いタイプのものがメイン。
守りの形、攻めの形がそれぞれ五つ。
十剣は、近衛騎士流正派の中で、デスペルタル級として認定された上位剣士を指す二つ名。
暴風剣姫は攻めの形五番を得意技としていることと、一番若い十剣だということもあって十人いる上位剣士の中で十剣と呼ばれている。
彼ら・彼女らは、この十年で近衛騎士流正派の地位を上げた。
それまで近衛騎士流正派は、近衛騎士が形式的に学ぶ見た目だけの剣術であった。
近衛騎士団長まで勤め上げた男が近衛騎士流正派を変えた。
近衛騎士流正派の古臭い技を磨きに磨きあげて各種大会はもちろん、実戦でも結果を出したのだ。
その男を師匠と仰ぐ者たちが十剣と呼ばれる騎士たちだ。
しかし、それ以外の剣士は多少ランクが落ちる。
強いことは強いが、二つ名を冠する者以外に国の最高剣士として認定された称号であるデスペルタル級はいない。
つまり、剣技が優れているのは個人であり、あくまで流派が優れている訳ではないのだ。
つまりアーロンがただの近衛騎士流正派なのか、十剣に連なる者なのかで、強さの判断が可能なのだ。
★★★
ハビエルは大会前日には、アーロンについての調査書を受け取っていた。
調査書に記載されている調査結果は、ハビエルを喜ばせる内容のみであった。
~大会準優勝者
昨年は決勝で秒殺した。
今年はよく分からないうちに負けた。
元々剣術はこの大会で終わらせるつもりだった。
昨年優勝しているので、別に結果はどうでも良い。
まあ勝てなくて残念ではあった。
~大会三位入賞者(女性)(流派~ポルドー流疾風剣)
出合頭に一発良いものを貰ってしまった。
それが勝負の分かれ道だった。
次に対戦したら勝つ。
~自警団の師範
一応教えてはいたが、才能を感じていたわけじゃない。
よく分からないうちに優勝したと言う感じだ。
一番の教え子が彼に負けてがっかりしている。
~村の住人
強かったのかなあ。
勝ったんだから強かったんだと思う。
しかしまぐれ勝ちという見方が村では一般的かな。
思いっきり剣を振ったらたまたま当たっただけだと思う。
「このような結果になりました」
ハビエルに調査結果を提出したギルドメンバー。
「技で言えば、一度だけ形を使った形跡があります。守りの形二番だけですね。それ以外はほとんど出鼻で勝負していたようです」
ハビエルは近衛騎士流正派の形を思い出す。
どうでもいい、面白味もない古臭い形だ。
「つまり、出鼻に気を付ければ問題ない、と言う訳だな」
「はい、その通りです。また師匠であるダンディーという者については、情報が少なく詳しい出自は不明ですが、ユダの調査のためアーロン宅に二か月間宿泊していた調査員とのことです」
「調査員であればそれ以上の情報収集は危険だな。そいつは元々貴族出身なんだろう。だから近衛騎士流正派を知っていた。家を離れる時に名前を変えたんだろうが、調査員は頭良すぎておかしい奴ばかりだから、変な名前を付けるのも仕方ないだろう」
ハビエルは満足気に報告を受けた。
サイナーの勝利は揺るぎそうにもない。
剣術をちょっと齧っただけの貴族が教師。
そんな素人に毛が生えただけの教師に、たった二か月教わっただけの選手。
アーロン・ユダは、決して弱い訳じゃないのだろう。
弱小エリアと言えども昨年も決勝まで進んでいる。
体も大きくないのにきっちり勝っている。
きちんとした指導者についていれば、この州大会でもサイナーといい勝負ができたのかもしれない。
才能だけ見れば。
この大会、黙って勝負してもサイナーの勝ちは見えている。
しかし、勝つ確立を少しでも上げられるのなら、遠慮せず上げられるときに上げておく。
「調査結果はサイナーにも伝えておけ。あと当然だが出合頭に気を付けることと、近衛騎士流正派の形を教えておくことも忘れるなよ」
ハビエルは満足気に指示を出した。




