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45 攻めの形(かた)五番


「今日から大会が終わるまで、ユダの少年が使う技は一つ。攻めの(かた)五番だけだ」

 レティシアがアーロンに命令する。


「ちょっと待って下さい。あの(かた)ってすごく使いづらい技だと思うんですが」

 反論するアーロン。


「君の将来を考えてのことだ。正直この試合、君が負けてもうちの団で君を受け入れる。そのためには目先の試合で勝つとか負けると言う小さい目標のために小さくまとまって欲しくない」

 レティシアがはっきりと言う。


「でも攻めの形五番って、実戦で使うには非常に難しい技ですよね」

「それが分かっていれば十分だ。つまり君が会得していない技だ。その技を使えるように練習する。そして試合でその技を試す。まさに試し合いだ」



 アーロンは村に戻った時のことを考えた。

 間違いなく騎士見習いにはしてくれるのかもしれないが、一試合で負けて帰って、騎士見習いになったことを誰が信じてくれるのだろうか。

 仮に入団契約書を持ち帰っても、偽造したと思われることはないだろうか。



「小さいことを考えるな。私の一番の得意技を教えるだけだ。この技を私以上に使える剣士はいないからな」

 そう言うレティシアを不安そうな目で見るティシム。

 レティシア以上に使える剣士はいない。

 逆に言えば、実戦レベルで使える剣士はレティシアだけなのだが。



 昨夜、ティシムもアーロンと同じことを助言したのだ。

 負ければレティシアは、実家が身請けするまで娼館行きだ。

 流石のレティシアも娼館で働きたいとは思っていない。

 それなら娼館送りを回避する手段を取った方が利口であると何度も何度も助言したのだった。

 しかしレティシアは、娼館送りよりも、ダンディーの弟子が小さくまとまるのが嫌だと断固として拒否したのだった。


 こうなっては、ティシムとしては、アーロンが五番を習得できるよう、最大限サポートするしかなかった。


 攻めの形五番であれば、第八騎士団の者たちは普通の剣士以上に使いこなせる。

 しかし、実戦で、ということになると実力差がはっきりしているとか、使いどころを選んで、となってしまう。

 第八騎士団の者たちは、基本的にレティシアの信者である。

 美しくて強い暴風(ストーム)(プリン)(セス)に憧れを抱いて入団するのだ。

 その者たちが、攻めの形五番を使いこなせないまま、ほかの技で強くなる。

 どれだけ難しいか想像がつくだろう。




★★★


 レティシアは、左右に木剣をそれぞれ持って、右の剣を一撃打たせたら左の剣を打たせる、という訓練をしていた。

「ほら、きちんと振り分けろ。一A、二C」

 バン!

 アーロンの小手に一撃が入る。

 指示通り打たないとレティシアの木剣が飛ぶ。

 レティシアの木剣は、左右それぞれが意志を持っているように器用に動いている。

 必死に訓練をこなしながらもアーロンは感心していた。


「弱いと言ってもそこまで弱くじゃない。相手の剣をコントロールするのが目的だ。もう少し強く振らないと相手だって反応しないぞ」

 レティシアは、数字とアルファベットで打つ位置、振りの強さを指示していた。


「ほら、もう一回。三A、二B、一A、いいぞ。おいティシム、交代だ」

 二人掛かりでアーロンに打たせる。

 この訓練は打つ方よりも打たせる方の負担が激しい。

 特にもレティシアは両手に木剣をもっているので、アーロンの打ちを片腕で受け止めるのだ。


 アーロンもエンドレスで打たされる連撃で疲弊している。

 (こんなことで強くなれるのか)


 ダンディーと稽古をしていた時もこんなことを考えたような気がする、と思いながら剣を振る。


 相手を打つ場所、力を考える。

 相手が剣で防御するならその剣をコントロールする。

 ただ常に力いっぱい振るんじゃない。

 どこを攻撃するのが良いのか、二手先、三手先を読んだ攻撃をする。


 相手の体勢、剣の位置、その他全ての要素を考えて打つ。

 ただの力任せじゃない。

 一撃が優れていれば良い訳じゃない。

 次にどう生かすか、更にその次の剣を生かすための打ちを考えながら振る。


 形をダンディーから教わったときは、力技としか思っていなかった五番を、ここまで繊細に考えて使う人が居るということが驚きだった。


 レティシアの訓練は、攻めの形五番を徹底的に体に染み込ませるだけのものだった。

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